悪戯するのは誰?
「森の奥で今まで見たこと無いような生き物の影を見た者がいるんです。それも一人や二人ではなくかなりの人数がそれを目撃しています。」
「俺達はイナバ様のダンジョンから魔物が出ないってわかっているんだが、新しく入ってきた奴等の中にはダンジョンから出てきたって思っているやつもいる。どちらにしろ今までいなかった『何かが』いるのは間違いないみたいなんだよ。」
「最近は子供達が森に出入りしているし、何かあってからじゃ遅いでしょ?魔物だったときの事を考えると討伐してもらわないといけないし、そうなったら冒険者にお願いすることになるからイナバ様なら良い人を御存知なんじゃないかと思って。」
なるほどなるほど。
森に見たことの無い生き物がいてそれが魔物なんじゃないかと。
確かに心配だよなぁ。
ティオ君をはじめ子供達は頻繁に森に入っているし何かあってからじゃ遅いのは間違いない。
問題は何の影なのかという所なんだけど・・・。
「シルビアは何か知っていますか?」
「いや、私も初めて聞いた。」
「ユーリは特に何も行っていなかったと思うんですけど、確認した方がよさそうですね。」
「新しい住人にもイナバ様から直接説明してやってくれないか?ダンジョンから魔物は出てこないって。」
「分かりました。全員揃ってるほうが良いでしょうから夕方でよろしいですか?」
ダンジョンの魔物は外に出ることは無い。
いや、正確に言えば出れるのだが出ればすぐに警報がなり対処できるようになっている。
それに普通の魔物が自然界に存在する魔力をエサに生息しているように、ダンジョンの魔物もダンジョン内の魔力をエサに生息している。
ダンジョンの魔物が外に出ても生きて行く事はできない。
「ありがたい。」
とりあえず状況は把握した。
それにしても見たことも無いなにかの影か。
なんだろうなぁ。
冒険者とかを見間違えたとかなら良いんだけど、冒険者がわざわざ森の中に入っていくとは思えないし・・・。
俺の知人で入りそうな人といえばナーフさんぐらいのものか。
それでも頻繁に来るような感じじゃないしなぁ。
わからん。
「結構な人数が見てるって言ってましたよね?」
「えぇ、私は見てはいませんがドリスは見たそうです。」
「わかりましたみんなにも聞いてみます。」
捜査の基本は聞き込みからだ。
何処で見たのか、どんな大きさだったのか、時間は等々。
何事も情報が無いと始まらない。
とりあえずやってみますか。
「シルビアはユーリに聞きに言って・・・ってダメですよね。」
「あぁ、お前を一人にすることはできんな。」
「なら一度戻りましょう。冒険者も何か知っているかもしれません。」
「ではこちらはこちらで見た人間に詳しく聞いておきましょう。」
「助かります。」
さすが村長、話が分かる。
ひとまず村のほうはお任せして二人で商店へと戻る。
その道すがらの事だった。
「待て、何かいる。」
突然シルビア様が低い声で俺を制した。
慌てて立ち止まり身をかがめる。
同じようにしゃがんだシルビア様が指差す方向に目をやると確かに黒い何かが左から右に移動しているのが見えた。
何かは分からない。
魔物にしては動きが滑らかだし、冒険者ににしては小さすぎる。
この辺りに出る魔物といえばコボレートなどだが、それよりかは大きいな。
距離がありすぎて大きさが曖昧なのもありよく分からない。
だが確かにそこに何かがいる。
そいつは同じ場所を行ったり来たりしていたかと思うとそのまま森の奥へと消えてしまった。
「追いかけるか?」
「いえ、いるのが分かっただけでも収穫です。ですがあそこで何をしていたかが気になります、見に行きましょう。」
「私が先行する、シュウイチは少し下がってついて来い。」
「お願いします。」
「言っただろう一緒のほうが良いと。」
「あははそうですね。」
相変らず俺は何かをひきつけてしまうようだ。
いや、偶然かもしれないけれど一人だったら見落とす所だった。
でも呼びに行くのはシルビアに様お願いしようと思っていたから俺は別に・・・。
って今はそれ所じゃない。
前を行くシルビア様を追いかけて藪をかき分け森へと入る。
木陰に入った瞬間に一気に空気が変わった。
枯葉を踏む音が妙に耳に残る。
警戒しながら影がいたであろう場所につくと、そこだけなぜか地面が見えていた。
「ここだな。」
「何かを探していたんでしょうか。」
「わからん、足跡があるかと期待したがこの落ち葉では何も分からんな。」
「特にこれといって何かあるわけではないんですけど・・・。」
