専門家に聞いてみよう
歓迎の宴は非常に楽しい時間だった。
ニッカさんの挨拶に始まり、オッサンからの状況説明にウェリスによる仕事内容の伝達。
そしてシュリアン商店の人間という前置きの元、俺とシルビアの挨拶が行なわれた。
あくまでもこの村の長はニッカさんであり、実行部隊はドリスとウェリスの二人だ。
俺とシルビアはいわば外部役員のようなものである。
権力は無いが、いざという時に助言や手助けをする人間。
今後この村を担うのは私ではなく新しく入ってきた皆さんだという事をしっかり理解していただけただろう。
俺の話しを聞いて最初こそ戸惑っていた入植者も、今は村の一員としてやる気に満ち足りているはずだ。
おっと、もう入植者なんて呼ぶ事は無いよな。
立派な村の一員だ。
最初こそ堅苦しい挨拶があったが、酒が入れば無礼講。
男連中は酒の席で仲良くなり、女連中は食事を作りながら愚痴を言ったり情報交換をしたりしている。
この村は男衆と女衆でしっかり別れているので、それぞれのトップが上手く取りまとめてくれる事だろう。
今回新しく増えた住民は総勢24名。
内訳は男性14名、女性10名、子供4名となっている。
うち夫婦なのは7組で、独身男性が7人独身女性が3人という感じだ。
当初は20名を予定していたので若干多いが、子供は数に含めないということにしておこう。
「イナバ様こっちに来てくださいよ!」
「暗殺事件の話し聞かせてください!」
ってな感じでそこらから声をかけられて、その度に酒を振舞われる。
途中あまりのペースに気持ちが悪くなり一時戦線離脱したのは内緒だ。
え、その後どうしたのかって?
根性で耐えましたとも。
リバースすれば楽になるけど、折角飲んだものを出すのは勿体無い。
他のみんなは井戸端会議に花を咲かせていたようだ。
どんな話しをしていたのかは怖くて聞けていない。
自分から聞きに行って墓穴を掘るような事は素人のやることだ。
俺ぐらいになるとこういった状況も華麗に回避できるのだろ。
それでも宴はいつか終わるもので、翌日の事を考えて早めのお開きとなった。
そして翌日。
俺は若干の二日酔いを抱えたまま店頭に立っているというわけだ。
「シュウイチさん大丈夫ですか?」
「なんとか。薬は飲みましたのでお昼には直ると思います。」
「お客さんも少ないですし裏で休んでても良いですよ?」
「いえいえ、折角きてくださっているんですからしっかり相手をしないと。」
「そう思うのならば余計に休んでいてください。しんどそうな顔でお相手する方が失礼です。」
確かにそうなんだけどさぁ・・・。
ダンジョンの魔力がなくなって二日。
昨日もあまり冒険者は来ず、今の所魔力の均衡は取れている状況だ。
それに加えてディーちゃんが頑張って魔力を溜めて持って来てくれている。
焼け石に水の状態だけど、無いよりかは幾分かましだろう。
エミリアとシルビアももちろん朝一にダンジョンを通過してもらっている。
え、俺?
足しにもならないので行っていません。
一円に笑う物は一円に泣く?
一円以下の魔力なんてあってもなくても一緒なんですよ。
「ただいま戻った。」
「お帰りなさいシルビア。」
「シルビア様お帰りなさい。」
「こっちは相変らずのようだな。」
「今日は朝から5人の冒険者が来てくださいました。お久しぶりの顔もありましたので全く変化が無いわけではありません。」
「だが昼まででその人数だと、秋の四分の一という所か。」
最盛期の人数で考えればもっと少ないだろう。
平均して20~30人の冒険者が来てくれれば商売としても魔力としてもそれなりに数字を残す事ができる。
だが現状はそれに遠く及ばない。
「新しい住民の皆さんはいかがですか?」
「それなりに仲良くやっているようだ。男衆は朝から水路の工事に行っているし、女衆は洗濯や食事などの日常生活について色々と世話を焼いている。ティオなんかは同年代の子供が増えて大喜びだ。」
「一気に子供増えましたからねぇ。」
「まだまだ大人に混じるほどの体力は無いが、遊びを通じて体力も鍛えられてくるだろう。」
「森に出て迷子になられても困りますから一度その辺りをしっかりと教えておく方がいいかもしれません。」
「確かにそうだな。元の子供達にとっては庭みたいなものだが新しい子らからすれば未知の世界だ。魔物が出た時の対処も教えておくべきだろう。」
村に学校というものは無い。
各家庭が独自に子育てをしているのだが、共通の認識として学んでおかなければいけないことも多い。
その辺は手の空いた大人が率先して教えるべきなのだが・・・。
「森のこととなれば私が適任でしょう。大丈夫です、二日もあれば立派に森を歩けるように育ててみせます。」
横からすっと現れたユーリが自信満々の顔をしている。
