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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十章

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全員の心を一つに

 昨夜は前向きに検討しつつ善処いたしまして、ひとまず問題を棚上げし粛々と事なかれ主義を貫きました。


 そこ!ヘタレっていわない!


 一応そういうことも考えたんだけど、どうしても企画の事が頭をちチラいてそういう気分にならなかっただけだから。


 べ、別にヘタレなんかじゃないんだからね!


 ワーカホリックなだけだから!


 あ、でもこれ仕事じゃないからなんていえば良いんだろう。


 プライベートホリック?


 リア充じゃねぇか!


 爆発するような事なにもしてないんですけど!


「と、いうことで改めて皆さんお集まり頂きましてありがとうございます。」


 昨夜の件はこの辺にして今はこっちに集中だ。


 ププト様のお屋敷にある会議室には関係者全員が集まっていた。


 いつもの面子だけでなく、それぞれの仕事に関係する面子も全てだ。


「お休みの所申し訳ありませんがどうぞよろしくお願いします。さて、休息日が始まりましていよいよ明日が本番当日です。今日の夕刻より準備に入り明日の朝までに完了しなければなりません。現在大方の準備は終わっておりますが、こまごまとした部分は準備を始めてみないと分かりません。もし何か問題がありましたらすぐにご連絡いただけましたら対応していきますので宜しくお願いします。」


 新たに会議に参加している責任者はうちの女性陣に加え、冒険者ギルドよりティナさんとグランさん、騎士団よりカムリ、教会よりラナスさん、そしてププト様。


 その他各ギルドから集まってくれた実行部隊の皆さんだ。


 ここに居るだけで30人を越え、当日には警備も含めて総勢100人を越える人間が俺の企画に関わってくれる。


 本当にありがたい話しだ。


「具体的な作業内容を説明していきます。正面の資料をご覧下さい。」


 正面の大きな板にはこの企画に必要な情報が全て書き込まれている。


 今まで何度こうやってプレゼンや会議をしてきただろうか。


 これが俺の武器であり腕の見せ所だ。


 言い換えればそれ以外は使い物にならないわけで。


 まぁ、剣と魔法の世界なんだから話術が武器って言うのもありだよね。


「まず、昼休みの鐘が鳴りましたら場所の確保をしていってもらいます。まずは騎士団員に警備と人払いをお願いしその後冒険者に区画を決めていただきます。最初は線を引いていただき、その後魔術師ギルドに用意してもらった特殊な染料をその上から流しこんでいただきます。この染料は流し込んで半刻で定着し二日ほどで自然に退色するようになっており、触っても色移りや肌荒れなど起きる事はありません。ただし、こぼしてしまった場合は別の薬剤を入れて中和しなければ取れないので注意をお願いします。」


 まずは場所の確保だ。


 今回は大通りを占拠する形になるので、いきなり人を締めだすとまだ商売をしている商店などに迷惑がかかる可能性がある。


 なので線引きと着色だけにして、場所の占有は本番当日にする予定だ。


「線引き完了後シュリアン商店のユーリが番号を書き加えていきますので、後の事は気にせずガンガン線引きしていってください。」


「おまかせください!班を四つに分けて両方向から進めていきます。」


 なるほど、それは効率的だ。


 グランさんとカムリでかなりしっかり連携を取っていると聞く。


 昔じゃ考えられないけど、機動力と統率力の取れた部隊が手を組むと仕事が早いなぁ。


 同時に番号を入れていくと途中でずれたりするので番号はユーリに任せることにした。


「続いてお金の換金についてですが、街の複数個所に換金所を設けそこでやり取りを行なう事とします。一箇所に大量のお金を置いておくのは防犯上よろしくありませんので、一刻ごとに指定の騎士団員が回収に行きますのでそちらにお渡し下さい。もし予定と違う人間が回収に来た場合は絶対に渡さないように、仮のお金が不足する場合は三割を切った時点で追加補充の連絡をお願いします。」


「人員はギルドから腕利きを手配済みッス!」


 これでお金関係も問題なし。


 餅は餅屋、お金を扱いなれている人間に任せるのがいい。


 不足分の確認は工場でよく使われる方式を採用した。


 入れ物に線を引きそこを切ると補充するという目で見てわかりやすい方法だ。


「カムリには現場を巡回していただき、シュリアン商店のエミリアを本部に配置していますので何か問題が出た場合は指示を仰いでください。」


「了解しました。現場警備は専属の騎士団員が三交代制で行なう予定です。」


 お金の管理が一番大切なので、警備関係はカムリお金関係ならエミリアにお任せだ。


 上手くやってくれるだろう。


「では次に二枚目の資料に移ります。当日、騎士団員と冒険者が現地で警備に当ります。客同士の諍いや、不振な取引を発見した場合は専用の腕章を付けた者に連絡をお願いします。こちらはシュリアン商店のシルビアを責任者として現場をモア君に任せます。」