落ち葉が掻き分けられ地面が見えている所にも特に変わったところは無い。
一体何をしていたんだろうか。
「仮に魔物だとして、こんなことする魔物がいると思いますか?」
「私の記憶の中にはいないな。私が相手してきたのは皆人を襲う奴らばかりだったから。」
「人という感じでは無かったですし・・・一体なんだったんでしょうか。」
「ともかく一度店に戻るとしよう。私達が知らずとも誰か知っているかもしれん。」
「そうですね。」
ここにいても答えは出ない。
仕方なく俺達は商店に戻った。
「お帰りなさい。」
「ただいま戻りました。」
「特に何も無かったか?」
「冒険者の皆さんもダンジョンに入りましたので特に何も。」
「そうか。」
話しを聞こうと思ったがそうだよな、今はダンジョンの中だよな。
戻ってくるまでまだまだかかりそうだ。
「ユーリちょっと良いですか?」
「何でしょう。」
「最近森の中で見知らぬ影を見たとかありませんでしたか?」
「影、ですか?私が巡回している限りではありません。」
「そうか・・・。」
「どうかされたんですか?」
「いやな、村近郊で見たことも無いような生き物の影が目撃されているそうなのだ。」
うーむ、ユーリも知らないのか。
精霊様を除けば村の誰よりもこの森の事を知り尽くしているはずだけど、そのユーリが知らないとなると・・・。
「では何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わった事・・・そうですね、ここ数日の間に仕掛けておいた罠が外されていたことがありました。」
「罠が外された?」
「確かに何かがかかった跡はあるのですが、獲物は逃げ出した後なのです。」
「自分で逃げたのではないのか?」
「それも考えられますがその場合は罠は作動したままのはずです。」
ユーリの言う通りだ。
罠のかかりが浅く逃げたとしても作動した事実は変わらない。
にもかかわらず作動した罠が元に戻っていたのであればそれは外されたと考えていいだろう。
俺とシルビア様の見た影といい、この森には何かがいるので間違いなさそうだ。
「他に何かありませんか?」
「その他は特に・・・そうですね、しいて言えば今朝採れるはずの卵の数が少なかったことでしょうか。」
「卵が?」
「そう言えば今朝はシュウイチの分しかなかったな。」
「え!そうだったんですか?」
特に気にせず食べてたけど今思えば俺しか食べていなかったような・・・。
「産む数が少なかったんでしょうか。」
「それはあり得ません。あの子達はダンジョンから摂取した魔力をエサにして余剰分を卵として排出しています。与えている魔力に変わりがない以上数が減ることは考えられません。」
「あれは魔力の塊だったのか。」
「もちろん食べて害のないモノですので安心していただいて結構です。」
安心してくれと言われても・・・。
いや、明日からも食べるけどね。
「そうなるとそれも誰かが持って行ったことになるのか?」
「アームドチキンを襲わずに卵だけを持っていくとは考えにくいのですが、そうなるのでしょう。」
「ありがとうユーリ。」
「ではセレン様の手伝いに戻ります。」
「また何かわかったら教えてくれ。」
「かしこまりました。」
仕事に戻るユーリの背中を見つめながら先程の内容を復習する。
外された罠に無くなった卵か。
どう考えても関係性が無いんだよなぁ。
「何かわかったのか?」
「むしろ謎は深まったという所でしょうか。」
「エミリア達にも聞いてみるのはどうだ?もしかしたら同じような事が起こっているかもしれん。」
「そうですね。」
聞き込みは数が命、全員から聞いてみれば何かわかるかもしれない。
「ちなみにシルビアには何か気になることはありませんか?」
「そうだな、使おうと思っていた研石がいつもと違う場所にあった。」
「研石が?」
「てっきりシュウイチが使ったと思っていたのだが、どうだ?」
「いえ使っていません。」
「ならば思い当たるのはそれだろう。」
研石ねぇ。
場所が変わっていただけでなくなったわけではないと。
そのままエミリアとニケさんに話を聞きに行くと、二人にも思い当たる節がいくつかあるようだった。
「昨日なんですけど、倉庫の奥に入れておいたはずの魔石が手前に出されていました。イナバ様が出されただと思っていたのですが違ったんですね。」
「携帯食料用の食材がいくつか無くなっているようなんです。私もてっきりシュウイチさんが食べたのとばかり・・・。」
「魔石に食料か、ますますわからんな。」
あの、俺が食べたってところはスルーですか?
もちろんたべてませんよ!
