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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十一章

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冬の始まり

 冬が来た。


 暦上冬が来る事はもちろん分かっていたが、ここまで急にくるとは想像していなかった。


 秋節最後の休息日を終えて帰宅したのが昨日の夜。


 少し寒いなとは思っていたけど、いつもよりも少し寒い程度で特に気にする事もなかった。


 それがだ。


 寒さに震えながら目を覚まし窓の外を見ると、そこは一面の雪景色だった。


 一瞬夢かと思った。


 なので窓を開けて入った来た寒気に現実だと悟りそして後悔した。


 寒すぎる。


「異世界の冬ってこんなもんなのか?」


 いつもの心の声ではなく自分でも分かるぐらいに独り言が出る。


 いくらなんでも唐突過ぎるだろ。


「シュウイチさん起きてください、外が!」


 ドアが勢いよく叩かれ、返事をする間もなく開けられた。


 そこには興奮冷めやらぬ感じの寝巻き姿のエミリアといつもと変わらないユーリが部屋に入ってくる。


 今日も可愛いですね。


「可愛いだなんてそんな・・・。」


「リア奥様今はそれ所ではありません。」


「そうでした!外が大変な事になっているんです!」


「すごいですね、一晩でこんな景色になるなんてこの世界はいつもこうなんですか?」


「そんなはずありません!」


 え、違うの?


 てっきり異世界だとこれが当たり前だと思ったんだけど。


 でもそうだよな、今まで春夏秋と季節を巡ってきたけどいきなりこんな風に変わってなかったもんな。


 普通に考えてこの状況がおかしいのか。


「久しくダンジョンの外に出ませんでしたのでこの状況が普通だと思っていましたが、どうやら違うようです。」


「ユーリはいつものように外に?」


「はい。森の巡回ダンジョンの整備といつものように終わらせてあります。」


「森はどんな感じでしたか?」


「うっすらとではありますが何処も雪で真っ白です。」


「という事は、この店の周りだけというワケではなさそうですね。」


 局地的なものかなとも考えたが、その線もどうやら無さそうだ。


 森全体が真っ白か。


「森の木々はどうですか?」


「雪の重みで落葉が進んだように見えますがそれ以外は特に何も。魔物もいつもと変わらないように感じました。」


「では本当に急にこうなってしまった感じでね。」


「昨日まで何も無かったのに、一体どうしてしまったんでしょう。」


「わかりません。ですが普通の状況でない事は間違い無さそうなので急ぎ情報を集めましょう。エミリアは魔術師ギルドと商店連合に連絡をして情報収集を、ユーリはシルビアとニケさんを起こしてください。」


「ニケ様は朝食係ですので下で準備中です。」


 あ、今日の担当はニケさんだったか。


 朝のあの状況を見て取り乱さなかったのはなぜだろう。


 真っ暗で気付かなかったとか?