 俺は大きな板をぐるりと反転させ裏面を向けた。


 表同様こちらにもびっしりと書き込みがされている。


「専用の赤い腕章を右腕に着用しています。複製が出来ないような色になっていますので間違えないと思いますが、一応確認をお願いします。」


 俺の説明にモア君が補足を入れる。


 最高責任者はシルビアだが、現場責任者はどっちにも顔が広いモア君だ。


「当日は開始時刻よりも前に一般参加の皆さんには配置についていただく必要があります。日の出から始業の鐘までを準備時間とし、それまでに所定の位置まで誘導しなければなりません。こちらに関しては各警備担当と共にリガードさんを責任者として誘導願います。」


「住民への事前周知は済ませてありますので問題ないでしょう。」


「もし場所についての文句を言う人間が居ましたら、速やかに警備に連絡し排除をお願いします。恐らく、いえ間違いなく来ますので宜しくお願いします。」


 絶対に文句を言いにくるはずだ。


 だが、来たら最後。


 笑顔で強制退去させてくれよう。


「続いて協賛品の扱いです。噴水広場一番奥で貴族の皆さんから頂戴した少々高価な物を販売します。商品の補充は輸送ギルドの専用倉庫から専用の馬車で行ないますので、それ以外の馬車が来た場合には警戒をお願いします。倉庫周辺ならびに販売所には上級冒険者を配置、決まった人員以外が近づくと物理的に排除されますので御注意下さい。」


「イナバ様はこのように申していますが一度警告は入れます。それでも近づいてくる場合には強制的に排除いたしますので御注意をお願いします。近付ける人員には緑の腕章を着用させていますので、何か伝達がある場合は彼らにお伝え下さい。」


 俺の中途半端な説明にティナさんが完璧なフォローを入れる。


 ありがとうございます。


「一般商店の参加については通常の販売と同じなので問題は無いと思いますが、換金時に寄付金を回収しますので間違いのないようにお願いします。こちらの責任者に関してはシュリアン商店よりニケが担当します。」


「こっちも引き続きお任せ下さいッス!」


「換金期間は書き入れ時を考えて休息日から一週間。その後瓦板にて寄付総額を発表します。協賛品の販売額はその場で分かりますので後夜祭で総額に応じた支援を発表する予定です。」


「後夜祭の準備は当日の昼間から順次行なっていく、手が空いた者が居ればこちらの準備に回ってくれ。」


「経費はププト様が持ってくださるそうです、後夜祭の時に一言貰いますので宜しくお願いします。」


「待て、俺も何か言うのか?」


「領主様ですから。」


 ちゃんとお膳立てしないとね。


 表向きは貧困支援だから俺じゃなくてププト様の仕事になる。


 俺が裏で動いているのは誰もが知っている事だが、やっぱり旗を振る人間が必要になるだろう。


「そして最後に寄付金についてですが予定通り寄付総額に応じた一時的な貧困支援を行い、それとは別に女性の為の保護施設を建設します。こちらに関しては教会の援助をいただきながら恒常的な支援を行ないます。どちらもこの企画の理念である『チャリティ』が参加してくださった皆様の支援によって実を結んだ結果ですので最後まで宜しくお願いします。」


「今回は皆様のお力を頂戴して沢山の方を支援できる運びとなりました、教会として感謝の意を表します。通常であれば私共が貧しい者達への支援を行なわなければならないのですが、力及ばずお恥ずかしい限りです。今後は私共が責任を持って彼女達の未来を守っていきますので、これからも皆様のご助力をお願いいたします。」


 口調だけで言えばかなり腰の低い人に見えるが、中身はこの教会で一番偉い。


 いや、この国の教会でもかなりの上位に文句を言える人間だ。


 この人に逆らっちゃいけない。


 それだけは肝に銘じている。


「以上が明日の説明になります。私からは以上ですが何か質問などはありますでしょうか。」


 全員を見渡すが、それぞれ顔を見合うだけで声は上がらなかった。


 質問無しと思って良いかな?


「私からあるのだが構わないか?」


「ププト様どうぞ。」


「お前がこの企画を行なう本当の理由は何だ?」


「本当の理由ですか?」


「表向きは貧困者を支援するという建前でこうやって多くの人が動き、本番を迎えようとしている。だが、それだけでただの商人であるお前が動く必要があるのか?名前を売りたいだけではないのか?」


 この街の長から出た爆弾発言によって会議室が一気にざわついた。


 本当の理由。


 本当の理由ねぇ。


 そんな物一つしかないし、それもちゃんと説明してあるんだけど何故今それを聞いてくるんだろうか。


 それこそ何か理由があるに違いない。


 なんだろうか。


 うーむ。


「なんだ理由すらないのか?」


「いえ、ただ単に『チャリティ』の理念と同じですので本当の理由といわれて戸惑っただけです。」


「つまりそれ以上の理由は無いというのだな?」


「仮に名前を売りたいからだとして、冒険者以外の方がダンジョン商店である我がシュリアン商店で買い物をすることがありますか?」


 逆に参加者全員に問いかけてみる。


「この街に住んでいる以上利用しませんね。」


 最初に答えてくれたのはリガードさんだ。


「ギルドとしては縁がありますけどそれ以外ではないッスね。」


「同じく輸送ギルドとしてはもうご縁がありますので特に何も変わりはありません。」


 それに続いてアヴィーさんとバスタさんが答えてくれる。


「騎士団としては懇意にしている商店がある為、特に利用する理由がありませんね。」


 まぁ、騎士団にはネムリ商店という強いつながりがあるもんね


「冒険者ギルドはこれまでも綿密な関係を続けさせていただいております。今回の件があったとしてもそれが変わる事はございません。」


 一番縁があるのは冒険者ギルドだが、これ以上を求めるのが申し訳ないぐらいに良くして貰っている。


 ティナさんの口から関係が良好であるといってもらえるのはありがたい話しだ。


「サンサトローズとしてもイナバに助力を頼む事はあってもシュリアン商店に助力を求める事はありえない。お前がいくらこの街で名を売ろうが得する人間はほとんどいないだろうな。」


