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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
七章

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価値を誰が決めるのか

いきなりの不認可認定。


てっきり話が全部決まっているパターンかと思ったけど違うようだ。


「そんな、話が違いますよ!」


グランさんが食ってかかる。


あれ、決まってるパターン?


まぁどっちでもいいや。


ダメと言われた理由が重要だ。


もっと価値を出せという事だろうか。


「バスタさんはどう思われますか?」


「私どもとしてはお金を支払っていただけるのであれば喜んで馬車を引く用意があります。ですが、なにぶんこちらも商売ですので利益を出せない以上お受けするのは難しいかと・・・。」


「輸送ギルドは乗り気ではないという事ですね。」


「うちとしてはプロンプト様推薦のお客様をお断りするつもりは無いのですが、推薦者ご本人様が御納得いただけないのであれば無理にするつもりはありません。」


「バスタさんまで!これじゃあうちのギルド長に大目玉を食らっちゃいますよぉ。」


大目玉って久々に聞いたな。


輸送ギルドとしては、利益が出ないならやる気は無いということか。


非常にシンプルでよろしい。


商人なら当然の考え方だな。


「話はこれで仕舞いか?ならば私はこれで失礼する。プロンプト様には私のほうから協議は不調に終わったと説明しておこう。」


「不調に終わったというよりかは一方的に打ち切られただけですけどね。」


「代理とはいえ私への口の利き方には気をつけろよ若造。」


「そちらこそ話を一方的に切り上げるのは随分なやり方ですね。私のほうからププト様に事情を説明する書簡をお送りしすることも出来ますから。エミリア、今のやり取りは全て記録に残していますね?」


「全て記録しています。」


会話が始まった時からエミリアは書記として徹してくれていた。


非公式の会合ながら相手が相手だ、エミリアもその辺りをよく理解している。


さすがですエミリアさん。


「それは脅しか?」


イアンがジロリと俺を睨みつける。


睨むだけで人を殺せそうな目だ。


今までの俺だったら怖くてちびってしまうところだが、つい先日もっと怖い目にあったのでそんな事じゃビビらない。


両手に穴を開けられたらさすがに困るけどさ。


「友人としてあのお方に手紙を出すだけです。先日の失踪事件に関する報告書も送らなければなりませんのでそれと一緒に送れば済みますから。」


「なるほど、この俺を敵に回す覚悟があるということか。」


「貴方がどれだけ偉い身分かは存じ上げませんが、身分を振りかざして話をするのはどうかと思います。対等な目線で話が出来ないのであれば、どうぞお帰り下さって結構です。」


俺は入口に向かって手を向ける。


正直この人が居なくても輸送ギルドとはイベントの件で話をつけるつもりだった。


顔合わせの機会を作ってくれただけでこの人はもう用済みといっても良い。


役人と仕事をするとややこしくなる事が多いから、民間同士で話をさせてほしいものだ。


「いいだろう、俺を敵に回した事を後悔するが良い。」


「エミリア、お客人がお帰りになります。お送りしてあげてください。」


「わかりました。」


メモしていた手を止めエミリアが立ち上がる。


「イナバ様困ります!」


「バスタ様もどうぞお引取り下さい。相手に関係なく商売が出来ない方とは手を組む事はできません。」


「私達はそんなつもりでは・・・。」


「グランさんは申し訳ありませんがティナさんに宜しくお伝え下さい。今のお話はそのまま伝えてくださって結構ですので。」


「おい。」


「いけませんか?難しいようでしたらこちらからティナさん宛てに手紙を出しますから問題ありません。」


役人に目をつけられようが知ったことじゃない。


もちろん仕事はしにくくなるが、そんなことで俺の邪魔をされるのはごめんだ。


冒険者が来てくれるようになる。


誰かの手を借りられないなら自分で呼び込むまでだ。


「さっきから聞いていれば随分と親しい人間が多いようだな。」


「それはもちろん。ププト様には御贔屓にしていただいていますし、冒険者ギルドのティナギルド長とはつい先日命を掛けた仕事をした仲です。魔術師ギルドのフェリスギルド長には頭は上がりませんが、ミド博士とは良い取引先として商売させていただいております。そういえば先日のププト様のお披露目の際には元老院のガスターシャ参謀ともお話させていただきましたね。」


我ながらすごい人脈を築きあげたものだ。


ちなみにメルクリア女史とシルビア様は身内なのであえて名前は挙げないでおく。


「貴方がどれほど身分の高い人間であろうとも、それを振りかざすような人間であるのであれば私の縁を最大限に利用させていただくつもりです。私を敵に回すのであればそれなりの覚悟を持って敵対してください。」


