秘密の女子会潜入(暴露はあるよ)
中休みの鐘が鳴るまでは詰所で作戦について練り直し、鐘が聞こえたので迎えに行く運びとなった。
最終決定者はいないものの副団長がいるおかげで意思決定はスムーズだった。
出来る部下を持つと仕事がはかどるとは本当のようだ。
うちの会社はダメ管理職しかいなくて優秀な人はすぐやめて行ったからな。
上下の情報伝達がスムーズなことはどの世界でも重要なようだ。
休息日最終日。
イメージは三連休最終日というところか。
町はいつもと変わらず活気に満ちている。
この世界に来て約一月。
元の世界といってしまうぐらいにこちらの世界になじんでいる自分がいる。
これからはこちらが現実だと踏ん切りがついているからだろう。
むしろこちらの世界のほうが自分らしく生きることが出来てのびのび出来る。
ファンタジーの世界最高!
文化の違いや不便なところはあれど、郷に入れば郷に従えの精神でなんとかなっている。
むしろいまさらあのブラック企業で働く気にもなれない。
仮に帰ったとしても真っ先に会社を辞めてやる。
白鷺亭に戻ると支配人が出迎えてくれる。
「エミリア様とシルビア様は部屋でお待ちです。イナバ様が来られましたらお部屋に来るように言付かっておりますのでそのままお部屋にお戻りください。後でお茶をお持ちしますので。」
「わかりましたよろしくお願いします。」
呼びに来いとは言っていたが部屋まで行く必要はあるのだろうか。
昼のように伝言だけで済むと思うのだが。
正直、4階まで上がるのがめんどくさいというのもある。
エレベーターが欲しい。
いつの日か発明される日は来るのだろうか。
部屋に入る前にノックを忘れない。
いくら自分が借りている部屋とはいえ中には女性が二人滞在中だ。
ラッキースケベなんてしようものなら首が飛ぶ可能性のある身分のお方だ。
まだ処刑されたくない。
「エミリア、シルビア様お迎えに来ました。」
「イナバ殿かそのまま入ってくれ。」
「失礼いたします。」
女性の部屋に入るようで緊張する。
いや、自分の部屋もあるんですけど一体ここで何が行われていたというのだろうか。
ソファーではエミリアとシルビア様がお菓子をつまみながら優雅にティータイムとしゃれ込んでいた。
二人とも先程よりか顔色がよくなっている。
少しは休めたようで何よりだ。
「作戦のほうがある程度まとまりましたのでお迎えに上がりました。香茶ですか、いい香りですね。」
「ハスラー殿がよい茶葉をお持ちでなそれに合う菓子と共にいただいておったのだ。」
「よろしければシュウイチさんもいかがですか。」
いただきたいのは山々だが騎士団のほうでは他の二人が首を長くして待っているはずだ。
いや、待っているのは一人だけか。
「お呼ばれしたいのは山々ですがむこうで副団長が待っていますから。」
「あの木偶の棒二人は待たせておればよい、それともイナバ殿は女性の誘いを断るようなお人なのかな。」
そんな言われ方して断ることなど出来やしない。
まったくシルビア様はこっちの痛い所を突いてくるお人だ。
「素敵なお二人からの誘いを断る訳には行きませんね。」
「それでこそ私が見込んだ男だな。」
ここで問題が出来た。
どっちの横に座るべきか。
エミリアの隣が一番無難ではあるが呼ばれているのはシルビア様だ。
しかしシルビア様の横に座ったときのエミリアの視線が怖い。
どちらを選んでも正しい選択にならないというのはどうしたものか。
これ究極の二択というやつじゃないだろうか。
ええい、どうにでもなれ。
「やはりそちらを選んだか。残念私の負けだな。」
俺が座ったのはエミリアの隣。
するとシルビア様は至極残念そうにため息をついた。
どういうことか説明して頂けますかなエミリアさん。
「シュウイチさんを呼んだときにどちらに座るのか賭けをしていたんです。お互い自分の隣に賭けていたんですよ。」
うれしそうに答えてくれるエミリア。
うん、その笑顔プライスレス。
しかしだ、人をかけの対象にするのはいかがなものか。
自分にも身に覚えはありますけども。
いざ自分の立場になるとなんともいえない気持ちになるな。
「それで、賭けに勝つと何かあるんですか。」
「負けた方が秘密をばらす約束でな。」
結構ディープな賭け事ですね。
あんな秘密からこんな秘密まで選びたい放題ですか。
「でしたら私は席を外した方がいいのではないでしょうか。」
「イナバ殿は別に構わんだろう、もちろんあの二人は別だが。ところで、イナバ殿結婚する相手に求める条件はどのようなものを考えておる。」
随分ディープな質問ですね。
けど秘密の暴露に俺の結婚条件に何の関係があるというのだろうか。
別に俺の秘密の暴露は賭けの対象になってないと思うんですけど。
まぁ聞かれて困るようなことでもないか。
「そうですね・・・。お互いに支え合っていける方でしょうか。依存するわけでも虐げるわけでもなく、お互いがお互いを尊重して助け合える人。ただ情けない話ですがこの世界ですと武芸はからっきしですので助けてもらう必要はあると思いますけどね。」
