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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二章

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石ころの命

 街の中にあったアジトは無事制圧されたようで、投降した者が一番広い部屋に集められていた。


 先ほど火球の直撃を受けた男名前はウェイスといったかな、彼も広場で縛り上げられていた。


 火傷はしているようだが大事には至らなかったらしい。


 髪の毛がアフロになっているのはご愛嬌だろうか。


 髪の毛って熱が加わるとチリチリになるもんな。


 俺はと言うと、エミリアに包帯を巻いてもらっているところだ。


 幸い傷はそんなに深くないようで縫わずに治りそうだ。


「ありがとうエミリアそれぐらいで大丈夫です。」


「いけません、ほかにも傷がないか確認しないと。」


 怪我をした子供を見るような目で真剣に傷を探し出すエミリア。


 母性全開ですな。


 頭を見るときにちょうど二つの丘が眼の前で揺れるわけでして。


 なんていうかそれを我慢するほうが苦痛というか。


 そのまま埋もれてしまいたい衝動をぐっと押さえ込んでなすがままにされることにした。


 ここからはそのときの心情でお楽しみください。


 いけませんエミリアさん。


 そんなに押し付けては。


 あたってるあたってる。


 マシュマロ通り越してもうゼリーだよこれ。


 何で女の子はこんなに良い香りがするんだよ。


 狼になるよ。


 落ち着け、マイサン!


 今は耐えるのだ!


「他にお怪我はなさそうですね。頭に刃物を押し付けるなんて傷が残ったらどうするつもりだったんですか。」


「いや、あの時はそんなこと考える余裕もなくてですね。」


「言い訳なんて聞きたくありません。私が後少しでも遅かったら大変なことになっていたんですからね。」


「それでもちゃんと来てくれましたね、ありがとう。」


 恥ずかしそうにでもうれしそうに笑うエミリア。


 ちなみに先ほどのシーンに戻ろう。


 なぜエミリアが壁の後ろにいてタイミングよく壁が壊れたか気になってる人も多いだろう。


 理由は至極簡単だ。


 そこにいて何をしているかを聞いていたからだ。


 エミリアの気配を感じた時、壁の向こうからエミリアの声が聞こえてきた。


「シュウイチさん、今壁を崩していますからもう少しだけお待ちください。」


 下手に返事をしてやつらに聞かれるわけにもいかず、何も言わずに縄を解きに向かったというわけだ。


 吹き飛ばされて武器を突きつけられたのがたまたま破壊工作中の壁だった。


 別の場所でもエミリアに伝えればそこから壁を壊して火球をお見舞いしたという事実は変わらなかっただろう。


 本当に偶然あの壁の側に倒れこんだことで先ほどのシーンに繋がったというわけだ。


 御都合主義だというならば言え!


 自分でも都合よすぎるとは思っている。


 でもそうなるべくしてそうなったと今は感じている。


 愛だよ愛。


 とかなんとか思っておくことにしよう。


 まだ恋にも行ってないけどね。


「分団長探索終了いたしました。こちらの被害は軽微、負傷者はおりますが死者はおりません。盗賊の死者12名重篤な者にはとどめを刺しております、負傷者含め8名を捕縛致しました。」


「ご苦労。負傷者は詰所にて治療を受け他の物は翌朝まで休息を与える。諸君らの働きにより見事盗賊のアジトを殲滅することが出来た、諸君らの働きに感謝するわれらの勝利だ!」


「「「シルビア様万歳!我らサンサトローズに栄光あれ!!」」」


 兵士達は勝鬨をあげそれぞれの働きを称え合いながらアジトを後にした。


 残るは残党といつもの四人。


「貴様らも聞いていただろう、このアジトは我ら騎士団が殲滅した。生き残っているのもお前たちだけだ。選択肢は二つ、情報を吐き戦犯奴隷として労役に就くもしくは情報を吐かず今ここで死ぬかだ。」


