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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十一章

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雪の先にあったのは

 ダンジョンに雪が降る。


 これは砂漠に雪が降ると同じぐらいありえないことだ。


 え?過去に何度か降った事がある?


 じゃあグアムに雪が降る、これでどうでしょうか。


 兎にも角にも普通ではありえないことが実際に起きているようだ。


 ユーリの慌てよう。


 それに、時期ハズレの大雪。


 普通じゃないことが起きているのは間違いない。


「ダンジョンで雪って、一体どういうことですか?」


「どうもこうも言葉通りです。ダンジョン内で異常な魔力を検出、解析した所雪である事が判明しました。場所は第九階層付近、現在一名の冒険者が付近で足止めされているようです。今の所命に別状は無さそうですが、現場がどうなっているか見当もつきません。」


「ダンジョン内で異常な魔力、そして雪ですか。」


「魔力の波形から魔物でない事はわかりますが、普通の魔法では検出されることのない種類の魔力です。何ていいますか精霊様に近いような感じです。」


「じゃあ雪の精霊様が居るんでしょうか。」


「確かにニケ様の言う可能性もゼロではないでしょうが現時点ではわかりません。原因不明の魔力の影響でダンジョン内に雪が降っている、今言えるのはそれだけです。」


 うぅむ、全く分からん。


 正体不明の魔力を感知してそれが雪を降らせていて、しかもその魔力は精霊に近いものである。


 ならその魔力を取り除けば話が早いんじゃないだろうか。


「魔力の発生源は今も第九階層なんですよね?」


「発生源といいますか、魔力を検出した場所がそこということです。精霊様のような巨大な魔力は現在検出されていません。」


「つまり、雪が降っているだけで原因と思われる何かがそこにあるかまでは分からないわけですか。」


「仰るとおりです。」


 事件は商店で起きているのではなく現場で起きている。


 なら直接見に行くのが一番手っ取り早いな。


「夕食が遅くなるとシルビアに伝えてください。今からちょっと行ってきます。」


「「今からですか?」」


「原因が何であれ自分のダンジョンで不測の事態が起きているのは事実です。そしてそのれにお客様が巻き込まれている。管理を任されている人間として現場を確認する義務があります。」


「ですが何かあったら。」


「もちろん一人では行きません、ユーリ着いて来てくれますよね?」


「お任せ下さい。現場で何が起きていても私が居れば何の問題もありません。奥様方とニケ様は安心してお待ち下さい。」


 ダンジョンの魔物が俺を攻撃する事は無い。


 もちろん罠についても俺には全て見えるようになっている。


 もちろんダンジョン妖精でもあるユーリにも同じ事が言えるわけで。


 シャルちゃんを助けた時と違って後ろを気にしなくてもいい分早く現場にたどり着けるだろう。


「わかりました。でも、中がどうなっているか分からないので準備だけはしていってください。」


「魔物は襲ってきませんよ?」


「ダンジョンの魔物は襲ってこなくても雪を降らせている何かが安全かどうかは分かりません。シュウイチさんが行くんです、何が起きてもおかしくありませんから。」


「確かにリア奥様のいうことにも一理ありますね。」


 ちょっと、なにその俺が行くと危ないみたいな感じ。


 確かに命の危険を感じたりした事はあるけどさぁ。


「防寒具と除雪用のスコップ、それと携帯食料とランタンと・・・。」


「エミリア、さすがに食料まではいらないんじゃないでしょうか。」


「でももし何かあったら!」


「その時はみんなで迎えに来てください、すぐそこですから。」


「・・・わかりました。でも、最低限の道具は持っていってもらいますからね!」


「それはニケさんにお任せしましょう、エミリアはシルビアに事情を説明してきてください。」


「こちらはお任せ下さいエミリア様。」


 俺の指名にニケさんが大きく頷いた。


 よかった、俺の意図を理解してくれたようだ。


 エミリアに任せるとあれも入れてこれも入れてと必要以上の道具を足されそうだからね。


 雪山を甘く見て軽装で遭難した軍人さん達がいるのは分かっているけど、さすがに重装備で歩き回れるほど俺は鍛えてない。


 その点ニケさんなら必要最低限の道具だけを入れてくれることだろう。


 エミリアには申し訳ないけどここではニケさんが最適解だ。


 その後エミリアが事情を説明しに行っている間に無事に荷物は詰め終わり、シルビアとエミリアが戻ってくる頃には防寒対策をバッチリと施した俺とユーリが出発を待ちわびていた。


「くれぐれも気を付けてください。」


「分かってます。」


「ユーリ、シュウイチを頼むぞ。」


「お任せ下さい。」


「冒険者の方に何があっても良いように宿の準備はしておきます。」


「それは助かります。大丈夫だとは思いますが、念には念をですね。」


 動けなくなっていれば宿で保護する必要もある。


 冒険者を助けないというのがダンジョン商店としての決まりごとだが、それはあくまでも通常の状態での話しで、非常時かつダンジョンと関係ない理由で助けを必要としているのであれば、それに手を差し伸べるのが管理者の務めというものだ。


 え、仲間内でもめた?