「支え合える人か、なかなか深い考えをお持ちだな。イナバ殿の妻になるものは美しいだけではだめという事か。」
「美貌よりも内面の方が私は大事だと思いますよ。心の美しい人は生き方も美しい、生き方の美しい人は人としても美しい。もっとも、私のこの容姿では箸にも棒にもかからないとは思いますがね。」
イケメンは敵だ。
もっとも、この性格を理解してついてきてくれる人がいるとも思えないが。
昔から『あなたは考えすぎてよくわからない』なんて言われるぐらいだからなぁ。
この世界に来たからにはハーレムをなんて考えてはいるけれど。
そう上手くいくとは思ってないし。
そもそも許されるかもわからないからなぁ。
アリだという事はネムリから聞いているのだけれど。
「そんなに自分を卑下するものではない。イナバ殿の良さは本当に見ている者には伝わっておると思うぞ。」
「そう言っていただけると希望が持てますね。それで、シルビア様の条件はいかがなものでしょうか。」
自分は告白したのだからメインが答えなければなるまい。
聞いてていいというのだか是非聞かせてもらうとしよう。
「私か。私の結婚する相手への条件は私を一人の女性としてみてくれる殿方だ。騎士分団長や貴族という身分や肩書で選んでくるような男はまっぴらごめんだからな。」
騎士分団長だからこその悩みか。
「縁談は多いと伺っていましたがシルビア様がお受けしない理由はそういう事だったのですね。」
「うむ、言い寄ってくる男はそういう男ばかりでな、辟易していたところだ。」
やれやれとため息をつくシルビア様。
確かにこれだけの身分であれば縁談も多いだろうな。
「しかし政略結婚的なことを強制されることはなかったんでしょうか。貴族とはそういうものだと思っておりましたが。」
「イナバ殿の指摘はもっともだ。確かにそういう縁組もあったのだが父がそういうことを嫌っていてな、全て断っている。あのひとは平民でありながら貴族である母に一目ぼれしてな実力でその人を射止めたのだ。さぞ多くの苦悩や葛藤があったと思うが臆することなく突き進んでいったと亡き母から聞いた。」
この世界での結婚事情には詳しくないがどの世界でもお貴族様と平民の恋は成就しずらい様だ。
まるでロミオとジュリエットだな。
もっとも、本家は失敗しているから事実は小説より奇なりだ。
「ニッカさんにはそういう歴史があったんですね。」
「今はおとなしいが昔は随分と我が強かったのだぞ。」
「あんなにお優しいのに信じられません。ただ人の上に立つというのはそういう部分も必要なのでしょうね。」
人の上に立つための器があったという事だ。
そういう人間はすごいと思う。
自分にはない部分にはあこがれるな。
「それで、私の秘密は暴露したがエミリアの結婚条件は聞かせてもらえんのか。」
「私は勝ちましたから答えなくてもよろしいのではないでしょうか。」
確かにそうなんだが、非常に興味がある。
是非聞かせてほしいものだ。
さぁ答えるのですエミリア。
さぁ!
「ふむ、関係のないイナバ殿にはお答えいただいたというのに残念だ。」
「そういわれると自分だけが悪者みたいではないですか。」
「いやなに、強制しているわけではないぞ。そなたは賭けに勝ったのだから。」
「私は、私の条件は私を愛してくれる人でしたら特にありません。」
随分とハードルが低いんだな。
真っ赤になってうつむいちゃって、可愛いなぁ。
「ふむ、ならばうちのカムリなどどうだ。顔は悪くないし一途な男だぞ。」
「結構です!」
やーいイケメンふられてやんのー。
ざまぁみろ!
「私もそろそろ28だからな身を固めて跡取りをと考えてはおるのだがなかなか世の中上手くいかないものだ。」
「シルビア様は28歳でおられたんですか。」
年下だったのか。
正直少し上だと思っていた。
「エミリアはいくつだったかな。」
「今年の冬の節で26になります。シュウイチさんと同じぐらいかと思っていました。」
「イナバ殿はおいくつなのだ。」
「今31です。残念ながら私も良いご縁には恵まれなくてこの年まで来てしまいましたよあはは。」
愛想笑いでごまかす。
そうか俺が一番年上か。
だが年下は守備範囲だ、むしろウェルカム!
しかし下過ぎるのはさすがに難しい。
ちなみにロリコンではないのであしからず。
そういう子は大きくなってから来てもらいたいものだ。
「そうか31なのか。どうだ私と結婚する気はないか?」
「シルビア様!」
エミリアが慌てて止めに入る。
そんなに驚くことだろうか、所詮は社交辞令という奴だろう。
「身分や肩書には全く興味はありませんし条件にはあうかと思いますが、私ですと支え合うどころか守られてばかりになってしまいますね。」
「私には武芸しか誇れるものがないからな、構わんのではないか。」
そう言われるととアリかなとか思ってしまうんだが、横で見ているエミリアの目が恐ろしい。
殺気に満ちている。
ここで肯定してしまうと間違いなく殺られる。
俺の第六感がそうささやいている。
ここは耐えろ俺!
