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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第九章

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温かい気持ちで迎える朝

ギルドで冒険者からの大歓迎を受けてシルビア様の館に戻ったのが夕刻。


半日近くあそこにいたことになる。


ティナさんからの報告だけならそんなに時間はかからなかったのだが、冒険者に捕まってからが長かった。


質問に次ぐ質問。


あんなことがあったこんなことがあったと、大盛り上がりだ。


その中にはまだギルドに報告されていないような内容もあったようで、まぁ結果オーライと言えるだろう。


楽しかった。


意識を取り戻してからふさぎ込んでいた気持ちがパッと晴れたような感じだ。


やはり俺は現場で冒険者の空気を感じて生きていきたい。


彼らの成長とともに自分達も大きくなる。


それがシュリアン商店の正しい形と言えるだろう。


それがわかっただけでも行った価値があった。


よかった。


「お疲れ様でした、夕食の準備はできておりますがその前にお風呂などはいかがですか?」


「それがいいと思います。急に体をたくさん動かしましたから、筋肉をほぐしておかないと明日がつらいですよ。」


「ではお言葉に甘えて・・・。」


風呂か。


ユーリやニケさんだったらあの後にそれとも・・・なんて言い出しそうなものだが、さすがにマヒロ様でそれはない。


「なんでしたらお背中御流ししますが。」


「大丈夫です!」


うん、随分とニケさんの影響を受けているようだ。


あのマヒロさんがぼける日が来るなんて。


ニケさんおそるべし。


「本当にお一人で大丈夫ですか?」


「もちろんです!」


思わず返事する声が大きくなる。


いくら意識が無い時に身体を拭かれていたとはいえ、意識が戻ってからはさすがにね。


「では後ほど様子を伺いに参ります。ニケさんお手伝いをお願いできますか?」


「はい!」


着替えもせずにニケさんがマヒロさんの後ろを着いていく。


疲れているはずなのにどこか嬉しそう。


マヒロさんと話しをしている時は特にだ。


買受をする前はここでお世話になっていたし、それもあるかもしれない、


「じゃあ私は着替えてきます。」


「では私はご主人様の着替えを準備しておきましょう。」


「シュウイチさんゆっくりあったまってくださいね」


「お言葉に甘えさせていただきます。」


二人と別れてお風呂場へと向かう。


家に戻ったら自分でお風呂を沸かさないといけないのか。


いや、沸かすのはともかく水くみと薪割が問題だ。


片手で出来るのか?


食事当番も回ってくるだろう。


うぅむ、片手が不自由でも何とかなるだろうと思っていたがやはり不便な事に変わりは無い。


そういえば元の世界で一度インフルエンザにかかって大変な目にあったっけ。


高熱で買出しにも病院にも行けず、タダひたすらに備蓄食料で耐える日々。


あの時は本気で孤独死が頭をよぎった。


それ以来備蓄食料を増やし一週間は篭城できるようにしたんだよな。


もちろん薬の備蓄もバッチリだ。


でも、俺はもう一人じゃない。


何かあったら自分で背負い込まずにみんなに助けてもらえる。


こんな所でも他力本願100%だ。


まぁ、これが俺の平常運行だな。


脱衣所で着替えを済ませ一番風呂をいただく。


かけ湯を忘れずにっと。


少し熱いお湯がぴりぴりと皮膚を刺激する。


あぁ、極楽だ。


目を閉じてもう一度ギルドでの時間を思い浮かべる。


冒険者達の嬉しそうな顔。


誰もが俺の復帰を心から喜んでくれた。


店が再開次第来てくれると言ってくれた初心者冒険者。


店にはいけないが、引き続き捜査に協力してくれるという中級冒険者。


ギルドとしても積極的に情報を提供してくださるそうだ。


周りには俺の事を助けてくれるたくさんの人たちが居る。


あぁ、俺の半年の頑張りは決して無駄じゃなかったんだな。


「シュウイチさん、起きていますか?」


とか何とか色々考えていると、ドアの外からエミリアの声が聞こえてくた。


突然の事にパッと目を開けると顔の半分以上が湯船に沈んでいる。


あぶな!