「森で不審な影とかは見ていないんですよね?」
「みていません。あの、お化けとか何かですか?」
「二人で追いかけたが正体はわからなかった。実体がある以上そういった類の者ではないだろう。」
「よかった。」
「でも村でそんなことが起きているとはしりませんでした。」
「冒険者は何も言っていませんでしたか?」
「そんな噂はでていませんね。」
噂好きの冒険者も知らないとなると本当に村周辺の森の中でしか出ていないんだろう。
冒険者はわざわざ森の中に入ることはしない。
シルビアが見つけたのも本当に偶然だったのだろう。
「引き続きそれらしいことを言っている冒険者がいないか聞いてみてください。」
「わかりました。」
「戻るのか?」
「えぇ、実物を見た以上何もしないわけにはいきません。それに、ここで何かが起きているのであれば村でも同様の事が起きているのかも、聞いてみる価値はあると思います。」
「そうだな。」
「引き続きお付き合いください。」
「任せておけ。」
魔物かどうかもわからない以上シルビアに護衛してもらうのが一番だ。
ここは冒険者がいるし、いざとなったらダンジョンか地下に逃げ込む事も出来る。
一応警戒してもらうけどさっき聞いた程度の被害なら心配する必要はなさそうだ。
再び店を任せて村に戻る。
道中意識して森を見ていたが残念ながら再び出会うことはなかった。
「ただいま戻りました。」
「おぉ、兄ちゃん戻ったか。」
「変な影が目撃されているとか?」
「俺も見たぞ、まだ暗い明け方だったが何かが森の奥へと逃げていった。」
「逃げていった?森で見たのではないのか?」
「いや俺が見たのは村の中だ。ちょうどあの倉庫の裏あたりだな。」
ドリスがそう言って指さしたのは村北部の農具などを入れている倉庫だ。
「最近あの中を確認したか?」
「いいや、次にあそこを開けるのは冬が明けてからだ。」
「カギはどこに?」
「鍵なんてかかってないぞ。なんだよ、何かあったのか?」
「ちょっと。」
俺とシルビアの勘が正しければおそらくは・・・。
ドリスのおっさんが影を見たという倉庫に向かい扉を開ける。
するとそこは予想していた通りの状況だった。
「おいおい、だれだよこんな事したやつは!」
倉庫の中は農具が散乱しており足の踏み場がないような状況だった。
「中には何を入れていたんだ?」
「見てのとおり農具ばかりだよ、あとは作付用の麦ぐらいだが・・・まさか!」
農具をかき分けておっさんが倉庫の奥に進んでいく。
来年の春に使うために手入れをしてしまっていたはずの農具がこの状態だ。
まるで子供がわざとバラバラにしたような感じ。
手当たり次第に引っ掻き回したという感じではない。
「くそ!作付用の麦袋に穴が開いてやがる!だれだこんな悪戯をしたやつは!」
悪戯といえば聞こえはいいが、やっていることは悪質だ。
この麦がなければ来年の作付をすることはできない。
作付ができなければ納税することもできず村は大打撃だ。
自分の首を絞めるようなことをこの村の人がするだろうか。
いや、それはあり得ない。
俺の知っている人たちはこんなことをしない。
じゃあ誰が?
新しく入ってきた人たちか?
もちろんそれも違うだろう。
残る選択肢はただ一つだ。
「これは厄介なことになったな。」
「そうみたいですね。」
「おい、いったい誰がやったんだ!?」
「考えられるのはオッサンがみたっていうその影でしょうか。」
「あいつか!」
「商店でも小さいながら被害が出ている。もしかしたら村でも同様のことが起きているかもと思って聞きに来たのだが・・・これは全員から話を聞く必要があるな。」
全員、やっぱりそうなりますよね。
捜査の基本は聞き込みから。
そういったのは俺か。
ならばやるしかあるまい。
「ひとまずニッカさんたちの話を聞きに行きましょう。村のみんなからいろいろ聞いてくださっているはずです。」
「それとダンジョンの安全についてもな。」
「そうですね。」
あの影がダンジョンから出た魔物でないことを説明する必要もある。
いつまでも疑いの目を向けられるのは近隣企業として喜ばしくない。
ちゃんと説明して安心してもらわないと。
「もう少ししたらウェリスたちも戻ってくる、あいつらの話も聞いてやってくれ。」
えっと今日は家に帰れるんでしょうか。
なんて不安に駆られながら倉庫を離れたその直後。
散らばった農具の陰で何かが動いたことに俺達が気付くことはなかった。
悪戯にも限度っていう物がありますよね?
子供の可愛らしい物から大人の悪質なものまで、一言で悪戯と言っても色々な物があります。
今回はまだまだ可愛らしい物のようですがはてさてあれが犯人なのやら。
次回はそんな犯人を捜すべく聞き込み捜査に乗り出します!
ってそういう話じゃないんですよねどうもすみません。
一応そう言ったシーンもありますが、彼の本業は商店の店長です。
そっちも頑張ってもらいつつ村づくりも頑張っていただきつつ・・・。
いやはやいそがしですねぇ。
頑張ってください(おぃ
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願いいたします。




