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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第一部 第一章

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いつでもお任せエミリア急便

 とりあえず地獄絵図は回避できたが、花園は存在しなかった。


 良かったのか悪かったのか。


 とりあえず言える一言は、残念。


「無理もないか、短時間とはいえ、慣れない作業していたわけだし。」


 魔力を使うのがどれ位疲れるかなんて見当もつかない。


 起こさぬよう備え付けのソファーに横になると同時に、ものすごい疲労が全身を襲ってきた。


 そうか、現実でみっちり仕事してその足でこっちの世界に来て約半日過ごしているわけだ。


 ほぼ丸1日働きっぱなし、気も使って、考えて。


 疲れないわけがない。


 このまま夢の世界に逃げてしまいたいが、村長との引継ぎも油の件も何一つ終わっていない。


 あー、でも10分寝たい。


 アラームつけて少しだけ寝よう。


 悲しいかな職場での仮眠に慣れてしまって、アラームの音でばっちり起床できてしまう。


 不必要な社畜スキルだ。


 お休み。


 ・・・・・・・・・・


 ・・・・・


 ・・・


 ピピピピ


 五回目の音が鳴る前に反射的にアラームを止めてしまう。


 もう10分経ったのか。


 なにか、ぜんぜん寝た気がしない。疲れも取れた気がしない。


 エナジードリンク系の何かが無いと体が起きない体になってしまったのだろうか。


 と、思ったそのとき。


「何の音ですか、何事ですか!。」


 ベットで寝ていたエミリアがアラームの音に驚いて飛び起きた。


 文字通り、ガバっと上半身を起こし周りを見渡している。


「おはようエミリア。起こしてしまったようですね、すみません。」


「あ、シュウイチ様おはようございます。先程のはシュウイチ様の手にあるものから出たのですか。」


「あぁ、スマホですか。仮眠をしようと思いアラームをかけていたんです。」


 エミリアに向かってスマホを構え、カメラモードにして写真を撮る。


 電子音と同時にフラッシュがたかれ、不思議そうな顔をしたエミリアが画面に表示される。


「今の光は何でしょうか、光魔法か何かのようですが。えぇ、その中にもう一人私がいます。」


 昔漫画で読んだ、過去にタイムスリップして携帯電話を見せたときの反応と全く同じである。


 写真という物がないこの世界ではこれが当たり前の反応なんだろう。


「写真という物です。この機械で先程のエミリアを覚えて残してくれるんですよ。」


「過去の出来事をこんなに鮮明に残すことが出来るのですね。シュウイチ様の世界に行ったときに皆様同じような機械を触っておられました。すごいです。」


 すごいのはスマホであって俺ではないのだが。


「いずれ電池がなくなれば使えなくなりますが、それまでは何かしら使えるかもしれませんので大事に持っておきます。」


「この世界には無い物ですね。異世界の物をこちらの世界に持ち込むには専用の書類が必要になりますので、あまりお見せにならないほうが言いかと思います。ただ、興味があるのでまたこそっと見せてください。」


 はにかんだ顔で可愛くおねだりされると、おじさん断れないじゃないですか。


 この娘、やはり小悪魔である。


「失礼します、お二人共夕食の準備が出来ましたのでおいでください。」


「畏まりました、すぐ行きます。」


 村長の声がする。


 どうやら夕食が出来たようだ。ということは、オッサンも戻ってきたということだな。


「すみませんシュウイチ様、先に行っててもらえますか。」


 よく見ると、ピョコンと後ろ髪が起きてしまっている。寝癖がついてしまったようだ。


 恥らう顔が可愛すぎて、意地悪したくなるのはただの変態だからなのかはたまたおっさんの通常思考なのか。


「急ぎませんので、ゆっくり準備してからきてください。」


 女性は準備に時間がかかるものだ。先に行って待っておくことにしよう。


「よう兄ちゃん。ちょっとはすっきりしたか。」


「多少は。欲を言えば食事をして今すぐ倒れこんでしまいたいぐらいには疲れていますけどね。」


「豪華な食事ではございませんがたくさん召し上がってください。おや、エミリアさんの姿が見えませんが。」


「お待たせしました。遅くなりまして申し訳ありません。」


 綺麗に身なりを整えたエミリアがタイミングよくやって来た。


 どれどれ、どんなメニューかな。


 スープのようなものと、焼いた何かの肉、そしてハード系のパン。


 見た目は普通なのだが、異世界なだけに材料が何か見当もつかない。


「ニッカさん、モフラビットの肉とは豪華だな。」


「せっかくのお客人、しかもこの村の為に頑張って下さっているお二人をおもてなしするには些か物足りませんが、これが今出来る精一杯になります。ドリス、お前も今日はよく働いてくれた。」


