倉庫の中に響く声
突然の内容にみんなの思考がついてこれていない。
まるで鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしている。
見ていると面白いな。
「もちろん私ではありませんよ。」
「それはわかっているが、本物とはどういうことだ?」
あれ、ユーリの出生は知っているはずだけど・・・。
一応復習しておくか。
「本来ダンジョンにはダンジョン妖精というお手伝いさんがつくはずなのですが、うちのダンジョンはユーリというダンジョン妖精がいた為に本物のダンジョン妖精はいないんです。」
「私がいる以上必要ないということで契約しなかったと聞いています。」
「実際にシュウイチさんがダンジョンと契約した時にも出てきませんでしたね。でもダンジョン妖精は外に出れないはずでは・・・?」
「私もそれは考えました、外に出れないはずのダンジョン妖精が森に出るはずがないと。ですが考えたんです、契約する前のダンジョン妖精は一体何処にいるのかと。」
「ダンジョン妖精が何処にいるのか?」
通常、ダンジョン妖精が外に出ることは無い。
ダンジョンから魔力を得るので食事も必要とせず、ダンジョンの維持管理に従事してくれる小人。
それがダンジョン妖精だ。
ぶっちゃけ外に出る必要が無い。
ダンジョンがそこにあるかぎり仕事と食事を与えられ、彼らにとってもそれこそが最高の喜びなのであればわざわざ外に出る必要は無い。
ワーカホリックにも程があるとはあえて言うまい。
喜んでいるならそれで良いのだ。
だけど、その喜びを得るためには一つ条件がある。
そう、ダンジョンと契約しなければならない。
「この前野良のダンジョンに潜りましたがあそこにはダンジョン妖精はいませんでした。それはなぜか、簡単に言えば契約していないからです。」
「契約していないから出て来れなかったのですね?」
「ニケさん正解です。仮に世界で初めてダンジョンが出来たとしましょう、初めてですからそこは管理されていません。そこにマスターが現れダンジョンと契約をし、同時に妖精とも契約しました。そこで初めてダンジョン妖精が誕生したんです。では皆さんにお聞きします、契約が成立するまで妖精は何処にいたんでしょうか。」
一つずつ謎を解き明かしていく。
真っ白な知識で前例にとらわれない。
柔軟な思考で考えよう。
「ダンジョンの中にいたのではないのか?」
「ではダンジョンが出来るまではどこにいたのでしょう。」
「む、そういわれればそうか。」
「では外にいたのですか?」
「そう考えるのが自然だと思います。」
「じゃあどうしてダンジョン妖精は外に出れないなんて事になったのでしょうか。」
「おそらく契約をすると出られなくなるだけで、契約をするまでは他の妖精と一緒で自由に出入りできるのではと私は考えています。」
契約する前は自前で魔力を集めなければならないが、契約すれば魔力にも仕事にも困らなくなる。
そりゃダンジョン妖精になりたいと寄ってくるだろう。
「つまり御主人様は他の妖精が契約する事でダンジョン妖精になると考えておられるのですね。」
「その通りです。」
「そして、そいつが今回の犯人であると。」
「ダンジョンの中を自由に行き来できる事を考えるとそうでしょう。」
「あれ、でもそれじゃ犯人はただの妖精?でもイナバ様は本当のダンジョン妖精が犯人だって・・・。」
話を聞いていたニケさんが目を白黒させている。
そう、そこがポイントなんだ。
ダンジョン妖精ではないはずなのに、ダンジョンの中を自由に行き来しているやつがいる。
そいつ次第で対応が変わってくるのだ
「もう一度聞きますが、ダンジョンの中は実体のないダンジョン妖精ならば自由に行き来できるんでね?」
「その通りです。」
「それがただの妖精でも?」
「これまでの話から考えても可能かと思います。ですがただの妖精がダンジョンにいる理由がわかりません。ダンジョンからの魔力供給もなく特に何か出来るわけでは・・・。」