これが脅しだ。


そっちが手を上げるならこちらにもそれなりの用意がある。


お互いの手の内を知ってなお戦いを挑むのであれば、相手がそれだけ自信があるかただのバカかそのどちらかだ。


「ただの商人ではないと聞いていたが、想像以上だな。」


「私はただの商人です。それ以上でもそれ以下でもありません。」


「わかった。ププト様には正しく伝えるとしよう。」


どうやらバカではないようだ。


イアンは深く頷くと促されるように入口へと向かう。


あれだ、ここで帰らせたら負けたってことになるわけですよ。


説得できなかったと思われるわけですよ。


「ここまで話しておいてなんですが、より価値のある話があるのですが聞いてから帰るというのはいかがですか?」


「何?」


ここで帰すのは俺のプライドが許さない。


どれ、頭の固い役人を納得させてみようじゃないか。


「初心者冒険者だけでは価値が無いと判断する理由、それは『税金』が増えないからではありませんか?」


「ほぉ、如何してそう考える。」


「冒険者は一応ギルドには属していますが基本は流れ者です。定住せず毎年決まった金額の税を納めることもしない。それでいて街で問題を起こしその対応に税金が投入される。金を使わせるだけのお荷物ともいえますね。」


イアンが意外そうな顔で俺を見る。


グランさんはなんともいえない顔をしているが後でちゃんとフォローするから許して欲しい。


「それがわかっていながらそれでも価値があるという理由を是非聞かせてもらおうか。」


「もちろんです、どうぞお掛け下さい。エミリア、セレンさんから皆さんのお茶を貰ってきてくれますか?」


「わかりました。」


イアンが椅子に戻りエミリアが外に出る。


さぁ、俺の腕の見せ所だ。


「先ほども言いましたように初心者冒険者が中級冒険者に上がったところで直接入る税金は増えません。もちろん彼らが増えた事で依頼をこなす量も増えますから、その分の税はギルドから支払われるでしょう。ですがそれは彼らが支払ったものではありません。」


「その通りだ。ギルドからの税が増えても彼らが支払うものが増えないのであれば意味が無い。」


「貴方は冒険者が税を納めるべきだとお考えですか?」


「領内に定住せずとも留まっているのであれば、その分の税を納めるというのが筋ではないか?」


この世界の税金については詳しくないが、そこに住む者に支払いの義務があるのであれば定住していなくても支払う義務があるといえる。


ちなみに俺は商店連合を通じて税を支払っているらしい。


村ではニッカさんが村人の分をまとめて支払っているとか。


だが、そもそも税金は何故支払わなければならないんだ?


「確かにその通りです。では1つお聞きしますが、そもそも税を納める理由は何でしょうか。」


「税を納める理由?そんなもの義務だからに決まっているではないか。」


「払わない理由を探しているのではないんです。『どのような理由で』払わなければならないのかを聞いているんです。」


元の世界では『住民税』という税を住んでいる地域に納める義務があった。


これはその地で行なわれている全てのサービスを全員で負担するという考えだと俺は思っている。


支払う事で道路が良くなり、公共のサービスを受ける権利を有する。


対価を支払う事で権利を行使する資格を得るという考えだ。


だが、この世界ではどうだ。


領内に住んでいるから支払うとして、その見返りは一体何なのだろう。


「そうだな。支払う事で領内がうまく運営されるからだな。」


「具体的にはどのような事を?」


「道を直し、治水を行い、魔物や他国からの攻撃に対応する。平和を享受する為の対価であるといえるだろう。」


「なるほど。つまりはそれを支払っていない冒険者にはその対価を受ける権利は無いというワケですね。」


「簡単に言えばそうなる。」


「道を使わず、整備されていない土地で、外敵に震えながら過ごすのであれば対価を受けていませんから支払う義務は無い。」


「うーむ、今の流れで行けばそうなるな。」


「もちろんそれは不可能ですから結果として冒険者は税金を納めるべきだとは私も思います。」


税逃れの問答ではない。


何故支払うのかという理由を明確にしたかっただけだ。


「ならばどうやって奴らに支払わせる。」


「そもそも彼らが支払う必要はあるのでしょうか。」


「お前は一体何を言っているんだ?」


「仮に冒険者が支払うべき税金が10あるとしましょう。では冒険者が成長し依頼をこなした結果、他の部分から支払われる税金が10増えるのであれば、それは彼らが支払ったのと同じことにはなりませんか?」


