突然の知らせ
三日経った。
俺の予想していた以上の来客があり、正直に言って驚いている。
話には聞いていたよ?
俺が留守にしている間にエミリア達が頑張ってくれていたのはメルクリア女史を通じて知っていたし、手紙なんかでも順調に客が戻って来ていると言っていたので安心していた。
それに加えてサンサトローズまで戻ってきた時にププト様に冒険者が増えたと言われていたので、それなりに覚悟して初日を迎えたさ。
でも結果は俺の予想を上回っていた。
初日はまだいい。
あぁ、こんなにもたくさんの冒険者が来てくれるようになったのかと感動する余裕があった。
顔なじみや新しい冒険者。
彼らが道具を買い求め自分のダンジョンに向かっていく背中はとても心強かった。
これなら安心して商売を続けられる。
ジクロル商店ほど大きくはなれなくても、それに近いぐらいの存在にはなれるかもしれない。
そんな風に思ったりも出来た。
だが、翌日からはそうじゃない。
俺が店頭に戻って来たと聞いて戻って来た冒険者や、王都での話を聞いてはるばるやってきた冒険者。
その他各ギルドや取引先の方々等々、商店の中は宿も含めて大勢の人でごった返していた。
俺の体があと二つ、いや三つあればスムーズに対応できたかもしれないがもちろんそんなものがあるわけがない。
分身の術が使えたら、そんなバカな妄想すらする暇がなかった。
忙しかった。
でも充実していた。
家に帰って食事を摂って気付けば寝ていたぐらいに疲れていたけれど、元の世界にいた時に比べれば何百何千倍も有意義な時間だ。
ただ、その分エミリア達と過ごす時間が少なくなってしまったけれど、途中途中で多少いちゃつけたことを考えればそれなりに余裕があったのかもしれない。
そこに乳と尻があれば誰でも揉むだろ!
俺の物だぞ!
え、違う?
そんなの関係ねぇ!
「・・・イチ、シュウイチ聞いているのか?」
「え?」
「まったく疲れているのはわかるがせめて食事中は起きていてくれ。」
シルビア様に肩をゆすられてハッと我に返る。
おっと、こちらが現実世界か。
どうやら疲れすぎて食事を摂りながら夢の世界に旅立っていたらしい。
俺からしてみればいつも通りだと思うんだけど、勝手に寝てしまうあたりよほど疲れているらしいな。
「寝るならお風呂に入ってからにしてくださいね。」
「恐らく一人で入れるとまた寝ている可能性があるので、奥様方のどちらかがついて入ってくださいますか?」
「確かにユーリの言う通りだな。」
「じゃあ今日は私が。」
「すまん、エミリア。」
そして何時の間にかエミリアと共にお風呂に入ることになってしまった。
どうだ羨ましいだろう!
あの巨大なメロンが目の前で浮いているんだぞ!
本当に浮くんだからな!
「シュウイチさん?」
「え、いえ、何でもありません。」
そしてまた旅立ってしまった。
危ない危ない。
「この調子で本当に明日抜けられるのか?」
「お店は忙しいですけどいい加減挨拶しに行かないわけにはいきません。」
「それはわかるが明日は定期便が来るのだろ?」
「そうなんですが、逆を言えばそれを嫌って他の人たちはあまり来ないでしょうから昼を過ぎれば多少時間が出来る・・・そう期待しています。」
「最悪私達だけでも店を回しますので大丈夫ですよ、お二人は安心してニッカさんに報告してきてください。」
そう、王都から戻って来て三日。
まだニッカさん達に挨拶が出来ていないのだ。
もちろん向こうも村を抜ける人々の数でそれなりに把握はしてくれているだろうが、やはり挨拶しないままというわけにはいかない。
それが義理の父親であれば余計にだ。
「申し訳ありませんがお願いします。」
「御主人様、それと一緒にセレン様の様子も見てきてくださいませんでしょうか。」
「セレンさんの?」
「こちらに来られなくなってからあまりご様子を伺えていません。そろそろ、と聞いておりますので・・・。」
「わかりました。」
そうか、もうすぐか。
何がもうすぐかわからなかったそこのアナタ!
あのウェリスが父親になる日、と言えばわかるだろうか。
そう出産予定日だ。
あのウェリスが父親になるとか一年前、初めて出会った時のことを考えると想像できないよね。
なんせ俺の喉元に短剣を突きつけてきた男だよ?
