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とびっきりの罠をご用意して待ちしております

アル君が用意した食器を大き目の布に包み上から棒で叩いて割る。


そうする事で大きな音が出ず、外をウロウロしているストリさんに聞かれる心配もない。


今は少し離れた所にいるようなので大丈夫だとは思うが一応念の為だ。


食器を割る作業はエミリアとニケさんにお任せして俺とアル君で家具を動かす作業に移る。


廊下に対して真一文字になるように。


できるだけ廊下を塞ぐようにして配置していく。


ちなみにリュカさんは実行犯とストリさんを見張る監視役なので作業には参加していない。


別にサボっている訳ではない。


むしろシルフィーの目がないと作戦自体が成り立たないので重要な仕事中なのだ。


「家具の配置はこれで良さそうですね。」


「こんなにワザとらしくていいんですか?」


「それが目的なので大丈夫です。」


「目的?」


「次は太い紐と細い紐の二種類を用意してください、細い方は引っ張ると切れるぐらいの太さで。」


「あったかな、探してきます。」


アル君が廊下の奥に消えていくと同時に今度は二階からエミリア達が降りてきた。


「シュウイチさん終わりました。」


「ありがとうございます。」


「これをどうするんですか?」


「侵入先に撒きたいんですけど、敵が動かない事には難しいんですよね・・・いや、まてよ。」


侵入場所を特定できないのならそこに誘導すれば良いじゃないか。


ワザとらしくではさすがに引っかからないので、明らかに怪しい場所とそこそこの場所の二カ所を準備する。


とりあえずこっちだ。


俺は二人を連れて食堂の方へと向かった。


マンションは別だが、元の世界でも一軒家の台所付近には勝手口がある事が多い。


ほらあった。


今回はこれを上手く利用しよう。


「私はここに物を詰めていくので二人は窓際に先程の破片を撒いていってもらえますか?」


「わかりました」


食堂の窓は全て布で目隠しを施されている。


カーテンのように左右に開閉するのではなく、上下に開閉するタイプのようだ。


そのうちの一箇所だけを少しだけあけておく。


ちょうど覗き込むと勝手口が見える場所だ。


「そこを開けてしまうと勝手口に何か仕掛けているとバレてしまいませんか?」


「それで良いんです。相手は中の様子を伺う為に間違いなくこの窓をつかいます。その時に勝手口に何か仕掛けてあるとわかればわざわざそこを使うことは無いでしょう。次に考えられるのは別の場所からの進入ですが、わざわざ中の様子が見えてかつ誰もいなかったら、危険を冒して他の進入場所を探したりしませんよね?」


「確かに迅速に中に入らなければならないのであれば、安全だと思う場所をすぐにつかうと思います。」


「もちろん勝手口に何かあると思って避けられる可能性もありますが、こうやって物を積み上げておけば・・・、罠と言うよりも物置のように見えませんか?」


「見えなくは、ないです。」


とりあえず侵入先を指定できればそれで十分だ。


それ以外の場所に近づいて来た時に先ほどの場所に誘導する手もなくは無い。


「そしてここから進入すると、足元に撒いた食器の破片を踏みますよね?」


「踏みます。」


「怪我をさせるのが目的ではありませんが、明らかに罠とわかる物があるとニケさんならどう思いますか?」


「次の罠を警戒します。」


「その通り、つまり用心して進行速度が遅くなるわけです。」


「なるほど。」


俺達の目的はあくまでも時間稼ぎだ。


敵が慎重になればなるだけ有利になる。


「それでシュウイチさん達はわざとらしく家具を動かしたんですか。」


「それだけじゃないんですけど・・・。」


「イナバ様ありました!これでいいですか?」


ちょうど良いタイミングでアル君が帰ってくる。


さすがスーパー執事、仕事が早い。


「では太い紐を家具を乗り越えてすぐの足元にピンと張って固定してください。それと、油壺ってありましたっけ?」


「燃料用の奴ならあります。」


「それをですね、えーっと、これに入れて紐をくくりつけてください。」


食堂だけに食器には事欠かない。


次に目をつけたのは何の変哲もないただのガラスコップ。


それに油を入れて下三分の一の部分に細い紐をくくりつける。


ついでだ、これもつかおう。


引き出しを開けて出てきたのはナイフとフォークだ。


フォークって言っても三叉じゃなくて二叉だけど。


「できました。」


「ではそれを先程設置した家具の二つ目に設置しましょう。」


「一つ目じゃないんですか?」


「いきなり罠を仕掛けるとそれ以降警戒されすぎてしまいますからね、二つ目ぐらいで良いんです。」


一つ目を超えていきなり太い紐に引っかかる。


もちろん引っかからなくても警戒ぐらいはするだろう。


そして次もあるのではと、二つ目の家具を越えた先の太い紐罠に意識が行く。


そこを狙って見つけにくい細い紐罠を設置するわけだ。


「紐に引っかかればコップが倒れて中の油が家具の上に広がります。ダンジョンでしたらエミリアの魔法で着火しますが、ここでそれをすると火事になってしまいますので、今回はそこまでにしておきましょう。」