「働いたのは他の連中だし指示を考えたのはこの兄ちゃんだ、俺は特に何もしてねぇよ。」


「では、お前は食べないで帰ってもらってもかまわないぞ。」


「それはないぜ。」


 場が和み、皆から笑いがこぼれる。


 なるほど、モンスターの肉か。


 モンスターといっても野生動物だしよほど変な生き物でなければ食べるのが普通だろう。


 スライムとか虫とかは食べれそうに無い。


っていうか食べたくない。


 それに、疲れた体に温かいスープと栄養のありそうな肉。これ以上贅沢言うものではないな。


 ためしに一口たべてみる。


 うん、美味しい。


 ウサギは鶏肉のようだと聞いた事があるが、まさに鳥の胸肉を食べているよう感じだ。


 ちなみに、あれは鳥ですよと言って生臭坊主が食べたから今でもウサギは匹ではなく羽で数えるのだそうだ。


 少々贅沢を言えば塩気が足りない。全体的に薄味なのは現代の濃い味に慣れすぎたせいだろう。


 これはこれで十分美味しいのだ。


「大変美味しいです。ありがとうございます。」


「お口に合った様でなによりです、たっぷりと食べて疲れを癒してください。」


 エミリアも美味しそうに食事を取っている。


 食べ方も綺麗だし、何より美味しそうに食べるのが大変よろしい。


 やはり食事は笑顔で食べるのが一番だ。


「ところで、塀と堀のほうはどんな感じですか。」


 食事も終わりに近づき、村長がオッサンに声をかける。


「塀のほうは前々から出来上がっているから問題ない。念のため南門のほうはこの前よりも強度が出るようにしておいた。堀のほうも明日の昼ぐらいには予定していた深さぐらいまでは掘り終わるだろう。」


「私の方は明日南門の前にある広場に罠を張ります。溝を掘り油を流し込んで頃合を見て着火します。その為に人手をお借りする予定です。」


「なるほど罠ですか。それで先程油について聞かれたのですね。」


「ですが町に買いに行くのも難しく、量を減らすことも考えていますが減らせば威力がなくなりあまり効果がありません。最低でも大甕8つ。欲を言えば10ほしいところではありますが何で代用するか考えているところです。」


 最大の難関はこの油だ。


 これが無いことには何も始まらないし、むしろアリの討伐に支障が出てしまう。


 大量に撃退する為にはどうしても火気が必要なのだ。


「大甕10個分ですか、少々難しい物がありますな。」


 わかっている。


 わかってはいるんだ。


 しかし、無理を通して道理を蹴っ飛ばさないといけないんだよ。


 兄貴がそう言っていたんだ。


「油でしたらこちらで用意できますよ。」


 なんだって、今なんていった。


 9回2アウトフルカウントで追い込まれたこの場面だというのに、まさかのここで逆転ホームランの手がエミリアから発せられるとは。


 うちのエミリアの姉さんが通りを蹴っ飛ばす手段を知っているらしい。


「用意って、どうやって油を用意するんだ。町まで行くにしても馬車もなければ徒歩だなんて到底間にあわねぇぞ。」


「町に買いに行くのではありません。わが商店の仕入れ窓口を使えば明日のお昼にはお届けできるかと思います。通常商店への卸にしか使用できないのですが今回は事情が事情ですし、商店の前に届けてもらって後は自分たちで運べば夕刻までには間に合います。」


