助けに行こう
可能性がある以上やる事は一つ。
それで出来ないのであれば他の可能性を探るまでだ。
「貴重な情報ありがとうございました。」
俺は深々とお辞儀をするとクルリと回れ右をして出口へと向う。
「どうしたのよ急に。」
「ダンジョン産の魔石に可能性があるのならそれにかけようと思いまして。うちのような人工ダンジョンではなく天然のダンジョンでこれほど条件の良い場所にあるのは今のダンジョンだけですからね。」
「取りに行かれるんですね。」
「取りに行くといいますかお願いに行くといいますか、御存知の通り武芸はからっきしでして。」
噂話だけではすごい人みたいになっているけれど実際はただのサラリーマンだ。
この世界に来た当初よりかは強くなっているかもしれないけれど、それでも弱い事に変わりは無い。
中級冒険者でも苦戦するような場所に行けば一瞬にして死んでしまうだろう。
セーブも蘇生もリトライもないこの世界でそんな危険を冒すことなど出来るはずがない。
「なんだ、私の大発見には興味ないのか。」
「それはイラーナさんに祝ってもらってください。お子さんが出てくるまでの約束、果たせたじゃありませんか。」
「む、そういえばそうだな。」
「お祝いは改めて、では失礼します!」
まずは情報収集だ、ダンジョンがどれぐらい攻略されていて誰が潜っているのか。
そして魔石がいくらで取引されているのか。
ニケさんと共に急ぎ足で石塔をぬけ世界樹の回廊を進む。
「何とかなるかもしれませんね。」
「そうですね、フェリス様の当てが外れた時はどうしようかと思いましたが何とかなるものです。」
「これから冒険者ギルドに?」
「その予定です。ティナさんにお願いしてダンジョンの状況を確認しようと思います。」
「お手伝い出来る事があれば何でも言ってくださいね。」
「もちろんです。」
今日は時間との戦いだ。
人出は多いにこしたことは無い。
エントランスを抜け外に出ようとしたそのときだった。
「なんだい、折角来たのに挨拶もなしかい。」
後ろから聞き覚えのある声がする。
振り向くとそこには呆れ顔のフェリス様が立っていた。
あれ?来客中じゃなかったっけ?
「申し訳ありません、来客中と聞きましたので。」
「来客中?あぁ、入口に鍵をかけておいたからねリュカがそう言ったのかい?」
「そうです。」
「一声かけるようにいつも言っているんだけど、あの子なりに気を使ったんだろうね。それで今日は何の用だい?」
「お聞きしたいことがあったのですが、お留守の間にミド博士の所に伺いそちらで解決できました。」
「おや、坊やの所で答えを見つけたのかい。」
なんだろう、まるで俺の質問を知っているかのような言い方だ。
まさかな。
「ミド博士ではなくイラーナさんですけど。」
「坊やには勿体無いぐらいの子だよまったく。まぁいいさ、答えが見つかったのならそれで構わないよ。坊やはどうしてんだい?」
「実験に成功し大発見をしたと大騒ぎです。」
「あの子の実験が成功するなんて何時ぶりだろうね。仕方ない、労いぐらいしてやろうじゃないか。」
「あはは、喜ぶとおもいますよ。」
普段からけちょんけちょんに言われているんだ、たまには褒めてもらっても良いだろう。
「急いでいるのに邪魔して悪かったね。」
「いえ、挨拶も出来ず申し訳ありませんでした。」
「エミリアにもよろしく伝えておくれ、それとフィフィにもたまには顔を出すように言い聞かせておくれ。」
「直属の上司に言い聞かせるのはちょっと・・・。」
「私のほうがもっと偉いんだから別に良いんだよ、それじゃ頼んだよ!」
返事を聞くこともせずフェリス様は俺達の来た方向へと行ってしまった。
しまったな、これだけは聞こうと思ってたことがあったんだけど・・・。
まぁ次回で良いか。
「行きましょうか。」
「はい!」
今大切なのは冒険者ギルドに行く事だ。
リュカさんの居ない入口を抜け、俺達はサンサトローズへと戻った。
そして、その足で冒険者ギルドへと急ぐ。
いつものように冒険者の出入りが激しいギルドだが、今日は少し雰囲気が違っていた。
なんだろうピリピリとした感じだ。
「どうしたんでしょうか。」
ニケさんも同じ事を思ったのか不安そうに冒険者の出入りを見ている。
「行けばわかりますよ。」
「そう、ですよね。聞かないと分かりませんもんね。」
その通り。
遠巻きに見ていたからといって情報が入ってくるわけではない。
虎穴に入らずんば虎児を得ずってね。
もっとも、あそこに入ったからといって食べられるわけでは無いので何も心配要らないけど。
「おぃ、イナバさんが来たぞ!」
「本当だ!」
「まさかもう話しを聞きつけたのか?」
「嘘だろ、情報を持って帰ったのはついさっきだぞ。」
「馬鹿だな、イナバさんにはなんでもお見通しなんだよ。」
全部まるっとお見通しだ!