復帰早々溺死するところだった。


暗殺者の狙撃では死ななかったのに風呂で死ぬとかかっこ悪すぎだろ。


「だ、大丈夫です起きてます。」


「そうですか。なかなか戻ってこられないので・・・大丈夫ならいいんです。」


「心配をかけてすみません、すぐ上がります。」


「あ、あの、よかったらですけど、お背中お流ししましょうか?」


な、なんだって!


エミリアが俺の背中を流してくれるだって!?


それはつまり裸と裸の付き合いをするって言う事でしょうか?


ぜひ、背中を流していただきたい。


流していただきたいが、これ以上風呂場に居るといろんな意味でのぼせてしまいそうだ。


ここは大人しく風呂から上がるべきだろう。


「きょ、今日は大丈夫です。」


「そうですよね!すみません、へんな事を言って。」


思わず声が上ずってしまった。


「すぐ上がりますので少しお待ち下さい。」


「お着替えはお手伝いします、大丈夫になったらドアの外に居ますので声をかけてくださいね。」


「わかりました。」


人の気配が消える。


ふぅ、妄想だけでのぼせそうだ。


こんな身体になっても元気な一部分をしっかりとなだめてから風呂場を出る。


肌着は片手でも着れるが服は中々に難しい。


元の世界のように伸縮性が良い服ではないので無理をしたら破れてしまう。


ここは大人しく手伝ってもらうのが一番だ。


「エミリアお願いできますか?」


「失礼します。」


脱衣所のドアが開きエミリアがスッと入ってくる。


「ゆっくり出来ましたか?」


「おかげ様でスッキリしました。」


「たくさんお話されてお疲れではないですか?」


「疲れよりも楽しさのほうが上でした。」


「確かに楽しそうにお話されていましたね。」


「直接冒険者の顔が見れるのがいいですね。やはり私には現場が合っているようです。」


エミリアの助けを借りながら背中越しに会話を続ける。


顔は見えないがなんとなく嬉しそうな雰囲気が伝わってきた。


これがあれか、夫婦の阿吽の呼吸って奴か!


結婚して半年もたってないけどな!


「はい、できました。」


「ありがとうございます。」


動かない方の手はやはり難儀するが手を借りれば何とかなる。


後は三角巾で腕を固定して終了っと。


「明日はどうされますか?」


「明日は騎士団に行こうと思います。本当は色々寄りたい所はありますが、今日の感じからすると一箇所が精一杯ですね。定期便に乗る前に時間があれば魔術師ギルドに顔を出します。」


「魔術師ギルド、ですか。」


「狙撃犯の件について、それとメルクリア様から連絡の言っている件についてです。」


「私の所にはなにも連絡ありませんが、何かあったんですか?」


何かあったんです。


でもこれ以上心配かけるわけにはいかない。


何も出来ない以上、知らせるのは情報が出てからの方がいいだろう。


「別段何かあったわけでは無いんですが、メルクリアさん的にはなにかあったようです。それについても教えてもらえるかなと思っただけですよ。」


「では念話で問い合わせておきます。」


「夕食後でも大丈夫ですのでお願いします。」


「おまかせください。」


騎士団に行く事については深く聞かれなかった。


何のために騎士団に行くのか恐らくエミリアにはもうわかっているんだろう。


むしろ魔術師ギルドのほうが気になるみたいだ。


「皆待ってますし行きましょうか。」


「はい。」


今日出来る事は今日終わらせた。


だから、明日出来る事は明日に持ち越しだ。


今日はゆっくりと休んで明日に備えよう。


時間はまだある。


それに、明日は今日よりももっと大切な話しをしにいくんだ。


シルビア様、会ってくれるかなぁ。


何かしら理由をつけて逃げられそうな気もしないではないがそんな事は許さない。


夫婦の、いや仲間としての大事な話しだ。


それに狙撃犯の情報を持っているのは騎士団だしそれについても情報収集しておかないと。


家に戻ったものの襲われましたでは話しにならない。


必要があるのであれば騎士団から護衛を出してもらう必要もある。


シルビアが戻ってきてくれればその必要も無いのだが、間違いなく戻ってこないだろう。


なんせ俺の意識が戻っているのを知っていながら帰ってこないんだ。


かなりの信念で今回の件に取り掛かっているに違いない。


それでもさぁ、顔ぐらい見に来てもいいのに。


べ、別に顔が見たいから行くんじゃないんだからな!