「そう、何か出来るんですよ。実際今起きている事が何よりの証拠です。」
ダンジョン妖精でなくても自由に行き来を出来るとなれば犯人が絞れてくる。
どういう理由で今回の騒動を引き起こしているかはわからないが、それは本人に聞いてみるのが一番いいだろう。
「じゃあ本当のダンジョン妖精というのは一体なんだったのですか?」
「これも私の勝手な考えですが、ダンジョンに何かしらの興味のある妖精が最終的に契約をして正式なダンジョン妖精になるのではないでしょうか。私たちも興味のない仕事にわざわざつくことはありませんからね、需要と供給みたいなものです。」
「ダンジョンの仕事がしたくてやってきた妖精と契約すると、そいつはダンジョン妖精になるのか。」
「その通りです。」
かなり勝手な解釈だが、そう考える方が辻褄が合う。
「シュウイチさんの話はわかりました。でも、それと今回の件と一体何の関係が有るのでしょう。話が飛びすぎてなにがなにやら・・・。」
「まぁ簡単に言えばダンジョンの中で悪さをしているのは幽霊でもなんでもない、ただの妖精だと私は考えているんです。」
「冒険者を助けるおせっかいの妖精だな。」
「えぇ、うちの在庫を勝手に使う困った奴です。」
「そう考えると随分と可愛らしく思えるな。」
「やっている事はまったく可愛くありません。今までの損失を考えたらそこそこの金額なんですから。」
おぉ、ニケさんが珍しくご立腹だ。
エミリア同様お店のことになるとなかなかに厳しい。
「それで、御主人様はどうしようというのですか?犯人が妖精だとわかっても姿は見えず何時出てくるかもわかりません。そのような相手を捕まえるとなるとなかなかに大変だと思いますが。」
「勿論それも考えて有ります。」
逆に幽霊とか出ないのであれば対応も考えやすい。
「いつもの事だがシュウイチはどこを見て生きているんだろうな。」
「別にみんなと変わらないと思いますが・・・。」
「おそらく御主人様にしか見えない何かを見ておられるんだと思います。」
「たまに遥か彼方を見つめてボーっとしていますしね。」
「あ、それはわかります!さっきだってご飯を食べながら部屋の隅っこをジーっと見つめてました。」
さっきはそれで怒られたんだっけ。
どうもすみません。
「ご飯のときはご飯に集中するようにします。」
「そうしてくれ、折角の家族水入らずの時間なんだ。」
「そうですよ。お仕事は家まで持ち込まない、働きすぎは身体に毒ですよ。」
「気をつけます。」
嫁二人に怒られてシュンと縮こまる旦那。
そこ!威厳がないとか言わない!
奥さんのほうが強い家庭は長持ちするって言うし、おれ自身その方が何かと都合が良い。
ハーレムを望んでいながら情けないとか言われそうだけどこれで良いのだ。
それに、せっかくブラック企業から脱出したのにこの世界でもまた仕事の事で倒れたくない。
なんて言いながら今までの自分の行動を思い返すとなかなかのハードワークである。
ホント気をつけます。
「本当に気をつけてくださるのでしょうか。」
「そうですね、この前みたいにまた危険な事に首を突っ込みかねません。」
「今回は大丈夫ですよ!なんたって自分のダンジョンなんですから。」
「そう言いながら随分と危険な目に合ってきたと思うが?」
「シア奥様の言うとおりです。」
なかなかに酷いいわれようだ。
自分のダンジョンで命の危険なんて・・・。
あるわ。
過去二度ほど危なく殺されかけている。
うん、油断は禁物ですね。
「気を抜かずに頑張ります。」
「よろしくお願いします。」
「それでだ一体どうやってそのおせっかい妖精を捕まえるんだ?ユーリの言うように一筋縄では行かない相手だぞ。」
「さすがに其のまま捕まえようとは思っていません。目には目を、妖精には精霊をです。」
「精霊様にお願いをするんですか?」
「そのつもりです。」
幸い内にはつい先日妖精から精霊になった彼がいる。