 シルビア様が剣を抜き残党の首にあてがう。


 残党は怯えながらも答えることはなかった。


 それはそうだ、自分たちのトップが何も言わないうちに自分だけ生き残ることなど出来やしない。


「沈黙は死を意味するがよろしいか。冥土の土産に私じきじきに首をはねてやるありがたいと思え。」


「こいつらは俺に従っただけだ、殺す必要ない。首を差し出すのは俺一人で十分だろう。」


 ウェリスがシルビアを睨みながら答える。


「自分の首と引き換えに部下を生かすか。上に立つ者としては殊勝な心がけだな、だが足りん。貴様らの持つ情報を手に入れることが出来ないのであればここで全員殺すのも同じことであろう。」


「このやり方が気に食わないから俺は騎士団を辞めたんだ。人の命をそこいらの小石と同じようにしか思っちゃいねぇ。」


「貴様、シルビア様に失礼な!」


「かまわん負け犬の戯言だ。ウェリスといったな、貴様が騎士団を抜けたのはたったそれだけのことが理由か。」


 ウェリスの眼前に剣を向けシルビア様が問う。


「それだけじゃねぇが大体はそれだ。俺たちをただの石ころのようにしか思わずあごで使い、殺す相手も同じく石ころだ。俺は人を人とも思わないやつの下で自分の命を預けたくなくなったんだ。」


「戦場では人の命など石ころと同じだ。貴様は石ころがひとつなくなったところで何も悲しいことはないだろう。しかし、戦場ではその1つの石ころに意識を向けてしまえばより多くの石ころを失ってしまう。私は騎士団をあずかる身として任務を遂行する任務がある。些細なことでつまずいてなどおれんのだよ。」


「石ころ石ころってお前は人の命を何だって思っているんだ!」


「人の命ほど尊い物はないと思っている。しかし戦場では別だ。その尊い命を守る為には多少の犠牲を受け入れなければならん。全ての命に向き合える程私の器は大きくない。」


 人の命を石ころと思うことで自分の心の平穏を保っている。


 大勢の人間を動かす人は自分の感情で物事を決めてはならない。


 些細な感情の揺らぎが判断を誤り、結果として大勢の命を失う事だってある。


 上に立つ者というのは下で支える者の全てを受け止めなければならない。


 器の小さい俺みたいな人間には無理な話だ。


 両手に抱えられる物を守るだけで精一杯だよ。


 因みにブラック企業は別ね。


 あいつら下の者は全て石ころだと思っているから。


 それか歯車とかパーツとか。


 なくなれば補えばいいと思っているファッキン野郎なので全力で逝って良し。


 シルビア様と比べるなんておこがましい。


 万死に値する行為だ。


「それじゃあ俺たちを石ころ呼ばわりしていたのは全て・・・。」


「いまさらこのやり方を変えようとは思わん。そう思われて恨まれたとしても甘んじて受けよう。だが私には仕える者達の命を守る義務がある、そのためにはどんなことでもするつもりだ。」