違うからな!



夕食後、念話でギルドに問い合わせたエミリアから特別何か言われる事は無かった。


言い忘れたのかそれとも言えないような内容だったのかはわからないが、俺の体力が尽きるのが先だったようで気づけば翌朝だった。


お休み三秒とかそういうレベルじゃない。


目を閉じて開けたら外が明るくなっていた。


お風呂場でのやり取りを妄想しなおすとかそんな時間すらない。


瞬きすれば翌朝状態だ。


ザ・〇ールドを使われたらこんな感じなんだろうか。


知らんけど。


「おはようございます。」


「あ、イナバ様おはようございます。」


「おはようございますシュウイチさん。」


「ちょうどご主人様の話しをしていた所です。今日も調子良さそうですね。」


「おかげ様で筋肉痛も無く元気一杯です。」


「では朝食もしっかりとれそうですか?」


「大丈夫です。」


食堂に行くともう三人(マヒロさんを入れると四人)が揃っていた。


遅くまで寝ていたつもりは無いのだが、着替えるのに時間がかかり気づけばこの時間だ。


やっぱりまだまだなれない。


「袖はやっぱり無理でしたか。」


「頑張ったんですけどね。」


「仕方ありません、何でしたらそのままでもいいと思います。」


左手は綺麗に袖が通っているが、右手は通せずに中身の無い状態で垂れ下がっている。


中身も同様に服の中で垂れたままだ。


「ですがこのままでは腕を釣る事ができなくてですね・・・。」


「いっそのこと服を加工しますか?」


「そうするとシュウイチさんの腕が戻った時に着る服がなくなってしまいます。」


治ればだけどね。


「ひとまずこのままで大丈夫です。そういえば、私の噂をしていたそうですがなにか悪い話ですか?」


「悪い話なんかじゃありません、ご主人様がいつ起きて来られるか話しをしていただけです。」


「本当に。」


「本当です。」


「本当の本当に?」


「本当の本当です。」


「そういうことにしておきましょう。」


「ご主人様が疑いの目で私達を見てきます。」


いや、仕方ないじゃない?


「どうすれば信じていただけるでしょうか。」


「そうですね、美味しい香茶を淹れていただきましょうか。」


「そんな事でよろしければ喜んで。」


「それで、本当はどんな話しをしていたんですか?」


「結局信じていないじゃないですか!」


ニケさんナイス突っ込み。


その反応速度は関西人でも中々出せない速度だ。


「シュウイチさんが家に戻られてからの事を話していたんです。」


「戻ってからですか。」


「いつもお願いしていた食事の分担やお風呂など、片手でこなせない事もありますから。」


「鍛えればどれでも片手で出来るとマヒロ様は仰るのですが、現実問題難しいですよね?」


「すみませんひ弱なもので。」


その辺は俺も考えたが今の筋力じゃとうてい無理だ。


もう少し鍛えないと話しにならない。


利き腕だったら何とかなったかもしれないけれど、逆の腕だからなぁ。


「鍛えれば大丈夫です。」


「この調子なんです。」


「私が出来るのですからイナバ様にも可能です。むしろ今出来ないとシルビア様が戻られてからが大変だと思います。」


「シルビアが戻ってから・・・。」


想像してみよう。


シルビアがこのゴタゴタを解決して戻ってきたとする。


家の分担の話しになり、一人で薪割り出来ない事に気づく。


じゃあ、私がやろう!となるだろうか。


いいや、ならない。


『鍛え方が足りないのだな、今日からみっちり鍛えてやるから安心しろ。来期には出来るように鍛え上げてみせる。』


とかなんとかいいそうじゃないか?


