イナバの上級ダンジョン:救出編
後ろではまだ戦いの音が聞こえる気がする。
後ろ髪ひかれる気持ちをグッとこらえ俺達は目的の階層へと到着した。
俺達の助けを信じて待っている人が居る。
その人のためにも早くたどり着かなければ。
「大部屋手前の細い通路の先、そう言ったわね。」
「恐らくですけど。」
「他の場所を探している時間は無いわよ。」
「分かっています。」
もし居なかったら。
可能性はゼロでは無いが今はそんな事を考えている暇は無い。
そこにいる。
そう信じるしかない。
「大部屋まではどのぐらいありますか?」
「地図によるとそんなに離れていませんね、今までの半分ぐらいでもう大部屋です。」
「そこにキマイラが居るのよね。」
「そことは限りません。もしかしたら通路をウロウロしているかも。」
「またそういうこと言って!本当になったらアンタのせいなんだからね!」
しまいに朝と夜が入れ替わるのも俺のせいだとか言われそうだ。
「こんな所で言い合いしている時間が勿体無いわ、急ぎましょう。」
「そうですね。」
リュカさんと俺のやり取りに見かねて他の三人はさっさと歩きだし・・・あれ?
先を行く背中はメルクリア女史とカムリのみ。
「バーグさん?」
後ろ振り返るとバーグさんが申し訳なさそうな顔をして俺達を見ていた。
虎顔でもこういう表情は分かるんだなぁ。
不思議だ。
「申し訳ありません、この先は皆さんでお願いできますか?」
「ちょっとなんでよ!」
「わかりました、こちらは何とかしますのでバーグさんはご自信の判断を信じてください。」
「ちょっと!」
「ありがとございます!」
大きくお辞儀をした後の顔はものすごく嬉しそうだった。
そんな顔されたら余計に引き止められないじゃないか。
斧を肩に担ぎ大急ぎで階段を駆け上がる背中に思わず笑みがこぼれる。
「アンタ、まさかこの四人だけでキマイラを倒そうって言うの?」
「倒せないんですか?」
「正確に言えば三人よ。彼は戦力にすらならないもの。」
「確かに。」
「あははは、どうもすみません。」
「三人でってどう考えても無理でしょ!」
無理かなぁ。
やり手の精霊師二人に騎士団長だぜ。
できそうじゃない?
まぁ俺戦わないけど。
「本音を言えば今あの方に抜けられるのは困りますが、部下達の事を考えると心強い援軍となるでしょう。」
「そうね。」
「上級冒険者として仲間を見捨てられなかったのかと、良い判断だと思います。」
「でも三人でキマイラを倒すのよ?あのキマイラよ?」
「カムリ騎士団長はもちろん戦った事があるんですよね?」
「ありませんが?」
え、ないの?
「メルクリアさんは?」
「あるわけないじゃない。」
「私もないわよ!あんな奴が外をウロウロしているなんて最悪じゃない!」
そっか、ないのか。
某ドラゴンズ〇グマだったら雑魚扱いされてるんだけど、やっぱりゲームの中だけか。
そうだよな、普通に考えてあのクラスの魔物がそこらに居たら困るよな。
「まぁ、精霊様が二人も居ますし何とかなりますよ。幸いこの階の魔物は狩り尽くされているそうですし。」
「でも大部屋から溢れた魔物はいるわけでしょ?」
「と、思います。」
「その魔物ももちろん私達が倒すのよね?」
「そうなりますね。」
「それの何処が大丈夫なのよ!」
まぁまぁリュカさん落ち着いて。
イライラしすぎるとお肌にも悪いって良いますし。
「騎士団随一の腕を持つ騎士団長カムリと噂の精霊師リュカさんがいるんですよ?それにシルフィー様も暴れたがっている御様子ですし、屋敷を破壊できるだけの力があるんですからキマイラぐらいどうって事ないですよね?」
「ちょっと、それは言わない約束で!」
「そういえば王女殿下暗殺を企てた犯人を捕まえたのも精霊師様だったとか。なるほど、貴女でしたか。これは心強いですねぇ。」
「あ、あははは・・・。」
痛いところを突かれて反論できなくなるリュカさん。
よし、これでこっちは大丈夫っと。
「まったく、エミリアのお願いじゃなかったらこんな男、さっさと魔物の前に放り出してやるのに。」
「それはさすがに勘弁願います。」
「手が足りないんだから邪魔するんじゃないわよ、あと自分の身ぐらい自分で守りなさい。」
「善処します。」
とりあえず後ろに隠れて行動しよう。
自分で出来る事といえばあとは背後の敵にも気を付けるぐらいしか出来る事がないんだよなぁ。
「ここにいても仕方ありません、行きましょう。」