 そして最後にイアンがププト様陣営の立場として発言してくれた。


 むしろこれ以上そちらに助力を頼まれたら仕事に支障が出てしまう。


 入植関係の仕事で手一杯だというのにこれ以上は勘弁願いたい。


「以上のように私が名前を売って得をする事はありません。この企画を行なう理由はただ一つ、皆さんの心の中にある善意に呼びかけ全員が手を取り合って生きていく事ができるようにする為です。幸いこの場に居る皆さんのようにこの考えに賛同してくださる方は多い。私一人で出来ない事も皆さんの力を借りれば可能になります。これからもどうぞ宜しくお願いします。」


 俺は全員に向って深々と頭を下げた。


 最初はシンとしていた部屋に、一つまた一つと手を叩く音が広がっていく。


 そして最後には部屋中に割れんばかりの拍手が響き渡った。


 顔を上げると全員が立ち上がり俺に向って手を叩いている。


 そうか、ププト様は最後の最後に全員の心を一つにまとめようとしていたのか。


 さすが上に立つ人間、考えている事が深いなぁ。


 拍手は次第に小さくなり、再び静寂が部屋を支配する。


「折角かまをかけたというのに上手い事持って行くとは、面白くない男だ。」


 前言撤回。


 深い事考えて無かったわ。


 ほんと、このオッサン何してくれてるんだ。


 結果オーライだからまだしも、ここで紛糾したらどうしてくれるんだよ。


 責任とってくれるのか?


 あぁん?


「皆聞いての通りだ。この男は一人では何も出来ないような小さな男だが、心に持っている思いだけはでかい。なによりその思いを自分の為でなく他人の為に使おうとしている。他人の為に何か出来る奴は少ない、どうか彼の為に力を貸してやってくれ。そして私や教会では成し遂げられなかった貧しい者達への支援を君達の力で成功させて欲しい。宜しく頼む。」


 今度はププト様が深々と頭を下げる。


 この街で一番偉い人間が自分達の為に頭を下げている。


 その事実に俺以外の全員が驚き、そして感動した。


 先程以上の拍手が部屋に響き渡る。


 このオッサン、俺をダシに全部持っていきやがった。


 さすがというか何と言うか。


 後で文句の一つでも言ってやろう。


「さぁ、皆準備にかかってくれ!」


「「「「「はい!」」」」」


 総勢30人を越える参加者の声が屋敷を震わす。


 あの、企画責任者俺なんですけど・・・。


 なんて言いだせるはずも無く。


 皆がカリスマを見る目でププト様を見ているのを俺は何とも言えない気持ちで見つめるのだった。


「頑張りましょうねシュウイチさん。」


「凹むな前を向け、お前が一番頑張っているのは皆が知っている。」


「明日は任せてください。」


「私は今日頑張らせていただきます、安心してお待ち下さい。」


 そんな俺をうちの女性陣は優しく応援してくれる。


 うぅ、その言葉が身にしみるよ。


「本業ではありませんがみんなの力が必要です、どうかを貸してください。」


「お任せ下さい。」


「シュウイチはシュウイチのしたいようにすれば良い。」


「イナバ様の為ですから。」


「ご主人様が横道にそれるのはいつものことです。」


 若干1名手厳しい事を言っているがそれもまた正論だ。


 本業ではなく横道にそれた仕事ばかりする男。


 それが俺、イナバシュウイチという男だ。


 これが終わったらちゃんと本業も頑張るから。


 頑張る、から。


 うん。


 頑張ろう。


 そしていよいよ本番を迎えた。


いよいよ本番を迎えます。

裏方の心が一つになっていないと成功する物も成功しません。

ほんと裏方で働いてくださっている人には頭が下がります。

いつもご苦労様です。

毎年夏と冬に行なわれている某イベントも大勢のスタッフさんがいて成り立つもの。

この冬からリストバンドの購入も始まりましたが自分は賛成です。

運営にもお金がかかっていますからね、必要経費だと思います。


自分で書いていて偶に主人公の本業を忘れるんですがあくまでも彼はダンジョン商店の店長です。

チートも無ければ魔法も使えない残念な男です。

そんな男の頑張りをこれからもどうぞ宜しくお願いいたします。

ちゃんと本業の話しも書いていく予定です。

そうじゃないと終わらないですしね。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

10章も残す所後二話を予定します。

どうぞ最後まで宜しくお願いいたします。

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