 そうか、その手があった。


 商品販売はそもそも自分たちの商店連合の十八番じゃないか。


 油であれば冒険にも使えるし、商店が扱わないわけが無い。


 注文すれば翌日には届けてくれると仕入れの説明のときに受けたじゃないか。


 すっかり忘れていた。


 すごいぞ商店連合。


 すごいぞエミリア急便。


 アマ〇ンなんて目じゃない企業力だ。


「これで罠の件は何とかなりそうです。ありがとうエミリア、エミリアのおかげで助かりました。」


「そんな、私たちはただ商品の販売を行うだけですから。たくさんのご購入ありがとうございます。」


 エミリアの笑顔がまぶしい。


 まぶしすぎて目も開けられないからとりあえず拝んでおこう。


 ありがたやありがたや。


 神様仏様エミリア様。


 よし、大量の油が出来れば罠のほうも火矢のほうも問題ない。


 なんだったら火炎瓶でも作れてしまえるだけの量がある。


 何か適当な陶器に油をつめて火をつけた紙を挟んで投げればあら不思議。着弾と同時に燃え広がる火炎瓶の出来上がりだ。


 良い子はまねしちゃいけないぞ。


「商店連合はそんなことも出来るのかよ。これからは、町まで行かなくてもすぐそこの商店で買えば問題ないんじゃないか、なぁニックさん。」


「えぇ、私たちにも販売して頂くことは可能なのでしょうか。」


「皆様は当商店の貴重なお客様ですので、ご準備の出来る物でしたら喜んで販売させて頂きます。正規の値段になってしまいますがお許しください。」


 新しい顧客の心をがっちりと掴む営業トーク。


 そして、掴んだ顧客の心をとりこにする営業スマイル。


 エミリア恐ろしい子。


 こんな非常時に新しい顧客をしっかりと確保するなんて。


「支払いはどうすれば良いんでしょうか、仕入れを行う以上代金が発生しますが。」


「購入はシュウイチサマ名義で行いますので、今回はお給料のほうから天引きになりますからお支払いのほうは大丈夫ですよ。」


「え、給料から天引きされるの。初任給もまだなのに。」


「御代はすべて終わりましたら村のほうからお支払いさせて頂きます。その為にも、今回の件イナバ様にがんばって頂かないといけませんな。」


「がんばれよ、兄ちゃん。頼りにしてるぜ。」


 参ったな。


 ここで何とかしないと給料目減りしたままだ。


 事件解決の暁には成功報酬の分も上乗せしてもらわなければならない。


 ふふふ、小遣い稼ぎの為にもがんばらせて頂きましょうか。


「では成功した暁には、御代と商店のほうに家が出来るまでこの村への滞在をお許しいただきたい。なにぶん二ヶ月程宿なしでして、町に宿を借りるぐらいであればここに住まわせて頂くほうがいろいろと便利なんです。」


 ついでにホームレス問題も解消させてもらおう。


 給料が少なくなった状態で宿に泊まって二か月分も払うことなんて出来ない。


 というか、前払いだったら今一文無しだから泊まれないし。


 エミリアに出してもらうのもなんというか、プライドが許さないというか。


 やっぱり自分で払いたいじゃない。


 いいとこみせたいじゃない。


 くだらない男のプライドの為にも、ここはこの村に住まわせて頂いてあわよくば滞在費浮かせてお小遣いアップ!という作戦もありなわけだ。


「そんなことでよければ是非わが村にご滞在ください。」


 アリ退治をして給料もお小遣いも住居もゲットだ大作戦、失敗できないな。


「それでは、そろそろこの辺でお開きとしましょう。明日が正念場です、皆様よろしくお願いします。」


「しっかり休んで明日は頼むぜお二人さん。寝坊するんじゃねぇぞ。」


「明日こそは蜜玉の場所を突き止めて見せます。皆様お疲れ様でした。」


 そんなこんなで夕食と情報共有会は終了。


 各々の部屋と家に戻っていった。


 油の件も家の件もなんとかなったし、後は明日すべてを片付けることが出来ればベストだ。


 蜜玉の件もアリの襲撃も失敗は許されない。


 失敗できないからこそ、やりきらなければならないのだ。


 追い込まれると燃え上がるタイプなのでちょっとテンションが高くなってしまう。


 みなぎってきたぜ。


「それではシュウイチ様、私たちも休みましょうか。」


 本番前にもう1つ重大な問題を忘れていた。


 今晩、エミリアと同じ部屋で寝るんだった。


 どうしよう、別の意味でみなぎってきてしまいそうだ。


 落ち着け俺、落ち着け息子。


 まだ早い、まだ早い。


 せめて、明日のイベントを終了してフラグを立てなければ。


 好感度アップしないまま分岐を間違えるとバットエンドへ一直線だ。


 今は身を伏せ、時期を待つのだ。


「エミリアはどうぞベットを使ってください。私はソファーで寝ますので。」


「そんな、私こそソファーで十分です。シュウイチ様のほうがお疲れですからベットでお休みいただかないと。」


「いいから寝てください。あまり快適すぎると寝坊してしまいそうなので、ソファーで十分です。」


 むしろソファーで横になっているときに、はだけた毛布の隙間からおみ足を拝見しようものならルパンダイブをして飛び掛ってしまいかねない。


 エミリアちゅぁぁぁぁぁん。


 非常に危険だ。


 いろんな意味で終わってしまう。


 お願いだ、エミリア。今日はそのまま引き下がってくれ。


「そうですか。シュウイチ様がそこまで言うのであれば遠慮なく使わせて頂きます。ですが、しんどいようでしたらいつでも代わりますので仰ってくださいね。」


「その時はお願いします。」


 それで良いエミリア。


 それでいいんだ。


「ではまた明日。よく休んでくださいね、エミリア。」


「シュウイチ様もお休みなさい。」


 ジャケットを椅子にかけ、ソファーに横になり毛布をかぶる。


 ズボンも脱ぎたいところだが、さすがにそこまでの度胸はなかった。


 日用品も何も持ってきてないからな、終わったら少しずつそろえていかなければ。


 着替えも下着も何もない。


 このまま寝返りを打つようにしてベットのほうを向いて寝ればあわよくば素敵なシーンが見れるかもしれない。


 そんなことを思いながらも疲れから来る強烈な睡魔に抗うことも出来ず。


 深い深い眠りの奥底へと、文字通り落ちていった。


 ぐぅ。


 そして、次の日。


 大事な決戦の日に


「ヤバイ寝坊したぁぁぁぁぁぁ!!」


 盛大に寝過ごしてしまった。




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