なんてキメ台詞があった気がするけど今はどうでもいい。
なんだかいつもと違う事になっているのは間違いないようだな。
入口でたむろしている冒険者の横を通り過ぎ、彼らの挨拶に返事をしながら中に入る。
そこは、いつものギルドではなかった。
なんていうか、戦場だった。
「痛てぇ、痛てぇよぉ。」
「動くな傷に障る。」
「今すぐ教会に行けば何とかなるかも・・・。」
「馬鹿、あいつらが俺らみたいな冒険者を助けるかよ。」
「ポーション持って来て!怪我の浅い人は壁際で待機!」
「業務は一時中断します、ダンジョン関係の冒険者以外は外に出てください!」
血まみれの冒険者多数。
ギルドの中はむせ返るような血の臭いで満ちていた。
昔の俺だったら間違いなく吐いてたやつだわ、これ。
「ニケさんは外にいますか?」
「大丈夫です。」
「では行きましょう。」
女性のほうがこういうとき強いよな。
冒険者を掻き分けながらカウンター付近まで進むと、見たことのある顔が忙しそうに働いていた。
「ティナさん、一体何があったんですか?」
「イナバ様ちょうどいい所に!」
ちょうど良いところ?
「どうしました?」
「怪我人が多数出て我々の手に負えません、教会へ行き癒し手を呼んできてもらえませんでしょうか。」
「分かりました。」
「来て早々申し訳ありません宜しくお願いします。そこ、場所開けて!」
事態はかなり逼迫しているようだ。
「ニケさんはここでティナさんの手伝いを、すぐ戻ります。」
「わかりました。」
人出は多い方が良い。
ティナさんが俺を遣いっ走りに使うという事はよっぽどの状態ということだ。
俺にしか出来ない事。
それを成し遂げる為に俺は教会へ向かうべくギルドを飛び出した。
と、同時に。
「騎士団に行き医療品を出すようお願いしてきてください、私とシルビアの名前を出せば用立てしてくれます!」
「わかりました!」
近くにいた冒険者に騎士団の助力を得るようお願いする。
昔の騎士団とギルドの関係なら絶対に手を貸してくれることは無いが、今なら大丈夫だ。
大丈夫だとは思うが俺とシルビアの名前を出せばイヤでも手を貸してくれることだろう。
そのまま噴水広場まで抜け、教会のドアを叩く。
ちょうど昼の中休みを知らせる鐘がサンサトローズ中に響き渡った。
「すみません、緊急事態なんです!」
返事も待たずに俺はドアを開け中に飛び込んだ。
「何ですか騒々しい、ここは神聖な場ですよ!」
様子を見に来た修道女が文句を言いながら俺を睨みつける。
「冒険者に多数の負傷者が出ています、ポーションでは間に合わずこのままでは手が付けられない可能性があります。癒し手の方を手配してくださいませんでしょうか。」
「今はお祈りの時間です、また終わってから来なさい。」
冒険者などどうでも良いような顔で修道女は俺を追い返えそうとする。
お祈りの時間だ?
人の命よりも大切な物があるかよ!
「では今すぐラナス様にお取次ぎを!シュリアン商店のイナバ=シュウイチが来たといえばお分かりになるはずです!」
「貴方、どこでラナス様のお名前を!」
「いいから早く!」
こんな所でいらないやり取りをしている暇は無い。
ティナさんが俺を遣いに出した理由はただ一つ。
冒険者なら今のように追い出されてしまうからだ。
冒険者を見下しているわけではないが、教会はそれ相応のお布施がないと動いてくれないと昔ジルさんとガンドさんが揉めていたのを覚えている。
だから教会にも顔が利く俺に助けを呼んでくるようお願いしたんだろう。
俺ならば今のように言われても切り返す事ができる。
「何ですか騒々しい。」
ほら、こんな感じで。
「ラナス様、申し訳ありませんすぐに追い出します。」
「追い出す必要などありません、イナバ様ようこそ当教会にお越しくださいました。」
奥から数人の修道女を引き連れて出てきたのは、先日ププト様の所でお会いしたラナス様だった。
修道女でありながら王都の教会にも顔が利く陰の実力者。
そんな風にジルさんは言ってたっけ。
「お祈りの最中にお邪魔して申し訳ございませんラナス様。大至急教会のお力をお借りしたいのです。」
「教会はどんな人にも手を差し伸べます、それが例え冒険者であっても例外ではありません。」
「聞こえておりましたか。」
「すぐに癒し手を手配しなさい。主は祈りよりも救いの手に皆の信仰を感じることでしょう。」
「ですが・・・。」
「お布施などこの方のなさったことに比べれば小さいものです。貴女はそんなものに拘るのですか?」
「し、失礼しました!」
俺を追い返そうとした修道女が怯えたように身を縮める。
「御助力感謝いたします。」
「これぐらい先日のお礼に比べれば小さなものです。保護施設の件、順調に進んでおりますよ。」
「それは良かった!」
「またお知恵をお借りすることもあるかもしれません、その時はどうぞ宜しくお願いします。」
「もちろんです。」
そんな事で冒険者の命が助かるのならば安いものだ。
「準備が出来次第癒し手を数人派遣いたします、それまで何とか持ちこたえてください。」
「ありがとうございます!」
癒しての手配は出来たすぐにギルドに戻るとしよう。
「そうだイナバ様。」
「どうされました?」
「教会所属のジルは御存知ですよね?」
「ジルさんですか?」
知っているも何もいつもお世話になっている。
最近はガンドさんと一緒に居るはずだけど・・・。
まさかお怒りとか?