シルビア様と対峙してその後エミリアの火球に焼かれた男が、今や俺達の大切な知り合いになっている。
世の中分からないものだなぁ。
「一緒にシャルとティオの様子を見ておくとするか。」
「そうですね、うちがこの忙しさだとすると向こうもかなりの忙しさが予想されます。」
「お店で聞いた話ではポーションは即日完売、ナーフ様が毎日届けてくださっているそうですがそれでも追いついていないそうですよ。」
「シャルちゃんのポーションは王都でも有名でしたからね。」
「そう言った流れを受けて購入に個数制限を設けていますが、それでも不買が出てしまっています。」
「揉め事が起きていないのがすごいですね。」
「シャル様の可愛らしさがあれば当然です。」
ニケさんには定期的にシャルちゃんのフォローをお願いしている。
でもこの三日は忙しすぎてフォローできていない筈なので今頃悲鳴を上げているんじゃないだろうか。
挨拶も大事だけどそっちも気にしてあげないといけないな。
それと村の様子も知りたいし、宿の集客も気になる。
あー、やることいっぱいあるなぁ。
やっぱり後二人ぐらい自分が欲しいよ。
「では明日はそう言う予定で動きましょうか。」
「その為にも今日は早く休むべきだな。」
「あはは、すみません。」
「なに気にするな仕方のない事だ。」
忙しいという事は二人とイチャイチャ出来ないという事だ。
帰ってきた初日こそアレだったが、それ以降は疲労困憊で三人共すぐに就寝している。
せめて横にいてほしいと思うのだが、そうするといたしてしまうからなぁ。
人間疲れている時の方が燃える場合もあるんです。
「私がこういうのもアレですが、奥様方も大胆になられましたね。」
「というよりも、イナバ様がでしょうか。」
「そう・・・ですか?」
エミリアが若干恥ずかしそうに頬を赤らめるが満更でもない様子だ。
シルビア様に至っては当然と言った顔をしている。
「早く手を出していればこんなことにならなかったものを、私達の番が回ってくるのも近そうですね。」
「えぇ本当に。楽しみにしています。」
ちょっとお二人共、奥様二人の前で何を・・・ってそう言う話だから別にいいのか。
いいのか?
「明日はエミリアの分もあやかっておくとするか。」
「よろしくお願いします、シルビア様。」
「任せておけ、だが無理はするなよ?」
「それはシルビア様もです。」
「ご安心くださいリア奥様、シア奥様はさりげなく素振りの数を減らしておりますので。」
「ユーリ、気が付いていたのか。」
「もちろんです。」
何故かドヤ顔のユーリ。
そうなのか知らなかった。
その後エミリアとゆっくり風呂に入り、幸せな気分でベッドに入った。
そして迎えた翌朝。
定期便で来た大量の冒険者を千切っては投げ千切っては投げ・・・。
なんとか時間のできた昼過ぎ。
昼食もとらずに俺達は急ぎ村に向かった。
「今日もすごかったな。」
「昨日は大丈夫と言いましたが、正直ヒヤヒヤしていました。」
「私もだ。」
二人の笑い声が森に響く。
こうやってのんびりした時間はいつぶりだろうか。
王都にいる時は冒険者としてダンジョンに潜ったり依頼をこなしたりしていたのでゆっくりという考えはなかった。
いや、さすがに聖日はゆっくりしていた気もするけど鍛錬は欠かさなかったからなぁ。
「まずはシャルの店、それから父上の所だな。」
「本当は挨拶を先にするべきなんでしょうけど、シャルちゃんの様子も気になるので。」
「その方がいだろう、ここ数日ティオの鍛錬も見てやれなかったからなぁ。」
「頑張っていましたか?」
「あぁ、あの調子だと近々実戦をさせても問題ないだろう。」
そうかもう魔物と戦うのか。
まぁ一人じゃないしシルビア様の指導を受けているんだ、心配はない。
「成長が早いですね、私と大違いです。」
「そうか?シュウイチも見ない間に随分と引き締まったじゃないか。冒険者になると手紙で呼んだ時には驚いたが、少しは戦えるようになったのだな。」
「シルビアの鍛錬のおかげですよ。」
そのおかげで命が助かったとは口が裂けても言えないけどね。
でもあの日々があったおかげで少々出っ張ってきていた腹はだいぶ引っ込み、腹筋が四つぐらいには割れてきている。
これで俺も冒険者として成り上がれる・・・訳が無い。
魔物と戦うのはやはり大変だし、出来れば大人しくしていたい。
冒険者は当分お休みです。
久々の二人っきりの時間。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、気づけば村の入り口が見えてきた。
シャルちゃんの店はというと、人でごった返しているとかそんな様子は今の所ない。
「思ったよりも静かだな。」
「そうですね。」
道中ダンジョンに向かう冒険者とは何人もすれ違っているので、そのうちの数人はあの店で買い物をしているはずだ。
どれどれ、どんな様子かな?
「こんにちは、シャルちゃん。」
店内はガランとしており客はいない。
というかカウンターにもいない。
「妙だな。」
「えぇ。」
「シャルちゃん、ティオ君。」
もう一度呼び掛けてみるが返事はない。
なんだ?
