惨状から見つかったヒント
店のいたるところに例の模様が描かれている。
一つや二つじゃない。
机、壁、床、扉。
目につくところ全てにだ。
参ったな営業前だってのに。
「これはいったいどういう事だ!?」
余りの惨状にシルビアが目を見開いている。
うんうん、そんな顔も可愛いんですよね。
「シュウイチさん、これはもしかして。」
「えぇ、村と同じ文字だと思います。」
間違いない。
あの幾何学的な模様だ。
とうとうここにも来たか・・・。
「何事ですか!」
と、俺の叫び声に二階で寝ていた四人が慌てて飛び出て来る。
「うわ、なんだこれ!」
「そこらじゅうあの模様だらけじゃない!」
「これはまたすごいですね。」
「これ、これです!うちの壁に急に書かれたのはこの文字です!」
どうやらメッシュさんの家を確認しに行く手間が省けたようだ。
メッシュさんの家に続いて商店にも被害が出たという事は、うちの家でも起こる可能性があるという事だ。
掃除の手間を考えるとここで何とか食い止めた所なんだけど、いったい誰がやったんだ?
「とりあえず営業に支障が出るのでなんとかしたい所ですが・・・あ、消えるみたいですね。」
試しに指でこすってみると思ったよりも簡単に文字を消すことができた。
特殊なインクなのか、こすった指には塗料が付着していない。
いったいどういう原理で描かれているんだろうか。
「ねぇ、村のやつと一緒なの?」
「魔力の感じ方からすると同じようです。」
「ってことは村に悪戯したやつが俺達が寝てるうちに忍び込んだってことか?」
「でも入り口は施錠されていますし、いったい誰がこんな事を。」
「シュウイチはお礼を言われることはあっても恨まれることはないと思うのだがな。」
「私もそう思います。」
別に聖人君子じゃないから恨まれるようなことだってしてるんだけど・・・。
まぁ、そんな相手は今頃仲良く獄中の中なのでここに来ることはないか。
となると誰が何のためにやったのかってことなんだけど・・・。
「原因を追究したいところですがこのままでは仕事に差し支えます、申し訳ありませんがお手伝いいただいてもいいですか?」
「もちろんです!」
「昨日お肉一杯食べましたから任せてください!」
肉がバロメーターになるのか。
若いなぁ。
「私もお手伝いします。」
「でもメッシュさんはご自宅が・・・。」
「家はいつでも片付けられますから。」
「助かります。」
その後家の片づけを終えたニケさんも参戦して一気に文字を消しにかかる。
一晩のうちに誰がどうやって描いたのか。
その謎はまったく解けそうにない。
すぐに消えるだけが救いだな。
一先ず人目につく場所だけは綺麗にして一息つけたのが開店半刻前。
やれやれ何とか間に合った。
「ただいま戻りました。」
「あ、ユーリ様おかえりなさい。」
「皆さんお疲れでいったいどうしたんですか?」
「あぁ、ユーリは巡回に行ってましたもんね。」
「森に変化はなかったか?」
「特に何もありませんでした。残念ながら新たな獲物はかかっておりませんでした。」
それは残念だ。
昨日食べたお肉がかなり美味しかったのでまた食べたいなと思っていたんだけど、珍しい魔物みたいだしまた機会があればだな。
「とりあえず皆さんは休んでください、セレンさんが来たら朝食を作ってもらいます。」
「私は念の為村の様子を見てこよう、同様の被害が起きているかもしれん。」
「お願いします。」
「私達は開店の準備を、定期便が来る日ですから混雑が予想されます。ニケさん、頑張りましょうね。」
「はい、エミリア様。」
そうか今日は定期便が来るのか。
今日の集客次第でダンジョンを拡張するかどうか決める事にしている。
魔力は十分にある。
後はそれに見合う集客が確保できるかだ。
冒険者ギルドに告知を出してもいいかもしれないな。
新装開店!みたいな感じでさ。
「おや、これはなんでしょう。」
村の様子を見に行ったシルビアを店の外まで見送りに出た時、ユーリが入り口の横に落ちていた何かを拾い上げた。
「石、ですか?」
「そのようです。」
ユーリの手に握られているのはこぶし大の石。
特に何の変哲もない石のようだけど・・・。
「ユーリ、それ!」
突然ユーリの握りっていた石に例の模様が浮き出たかと思うと一瞬にして全体が文字で埋め尽くされてしまった。
驚いて手放すかと思ったがユーリはそれを不思議そうな目で眺めている。
こ、怖くないの?