「もし彼女に会うことがありましたら伝えてくださいませんか、『好きにしなさい』と。」
「わかりましたお伝えいたします。」
「ありがとうございます。」
どういう意味なのかは分からないがギルドにいれば会うこともあるだろう。
それよりも今はギルドに戻らねば。
ラナスさんに頭を下げ俺は急ぎギルドへと戻った。
道中慌てた様子の騎士団員に追い抜かれる。
早速人をよこしてくれたんだろうな、ありがたい話しだ。
「ただいま戻りました!」
「おかえりなさい。」
「手配は出来ました、準備が出来次第来てくださるとの事です。」
「「「おぉ!!」」」
冒険者達から歓声が上がる。
「聞きましたか、癒し手はきますだから今しばらく辛抱してください!」
「冒険者はこんな傷で弱音を吐くのか?」
「うるせぇ、なんならお前もなって見やがれ!」
騎士団員の手当てを受けながらも文句を言う冒険者。
これも彼らなりの感謝の表れなんだろう。
「危ない人も居ましたが、癒し手の方が来てくださるのであれば大丈夫でしょう。」
「一体何があったんですか?」
頬についた血をぬぐいながらティナさんが安堵の息をつく。
どう考えても普通の状況じゃない。
今のダンジョンは上級冒険者でないと入れないはずだ。
つまりは今ここで怪我を負っていのは全員上級冒険者ということに成る。
上級冒険者はかなりの手錬れのはず。
それがこの人数怪我するって、どう考えてもおかしい。
「新しく見つかったダンジョンは御存知ですよね?」
「現在上級冒険者が攻略中だと聞いています。」
「そこで先程大規模な戦闘が行なわれました。正確には昨日の夜、なんですけど。結果はご覧の通り、冒険者に多数の怪我人が出て失敗。怪我人を逃がすためにガンドさんとジルさんが殿となって冒険者を逃がしてくださったんですが未だ戻ってきません。」
「そんな・・・!」
話しを聞いていたニケさんが口に手を当てて絶句している。
俺も同じだ。
言葉も出ない。
まさか、あのガンドさんとジルさんが。
「兄貴と姐さんは俺達を逃がす為に大部屋に残ったんだ。」
比較的怪我の浅い冒険者がよろよろと歩きながら近づいてくる。
金属製の鎧には深い爪痕が刻まれている。
もしこの鎧がなかったら・・・。
どうなっていたかは想像に容易い。
「何があったのか詳しく教えてもらえますか?」
「ダンジョンを進んでいると大きな部屋がある事が分かったんだ。そこには多くの魔物がいて、そこを通らないと下の階層にもいけそうにない。状況から見てそこが最下層への最後の部屋だろうって話しになって潜っていた全員を集めて一斉に攻め込む事にしたんだ。最初こそ順調に魔物を駆逐してそれぞれが上手い事助け合っていけてたんだ。だが、最悪の奴が出てきやがった。」
「最悪の奴?」
「キマイラです。」
「キマイラって、まさか人工的に作られた魔物ですか?」
「いえ、ダンジョンの魔力の影響を受けて生み出された魔獣です。」
あぁ、合成獣じゃないほうね。
「獅子の顔に山羊の体それに蛇の尻尾を持つ魔獣・・・。」
「そいつが出てきた途端に戦線は一気に崩れた。一人また一人と吹き飛ばされて、総崩れになる前に兄貴が逃げるように叫んだんだ。俺は怖くて最初の方に逃げたんだが、振り返ると兄貴と姐さんがあいつと向かい合って時間を稼いでくれていた。残りの奴等から聞いたのは最後の一人を逃がす為に部屋中の魔物と遣り合ってたってことだけだ。」
「そんな、今すぐ救援を!」
「救援を出したくてもあそこに潜れるような上級冒険者はこの有様なんです。」
マジかよ。
いくらあの二人でも大勢の魔物を相手にするのはさすがに無理だ。
通路に逃げ込んでいたら何とかなるかもしれないけれど、それでも半日は戦っている計算になる。
このままじゃどう考えてもまずい。
「他の上級冒険者に、いえ騎士団に連絡は?」
「先程怪我人が戻ってきたばっかりで、連絡はしていますがまだ返事はありません。」
「他の冒険者はいないんですか?」
「中級冒険者は居ますが、上級となると他の地域に出ている人ぐらいしか・・・。」
ダンジョン攻略は実入りが良い。