妖精についても色々と詳しいだろう。
「ですがいくら祝福を賜っているとしても精霊様にお願いをするのは大変ではありませんか?」
「無理難題を言われる可能性もあるぞ。」
「あのお二人の事ですから今度は子供の作り方を見せてくれと言い出しかねません。」
あぁ、そういえばそんな事もあったね。
その原因も俺なんだけど・・・。
さすがに見せるのは嫌だなぁ。
勝手に見られる分には感知できないのであれば何も言うまい。
「今回はルシウス君にお願いするつりです。」
「雪の精霊様ですか?」
「彼なら妖精の事にも詳しいでしょうし、それに彼には貸しがありますから。」
「御主人様もなかなか悪ですね。」
「いやいやユーリほどでは。」
あの二人にお願いするのはさすがに俺も気がひけるが、ルシウス君なら気軽にやってくれると信じている。
貸し借りは冗談として、妖精上がりの彼が今回の適任だろう。
「確かに精霊様なら何とかして下さるかもしれんが、いつ出てくるかもわからんぞ。」
「それもこっちで何とかしてみようかと。」
「何時出てくるのかも指定できるのですか?」
「えぇ、今回の妖精がおせっかいで本当に良かったと思います。」
また四人の頭の上にクエスチョンマークが出たけど、まぁいいか。
その日は夜遅くまで打ち合わせをすることになった。
今回の作戦にもみんなの力が必要だ。
相変わらずの他力本願。
それに今回は運の要素も加わって・・・。
大丈夫何とかなるさ。
そんな軽い気持ちで次の日の朝を迎えるのだった。
そして迎えた翌日。
俺は商店の倉庫内で胡坐をかいていた。
いや、のんきに構えているって意味のほうじゃないですよ?
本当に胡坐をかいているんです。
オホン。
「ご主人様準備できました。」
「じゃあはじめましょうか。」
「ではシルビア様にお願いしてきます。」
ユーリが倉庫の中を覗きこんできたかと思ったらすぐに引っ込んでしまった。
静まり返った倉庫の中で俺は小さく息を吐く。
白い吐息が天井にぶつかる前に消えていった。
「あ、寒かったですか?」
「大丈夫です気にしないで下さい。」
寒くないといえば嘘になるがまぁ耐えれる範囲だ。
せっかくルシウス君が手伝ってくれているんだしね。
「おさらいですが、もしこの倉庫に妖精が現れたときは・・・。」
「この部屋に閉じ込めてしまえば良いんですよね?若しくは声をかけて動かないように制限する。」
「出来ますか?」
「妖精にとって精霊は絶対の相手です。僕が命じれば間違いなく成功しますよ!」
「それは心強い。いつ出てくるかも分からないので全てはルシウス君が頼りです、宜しくお願いします。」
「イナバ様の初めてのお願いですから!はりきっちゃいますよ!」
彼は彼なりにダンジョンの魔力を奪ってしまった事を気に病んでいたらしい。
今回はユーリの言うとおりそれに付け入る感じになってしまったが、今回の件でそれをチャラに出来るならと喜んで手を貸してくれた。
一応作戦通りだ。
心がどことなくチクチクするのは気のせいだろう。
大人とはそういうものだ。
とりあえず今は待つしかない。
作戦が成功する事を祈ろう。
「シア奥様、ダンジョンに入りました。」
「予定の場所まではそのまま追跡してください。」
「本当にシア奥様お一人でよろしかったのですか?」
「単独でダンジョンに潜れるのはシルビアしかいません。エミリアにはお店をお願いしなければいけませんし、それに私が行くと敵が出てきませんから。」
「それもそうですね。」
今回の作戦はこうだ。
あたかも普通の冒険者のようにシルビア様が単独でダンジョンに潜る。
もちろん敵は倒してもらうし、罠も避けてもらわなければならない。
一応この辺にあるよというレクチャーはしているものの全部を覚える事は不可能だろう。
今回のポイントは単独で潜る事にある。
おせっかい好きの妖精だ、単独で潜る冒険者に何か危機があれば必ず手を貸すだろう。
それを見越して決行ポイントを決め、ワザと罠に引っかかってもらう。