確かに一番適任かもしれないけどさぁ。
「別に隅から隅まで覚えさせる必要は無いんですよ?」
「何を仰います。遭難時に必要な水場、逃げ込むべき洞穴。魔物の頻出場所や目印など森で生きる為に覚えなければならない事は沢山あります。自分の命は自分で守る。それこそが今の子供達に必要な事なのです。」
「うーむユーリの言い分には一理あるな。」
「シルビアまで!」
「まぁまぁ、何も無いのが一番ですしユーリ様にお願いしてみてはいかがですか?」
ニケさんまでもがユーリの味方のようだ。
確かに命を守る為には必要な事だというのもわかる。
子供達にとって遊び場といえば森しかない。
魔物という危険がなくなる事はないのでそれを知っていると知っていないとでは全然違ってくるだろう。
「皆がそういうんでしたら私からニッカさんに進言しておきます。」
「ありがとうございますご主人様。」
「ただし、必要以上の事は教えなくても大丈夫です。間違っても罠の張り方や獲物の狩り方などは教えないように!」
「獲物を狩れれば食卓が潤いますが。」
「誤射すれば仲間の命を危険に晒すことにもなります。まずは自分の身を守ることから教えて、それ以上が必要になった若しくは教えて欲しいと頼まれた場合のみ伝授してあげてください。」
「確かにご主人様のいうことにも一理あります、なるほど理解しました。」
森で生きていくには必要なスキルだとは思うが罠の張り方は別にいらないよね。
「仕事に慣れてこられたら一気に村が大きくなりますね。」
「そうですね、水路が順調に行けば宿の建築にも取り掛かります。春までに両方完成すれば万々歳です。」
「そしてそれまでにダンジョンが戻っていれば、ですね。」
「そこなんですよねぇ。」
冒険者が来ない事には魔力は増えない。
だが、増えた冒険者に対処できるほど魔物を召喚する余裕は無い。
どこかで大量の魔力を補充しない事には何時までもジリ貧だ。
「ユーリ、魔力の補充は冒険者からでなとダメなのか?」
「一番効率的なのが冒険者を吸収した時になります。次に冒険者が入口を通過した時ですね。」
「精霊様から戴いているように魔力の塊ではダメなのか?」
「ダメではありませんが塊を分解する際に無駄が多く出てしまいます。大量かつ同時に魔力の塊を回収できれば一番ですが、それだけの量を準備するのは中々難しいでしょう。」
「それに安くありません。」
財務担当エミリアの言うように魔石は安くない。
横流し事件の時はかなり格安で仕入れさせてもらったが、実際ダンジョンを運営するだけの魔力の塊となると一回で破産してしまうほどの金額が必要になる。
それで一節もつのであれば考えなくも無いが、金額に見合うほど変換効率は良くない。
「そもそもそれだけの魔石を準備する事自体が難しい状況です。あの一件以来取引もかなり厳しくなったようですよ。」
「噂ではかなりの人間が関わっていたと聞く。国家事業での不正などあってはならんことだからな。」
「大量の魔石を仕入れる事を考えれば、冒険者に来ていただくほうが何倍も早いかとおもうのですが。」
「ユーリは簡単に言いますが冒険者に来てもらうのも中々大変なんです。」
ただ呼んだからといってきてもらえるものではない。
この前のように企画をしっかりと考えて、下準備をして、それではじめて冒険者を迎えることが出来る。
あの企画も準備に時間かかったし、それに前回からそんなに日が経っていない。
協賛品を集めようにもつい先日フリーマーケットで集めたばかりだ。
そんなにすぐには集まらないだろう。
「ならばどうすれば良いのです。」
「それを考えているんじゃないですか。」
「私にもっと知識があれば何か思いついたんでしょうけど、ごめんなさい。」
「エミリアは何も悪くありませんよ。」
もちろん魔力を吸ってしまったあの子も悪くない。
「メルクリアさんも知らないといっていましたね。」
「昨日お話ししたときはそう仰っていました。」
「メルクリア殿でも知らないのか。」
そっかぁ、困ったなぁ。
「魔術師ギルドに聞いてみるのはいかがですか?」
「ギルドに、ですか?」
「私達が知らなくてもフェリス様でしたら何か知っている
かもしれません。」
なるほど。
餅は餅屋、魔力は魔術師ギルドか。
神様の知り合いが居るぐらいだしあの人なら何か知っているかもしれない。
「聞いてみましょうか?」
「いえ、直接行きます。」
ちょうどフェリス様の耳に入れたい事もある。
これをネタにしてあわよくば魔石を入手したい所だが・・・。
さすがにそれは虫が良すぎるか。
「なんだ、またシュウイチだけで行くのか。」
またってそんな言い方しなくても。
確かに俺一人で行くといつもへんな事になるから心配なのは分かるけどさぁ。
それなら誰か一緒に来る?