 それは知らん。


「では行ってきます。」


 三人に見送られて俺とユーリはダンジョンの入口へと向かう。


 第九階層ということなので今回も転移装置を使って10階まで移動することにしよう。


「九階層のどの辺りですか?」


「入ってすぐの大部屋の辺りです。」


「わかりました。」


「付近の魔物は全て機能を停止しています。」


「それは死んだということですか?」


「いえ、生命活動は持続していますので恐らく『冬眠』したと思われます。」


 冬眠ねぇ。


 ようは仮死状態というわけか。


 それってかなり酷い状況じゃないのかなあ。


 中に転移した瞬間俺達も氷付けとかないよね?


「何はともあれ現状を把握しない事には始まりません、行きましょう。」


「転送装置10階層に設定しました、いつでもいけます。」


 装置に手をかざすと前回のように青色に光る。


 行き先を念じると一瞬視界が暗転し、気付けばダンジョンの中だ。


 周りにおかしな所はなし。


 雪はそこのみに限定されているようだ。


 寒くも無い。


「転送完了、周囲に異常もありません。」


「では引き返し進みましょう。」


 後ろを振り返れば上り階段がある。


 シャルちゃんの時のように大急ぎで向う必要は無いが、できるだけ急ぐにこしたことは無いだろう。


 階段を上り大きな部屋にとたどり着く。


 ここも異常は無しっと。


 でも心なしか気温が下がったように感じる。


 空気がひんやりとしている感じ。


「ダンジョン内の気温低下を確認しました。」


「あ、やっぱり気のせいではなかったんですね。」


「ここでこの気温ですと現場はかなり低い可能性があります。」


「厚着してきて正解でした。」


 通常ダンジョンの中は一定の気温で保たれているので厚着をする必要は無い。


 だが、もしもを考えて分厚い毛皮を着てきたのだが当ったようだ。


「慎重にかつ迅速に行動しましょう。」


「現地まで案内します、ご主人様は私の後ろに。」


「お願いします。」


 ダンジョンマスターとはいえダンジョン内部を全て網羅しているわけではない。


 前は罠を起動させて道案内してもらったけど、それが無かったら迷子になっている所だ。


 その点ダンジョン妖精のユーリは、マップが見えるのか迷う事無く歩く事ができる。


 羨ましいなぁ。


 ユーリを先頭に急ぎ足でダンジョンを進む。


 途中何度か魔物に遭遇するもこちらを一度見るだけで襲ってくることは無い。


 骸骨が武器を構えたままこちらを見て、再び何事も無かったように周囲を警戒し始める。


 こいつも冬眠するんだろうか。


 謎だ。


「彼らは体内に埋めこまれた魔石を動力にして動いていますが、外気温が著しく低下すると魔力の伝達が遅くなり機能が低下するんです。」


「なるほど。」


「他の魔物は生命活動をしておりますので、『冬眠』という表現を使わせていただきました。」


「だんだんと寒くなっているような気がします。」


「勘違いではございません、近づくにつれ気温が下がっています。」


 何度か角を曲がり長い直線に入ったその時。


 正面から冷たい風が吹き付けてきた。


 ダンジョンの中で北風が吹くなんて事はもちろんありえない。


 つまりこれは現場で発生した冷気が原因で起きている風というわけだ。


 吹き付ける風に混じって白いゴミのようなものも飛んでくる。


 あぁ、雪だ。


 ダンジョンに雪が降っている。


「この先は雪が積もり始めているようです。」


「いよいよですね。」


「ここでちょうど半分です。直線を抜け、角を5回曲がれば目的の大部屋となります。」


「足元に気を付けながら進みましょう。冒険者の反応はどうですか?」


「生きているようですが先程の場所から動いていませんね。」


「大丈夫だと良いんですけど、急ぎましょう。」


 正面から吹き付ける風が行く手を阻む。


 だがこんな所で立ち止まっているわけにもいかない。


 額に腕を当て視界を確保しながら一歩また一歩と進んでいく。


 一歩進むごとに風が強まり気温が下がる。


 まるで雪山で遭難したような気分だ。


 遭難した事ないけど。