俺だったらビビってすぐ捨てちゃいそうだけど・・・。
さすがユーリ、メンタル強いな。
「これが仰っていた文字でしょうか。」
「そのようです。その、怖くないんですか?」
「私に伝染する感じはありませんので特に害はないかと、いったいどういう原理なのでしょうか。」
どんな原理・・・。
ユーリ的にはそっちの方が気になるようだ。
「とりあえず中に、と言いたい所ですが持って入ってまた店中に広がっても困るんですよね。」
「では外に置いておきましょう。」
「いや、入り口はちょっと。」
「では裏口に?」
「裏口もちょっと・・・。」
「ではどこに置けばよいのですか?」
出来るならどこにも置きたくないんだけど・・・そう言うわけにもいかないか。
「イナバ様、ただいま戻っただ!」
とりあえず中に戻るとちょうどバッチさんがメンテナンスから戻ってきた所だった。
ダンジョン妖精として契約したのでダンジョン内と商店しか行き来出来ないが、代わりに実体を伴ったまま活動できるようになったそうだ。
もちろん透明になる事も出来る。
便利だなぁ。
「おかえりなさい、ダンジョンに変わりはありませんでしたか?」
「特に問題ねぇ、今日はお客さんがいっぱい来るんだろ?オラいっぱい稼いでくっからな!」
「あくまでも危険な目に合っている人だけですからね、無理に売りつける必要もありませんそこは間違えないようお願いします。」
「オラ、頑張るから見ててくれ!」
やる気満々のバッチさん。
憧れのダンジョン妖精として働いてるんだからテンションが上がるのも無理ないか。
俺が仕事しててテンション上がった事なんてあったかなぁ。
ブラックすぎて辞めたいっておもってた記憶しかないや。
「ん?ユーリ様、それどうしたんだ?」
と、バッチさんがユーリの持つ模様だらけの石に気付いた。
「店の外で拾ったのですが、なにやら不思議な模様が描かれているんです。」
「オイラにも見せてもらってもいいべか?」
「どうぞ。」
ポイっと放り投げられた石をバッチさんがあたふたしながらキャッチする。
こら、人に渡すときは投げちゃいけません!
「ユーリが手にした途端にその模様が浮かび上がってきたんです。実はさっきまで店のいたるところにも落書きされていましてね、困ってるんですよ。」
「こ、こりゃぁ妖精文字だぁ!」
「妖精文字?」
バッチさんがシルビア様みたいに目を真ん丸にして驚いている。
おかしい、シルビア様の時はかわいいと思えたのにバッチさんがすると全くかわいくない。
オッサンが驚いているように見えるだけだ。
なぜだろうか。
ってそうじゃない。
妖精文字だって?
「読めるんですか?」
「オラ、あんまり得意じゃないんだけど・・・。」
「読めるならお願いします!」
まさかこんな所でヒントが見つかるとは思っていなかった。
バッチさん恐るべし。
「シュウイチさんどうしました?」
「バッチさんが店中に書かれていた文字について何かわかるかもしれないそうなんです。なんでも妖精文字だとか。」
「妖精文字?」
入り口の前で溜まっているとエミリアがカウンター越しに声をかけてきた。
ですよねー。
その反応が普通ですよねー。
「解読には少し時間がかかるみたいです。」
「聞いた事はありますけど遺跡などに書かれているぐらいで実際に目にしたことはありません。そもそもあまり解読できていなかったはずですけど・・・。」
「どうやらバッチさんには読めるそうなんです。」
「もしそうだとしたら大発見ですよ!」
エミリアが違う所で目を丸くしている。
うん、エミリアのそんな顔も(以下略
大発見なのかもしれないけれど、一先ず入り口前は仕事の邪魔になるのでバッチさんには解読を続けてもらって俺達は仕事に戻ろう。
店の裏で真剣な顔で小石を握りしめているバッチさんだったが、本当に解読できるんだろうか。
朝食後、三人組はダンジョンへメッシュさんは部屋にもどってもらった。
「いらっしゃいませ!」
おっと、お客さんが来たようだ。
「すみません買取お願いします!」
「畏まりました!」
「これお願いします。」
「初心者セットにお弁当ですね、今日の日替わりは野菜炒めです。」
「やった!」
「お弁当をお待ちのお客様はこちらへ、準備ができ次第お呼びいたします。」
定期便に乗ってやってきた冒険者がどっと押し寄せて来る。
バッチさんの方も気になるけどとりあえず今はこっちを捌かなければ。
ダンジョンに入る前の下準備。
もちろんある程度は準備してきているけれど、足りないものをうちで補充していく。
その中でも食事はかなり重要だ。
シュリアン商店では携帯食料だけでなく弁当にも力を入れている。
簡単なものだけど、やっぱり携帯食料だけでは味気ない。
せっかく命を懸けて戦っているのに干し肉やドライフルーツじゃ力が出ないからね。
危険な場所だからこそ食べ物は大切だ。
モチベーションを大きく左右する食べ物。
ほら、有名な漫画があるじゃないですか。
まぁあれは現地で魔物を料理する作品ですけど。
「セレンさん、お弁当追加5個です!」
「はーい。最初の三つ出来ましたので持って行ってください。」
「ありがとうございます。」
シュリアン商店の隠れた主力商品お弁当。
セレンさんお手製のお弁当は味も中身も大満足だ。
日替わりで中身を入れ替えているので毎日潜っても飽きが来ないように考えてある。
午前中はお弁当を作り、お昼はランチを作り、午後は夕食の仕込みをする。
セレンさんがいなくなって本当にこの店は大丈夫なんだろうか・・・。
手伝ってもらえるのもこの冬まで。
それまで無理をさせるわけにいかないし、真剣にこの先どうするかを考えなければ・・・。
文字の件も大切だけど、お店の方もやらなきゃいけないことだらけだ。
ダンジョンの拡張もあるし何事も足元から。
自分の目が届く範囲からしっかりやっていかないとダメだよな。
頑張ろう。
最初の波が引いたのがお昼前。
今は昼食の順番待ちができているぐらいでお店の方は一段落だ。
バッチさんは・・・まだ固まったままみたいだけど・・・。
あれ寝てないよね?