もちろん命の危険が無いやつだ。
単独で潜るお願いにシルビア様は快く力を貸してくれた。
「単独で潜るのは久々だな、最近は実践から遠のいて感が鈍っていた。良い鍛錬になるだろう。」
だ、そうだ。
まぁ初心者向けのダンジョンなので魔物の歯ごたえはないだろうけど、罠と緊張感は本物だ。
この作戦が成功するかどうかは全てシルビア様にかかっているといっていい。
一応迷子にならないようにユーリがサポートをする事になっている。
もちろん直接本人に指示を出すことが出来ないので、この前使ったワザと罠を起動させておくやり方で最短距離で目的地へ誘導する。
他の冒険者もいるがまぁ大丈夫だろう。
「シア奥様第一階層を順調に進行中。」
「引き続き追跡お願いします。緊急時は・・・。」
「即座に魔物と罠の機能を停止、救助に当りますので御安心下さい。」
「こればっかりはユーリだけが頼りですよろしくお願いします。」
「御主人様、シア奥様の事ですから今頃楽しそうに潜っていると思いますよ。」
『相変わらずシュウイチの罠は意地が悪いな』とか言われているんだろうけど、自分の罠に奥さんがかかると思うとなんだかなぁ。
それからもユーリのアナウンスを聞きながら目的の場所までたどり着くのをじっと待つ。
途中エミリアやニケさんが様子を見に来てくれたが今の俺には待つことしかできない。
正直寒い。
強がり言わずに毛布借りてくればよかった。
なんて思っていた時だった。
「シア奥様第七階層を通過、もうすぐ目的地付近です。」
音声ガイダンスを終了します的な流れだったがもちろんそんなことはない。
いよいよだ。
「ルシウス君、準備お願いします。」
「え!?あ、はい!」
あれ、今寝てた?
「寝てないですよ!大丈夫ですよ!」
そうか、寝てないのか。
どうやら気のせいのようだ。
何故かバタバタと手足を動かして元気なのをアピールするルシウス君を横目に俺もその時の為に集中する。
「シア奥様予定通り罠にかかりました。」
「無事ですか?」
「もちろん無事です。というかトリモチ罠に命の危険はありません。」
「でもそこを魔物に狙われたら・・・。」
「魔物は遠ざけるように配置済み、近くに冒険者の反応もありません。」
「妖精の反応は?」
「いませ・・・いえ、いました!」
「追跡できるならそのままおねがいします。」
「わかりました。」
どうやらお目当ての妖精も確認できたようだ。
だが、向こうで発見できても捕まえる事はしない。
シルビアが罠に捕まっているのを見てくれたのなら後はこっちのものだ。
「シア奥様罠から脱出しました・・・、妖精の反応消失!」
きたか!
全神経を集中させ倉庫の中を睨みつける。
ルシウス君も同様に緊張モードに入ったのか一気に室温が下がった。
寒い!
寒くて集中できない!
とか言ってる暇はない!
と、その時だった。
倉庫内の空気が急に変わった。
あれだけ寒かったのに暖かい空気が流れ込んでくる。
このかび臭い感じ、ダンジョンの臭いか!
「ルシウス君!」
「そこの妖精、私は雪の精霊ルシウスである今すぐ姿を現せ!」
「は、はぃぃぃ!」
さっきまでの威厳の無さはどこへやら、思わず俺も跪きそうになる。
やっぱり精霊『様』は一味違うな。
ルシウス君に命じられお待ちかねのやつがゆっくりと姿を現す。
倉庫内に現れたそいつは、なんていうか・・・。
想像していた妖精像とはかけ離れた見た目をしていた。
無事に?犯人を確保しました。
これから犯人の尋問を開始するわけですが、はてさてどうなることやら。
次回もどうぞおつきあいください。
いやー、今回は非常に苦戦しました。
なかなか筆が進まず書いては消して書いては消しての繰り返しです。
本当に大変でした。
皆さんも読みづらかったかもしれません。
精進いたします。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