「シルビアは・・・まだですね。」


「先程から声はかけておりますのでそろそろ起きてこられると思います。」


「私が起こしますのでユーリはニケさんの準備を手伝ってください。どんな状況でもとりあえず何か食べないと始まりませんから。」


「さすがご主人様、このような状況でも冷静ですね。」


「これでも十分戸惑っていますよ。」


「そのようには感じませんが・・・。分かりました、リア奥様念話も結構ですが着替えてからのほうがよろしいかと思います。」


「え、あっ!」


 虚空を見つめてどこかに話しかけていたエミリアが自分の服装を見て我に返る。


 恥ずかしそうに自分の身体を抱き、真っ赤な顔で部屋に戻ってしまった。


「ではシア奥様をお願いします。」


 いつもと変わらない綺麗なお辞儀をしてユーリも部屋を出て行く。


 さて、俺も服を着替えてシルビア様を起こしに行くかな。


 声はかけているみたいだしそんなに苦労はしないだろう。


 普段は凛とした感じでカッコイイ印象の強いシルビアだが、極度の低血圧なのか朝が非常に弱い。


 声掛けをしてから降りてくるまでに一刻はかかる。


 時々着替えを忘れて下着姿のまま降りてくるものだから慌てて上に連れて行かれる事もあるぐらいだ。


 まぁ俺からしたらラッキーなんですけど、その後のエミリアの視線が少々痛いのでいい事ばかりでもないんだけれど・・・。


 いつもより一枚多めに服を着て俺はシルビアの部屋へと向う。


「シルビア起きていますか?」


 二度ドアを叩き声をかけてしばし待つ。


 返事は無い。


「シルビア入りますよ。」


 もう一度同じようにして返事が無いので断りを入れて中に入った。


 荷物の少ない質素な部屋。


 机とベッドとタンスぐらいしかない。


 THE女性の部屋という感じのエミリアとは真逆の感じだな。


 鏡とか小物とかそういった物が置かれていない。


 そんな部屋で一番目を引くのが、シルビアのトレードマークである真っ赤なハーフプレートアーマーだ。


 横には愛用の剣が飾られている。


 先日購入した短い方もちゃんと手入れをして準備万端のようだ。


 当の本人はというと、どうやらまだ布団の中らしい。


「シルビア起きてください。」


「ん・・・。」


 もぞもぞと動くのは確認できるが未だ本人の顔は見えない。


「緊急事態です、起きてください?」


「緊急・・・?」


 単語に反応したようで眠たそうな声が布団の中から聞こえてくる。


 ユーリが声をかけてくれていたおかげで覚醒は早そうだ。


「一夜にして外が一面の雪景色で、状況を確認する為にもシルビアの力が必要なんです。」


「冬、だからな。」


「そうじゃなくてですね。」


「シュウイチ、そこは寒いぞ、こっちに来い。」


 布団の中から手が伸びてヒラヒラと俺を誘う。


 怪しい手招きの動きに危なく惹き込まれるところだった。


 危ない危ない。


 そうしたい気持ちをグッとこらえ、ベッド脇で再びシルビア様に声をかける。


「起きてください。」


「寒いのは嫌いだ。」


「それは分かりますがもう皆待っていますよ。」


「むぅ・・・。」


 他人に迷惑を掛けるわけには行かないというシルビアの性格を逆に利用してみる。


 ここまで言えば起きてくれる。


 そう考えていたのだが、


「寒いのならばシュウイチを抱けば良いんだな。」


 次の瞬間、素早く伸ばされた腕に捕まり布団の中へと引きずり込まれてしまった。


 あぁ、温かい。


 体温で程よく温められた布団は再び俺を夢の国へと誘うのに十分な力を秘めていた。


 それだけではない、シルビア様の良い匂いが全身を包んでくれる。


 だが、そうならなかった。


「ちょ、っとぉ!」