カムリの言うとおりだ。
ここにいても事態は好転しない。
前進あるのみだ。
カムリを先頭にリュカさん俺メルクリア女史の順で奥へと向う。
予想通り魔物が出てくる事はなく、俺達はダンジョンの奥へと進んでいったのだけど・・・。
「・・・待ってください。」
もうすぐで目的の大部屋という通路の手前でカムリが足を止めた。
緊張感のある声に思わず息を呑む。
俺には何にも感じないんだけどカムリが緊張している事だけは分かった。
「いるわね。」
「どうやら向こうも私達に気がついている様子です。襲ってこない事を考えると、誘われてますね。」
「ただの魔物のくせして良い度胸じゃない。」
「ちょっと、目的の小道はまだなの?」
「この角を左に曲がってすぐですけど、キマイラもそこに?」
「おそらく通路から出てくるのを待ち構えている所だったのでしょう。」
つまりキマイラを避けないと目的の道には進めないということか。
まいったなぁ。
「どうしますか?」
「どうするも何も行くしかないでしょ。あいつをどうにかする為に来たんだから。」
「そうは言ってもあのキマイラよ?無策で行って大丈夫なの?」
「こう言ってるけど頭脳担当に何か策はあるのかしら?」
あ、頭脳担当でしたか。
まぁ戦力外よりはマシかな。
「相手の動きが分からない以上こちらに出来るのは全力で倒しに行くぐらいでしょうか。三つの部位は別々に動くんでしたよね?」
「そうよ。」
「となると最低三人でかからないとマズイわね。」
「幸いここにいるのは三人、対応できなくはありません。」
まぁそれがセオリーだよな。
それぞれがそれぞれの部位を相手にすることで隙を作らないようにする。
どれか一つでも破壊できればこっちのものだが、問題は途中で邪魔が入ったときだ。
精霊を頭数に加えれば何とかなるけど・・・。
「でもそれじゃ時間がかかりすぎるわ。」
「そうなんです。」
メルクリア女史もわかっておられましたか。
さすがです。
「どういうこと?」
「全員でかかれば勝算はあるけど、それじゃあ助けにいく時間が減ってしまう。今優先すべきは討伐ではなく救助なの。」
「その通りです。今この時にもガンドさん達は私達を待っています。」
「つまり別行動を取るという事ですね。」
「むこうの無事を確認出来次第すぐに戻ってきます。」
「まぁそれしかないでしょう。分かりましたこっちは何とかします。」
「ちょっとちょっと、私にもわかるように説明してよ!」
「キマイラはカムリとリュカさん、それとシルフィー様にお願いします。存分に暴れてもらってください。」
今は時間が惜しい。
倒すことは出来るだろうがその時間すらも惜しい。
もし二人が助からないのであれば諦めもつく。
だが、助かる可能性があるのならそれを優先したい。
それを理解しているからこそ別れる必要があるのだ。
「じゃあ、キマイラを二人で倒せって言うの?嘘でしょ?」
「私では一緒に戦うのに役不足でしょうか。もしそうであれば・・・。」
「不足だなんてとんでもない!も、もったいないぐらいです!」
リュカさんなんで敬語?
「お二人には無理をお願いしますがどうか宜しくお願いします。」
「ま、任せておきなさい!戻って来るまでにけちょんけちょんにしてやるんだから!」
「さすがリュカさんね、この頭でっかちとは大違い。」
「頭でっかちでどうもすみません。」
「遅れるんじゃないわよ。」
「もちろんです。」
そして探索にいくのが俺とメルクリア女史ということになる。
俺一人で行ければ良いんだが、残念ながら何も出来ない頭でっかちでして。
「仕方ないわね、エフリー出てきて。」
メルクリア女史の呼び出しに答えるように目の前の空間が真っ赤に燃え上がり、炎の魔人が姿を現した。
まるでランプの精のような見た目なのだが、どうしてランプの魔人風の皆様は見た目ムキムキなんでしょうか。
実体ないのに不思議だ。
「呼んだか?」
「私が別行動している間この二人に手を貸してあげて欲しいの。」
「お前はどうする。」
「私はこいつと別行動よ、大丈夫なんとかなるわ。」
「そうか。もし危険ならばすぐに私を呼べ、それまではここで力を尽くそう。」
「ごめんなさい。」
「謝ることは無い、全てはお前の為だ。」
なにこのイケメンいや、イケオジ精霊。
幼女とオッサンって言う見た目だけでもツボなのに主従関係までって。
ちょっと美味しすぎませんか?