近くにそんな場所があるのに他の場所に行くのはよっぽどの理由がある人ぐらいだろう。
どうする。
どうやって助ける。
世話になったんだ、見殺しになんて出来ないぞ。
考えろ。
「ダンジョンの地図は出来ていますか?」
「それはありますが・・・。」
「見せてください。」
ギルドの人が急ぎ裏に入りすぐに大きな紙を持って戻ってきた。
「これが今攻略中の階層です。」
右上に書いてある数字が恐らく階層だろう。
13と書いてある。
地図をみると一本の太い道とそこから枝のように小さな道が伸びていくつかの小部屋に繋がっていた。
太い道の一番奥が問題の大部屋という奴だろう。
恐らくそこから後退するような形で戦っているに違いない。
問題は何処で戦っているかという事だ。
太い道では数に押されるから恐らく細い道のほうに逃げてると思うんだけど・・・。
気になったのは大部屋近くの細長い道。
何度も曲がりくねってかなり奥まで行ってはじめて小さな小部屋につながっている。
「ここ、この部屋には何がありました?」
「随分と歩かされたんで期待したんですけど、何の変哲もない小さな部屋ですよ。」
「狭いですか?」
「五人も入れば窮屈ですね、それに途中の道がかなり狭くて一人通るのがやっとです。」
それだ!
人一人がやっとという事は大型の魔物は入って来れない。
「二人はこの部屋を知っていますか?」
「全員で休憩所に使っていたんで多少物資も・・・そうか!」
「おそらく二人はココに篭城して戦っていると思います。キマイラほどの大型の獣は通れないでしょうから小型の魔物を倒しながらやり過ごしているはず。」
「今ならまだ助かる?」
「確証はありません。でも、あの二人ならそうすると思うんです。」
仲間の為に死ぬような人じゃない。
生きるなら何としてでも生き抜くような人だ。
諦めるはずがない。
「ティナさんまだ可能性はあります、助けましょう。」
「でもどうやって・・・。」
「まずは人、それに物資です。転送装置がない以上人力で現地まで行き救援するしかありません。幸い道中の魔物は駆逐されてほぼ出てこない状態、中級冒険者を集め現場近くまで行き目的の階層に入ったら二人が居るであろう場所まで救助に行きます。」
「でもそこで魔物に出会ったら、キマイラだって倒されていないかもしれません。中級冒険者じゃ束になってもかないませんよ。」
そうだった。
目的の階層に到着してもそこは上級冒険者が苦労するような場所。
それを倒せるだけの力量がなければ近づくことすら出来ない。
「連絡の付いていない上級冒険者に至急連絡をして・・・。」
「それだと時間がかかりすぎます。」
「イナバ様、奥様方をお呼びすれば・・・。」
「ここに来るための馬は私達が使っています、それに今日は定期便の日じゃないんです。」
「そうでした・・・。」
援軍は期待できない。
上級冒険者も期待は出来ない。
くそ、こんな時に何も出来ないのか!
諦めかけたそのときだった。
「その役目、私では役不足ですか?」
助っ人は遅れてやってくる。
しかもそれがイケメンだった場合、微妙な気持ちになるのは俺だけだろうか。
今はそんな事はどうでもいい。
心強い助っ人の登場に俺は次の一手を考え始めた。
助っ人登場しました。
誰かって?
キザなイケメンです。
話は突然動き出しまして、ダンジョンに潜るようです。
ダンジョンの店長なんだから潜るのは当たり前だろと思ったそこのあなた!
はじめましてですね?
よろしければ最初から読んで見ませんか?
なんて宣伝はこの辺にして。
どうやって二人を助けるのかはまた次回ということで。
頑張って書きますのでどうぞお付き合いいただければと思います。
結構楽しく書かせてもらっています。
たまにはこういう話も必要ですよね。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
また次回もよろしくお願いいたします。
ブックマーク評価ありがとうございます。
もしよろしければ評価感想などもお待ちしております。
いただけますと作者が小躍りして喜びます。
宜しくお願いいたします。