「油だけで警戒しますか?」


「油まみれになるという事は火で襲われる可能性を警戒するわけです。警戒しなくても滑り易いですからこけたりしてくれるかもしれませんよ。」


「そしてそれを見越してこれを置く。」


「その通り、ニケさんも分かってきましたね。」


意地の悪い人ほど嫌な罠を考え易い。


俺はともかくニケさんにはそうなって欲しくないなぁ。


「先程の破片は保険として侵入しそうな別の場所と家具の手前にも撒いておきましょう。複数個所から侵入された場合にも音で把握できます。」


「一箇所だけとは限りませんもんね。」


「破片はエミリアとニケさんに、紐罠はアル君にお任せします。」


「ちょっとちょっと、あのお爺さんが近づいてきたよ!」


と、思ったら上からリュカさんの慌てた声が聞こえてきた。


今度はストリさんですか、まだ開店準備中ですよ。


「何処から来ます?」


「正面から見て左側から!」


「それってさっきの食堂じゃ・・・。」


それはまずい。


今まで何度もここに出入りしている人物があの食堂を見たらどう思うか。


明らかに警戒してしまう。


なんとか勝手口の方から目を逸らさないと。


「ニケさん今すぐ食堂へ!」


「え、でも見られたら・・・。」


「顔を見られなければ良いんです。入口に背を向けて立って下さい。それとアル君はお茶を入れる準備を。」


「今ですか!?」


「罠は私がやります。兎に角、レティシャ王女にお茶を入れている風に見せかけるんです!」


大慌てでアル君とニケさんが配置に着く。


俺達は絶対に見られてはいけない。


その場にしゃがみこみ、リュカさんから見える景色をエミリアに念話で伝えてもらいながら、同時通訳の要領で俺にも耳打ちしてもらう事にした。


「もうすぐ先程の窓付近です・・・、あ、こそっと覗いてる、覗きなんて最低よね。もぅリュカさん、変な事言わないでください。」


同時通訳なので間違ってリュカさんの独り言も伝えてくれたようだ。


うむ、可愛い可愛い。


「覗き込んだまま真っ直ぐ前を見て・・・あ、離れていくみたいです。」


時間にして2分ぐらいしか経ってないと思う。


カップラーメンが出来る時間よりも早くストリさんはその場から離れた。


また家の周りを監視するのか、それとも・・・。


「あら、後ろで控えている人たちの所に行くみたい、です。」


今エミリアが『あら』って言った、『あら』って。


なんだか新鮮だなぁ。


っていうか面白い。


まるで何かを演じているみたいだ。


「恐らく何処にいるかを確認して連絡しに行ったんでしょう。急がないといけませんね。」


「どうしましょう。」


「慌てる必要はありません、大丈夫なんとかなります。」


ストリさんがさっき覗いた場所に誘導してくれる事を祈ろう。


「さて攻め込んで来る前に、急ぎ準備しましょうか。」


「急ぎましょうって、このお湯どうすればいいんですか!」


「そのまま置いといて・・・いえ、それも使いましょう。」


使えるものは使ってしまおう。


怪我とかさせるつもりじゃななかったけど、今思えば向こうはこっちを殺しにくるんだよな?


って事はそこそこ過激にやっても正当防衛が成立する?


そもそもこの世界にそんなルールは無いか。


「多きな器にお湯を移して冷めないように蓋をしてください。二階に持っていって上から流します。」


「お湯だけで良いですか?」


「うーん、他に何かあるかな。」


「油はどうです?まだたっぷりありますよ。」


「いいですね、そうしましょう。」


「大きな家具を滑らせるのはどうでしょうか。」


「面白そうですね、採用です。」


なんだかみんなノッてきたぞ。


まるで悪戯を考える子供みたいだ。


「最初は一階部分の罠を使いつつ、侵入者を迎撃します。ある程度やると向こうも本気で襲ってきますので撤退しつつ二階へ避難。その後は先程の要領で上がって来れないように妨害しましょう。最終的には部屋に篭城する形になりますが・・・、布をいくつか繋いで外に逃げる手段も準備しておいた方が良いですね。」


