たかが薬草と侮ること無かれ
薬草が銅貨30枚。
現実の金額に換算して3000円。
宿屋の宿泊費と同額と考えると非常に高価なように感じる。
仮に今の給料を元に計算してみるとしよう。
銀貨30枚ということは1日に自由に使える金額は銀貨1枚。宿泊費もろもろが銅貨50枚ということは自由になる金額は同じく銅貨50枚。そこに薬草が30枚とすると1つしか買えない計算になる。
序盤としては回復の主力アイテムなのにも拘らずこの高額設定。
後半のアイテムの値段を考えるともちろん最安値ではあるのだが、あまり金銭的に余裕のない冒険者にとっては非常に効果的であると考えざるを得ない。
ダンジョンに1度潜る度に3個消耗するとしよう。
そうすると最低でも3日待ってからダンジョンに潜るしかない。
もちろん、潜ることによってアイテムやお金が手に入ると考えれば毎日潜ることも可能だろう。
しかしながら、失敗し敗走した場合はまた3日待ってからリトライになる。
これはダンジョンに入ってもらう立場としては非常に効率が悪い。
確かにゲームでも装備を整えてからダンジョンに潜るようにしている。
その装備を整える為にお金を稼ぐ。(ついでにレベルを上げる)
段取りとしてはそれが普通だろう。
つまりは薬草の値段を下げることで回転効率は上がり、魔力の増加は見込める。
しかしそうすると、攻略確率も上昇し攻略されてしまって結局多額のお金が出て行ってしまうのか。
売上が減り、さらに支出が増えることを考えると下げることは出来ないな。
なるほど、そういう意味ではよくできた値段設定なのだろう。
それに、序盤の薬草といえば一つ使えば体力がほぼ全回復してしまう。
そういう意味では命を銅貨30枚で買えると思えば安いのかもしれないな。
たかが薬草と侮ること無かれ。
この薬草が無ければダンジョンの深部に進むことも、命のやり取りも出来ない。
ついでに言えば商売も出来ない。
薬草様々なんだなぁ。
ちょっと薬草のこと甘く考えていた。
ゆるせ、薬草。
「銅貨30枚。ちなみに仕入れはどのように行えばいいのでしょうか。商店連合から仕入れをするのでしょうか。」
原価がどのぐらいかによって利益率が変わる。
一般に小売業は薄利多売であることが多い。
しかしながらこういう商売の場合は数をこなすような商売ではないので、多少利益を多く設定しておかなければ商売として成り立たない。
「仕入れは主に商店連合が窓口となって行います。仰っていただければ翌日にはお店に着くように手配できます。どうしても急ぎの場合は私が直接行き来して持ってくることも可能です。ただ、あまり重たい物はもてませんので頼りにはならないかもしれませんが。」
ア〇クルのようだな。
宅急便は無いだろうから、先ほどのように次元を渡るか何かしてもってくるのだろう。
エミリア急便を使えばアマ〇ンプライムもビックリの当日配送も可能か。
「冒険者から仕入れを行うことも可能ですか。」
「可能です。値段設定は各商店にお任せしますが、大体は商店連合と同じ金額でされるところが多いですね。あまり大量に持ち込まれると在庫がだぶついてしまいますので主に消耗品を冒険者から買い取っておられます。」
冒険者からも可能か。
商店連合より安い金額設定にしておいて仕入れを行えば一石二鳥だな。
しかしながら、商店連合から仕入れを行っていれば在庫を抱える必要はないが、直接仕入れを行うとどうしても在庫となってしまうので、それをうまく捌けるかが大事になってくる。
武器や防具などはいいが特殊アイテムなんかは余り手を出さないほうがいいかもしれない。
「ダンジョンの他に薬草などのアイテムを手に入れることは出来るんでしょうか。」
自生しているならば自分でとりに行くという手もある。
もちろん、休みの日を利用してだが。
まてよ、これも休日に働いてはいけないという規則に引っかかるのかもしれない。
そうなると、原価0円で売り上げがっぽりというわけにはいかないな。
人を雇って取りに行かせるか。
はたまた、採ってきた物を買い取るという手段もあるわけだな。
それ専門にしている冒険者などがいるかもしれない。
冒険者というか一般人だな。
「薬草、毒消しの実、麻痺消しハーブなどはあまり多くありませんが自生しています。風の噂では薬草の栽培が出来たなんていうことも聞いたことはありますが、基本は自生しているのを森などで集めてきます。どの村の子供たちもお小遣い稼ぎとして集めているんですよ。」
やはりアイテムを拾って生計をなすことも出来るわけだ。
職業として薬草の類を集め、商店に卸す。
もちろん薬草以外に木の実や果物だって自生しているだろうから、そういったものを一緒に集めて売りに出せばいい収入になる。
もちろん、採り尽くしてはいけないからそういったことも考えなければいけないだろうが。
ダンジョン商店は地元経済を回すという意味でも意外に重要な立場にいるのかもしれない。
もちろん、そういうことがありえるならば、だが。
「仕入れは商店もしくは冒険者に。なるほど、ただ売るだけではなく仕入れなども重要になりますね。その上でダンジョンも作り上げていかなければいけない。これは以外に大変かも知れませんね。」
かもしれないではなく、大変であることは間違いない。
「商店に関しましては私もお手伝いできますので遠慮なく仰ってください。ダンジョンに行かれている間の店番でしたり経理関係は出来るように仕込まれています。ダンジョンについてはあくまで補助となりますので、人手が足らないようでしたら雇ったり奴隷を買ったりして少しずつ増やしていけばよろしいかと思います。」