 俺は慌てて布団から飛び出すと、ベッドの上ではシルビア様が不満そうな顔でこちらを見ていた。


「寒い。逃げることは無いだろう。」


 不満そうに布団を身体に巻きシルビア様が文句を言う。


「いきなりすぎてビックリしただけです。」


「本当か?」


「本当です。」


「つまりいきなりではなかったら良いんだな?」


「いや、そういうワケではないと思うんですけど・・・。」


 脈拍が非常に速い。


 心臓がシルビアにも聞こえるんじゃないかってぐらいに高鳴っている。


 俺がそのまま寝なかった理由は簡単だ。


 いい匂いがしただけでなく、柔らかくすべすべとした感触が俺を一気に現実へと引き戻したのだ。


 これ以上はマズイ。


 たったそれだけのことなのだが、俺を現実に戻すのには十分な効果があった。


「寝ぼけたフリをすればと思ったが、なかなか上手く行かんな。」


「わざとだったんですか?」


「シュウイチが部屋に入ってきたときはまだ寝ていたが、緊急事態と聞いて目が覚めた。」


「まったく、ビックリさせないで下さい。」


「抱いたまま寝たいと思ったのは本当だぞ?」


「その気持ちは嬉しいですが今はそれ所ではありません。」


「私からすればこっちの方が大切なのだが、どうもそうは言っていられないようだな。」


 シルビア様がいつもの凛々しい表情に戻る。


「一夜にして外は雪景色です。ユーリ曰く森中がそうだったようですので恐らく村も同じでしょう。シルビアには村の様子を見てきてもらいたいんです。」


「分かった。」


 シルビア様は大きく頷くとその場で大きく伸びをしてベットから飛び降りる。


 その拍子に身体に纏っていた布団がはだけ、真っ白な下着を身に纏った裸体が現れた。


 引き締まった身体に清楚な白の下着。


 この世界でよくあるような簡素なものではなく、現代風のレースをあしらったような奴だ。


 綺麗だなぁ。


 こういうのって一体何処で買うんだろうか。


 ジャパネットネムリでは無いと思うけど、貴族関係の出入り業者とかだろうか。


 既製品には見えないよな。


「そんなにまじまじと見られるとさすがに照れるぞ。」


「すみません!」


 はっと気付き慌てて後ろを向く。


「いずれ中身まで見られるのだ下着ぐらい構わん。」


「いや、そうなんですけど。」


「まぁこれ以上はエミリアが怒るからな。シュウイチは先に行ってくれ、すぐに着替えていく。」


「わかりました。」


 振り向きたい気持ちをグッと抑えて俺は部屋を後にする。


 明るめの下着も良く似合っているけれど、たまにはあんな感じもいいなぁ・・・。


 って、正気に戻れ俺、今はそれ所じゃない。


 俺は左右に首を振って邪念を飛ばすとそのまま下へと向うのだった。


「待たせたな。」


 朝食の準備が終わってすぐシルビア様が小走りで階段を降りてくる。


「おはようございますシア奥様。」


「おはようございますシルビア様。」


「おはよう。おや、エミリアはどうした?」


「今部屋で商店連合と魔術師ギルドに連絡を取ってもらっています。もう降りてくると思うんですけど・・・。」


「お待たせしました!」


 ナイスタイミング。


 シルビア様を追いかけるようにエミリアも階段を降りてくる。


 これで全員揃ったな。


「色々と聞きたいことがありますがとりあえず食事にしましょう。」


「そうだなまずは腹ごしらえだ。」


「では、いただきます。」


「「「「いただきます。」」」」


 まず最初にスープからっと。


 寒い日には温かいスープに限るよな。


 五臓六腑に染み渡るよ。


 そういえば外は雪なのに家の中は暖かい。


 台所の熱がこっちまで来ているのか?