「だったら一番奥の部屋に逃げましょう、あそこなら下が植木になっているので逃げやすいです。」


「では迎撃している間にその部屋に壁になるような家具を運んで置いてください。時間稼ぎぐらいにはつかえます。」


「イナバ様奥の階段はどうしますか?」


おっと、ここだけじゃないのか。


そうだよな、こんなにでかい屋敷なんだから二階への動線が一か所のはずないよな。


メインは間違いなく入り口すぐのここだけど、妨害された場合はもう一方から上ってくる可能性もあるか。


「そこはリュカさんとシルフィーにお任せします。そこまで来られたという事はかなり危険な状況ですから、やり過ぎない程度に暴れてもらいましょう。」


「そもそも最初から私達が出たら片付くんじゃないの?」


「確かにそうかもしれませんが、こっちとしては王女様の命を狙ってきたという物証もほしい所でして、危険ではありますが襲いかかってもらうのが一番だと思うんです。二階まで敵が来たときは遠慮なくお願いします。」


この中で一番強いのは国内でも数えるほどしかいない精霊士のリュカさんだ。


正直シルフィーの戦力は未知数だが、よほどのことがなければ負けることはないだろう。


最悪屋敷を吹き飛ばしてもらうっていう手もある。


その許可は取ってあるしね。


「あ、動き出した!」


おっと、悠長に準備させてくれなさそうだ。


「時間はまだあります、ゆっくり迅速に!」


「それどっちなのよ!」


リュカさんのつっこみは無視しつつ、一斉に行動を始める。


俺は紐罠の再確認、アル少年はお湯を持って二階へ。


ニケさんも同様に二階へと向った。


あれ、エミリアは?


「私はここにいます。」


「でも・・・。」


「また一人で危ない事をされるんですよね。離れませんって、言いましたから。」


有無を言わせぬ勢いに思わず笑みがこぼれてしまった。


だって、駄々を捏ねる子供みたいな顔だ。


そんな顔しなくても可愛いのにさ。


「危なくなったらすぐに逃げますからそのつもりで。」


「わかってます。」


「紐罠に引っかかったのを確認したらこっちから攻撃を開始します。といっても、用意したナイフなどを投げるだけですが、少しぐらいなら膠着状態を作れるはずです。問題は向こうがどんな攻撃をしてくるかなんですよね。」


「魔法を使ってくるのなら私が何とかします。」


「火の魔法は引火しますから出来るだけ避けてくださいね。」


「あ、そうでした・・・。」


エミリアが得意とするのは火の魔法だ。


でも今回は油を撒いているので使用できない。


「他に何かあります?」


「衝撃を与えるぐらいでしたら何とか。」


「あ、それも良いですね。前方から飛び掛ってくるような時は吹き飛ばしてください。走ってくるときは大丈夫です。」


「飛び掛ってくるときですね。」


「地に足をつけているときと違い踏ん張りがききませんから。一度魔法を見ればむこうも警戒してくれるでしょう。」


威嚇の意味もこめて最初にぶちかましても良いのだが、そうなると隠し玉にならない。


事前に構えられるよりも不意打ちの方が効果は高いしね。


後はもう臨機応変に行くしかないだろう。


二階でドタバタという音が聞こえる。


残された時間は残り後わずかだ。


「もうすぐ来るよ!」


「準備できましたか?」


「二階大丈夫です、もうすぐ家具も入れ終わります。」


「ニケさん、最初だけ降りて来てもらって良いですか?」


「わかりました!」


ニケさんには大事な仕事がある。


それさえ済めば後は安全な所にいてもらうのが良いだろう。


「どうするんですか?」


「こういう場合は敵の警戒心が強いですからね、エサを準備するんです。」


「エサ?」


「彼らからしたら今のニケさんの姿は飛び掛りたくなるぐらい美味しそうに見えるって事です。」


相手の姿が見えず攻撃された場合、相手はどうするだろうか。


それを考えた時の保険だ。


「シュウイチさん、予想通り食堂の窓から来るみたいです。」


「ストリさんはいますか?」


「えっと、・・・いる、みたいです。」


お、実行部隊に合流するのか。


自分は離れた所で見学かと思っていたが、よっぽど今回の作戦に自信があるんだな。


もしくは何が何でもレティシャ王女の命が欲しいか。


まぁ、ここに攻め込んできた時点で作戦は失敗しているんだけどね。


ざまぁみろ。


鬼が出るか蛇が出るか。


緊迫した状態にも関わらず、不謹慎にも胸が高まるのを感じるのだった。


短い時間で準備をするのって大変です。

あれもこれもと言いたいところですが出来る事は限られているわけで・・・。

そんな中でできるとびっきりの罠を準備してみました。

本当はあんな罠やこんな罠って思ったんだですが、物理的に無理そうなのでやめました。

ダンジョンの中ならできそうなので、思いついた罠はいずれ別の機会に使ってみようと思います。


いよいよ敵が攻め込んできます。

次話にて終わらせるつもりではありますが長くなったらごめんなさい。

なんて布石を置きまして今回はこの辺で。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願いします。

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