ようは税金が増えればいいのだ。


誰が支払ったではなく、全体で見て増えることが重要だ。


「それでは結局やつらは税を納めていないではないか。」


「直接的には収めていませんが間接的に収めてはいます。彼らが魔物を駆逐すれば、その地における農産物の収穫が上がり結果として税金は増えています。彼らが護衛した商隊が領内外で無事に商いを行なえば、増えた売り上げ分の税金が上乗せされて支払われます。彼らが持ってくる数多くの素材は武器や防具に加工され、それを自ら消費する事で商店の収入が増え結果として税金が増えます。」


彼らがもたらす富の一部は税として徴収されている。


彼らが居る事で税は増える。


つまりはその増えた分の税は彼らが支払っているのと同じではないのか?


「増えた分を冒険者の税として考えろと言うのだな。」


「広い目で見て欲しいのです。彼らは決して税金を支払わないお荷物ではない。彼らを育てるという事は結果として領内の利益につながっているのです。」


イアンが腕を組み目を閉じて何かを考えている。


俺が思う事は伝えた。


後はそれをこの男がどう解釈するかだ。


同席している二人は目を白黒させているが、話はこれが済んでからということで。


「失礼します、お茶をお持ちしました。」


と、このタイミングでエミリアがお茶を持って帰ってくる。


こぼす事も無く音も立てずきれいに置いていくその姿は、さすがとしか言いようが無い。


ここで使うんですよ。


さすがエミリアです!


「どうぞさめないうちにお召し上がり下さい。頂き物ですが美味しいですよ。」


「緊張して喉がカラカラだったんです、いただきます!」


グランさんはマイペースだなぁ。


バスタさんはどうしていいのか分からないという感じだ。


俺もしゃべりすぎて喉がカラカラになってしまった。


カップを口元に持っていくと清々しい香りがより強くなる。


あぁ、良い香りだなぁ。


一口含めば香りだけじゃないすっきりとした味が口の中いっぱいに広がる。


美味しいなぁ。


そして食レポ下手だな、俺って。


いいじゃないか。


美味しいものは美味しいでさ。


「店の方はどうですか?」


「先ほど冒険者の方が挨拶に来られていましたが、来客中ですとお伝えするとそのまま帰られました。」


おや、誰だろう。


昨日の今日だから関係者だと思うんだけど、グランさんはここにいるし。


うーん。


まぁいいか。


「お前の話はわかった。もし、お前の言うとおりになるのであれば今回の定期便にも価値があると判断できるだろう。但しその判断はどこですれば良い。1年か?3年か?5年か?」


「冒険者が育つのに最低でも1年はかかるでしょう。育ったかどうかに関しては冒険者ギルドにて依頼の達成件数が増えていれば確認する事ができます。人数が増えれば必然的に達成件数は増えていきますから、そこから何かしらの影響が起きるはずです。もちろん、1年で税金が増えることはないと思いますがね。」


「では結果が伴わなかった場合はどうする。無駄であったと判断されれば定期便を終了されても文句はあるまい。」


「それはもちろんです。」


価値が無いものにお金を出し続けるのはただの無駄だ。


特に今回のように短期間で結果を求められる場合はすっぱり諦める事が重要だろう。


だが定期便がなくなってしまえばうちのダンジョンに冒険者は来なくなる。


ではどうするか。


「仮に定期便を出してくださるのであれば、商店ではなく手前の村とサンサトローズを結ぶ便を作っていただきたいのですが・・・。」


「手前の村ですか?」


今まで話について来れなかったバスタさんが疑問の声を上げる。


「ここに来る時に村を経由したと思いますがそこと街を結ぶのが一番だとおもいます。」


「冒険者からしてみればダンジョンに近い方が望ましいと思うのですが。」


「簡単に言えばここでは不便だからです。馬車の待機所を作れるだけの場所が無いですし、冒険者が多数来た時に滞在できるだけの部屋数もありません。その点、村であれば元々使用していた待機所がありますし、冒険者が滞在できる宿も建築予定です。それにあの村は今後より大きく拡張するようププト様の指示が出ていたと思いますが、そうですよね?」


「確かに来年にかけて拡張する予定にはなっているな。」


「つまりは拡張する為の資材、人員、物資を運ぶ必要があるという事です。定期便があれば冒険者以外の物を簡単に輸送する事ができます。利用者が増える事は輸送ギルドとしても喜ばしい事ではないですか?」