店は一人いれば回るだろうし宿の方もセレンさんがいるから後一人居れば大丈夫だ。
念の為混む事を考えて後一人は残るとして・・・。
一人は一緒に来れるかな。
「でしたら後一人一緒に来てもらって・・・。」
「「「「行きます!」」」」
四人の声が綺麗にそろう。
いや、一人だけなんですけど。
「魔術師ギルドに行くなら私が必要ですよ。」
まず最初に名乗りをあげたのはエミリアだ。
「ギルドの入口はご主人様だけでも開ける事ができます、ダンジョンの詳細に付いても話さなければなりませんしここは私が適任かと。」
エミリアのメリットを封殺しつつ独自色を展開するユーリ。
「昨日の罪人を騎士団に連れて行かねばならん。ここは私が一緒に行くべきだろう。」
それとは関係なく別件で同行する事を主張するシルビア様。
「春には奴隷所持の納税がありますので免除の手続きをしなければなりません。お時間があるときにお願いしたいのですが・・・。」
「「「「え?」」」」
「いえ、ですので納税免除の手続きを・・・。」
そして最後に爆弾を放り投げて来たニケさん。
えっと、納税ですか・・・?
「ニケ殿は解放する予定なのだから納税する必要は無いのではないか?」
「1年以上所持するのであれば納税が義務付けられていますが、解放するのであれば必要ないはずです。」
「では何故納税の話が?」
「ありがたいことに解放してくださるという事ですので納税の必要はありません。ですが、それも免除の手続きをしていたらの話です。徴税は春の種期に一斉に行なわれますのでそれまでに手続きをしていなければ解放するとなっていても納税する必要があります。」
それは知らなかった。
てっきり手元に来てから1年後に払うものだと思っていたのだが、なるほど固定資産税と同じか。
基準月に所持している人を対象に納税の紙は送られてくる。
なので、所持していた期間が1ヶ月でも11ヶ月でも関係ないのだ。
もっとも、所持してすぐ請求が来る場合は購入時に残りの分を元所有者が払ったり値引きしたりして対応したと記憶している。
なるほどなぁ。
一斉に徴収しないとややこしいもんな。
「これから忙しくなる事を考えると今しかないですね・・・」
「手続きはニケ様がいなければダメなのですか?」
「奴隷の状況を確認する為にも本人の同席が義務付けられています。」
「確かに虐待の有無を確認する為には必要な事だ。」
「状況確認は別室で行なわれ、話す内容も所有者には知らされない様になっています。とっても良くしてもらっていますし私は聞かれても構わないんですけど。」
「なら決まりですね。ニケさん急ぎ準備をしてきてください、今から出れば夜には戻ってこれるでしょう。」
「分かりました!」
パッと顔を輝かせてニケさんが家へと戻る。
そういうことなら仕方ない。
三人とも不服そうな顔はするものの、事情が事情だけに文句を言う事はなかった。
ここはちゃんとフォローしておくのが出来る男というものだ。
「次の聖日はまたみんなで行きましょうね。」
「くれぐれも気を付けてくださいね。」
「ニケ殿を守るのもシュウイチの仕事だが無理だけはするな。」
「お土産は期待していません。決して甘いものなど期待していませんので。」
心配する二人を他所にちゃっかりお土産を要求してくるダンジョン妖精。
食事を摂る必要ないんじゃなかったっけ?
「甘い物は別です。」
「そうですか。」
折角行くんだしお土産は必要だろう。
魔術師ギルドに行って、ニケさんの手続きをして、時間があれば冒険者ギルドにも寄って。
あぁ、入植が無事に終わった件も報告したいし保護施設がどう動いているかも聞きたい。
全部終わらせるにはちと時間が足りないか。
「お待たせしました!」
なんて考えていたら早くもニケさんが戻ってきた。
「早い!もう良いんですか?」
「手ぶらですから。」
「ニケさんシュウイチさんを宜しくお願いします。」
「また危ない事をしそうになったら問答無用で引っ張ってきてくれ。」
「ご主人様の手綱はお任せいたします。」
「お任せ下さい。」
手綱って何だよ手綱って。
暴れ馬じゃないんだからさ。
「ニケさんは馬に乗れましたっけ。」
「子供の頃に乗った事があります。久々ですけど鞍があれば大丈夫かと。」
乗れるんだ。
「お店は任せますね、行ってきます。」
「「「いってらっしゃい。」」」
三人に見送られてニケさんと共にサンサトローズへと向う。
あれ、今思えばニケさんと二人きりで出かけるのって初めてなんじゃない?
「楽しみですね。」
そんな俺の気持ちを知ってかしらずか、嬉しそうに笑うニケさんであった。
分からない事があれば分かる人に聞いてみよう。
これが中々出来ないんですよね。
スマホが広がってついつい自分で調べればいいかってなっちゃって、
結局間違った知識を覚えてきて失敗すると。
もちろん正しい知識もあるんですけど、ネットに知識は疑ってかかれと
最近のネットリテラシーで教えているそうです。
それでも論文にウィキペディアを使う始末。
やっぱり正しい事は専門家に聞かないと、ですね。
餅は餅屋。
良い言葉です。
そんでもって今回はニケさんとの二人旅です。
旅といっても日帰りですしいつものサンサトローズなんですけど・・・。
何もない分けないですよねぇ。
行った先で何が起きるか。
それはまた次回という事で。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
また次回もよろしくお願いいたします。