何かあったのか?
「私は裏に行ってみる。」
「お願いします。」
シルビアが少し慌てた様子で店を出ていく。
商品は・・・、一応あるな。
ポーションは売り切れのようだが、それ以外の品は棚に並んでいる。
薬草もある。
物取りとかそんなのだったら大騒ぎになっているだろうからそういうのではないと思うんだけど・・・。
よく見ると店の奥には銅貨が山のように積まれている。
恐らく会計をした時のやつだろう。
それがあるという事はやはり強盗とかそういうのじゃないと思うんだけど、あれを置いたままどこかに行くのは考えにくい。
まるで神隠しにあったような感覚。
イヤイヤイヤ。
戻ってきて早々事件とかマジ勘弁してくれ。
「シュウイチいないぞ。」
「そうですか。」
「裏の戸もあけっぱなしでまるで慌てて出て行ったような感じだ。」
「表もそんな感じですね。商品はきちんと並んでいますから強盗とかそういう類ではなさそうです。」
裏から入ってきたシルビア様が店の方までやってくる。
とりあえず扉を閉めて内側から鍵をかける。
カウンターを乗り越えて勝手ながら居住部の方に行くと、かまどにはまだ火が残っていた。
その上ではヤカンが蒸気を吐き出している。
「火をつけたままというのはおかしい、シャルは必ず火を消して出ていくはずだ。」
「という事は余程慌てていたという事でしょうか。」
「ティオの剣もないが・・・、争った形跡もない。というかなにかあれば村人か冒険者が駆けつけてくれるはずだ。」
「そうですよね。」
真横には大勢の人が働く宿がある。
叫べば誰かが来てくれるというのはシャルちゃんもティオ君もわかっているはずだ。
何かあったら大人を頼れ。
そう言い聞かせてあるからね。
「で、あればこそ余計にこの状況はわからん。」
「よほどのことが無ければこんなことにはなりませんよ。」
「とりあえず宿に行き話を聞くか。」
「何か託を頼んでいる可能性もありますしね。」
現場に証拠が無いのであれば次は聞き込み、捜査の基本だよな。
流石に鍵までは預かっていないので扉だけ閉めて宿に向かう。
裏口から入ると驚かれるので一応正面に回った。
「あ、イナバ様お帰りなさい!」
「こんにちはやっと戻って来れました。」
「お陰様で宿は順調ですよ、今日はどうしたんですか?」
「シャルちゃんのお店が無人なんですけど何か聞いていませんか?」
「え、無人?私は何も聞いてませんが・・・。」
丁度カウンターにいたのは宿をお任せしている責任者の一人。
移住組のゴンドルさんだった。
ちなみにゴンドルさんの息子はティオ君の遊び仲間でもある。
移住組と先住組が対立しかかった時に移住組を纏めてくれたのもこの人だ。
今では村でも一目置かれる存在になっている。
「そうですか・・・。」
「ちょっと聞いてきますね。」
そういうと足早に裏に行くゴンドルさん。
宿の奥を見ると冒険者の姿もあり、中は中々にぎわっている。
そうか宿だけじゃなく食堂の機能も持たせているからここで食事だけをしていく人もいるんだな。
飲食店無かったもんなぁ。
でもこうやってお店が出来ていくと成長しているって実感できる。
まだまだ足りないものはあるけれど少しずつ大きくなると嬉しいなぁ。
「特に騒ぎらしい騒ぎが起きたわけではないようだな。」
「だとすると余計にわかりません。」
「うむ・・・。」
本当に神隠しのような何かなんだろうか。
うさ耳の可愛い二人だから人攫いにさらわれたとか?
そんな悪い思考が頭を駆け巡る。
お願いだから無事でいてくれ。
そんな気持ちでゴンドルさんが戻るのを待っていた、その時だった。
「イ、イナバ様大変だ!」
血相を変えて裏から戻ってくるゴンドルさん。
その様子に心臓の鼓動が早くなる。
「何事だ!」
「セ、セレンさんが産気づいた!」
想像していたのと全く逆の知らせにシルビア様と二人で固まってしまう。
セレンさんが、産気づいた・・・?
そりゃ大ごとだ!
二人で目を合わせた一呼吸後には宿を飛び出してセレンさんの家に走っていた。
恐らくシャルちゃん達もそこにいるはず。
それよりも今は急がないと。
そんなに広い村ではないはずなのにセレンさんの家がとても遠く感じるのだった。
いい知らせも悪い知らせも、それは突然やってきます。
どうやら今回はいい知らせのようですね。
いよいよセレンさんの出産のようですが、果たして無事に生まれるのでしょうか。
ノルマ達成に向けた最後の期であるにもかかわらず、彼の周りは今日もにぎやかなようです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。
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