 直線を抜けた先の曲がり角には奥から飛んできた風によって雪溜まりが出来ていた。


 現在足元の積雪は5cmほど。


 フカフカの雪のようだが歩くたびに足を取られる。


「休憩されますか?」


「まだ大丈夫です。」


「随分と雪道に慣れておられるんですね。」


「昔、雪国で暮らしたことがあるんです。」


「雪国ですか。そこはずっと雪が降っているんですか?」


「雪が降るのは秋の終わりから春の初めぐらいまでですが、積もるときは商店の二階以上の高さまで積もることもありますよ。」


「それはすごい。いつかご主人様の世界にも行って見たいものですね。」


「あまり良い世界ではないですけどね。」


 元の世界に戻れば俺はブラック企業の歯車として再び使い潰される事だろう。


 だから俺は戻らない。


 俺はこの世界で暮らしていくって決めたんだ。


「ご主人様が戻りたくないのであれば私は歓迎します。」


「そう言ってもらえると嬉しいですね。」


「むしろ奥様方を捨ててもとの世界に戻るようであれば意地でも引き止めるつもりですのでそのおつもりで。」


「そんな事はしません、いつまでもみんなと一緒に暮らしたいと思っています。」


「私もでしょうか。」


「当たり前です。ユーリも家族なんですから。」


 ユーリが居ない生活はありえない。


 仕事でもプライベートでも無くてはならない存在だ。


「ありがとうございますご主人様。」


「これから暮らしていく為にも、ダンジョンがこのままというワケには行きません。商売が出来なければ来年には私の首は飛んでいってしまいますからね、何が何でもこの状況を解決しないと。」


「急ぎましょう。」


 ダンジョン無くしてダンジョン商店なし。


 何時までもこの状況だと初心者が先に進めなくなってしまう。


 それどころか被害が拡大すればダンジョンそのものが使えなくなる可能性だってある。


 それだけは避けなければならない。


 角に近づく度に風が強くなり、吹き付けられた雪が壁にへばりついている。


 しんしんと降る雪ならまだ良い。


 暴風雪のような強い風と冷気が顔の感覚を麻痺させていく。


 魔力の発生源は見当たらないといっていたけど、どう考えても現在進行形で何かが雪を製造し続けないとこうはならないよね。


「御主人様次の角を曲がれば大部屋です!」


「わかりました!」


 もはや叫ばなければ会話が出来ないぐらいだ。


 体感的にはとっくに氷点下を越えている。


 耳が千切れそうに痛い。


 こんな事だったら耳当てを持ってくるんだった。


 顔の前を腕で覆いながら地面を踏みしめて歩みを進める。


 積雪は膝下まで来ており、俺達の行く手を阻んでいた。


 完全に雪山だ。


 左右の壁が無ければ方向感覚さえわからなくなっているだろう。


 左に曲がる角を通り抜けると正面に大きな空間が見えた。


 目的の大部屋だ。


 ここからでは中の様子を確認する事は出来ない。


 曲がった瞬間に先ほど以上の風が俺達に襲い掛かる。


「御主人様あれを!」


 前傾姿勢で風をやり過ごしながら何とか大部屋へとたどり着く。


 そこで見た光景はこの世界に来て一番不思議な光景だった。


 部屋の中心部分を軸にして風が渦巻いている。


 雪を含んだそれは白い繭のようにも見えた。


 まるで何かを守るかのように風がぐるぐると回っている。


 どう考えてもこの中心に原因があるよな。


「ユーリ、今も魔力は感じないんですか?」


「感じません、あの中からは何も感じないんです。何かがあるのか、誰かがいるのかそれすらもあの風のせいで判別できない状況です。」


「とにかくあれを何とかしないと・・・。」


「近づくだけでも危険です、一体どうするというのですか?」


 そこなんだよね。


 素人の俺が見てもヤバイ風だ。


 カマイタチのように触れた瞬間に切り刻まれるかもしれない。


 ゲームなら特別な呪文を唱えたりスイッチを押したりして止めるんだろうけど、残念ながらこの部屋にそんなギミックは組み込んでいない。


 となると可能性は魔法で止めるという事になる。


 だがここにいるのはただの商人とダンジョン妖精だけだ。


 残念な事に魔法は使えない。


 あれ、これって詰んでない?