違う。


言いそうじゃなくて、絶対言う。


うーむ、早いうちに来る必要があるか。


「・・・頑張ります。」


「良い心掛けです。ですが、少しでも負担を軽くするために良質の手斧を準備する事をオススメします。」


「なるほど、手配してみます。」


「必要であれば私が使っていた物をお譲りしましょう、黒鋼の一級品です。」


「いや、それはさすがに申し訳ないです。」


「貰っていただかないと新しい手斧を買えないまま冬を迎えることになってしまいます。」


あ、つまり買いなおす口実が欲しいと。


「つまり口実が出来るわけですね。」


「さすがイナバ様。」


マヒロさんも中々に策士のようだ。


俺に譲ったと言えばシルビア様も文句は言わない。


なるほどなぁ。


「では、ありがたく頂戴いたします。」


「明日の朝までには研ぎ終えておきますので今しばらくお待ち下さい。」


最高の道具を使っていて出来ないはただの言い訳だ。


つまりこれで俺の逃げ道は無くなったわけだな。


ぐぬぬ、がんばろう。


「朝食後はすぐに騎士団に行きますか?」


「そのつもりです。」


「着替えはどうされます?」


「騎士団に行くのにあの鎧を着ていく体力はもうありません。今日もフードだけにします。」


「では今日はいつもの格好で行きますね。」


「それはそれでちょっと残念です。」


似合っていたからなぁ。


いつもと違う分新鮮さもある。


決してコスプレプレイがしたいわけでは無いのであしからず。


「ご主人様コスプレというのはいったい・・・。」


「ユーリは黙っていなさい。」


また心を読むんだからこの娘は。


「恥ずかしいですがシュウイチさんが望むなら・・・。」


エミリアも反応しない!


っていうか意味わかっていっているんですか?


「恥ずかしいんですか?」


「いつもと違って肌が見える部分が多くて。」


「そのぐらい見せた方が男性は喜びますよ、エミリア様。」


「ふむ、つまりご主人様は露出が多い方がお好きというワケですね。」


「確かに嫌いじゃないですが、世の男性全てというワケではありません。」


生足よりも黒タイツの方が好きな人も居る。


つまり露出が多い=全ての人が好きという方程式は成立しない。


人の性癖と言うのは海よりも深いのだよ。


「そういうものなんですか。」


「そういうものです。でも、エミリアのあの格好は好きですよ。」


「気に入ってもらえて嬉しいです。」


またそんな顔でハニカムんだからもう。


可愛いなぁ。


「ムムム、私達も嫌われないように何か手段を考えねばなりませんねニケ様。」


「そうですね。」


「ニケさんもユーリも良く似合っていましたよ。」


「ですがご主人様を興奮させるには至っておりません。」


「いやいや興奮させないでくださいよ。」


「いけませんか?」


「・・・目のやり場に困るので自重してください。」


「ご主人様がそういうのであれば致し方ありません。」


この二人には困ったものだ。


俺をドギマギさせていったいどうしようと言うのだろうか。


「とりあえずは朝食を食べてからの話です、折角のご飯が冷めてしまいますよ。」


今日は騎士団にいく大切な日だ。


それがわかっていて皆俺の気を紛らわせようとしてくれているんだろう。


みんなありがとう。


温かい気持ちに包まれながら、俺は美味しい朝食に口をつけるのだった。


・・・気を紛らわせようとしてくれているんだよね?


背中を流すと言われて喜ばない男が居るだろうか。

いや、いない!(反語法)

どうも全国100万人の黒タイツファンの皆さんこんにちは。

生足も好きですが黒タイツの方が好きな作者です。

え、聞いていない?

どうもすみません。

書くのが楽しくなってしまい話が長くなってしまいました。

お許し下さい。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

また次回もお読みいただければと思います。

どうぞ宜しくお願いいたします。

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