「もう少し男が上がりましたらとだけお答えいたします。」
「私は別に構わんのだが、イナバ殿がそういうのならばそうしよう。それに横の目がずいぶんと怖いからな。」
「もう知りません!」
あーあ、怒らせちゃった。
ちゃんとフォローしておいてくださいよシルビア様。
「ゆっくりおやすみにもなれたようですし、そろそろ他の者も待っておられますから向かいましょうか。」
「そうだな、そろそろあのむさくるしい顔でも拝みに行くとしようか。」
ひどい言われようだ。
さっき顔はいいとか言ってなかったっけ。
「エミリアはもう少しここで休んでいく?」
「私も行きます!」
本気で怒ってるし。
女性のフォローは苦手なんだよなぁ。
勘弁してほしいよ全く。
「して、どういう作戦で行くのかおおよそ決まったと申しておったな。」
「はい。後は斥候部隊からの情報とシルビア様の許可が下り次第実行に移ることになっています。ただ、いくつか問題が残っておりましてそれについて意見をいただければと思っております。」
「なんだ全て決まったわけではないのか。」
「さすがに騎士団分団長を差し置いて決めるわけにはまいりませんので。」
いくら部下が優秀でもそこまで許してしまうと下剋上にあってしまうのではないだろうか。
まぁ、カリスマ性がなければ反乱とみなされて鎮圧されるのがおちだが。
イケメンだけでは難しいだろう。
男社会だけに顔では成り上がれまい。
「私が結婚した後はあの男に団長を務めさせる予定だがまだまだ時間はかかりそうだな。」
「それだけシルビア様が優秀であられるという事ではないでしょうか。」
「私などただ武芸に秀でただけの女でしかない。皆、物珍しさでついてきておるだけだ。」
「そんなことはありません。武芸だけであれば昨日のような危険な場所まで部下がついてくることはないでしょう。力だけでなく人に信頼されているからこそ皆貴女についてきているのだと思いますよ。」
「そのように言ってくれるのはイナバ殿だけだな。」
カリスマ性だけでも人はいずれ離れていく。
カリスマ、指揮能力、武芸。
どれをとっても劣る事無く秀でているからこそ今の地位が確立しているのだ。
これは非常に素晴らしいことだし、そこにたどり着くまでの努力に感服する。
それだけのことをこの方はしてきたのだろう。
女のくせにと言われること数知れず。
こういう所は現代と変わらないんだな。
「せめてエミリアぐらいの可憐さが私にもあったらよかったのだが。」
「そんな、私なんてシルビア様の足元にも及びません。」
「イナバ殿もそうだが自分をそう卑下するものではない。エミリアにはエミリアの良さがちゃんとある。献身的に支えるという部分は非常にイナバ殿と合うのではないか。」
何そのニヤニヤした顔。
シルビア様もなかなか人が悪い。
「・・・そうだといいんですけど。」
小さくてよく聞こえなかったがもじもじするエミリア。
おーい、かえってこーい。
「こういう部分を私も見習わねばならんのだろうか。」
「シルビア様は今のままで十分ですよ。」
現場でモジモジされても困る。
やはり戦場にでるひとは何があっても動じない心がないといけない。
まてよ、これも先入観なんだろうか。
「シュウイチさん、私も今のままでいいのでしょうか。」
何をいまさら。
これ以上求めたら罰が当たりますよエミリアさん。
器量よし、気立てよし、お乳よし。
完璧じゃないですか。
「エミリアも今のままで十分素敵だと思いますよ。」
「ありがとうございます!」
元気になった元気になった。
明るい笑顔が一番だ。
「イナバ殿はなかなかのたらしであるな。」
「いくらシルビア様でもその発言はいただけません。」
「いい意味で言っておるのだ。どうだ、私たち二人とも嫁に迎えてみるというのは。」
なんだって。
2人とも構わないというのか。
どんな、そんなエロゲーのような世界があってもいいのだろうか。
右から左からこう、自主規制が入りそうなことをしてもいいとこの人は言うのか!
恐ろしいお人だ。
「私にはもったいなさすぎるお話ですよ。」
ここで暴走しすぎるわけにはいかない。
大人な対応を取るべきだ。
うん、きっとそうだ。
「そうか、それは残念だ。なぁエミリア。」
「残念ですシルビア様。」
え、なにこのフラグ折っちゃった感。
自重せずくださいっていうべきだったの、ここ。
マジですか。
自分でハーレムルートのフラグへし折ったのか。
うわーやってもたー。
セーブ、セーブポイントどこ!
今の選択肢もう一度リトライさせて!
「フラれた女二人寂しく向かうとしようか。」
「いや、フラれたとかそういうのではなくてですね。二人とも、ちょっとお待ちを!」
現実にリセットボタンはないとどこかの偉い人が申しておりましたが、
今ほどほしいと思ったことはなかった!
イナバシュウイチ31歳。
人生最大のフラグを自らへし折った瞬間であった。
明日はどっちだ!
私事ですが11~14まで執筆が出来ません。
更新は止めないように鋭意執筆中ですが間に合わないかもしれません。
ご了承ください。