「まずは冒険者の確保を優先しましょう、反応はどのあたりですか?」


「来た道を背にして北西の方角です。」


 北西って事は左上か。


 えーっと・・・。


 中心部では風が唸りをあげて回っているが、今気付いたんだけど俺のいる場所も含めて周辺はそこまで酷い風じゃない。


 ここにたどり着くまでは姿勢を落とさないと歩く事もできなかったが、今は少し強い風を感じる程度だ。


 中心を避けるように壁伝いに移動すると北西側に白い雪の山が出来ていた。


 他の場所はそんなに積もっていないのにそこだけ意図的に雪が積み上げられたようになっている。


 積みあがった雪のせいで冒険者の姿は確認できない。


 仕方ないそこまで行くか。


「ユーリはそこにいてください。」


「ですが・・・。」


「何も無いとは思いますが、何かあったときに状況を知らせる人が必要です。もしもの時は急ぎ上に上がって助けを呼んでください。」


「まったく、いつもこうやって危険に飛び込んでいかれるのですね。奥様方が怒るのもわかります。」


「あはは、私はみんなを危険な目にあわせたくないだけですよ。」


 俺に何かあるのは構わない。


 だが、俺の大切な人が大変な目に合うのはイヤだ。


 だから俺は危険な事に首をつっこんじゃうんだよな。


 ユーリをその場に残しゆっくりと雪山に近づいていく。


 雪は俺の胸元ぐらいまで積み上げられていて、正面からでは向こう側は見えない。


 仕方なく右側から回り込むと雪山に足が埋まっているのが目に飛び込んできた。


 埋もれてる!


 慌てて正面に回り足を引っ張ろうとしゃがみこむと、雪山に穴が開いておりそこから足が生えていた。


 引っ張ろうとした足も心なしか動いているのが分かる。


 あれ、これってもしかして・・・。


「大丈夫ですか!?」


 俺は足をゆすりながら穴の中に声をかける。


 すると足がビクッと震え穴の中から冒険者が顔を出した。


 俺の顔を見るなり安心したように表情を崩す。


「イナバ様?」


「助けに来ました!お怪我はありませんか?」


「咄嗟にここへ隠れたので大丈夫です。まさかダンジョンの中でも雪に降られるとは思いませんでしたよ。」


「あはは、元気そうで良かった。」


 冗談を言えるぐらいの状態ではあるようだ。


 顔色も良いし寒さでどうにかなっている様子も無い。


 かまくらって結構暖かいんだよね。


 雪山でも雪道をつくって寒さを凌いだって話は聞くし、一番ダメなのは風で体温を奪われる事だ。


「急に寒くなってきたと思ったら雪が降りだして、気がついたらこの状態だったんです。」


「突然ですか?」


「ほんの一瞬ですよ。強い風が吹いたと思ったらいきなり目の前が真っ白になって、気付いたら部屋の中心にあれが出来ていたんです。」


「一体何なんでしょう。」


「イナバ様にも分からないんですか?」


「申し訳ありませんが原因不明です。とりあえず無事でよかった、急ぎ地上に戻りましょう。」


 このままここに居ても状況が改善されるとは思わない。


 むしろ悪くなる可能性が高いので一刻も早く地上に戻るのが望ましい。


「わかりました。」


 冒険者の手を取り穴の中から引っ張り出す。


 後はユーリのところに戻って・・・。


「あれ?」


 違和感を感じ、俺は穴の中を再び覗きこむ。


 そこにはまだ年端も行かないような子供が奥の奥で小さな寝息を立てていた。

ダンジョンのような封鎖空間で雪が降るとどうなるか。

そりゃあ積もりますよね。

風の通り道になりますから歩くのもきついですし、体力は常に減り続けるしで、

結構鬼畜なダンジョンになると思います。

雪山ダンジョンの定番といえば凍る床。

途中で止まれず何度目的の場所を通り過ぎた事か。

そして道中敵とエンカウントするわけですよ。

あれほど理不尽なものはございません。

定番とはいえあれは嫌いです。


無事に冒険者を助けた主人公でしたが、代わりに別のを見つけてしまいました。

一体その子は何者なのか。

まさか主人公の隠し子?

なんて、続きは次回ということで。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

また次回も宜しくお願いいたします。

ブックマーク評価もありがとうございます。

日々頑張って参りますのでどうぞ宜しくお願いします。


あ、今回の投稿で200万字突破しました。

継続は力なりとは良く言ったものですね。

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