「なによ。」
「いえ、精霊にも違いがあるんだなって思いまして。」
「リュカさんのところが特別なのよ。普通はもっと厳格なものだわ。」
「厳格、ですか。」
えっと、うちの二人はリュカさんのところよりもさらにフレンドリーなんですけど。
きっとあの二人が特別なんだな。
うん。
きっとそうだ。
だってうちは精霊『様』なんだしな。
「これでそっちは四人、なんとかなるでしょ。」
「そっか、そうよね!シルフィー!」
本日三度目ともなると感動もへったくれもないのだが、火と風の精霊が揃う姿はなかなか壮観だ。
「あれ、エフリーだ。久しぶり。」
「久しいな何時振りになるか。」
「さぁ、まぁそんな事どうでも良いよ。一緒に暴れてくれるの?」
「そういわれている。」
「エフリーの火と僕の風があれば敵無しだね!よーし、張り切っちゃうぞ!」
やる気満々のシルフィーなのだが、見た目は少女である。
オッサンと少女、これもまた絵になるなぁ。
よきかなよきかな。
「ではいきましょうか。」
大丈夫どころか戻ってくる頃には決着ついていそうだな。
それぐらいの安心感がある。
カムリに止められた道を進み、角を左に曲がったとき予想通りそいつは俺達を待ち構えていた。
獰猛な獅子の身体の上にあの何とも言えない瞳をした山羊の顔が見える。
尻尾の先はふさふさの毛ではなく蛇の顔が舌をイロチロさせながらこちらを見ていた。
予習通りの見た目ではあるが、あのサイクロプス以上に威圧がすごい。
あの時は入口から奥に行かなければ安全だったけど、ここは敵の目の前だ。
一歩間違えば俺の身体なんてすぐに食いちぎられてしまうだろう。
その証拠に、一番弱そうな俺を睨んでいる気がする。
怖い。
それしか言葉が出てこない。
「ビビってるんじゃないわよ。」
「そうは言われてもですね。」
「ここは私達にお任せを、引き寄せたらその隙に行ってください。」
「さっさと戻ってきなさいよね。」
「約束どおり大暴れするからこっちは任せといてよ。」
「主をよろしく頼む。」
「ちょっとエフリーそれはどういうことよ!」
「女を守るのが男の務めだ。」
なるほど。
そりゃそうだ。
「わかりました。」
「見た目どおりか弱い女だ、私が戻るまで頼んだぞ。」
火の精霊にまでそういわれちゃ守られてばかりも居られない。
何が出来るかわからないが頑張るしかないだろう。
お互いに手を出せないまま膠着状態が続く。
俺が一歩進むたびに蛇が威嚇してくるし、山羊は良くわからない叫び声をあげる。
たしか山羊の叫び声には催眠作用があるんだっけ?
あんまり聞いていたくない声だ。
一歩、また一歩、威嚇に負けずに進んでいるととうとう痺れを切らした獅子の顔が大きく吼えた。
「ゴガァ!」
「今です!」
それを合図に全員で一斉にキマイラへと襲い掛かる。
シルフィーが目に見えない風を飛ばし、エフリーの放った炎が足元から燃え上がる。
たじろいだ隙にカムリが目にも止まらぬ速さで近づき、獅子の顔に鋭い突きを繰り出す。
「思ったよりも硬いですね。」
だが刺さった刃は思ったよりも浅く、動きの止まった所を狙って蛇の身体が猛然と襲い掛かった。
「させないわよ!」
が、そんな事を許すはずもなく、リュカさんの風の刃が蛇の身体を切り裂かんと襲い掛かったが硬い鱗に阻まれ傷一つ付く事はなかった。
「今のうちに!」
「はい!」
獅子の歯を紙一重で避けながらカムリが俺達に指示を出す。
この機を逃すわけには行かない。
「炎よ!」
メルクリア女史が出した炎の壁を障壁にして一気に細い通路へと滑り込んだ。
後ろでは再び激しい戦いの音が聞こえてくる。
この短時間で二度も背中で聞くことになるなんて。
自分の力不足に悔しさがこみ上げてくる。
「後悔している暇があったら走りなさい。」
「そうですね。」
「目の前の敵は何とかするけど、焼き殺すまでは行かないからそのつもりで。」
「それで十分です。」
俺達に託されたのは二人を見つけること。
後ろで戦うみんなの為にも一歩でも前に足を進めなければ。
メルクリア女史の背中を追いかけながら俺達は細い道を進み続けた。
のだが、そう簡単に物事が進むはずもなく。
「もう邪魔!」
細い道を塞ぐほどに魔物がひしめき、俺達の行く手を阻んでいた。
一匹また一匹と焼かれていくものの数が多く思うように進まない。