「ユーリ様暖炉の準備ありがとうございました。」


「ただ薪を運んだだけです。ですがこの調子ですとすぐに使い切ってしまいますのでご主人様には申し訳ありませんが薪の追加をお願いします。」


 あぁ、暖炉か。


 そういえばそんな物もあった気がする。


「時間があるときに薪割りをしておきます。ユーリは森に行った時で良いので焚き付け用の小枝も多めに集めてください。この調子だと雪でしけってしまうかもしれません。」


「確かにそうですね、乾燥しているうちに集めておきます。」


 シルビアに村の様子を聞いてもらっているうちに薪割りをしておこう。


「まさか冬になった途端に雪が降るとはな。」


「この辺りは昔からこんな感じですか?」


「まさか、雪が降るのは草期にはいってからだ。この時期に降る事はまず無い。」


「サンサトローズも積もるほどではありませんが雪が降っているとノアちゃんが言ってました。」


 局所的では無さそうだな。


 となると、村は間違いなく雪の中だろう。


「あまりにも天気が変わりすぎです。何か悪い事が起きなければ良いんですけど。」


「イナバ様がそう言うと何か起きそうですね。」


「ご主人様ですから。」


 そこの二人、恐ろしい事を言うんじゃないよ。


 俺だから何か起きるって、死神と呼ばれている某少年探偵みたいに言わないでくれないかなぁ。


「店は開けるんですよね?」


「その予定です。外で雪が降ろうともダンジョンはいつも通りですから。」


「皆さん来てくれるでしょうか。」


「昨日聞いた話ではダンジョンは大分攻略されて、中級冒険者以上で無いとうまみがなくなってきたようです。初心者の皆さんは手持ち無沙汰だとか。」


「でしたら今日の定期便は期待できそうですね。」


「でもこの雪です、到着が遅れる可能性はあるでしょう。」


 スタッドレスタイヤがあるわけでもないし、事故の無いように速度を落としてくるかもしれない。


 これから工事が本格化するというのにやな雪だ。


「私は昼まで村に残り状況を把握してくる。ついでに定期便の様子も見ておこう。」


「宜しくお願いします。」


「雪が増えても孤立する事は無いでしょうが、念の為に食糧の備蓄を増やすなども考えておいた方が良いかもしれません。」


「いざとなったら私が運びますよ?」


「緊急時にはお願いすることになると思いますが、まぁ大丈夫でしょう。」


 困った時のエミリア急便もある。


 餓死する事は無いだろう。


「せっかく企画が成功したのにいきなりこれじゃ先が思いやられますね。」


「だがその為の資金は準備できている。早いうちに冬用の備蓄を手配すれば貧困者や住民が困る事は無いだろう。」


「その辺りも含めて全て向こうにお願いしていますから上手くやってくれるでしょう。イアンがちょっと苦労するぐらいですよ。」


 企画終了後の流れも全て決めてある。


 保護施設の件は教会に引き継いでいるし、仮住まいのほうは冒険者から巡回の人を出す事で一応の解決を見せた。


 本当は仮住まいを作れたら良いんだけど、誰が管理するのかとかどうやって衣食住を手配するかなどを考える時間までは無かった。


 この件についてはもう少し時間をかけながら決めていくことになるだろう。


 折角考えたけど全部を一回で解決するのは難しかった。


 それだけが心残りかな。


 でもまぁそれもイアンに全部丸投げしたので何かあれば連絡してくるだろう。


 たぶん。


「セレン様には休んでいただく方がよろしいでしょうか。」


「確かに、何かあってからでは遅い。」


「でもそうなると宿はどうしたら・・・。」


「お昼にはシア奥様が戻ってこられますし、それまでは私が何とかします。」


「頼りにしています。」


「セレン様に鍛えていただいておりますから。ここで期待に応えずして何がダンジョン妖精でしょうか!」


 グッと腕に力を入れてやる気満々のユーリ。


 ダンジョン妖精は宿で食事作ったりしないと思うんだけどそこは突っ込んじゃいけないよな。


 スルースキルも大切です。


「魔術師ギルドは何か言っていましたか?」


「特に変わった事は何も起きていないとの事でした。」


 ふむ。


 異世界だけに魔法的な何かが作用しているのかと思ったけどそうでもないらしい。


 本当に異常気象なだけなんだろうか。


 わからんなぁ。


 もしかしてと思ったんだけどそっちの線は望み薄のようだ。


「ひとまずいつも通り行きましょう。今出来る事をする、それだけです。」


「「「「はい!」」」」


 季節が冬になり白銀の世界になったとしても冒険者は来るしお金は稼がないといけない。


 つまりする事はいつもと変わらないということだ。


 さて、今日も元気に開店しましょうかね。


始まりました十一章。

冬、開始です。

そしていきなりの雪景色です。

一体どうしてしまったんでしょうか。

相変らずの主人公、今回はダンジョン商店らしいお話となる予定です。

たまにはこういうお話も作らないと作者がどんな作品か忘れそうになるのは内緒です。

どうぞお付き合い下さい。

宜しくお願いいたします。

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