 全ての命を救えないからこそ、救える後だけは守りたい。


 全てのよき指導者が陥る矛盾を自分なりに解釈した結果がこうだった。


 それが伝わらないことで、この人のように感じる人が生まれてしまったのだろう。


 全ての人に全てを伝えることは難しい。


 それは全ての人間を救うことが出来ないのと同じだと思う。


「全ては俺の間違いだったというのか。」


「間違いは誰でも犯す物だ。しかし、貴様が犯した過ちは大きすぎた。」


「殺せ。その代わりこいつらの命は助けてやってくれ。間違った俺についてきてしまっただけの連中だ。」


「兄貴!俺たちも一緒に死にますぜ、兄貴一人で地獄になんていかせやしねぇ!」


 これは仁侠ドラマか何かだろうか。


 もしくは時代劇。


 名さばきの後で悪人が改心するようなそんなシーンが眼の前で繰り広げられている。


 えーっと私はお邪魔でしょうか。


 この良い場面に水を差すわけではないがみんな思い出してほしい。


 こんなすばらしい場面を作っているのは麗しい女騎士団長と、アフロ男だ。


 もう一度言おう。


 アフロ男だ。


 忘れないでほしい。


「シルビア様よろしいですか。」


「イナバ殿かいかがした。」


「この男の処罰、少し待って頂くことは出来ますでしょうか。」


 アフロ男とは良い酒が飲めそうなんだ、ここで死んでもらうのは惜しい。


 それに、先ほどもらった情報とは別にこの人には利用価値がある。


「それは何故だ。他の者の処遇も含めてこやつの命でまかなうことが出来るのだ。それをとめるということはそれなりの理由があってのことなのだろうな。」


「ここで裁きを下してもわれわれの目的が果たされたわけではありません。こことこの男はあくまでも通過地点。本当の目的は彼らの砦を破壊すること、そうではありませんか。」


「いかにも、こいつは所詮小物に過ぎん。われらが目的は盗賊の大元を叩き潰すことだ。」


 そう、これで終わったわけではない。


 ここからもっと厄介なラスボスを倒さなければならない。


 その為にもこの人にはたくさん働いてもらわなければならないのだ。


「ウェリスさんさっき私に言いましたよね、お前のその頭がほしいと。」


「あぁ、あの時はそうだった。お前のその知識と知恵があればもっと大きな仕事も出来ると思っていたさ。」


「では私が貴方に言いましょう。貴方のその行動力が欲しい、我々のために働く気はありませんか。」


「それはどういうことだ。」


 こういった時にすんなり理解できないからシルビア様の考えも理解できなかったんだな。


 もうちょっと頭を柔軟にしていこうぜ。


「シルビア様の考えを理解できたのであればもう一度騎士団の為に働かないかと誘っているんです。もちろん、貴方の罪は消えませんしそれなりの処罰が待っているでしょう。しかし、自分が間違っていると悔いながら死ぬのであればせめて満足して死ねる場所を用意しますよと言っているんです。シルビア様の名の下に情報を流せばより寛大な措置を得ることが出来る、そうでしたねシルビア様。」


「いかにも。われらが目的の為に情報を渡し、さらにその身をもって償うのであればこやつらの命のほかにもう一人ぐらいであれば生きながらえることも出来るやもしれんな。」


「ということですよ、お分かりになりましたか。」


 アフロ男、もといウェリスは下を向いて何かを考えているようだ。


「それにね、私は貴方と一度ゆっくり酒でも飲みながら話しをしてみたいと思っているんですよ。お互いどういう人間なのかを知ることもなくいがみ合うというのは些かもったいなくはありませんか。」