他の道と違いすれ違う事が難しく、どうしても処理しながらでなければ進めないのだ。
「一匹行ったわよ!」
「はい!」
焼ききれなかった魔物がメルクリア女史に蹴り飛ばされ俺の目の前に転がってくる。
俺に出来るのはそれを避けるか蹴飛ばすか、若しくは刺し殺すかぐらいだ。
「ギャァァ!」
断末魔の悲鳴が耳に残る。
手が血に染まるのを気にしている余裕もない。
焼きが甘くまだ元気な魔物が居ない事だけが救いだった。
もし居たら俺に倒す力は無い。
こんな時鍛えておけばなんて後悔をする暇も無い。
「右左どっち!」
「次は右です!」
「あーもう、弱いくせに数ばっかり増えて!使えない部下みたいじゃない!」
「どうもすみません!」
「貴方のことじゃないわよ!」
あ、俺じゃないんだ。
よかったよかった。
って今は安心している場合じゃない。
「こんな時エフリーが居れば・・・。」
「一緒じゃないとやっぱり火力が下がるんですね。」
「分離したら向こうの魔力のほうが多いから仕方ないのよ。」
「なるほど。」
「べっ別に小さいからじゃないんだからね!」
「何も言ってませんよ!」
背が低い事を気にしているんだろうか。
種族的に仕方ない物があると思うんだが。
あ、もしかして胸?
「っとぉ!」
突然俺の目の前が真っ赤に燃え上がり、俺は倒れこむようにしてそれを避ける。
顔を上げると鬼の形相をしたメルクリア女史がこちらを睨んでいた。
「今非常に不快な感じがしたんだけど?」
「濡れ衣です!」
「そう、ならいいんだけど。」
「そんな事で私を焼かないでくださいよ。」
「そんな事?そんな事ってどんな事かしら。」
やば、墓穴を掘った!
「背の話じゃないんですか!?」
「仕方ないじゃないホビルトなんだから!」
「だからそれは分かっていますって!」
あっぶねぇ。
死ぬところだった。
こんな所で焼き殺されるとか勘弁して欲しい。
焼くのは魔物だけでお願いしますよメルクリアさん!
「ねぇ、あそこ!」
順調に魔物を焼きながら進んでいると突然前の道がなくなっていた。
いや、無くなったのではなく壁がせり出して通れなくなっているんだ。
壁の下には大人が四つんばいで何とか通れるぐらいの穴が開いている。
「どうやらこの先が目的の部屋のようです。」
「でも、このままは無理そうね。」
さすがのメルクリア女史でも立ったままでは無理なようだ。
となると四つんばいになるんだが・・・。
「私が先に行きます。」
「ちょっと、どういう風の吹き回し?この先に魔物が居たらどうするのよ。」
俺の意図が伝わらず拒否されてしまった。
ちがうんです、わかってください。
「魔物が居たら何とかします。」
「何とかしますって貴方ねぇ。」
「失礼ながら申し上げますが、今日の服装ではさすがにちょっと・・・。」
ハッとした顔をしてメルクリア女史が自分の服を確認する。
いつものパンツスーツ姿なら何も言わない。
だが、今日に限ってなぜかワンピースなのだ。
勝負服なのかもしれないが、その格好で前を行かれると不測の事態が起きない保証は無い。
いや、見るつもりは無いですよ?
でも見えたときの事を考えるとあまりにもリスクが多すぎる。
「し、仕方ないじゃない!」
「ですので私が行きますと言っているんです。」
「じゃあさっさと行きなさいよ!」
逆ギレである。
全くうちの上司ときたら・・・。
場所を変わり、膝を付いて穴の中に顔をつっこむ。
見た感じ敵影なし。
さすがにこの狭さを入ってくる魔物は居なかったか。
なら二人が無事な可能性も高い。
匍匐前進の要領で少しずつ穴の中を進み、肩を出した所で一気に自分の身体を引っ張りだす。
よし、抜けた!
土を払いさぁ二人のところにと顔を上げたその時、俺の目に飛び込んできたのは血まみれのガンドさんとジルさん。
そして今にも二人の息の根を止めんと襲い掛かろうとする魔物の姿だった。
はい、予想以上に長くなってしまったのでキリの良いところで切ってしまいました。
このまま書き進めると1万文字を軽く越えてしまいそうだったので。
申し訳ありません。
次回救出からのキマイラ殲滅戦の予定です。
短いですが今回はこの辺で。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
また次回もよろしくお願いいたします。