「確かに利用していただければそれだけうちの売上も上がりますから・・・。」


「そして何より、労働者だけでなく冒険者が村に滞在する事によって消費が生まれます。今はまだありませんが宿のほかに商店が出来れば彼らはそこでお金を落とすことでしょう。そうなれば、間接的に彼らが税金を払う場所が増えることになりませんか?」


今回の目標は宿までだが、今後冒険者が増え続けるのであれば早期に商店を営業する事も視野に入れるべきだ。


滞在先に娯楽が無いというのもよくない。


そういった部分で少しずつ村を豊かにしていく事が結果として俺の利益に繋がる。


俺がこの世界で生きていく為には村にも大きくなってもらわねばならないのだ。


「そうなるとお前の利益は減るぞ。」


「全体の利益が増えればそれで良いんです。それに、地理的優位はまだうちにありますから。」


「それも覚悟の上ということか。」


「商店と村は一蓮托生、共に繁栄していく必要がある。その為には何かを犠牲にするのは当然ですよ。」


「結論として冒険者の利益だけでなく領民の利益も考えれば定期便は必要である、お前はそういいたいわけだな。」


「仰るとおりです。冒険者だけで価値が足りないのであれば、そのほかの価値も加えればいいだけの話。あの村にはそれを満たすだけの価値が十分あると思います。」


定期便は俺のためのものではない。


村人、労働者、冒険者、そして俺。


多くの人の為に必要なものなのだ。


「わかった。定期便に関しては私が責任を持ってププト様に進言しよう。」


「宜しくお願いします。」


イアンの言葉に横で話を聞いていたバスタさんとグランさんが大きく息を吐いた。


「一時はどうなる事かと思いましたが、これでティナさんに良い結果を報告できます。」


「イナバ様どうか我が輸送ギルドを宜しくお願いします。」


「こちらこそ宜しくお願いします。」


それぞれと握手を交わし、俺も大きく息をついた。


横をみるとエミリアがニコニコと笑っている。


「これからまた忙しくなりますね。」


「そうですね。でも、これでダンジョンに来る人が増えますよ。」


「冒険者だけでなく村の人のことも考えていたなんて、シュウイチさんらしいです。」


「村が大きくならないと命が無いのは私ですから。」


自分の為だけど、それが誰かの為になるのなら。


人の苦労は買ってでもしろと、昔の偉い人はいったそうだ。


「ププト様より面白い男がいると聞いてきたが、なるほどずいぶんと骨の太い男のようだな。」


「面白いかどうかは別にして、商人としての信念は太いですよ。」


「これからお前とは良い仕事が出来そうだ。」


「お手柔らかにお願いします。」


感情で仕事をする役人ではないということがよくわかった。


これから何かする時には頼りにさせてもらうとしよう。


まぁ、納得させないと話が進まない相手ではあるけれど。


「詳しい事はまた決まり次第連絡を入れる。一度、村長とも話をつける必要があるな。」


「そちらの方もよろしくお願いします。」


「そうだイナバ様、ギルドに持って帰る報告書があれば持って帰りますよ?」


「それは助かります。」


「私取ってきますね。」


エミリアが報告書を取りに席を立つ。


なにもかもすまないねぇ。


「今日は馬車で来られたんですか?」


「うちの一級品で飛ばしてきました。」


「すごいんですよ、速度は出ているのに思ったほど揺れないんです!」


「割れ物を運ぶこともありますからね、うちは迅速丁寧が信条です。」


途中まで舗装されているとはいえ後半は悪路だ。


それで乗り心地が良いというのはすごいな。


「村までの道が舗装されるとしたらどのぐらいかかりますか?」


「そうだな、ここで鍛えられたやつらが10年も働けば可能だろう。」


「もっと短くなるように頑張らなければなりませんね。」


「それもすべてお前次第だ。」


気の長い話だがやるしかないだろう。


10年後の俺がどうなっているか、楽しみなような不安なような。


「私はただの商人なんですけどねぇ。」


他力本願100%に次ぐ最近の決まり文句だ。


ただの商人がどこまで出来るか。


ま、やるだけやってみましょう!

今回はちょっと小難しい話になりました。

税金って言われても私たちには遠い話のように聞こえますよね。

でも案外身近なものなんです。

覚えておくと良いこともありますよ。


企画は少しずつ進行中です。

イベントがうまく行くように、頭を捻って頑張ります。

どうぞお付き合いください。


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