「俺と酒を飲みたいか。そう思ってくれるやつがこいつらのほかにいるとは思っていなかったな。」


「その酒宴には私も混ぜてもらえるのであろうな。」


 男同士の友情の中にいきなり入ってこないでくださいよシルビア様。


 この人に言われたら断れるわけないじゃないですか。


「もちろんですとも。ただし、それは全てが終わった後ですけどね。」


「こいつらのこと、殺さないでいてくれると約束できるか。」


「サンサトローズ騎士団分団長シルビアの名の下に約束しよう。」


「わかった、この命お前に託そう。好きなように使ってくれ。」


 ウェリスは顔を挙げ真っ直ぐ俺とシルビア様のほうを向く。


「元騎士団所属ウェリス、貴殿の命確かにこのシルビアが預かった。」


 素晴らしい物語の一幕を見ているようだ。


 悪党を平伏し、正義の名の下に大悪を裁く。


 いいねぇ、絵になるねぇ。


 一人アフロだけど。


「それでは詳しくは詰所のほうで聞かせてもらおうか。後ろの連中は牢屋で我慢してもらうしかないがな。」


「いいなお前ら、その命無駄にするんじゃねぇぞ。」


「どこへだって兄貴についていきますぜ!」


「「そうだそうだ!」」


 急にヤクザっぽい雰囲気になるなぁこいつら出てくると。


「慕われておるようだな。」


「俺抜きでは馬鹿なことしかしない連中なんでね。」


 連行されていくウェリスとその部下たち。


 とりあえず第一関門は無事突破だな。


 あとはウェリスの情報を元に本拠地を潰すだけか。


 しかしまぁ今回はほんと何にもしてないな。


 次も出番が少ないとうれしいんですけど。


 やってやれないことはない。やらずに出来たら超ラッキーがモットーですから。


 サボれるならサボりたい。


「私たちも戻りましょうか。」


「そうしましょうか、支配人も待たせているでしょうし今日はゆっくり休みたいところです。」


 長い一日だった。


 正確にはもう次の日になってるようだから二日またいでいるようだけど。


「イナバ殿今日はご苦労であった。作戦を成功に導いただけでなく貴重な情報も確保することが出来た。その人身掌握術見習わなければならないな。」


「シルビア様のような器は私にはありません。私はできるだけのことをして、したいようにしたまでです。先ほどは出すぎたまねをしまして申し訳ありませんでした。」


「いらぬ血が流れなかった、それでよいではないか。」


「そう言っていただけるとありがたいですね。」


 何せ指揮官を差し置いて話を進めてしまったわけだ。


 通常であれば軍法会議にかけられると思うな。


「ウェリスから話は聞いておく、明朝いや明昼に詰所まで出てきて頂ければ助かる。遅れれば使いを出す、ゆっくり休まれよ。」


「ありがたく休ませて頂きます。」


「エミリア、後は任せた。」


「畏まりました。シルビア様も少しはお休みください。」


「休ませてもらえればそうしよう」


 三人で軽く笑いあう。


 まさかシルビア様が冗談を言うとは思わなかった。


 そしてなによりシルビア様とエミリアの間にあった空気がずいぶんとやわらかくなっている。


 エミリアのこと呼び捨てだし。


 エミリアは相変わらず様付けだけど捕まっている間に何か合ったのだろうか。


 女性の友情というのはよくわからない。


 まぁ、仲が良いというのは素晴らしいことだ。


 男のように酒を飲んで話し合ったら即友情というわけにも行かないようだからな。


 ちなみに、拳と拳で語り合うのは御免蒙りたい。


 武闘派ではない。


 出来れば言葉で分かり合えるタイプでお願いしたい。


 長い一日が終わった。


 そしてまた、長い一日が始まる。


 その為にも、今日はゆっくりと休もう。


 お風呂はもういいや。


 とりあえず寝たい。


 出来ればエミリアの膝を所望したい。


 二つの丘もさることながらあの足は絶対に気持ちいいと思う。


 俺のゴーストがそう囁いている。


「私の膝でよければお貸ししましょうか?」


「え、あーうん。今日はやめておきます。」


 なぜだ、どうして心の声が聞こえるんだ。


 まさかエミリアはエスパーだったのか!


「なんだ、して欲しいことがあるならはっきりと申せばいいものを。エミリアも満更ではない顔をしているぞ。」


「何を仰るのですかシルビア様!」


「私の膝を貸してやってもよいが、あいにくこれから忙しくてな。エミリアの膝で我慢してもらえるとありがたい。」


「いや、我慢とかそういうものじゃなくてですね。」


「そうですよ、シュウイチさんには私の膝をお貸ししますからシルビア様はお仕事なさってください。」


「さき程休んでくれといっておったのはどの口だったかな。」


 デレた。


 シルビア様がデレた。


 シルビア様の膝とかSSレア級のレアイベントなんですけど。


 それよりもこの二人に何があったの。


 誰か教えて!


 教えてエロい人ーーーーー!


 置いてけぼりの俺の叫びは夜の空にはかなく消えるのだった。

デレました。

シルビア様はクーデレのようでした。主にエミリアに対して。


どうしてこうなったかはまた書ければいいなと思っています。


物語りもいよいよ佳境です。

もう少しだけお付き合いください。

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