大丈夫だよね?
「シュウイチさんも昼食にいかれますか?」
「いえ、もう少し人が減ったらにします。」
「バッチさんはまだ悩んでおられるようですね。」
「みたいです。」
悩んでいるという事にしておこう。
若干頭が左右に揺れているのは悩んでいるのであって寝ているからではない。
そうに違いない。
「シュウイチいるか。」
「あ、シルビアおかえりなさい。」
「シルビア様お疲れ様でした。」
「何か変わりはなかったか?」
「例の文字が妖精文字かもしれないとわかったぐらいでしょうか。」
「おぉ、進展あったようだな。」
「それに関しては裏でバッチさんが解読してくださっています。村はどうでした?」
「変わりなしだ。」
あの木材以外に被害はなしか。
村からこっちに被害がうつったと考えるべきなんだろうか。
良かったのか悪かったのか。
それについても文字を解読すれば何かわかるだろう。
とりあえずそれを待つだけだ・・・。
「わ、わかったのだ!」
お!?
アライさん再登場。
じゃなかった、バッチさんが解読に成功したようだ。
よかった、寝てなかったんだ。
「それでなんて書いてあったんですか?」
「それが、言っていいんだべか。」
「構わん言ってくれ。」
「お願いします。」
店頭をほったらかしてニケさんまでが集まって来た。
いよいよ模様の秘密が明らかになる。
一体何がかいってあったんだろうか。
余り解読されてない言葉みたいだし、まさか世界をひっくり返すような特別な内容だったりして・・・。
「早く逃げろ馬鹿。」
「はい?」
「『早く逃げろ馬鹿』この石にはそう書いてあるんだ。」
えっと、誰がバカだって?
雇用主に対して馬鹿だなんて小さいオッサンのくせにいい度胸じゃないかって違う?
「本当にそう書いてあるのか?」
「う、嘘じゃねぇ!本当にそう書いてあるんだ!」
「早く逃げろですか。」
「早く逃げろ馬鹿、だ。」
誰がバカだ誰が。
「そう書いてあったとして、村のにもそう書いてあるんでしょうか。」
「模様は同じような感じですからおそらくは。」
「でもそうだとしたらいったい何から逃げるんですか?」
「さぁ・・・。」
問題はそこだ。
俺達はいったい何から逃げればいいんだろうか。
冒険者から?冬から?それとも魔物から?
こんなことなら落書の一つでも残しておけばよかった。
「イナバ様、これも読んでもらったらどうでしょうか。」
「え?」
「消さなきゃと思ってたんですけど忙しくてつい忘れてたんです・・・。」
そう言ってニケさんが指さしたのはカウンターの下。
接客するとちょうど腰で隠れてしまう細い部分に落書きが残されていた。
「バッチさんこれもお願いできますか?」
「オラにまかせてくれ!」
ドタドタとバッチさんが走って来て背伸びをして文字を覗き込む。
が、微妙に高い場所にあるので背伸びした足がプルプルと震え出した。
体力ないなぁオッサン。
俺も人のこと言えないけどさぁ。
「どうですか?」
「『悪い・・・襲って来るぞ』って書いてあるのだ。」
「悪い何だって?」
「難しくて読めねぇ・・・。」
おぃぃぃ、肝心な所で使えないなぁオッサン!
って妖精文字が読めるだけで十分すごいのか。
こんなこと言っちゃだめだな、御免オッサン。
とりあえずわかっているのは二つ。
何かが襲って来る事。
そして、早く逃げなきゃいけない事か。
うぅむ・・・。
一体何が起きているんだろうか。
わからん。
わからんが、良くないことが起きているのは間違いなさそうだ。
何だかんだ役に立つ小さなオッサン。
小さなおっさんが手を貸してしてくれるのは都市伝説でも何でもなかったようです。
あなたの近くにいる・・・かもしれません。
はい、10連休皆さんいかがお過ごしですか?
いよいよ終わりですね?
仕事の準備はできていますか?
やり残したことは?
よろしい、残りを謳歌するがいい。
物語がそろそろ動き出すようです。
妖精文字に書かれた内容はいったい何なのか。
どうして逃げないといけないのか。
それに関しては、また次回ということで。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