「ありがとう、エミリア。頼りにしています。」
「お店とダンジョンもですが、シュウイチ様は街づくりもお願いしなければなりません。後日担当が挨拶に来ると思いますので詳しくはそちらとお話ください。」
別に専門のスタッフが来るのか、それは非常に助かる。
ダンジョンについてと多少の商売は知識としてあるが、街づくりに関してはさっぱりだ。
多少ゲームでかじったぐらいだが、発展に必要な物であるとか、それこそ食糧なんてものは自給する必要があるだろうし、食糧需給率とか考えたたらきりがない。
普通、村といえば家が何軒かあって、村長の家に商店に教会のような所ぐらいなものだろう。
この世界がどの神様を信仰しているのか知らないが、人とがいるということは宗教があるということだ
各種族にも信仰するものがあったはずだし、そういった部分も再現していくべきなのだろう。
「専門の担当がおられるんですね、助かります。」
「私の後輩なのですが、私よりもしっかりしていて頼りになりますので期待しておいてください。」
エミリアの後輩か。
エルフィノ・ホビルトときて次はドワーダか、はたまた亜人種。
美人に幼女と来たら次は獣娘がいいな。
ケモナーまではいかないが、犬耳や猫耳娘は嫌いじゃない。
ちなみに一番好きなのはキツネ耳だ。
先ほどは理想の上司像としてはだいぶギャップがあったから、今回も真逆の可能性はあるのか。
スキンヘッドの強面だったらどうしよう。
地上げ屋もしくはヤのつく自由業のような風貌だと目を見て話せない気がする。
目を見ると殺される。
そう幼いころに教わったのだ。
子供のころの教えほど大人になっても抜けないものだ。
三つ子の魂百までという奴だな。
「エミリアの後輩ですか。楽しみですね、」
「ちょっと見た目は変わっていますがいい子ですよ。」
見た目変わってるんだ。
いい子というからには女の子なのだろう。
強面のおじさん相手に子はつけないだろうし。
とりあえず命の危険はないことはわかった。
「お店はエミリア、街づくりは後輩さん、そしてダンジョンは私。何とかなる気がしてきましたよ。」
「頼もしい限りです。シュウイチ様の手腕を存分に発揮できるよう頑張らせていただきます。」
「ダンジョンの構成や配置などはもちろんしますが、整備までとなるとなかなか大変かもしれませんね。先ほど奴隷を買うというお話がありましたが、市場があるということは普段から売買されるほど日常的なものなんですか。」
現実世界では、表向きは奴隷は存在していない。
もちろん、表向きはだ。
発展途上国やアウトローの世界で奴隷のように売買されている人がいるということを国連が問題視している記事を読んだことがある。
見えない部分、知らない所で人身売買などが行われているのだろう。
見えない、知らない事は結局なかったことにされるのだ。
あれだなブラック企業で奴隷のように働かされていたのだから、自分も奴隷のようなものか。
「日常的に売買されているわけではありませんが、奴隷商人の方々が各節の種期の陰日に市を立てます。暦が1巡する間に4回市が行われる計算ですね。各節に合わせて必要な奴隷が変わりますので、その時々で売買するような感じです。大きな町に行くとご自身の館で売買されている奴隷商人の方もいますので、市を待てない場合などはそちらを利用するといいですよ。」
毎シーズンに1度か。
陰日に市が立つのは人身売買があまりいいイメージを持っていないからなのかもしれない。
ただ、頻繁に奴隷はやり取りされているようだし自分が思っているほどネガティブな印象はないのかもしれないな。
機会があれば見てみたいものだ。
ナイスバディの奴隷を買って、自分の好きなように、あんなことやそんなことを。
ご主人様のいうことが聞けないのか。
やめてください、ご主人様。
ほらほらどうした。
あ~れ~。
ムフフ
「人手がどうしても足りなくなったら選択肢の一つとして考えておきます。ただ。元にいた世界では奴隷なんていなかったものですからどう接していいかわからないですね。」
「あまり難しく考えなくても大丈夫ですよ。奴隷といいましても主人が何でもしていいというわけではありません。あくまで身分が奴隷というだけであって迫害されているわけではありませんから。もちろん、過去にそう言ったことはありましたが、今は不当な扱いをすると罰則が与えられます。」
バカ殿のように好き勝手にしてはいけないようだ。
ちょっと残念。
「なるほど。あくまで奴隷身分というだけで、命は平等というわけですね。」
「平等まではいきませんが、近いものはあります。ただ、冒険者の中では奴隷は危険な時に真っ先に盾として使われますのでそういう意味では主人よりも命の価値は低いんです。」
肉壁、もしくは捨て駒として捨てられることもあるということか。
奴隷としての宿命という奴なのかもしれないな。
「大事な労働力でもあり、捨て駒でもある。難しいものですね。」
「そうですね。奴隷のほとんどが労働力として重宝されていますが、そうでない方々もおられますから。」
破産すると明日は我が身か。
肝に銘じておこう。
「たくさん教えて頂きありがとうございましたエミリア。またわからないことがあったらお願いします。」
「よろしくお願いします、シュウイチ様。それでは実際に商店のほうに移ってお話の続きをさせていただきたいと思いますが、よろしいですか。」
「大丈夫です。」
いよいよ異世界の大地を踏むことができるのか。
どんな世界が待っているのか。
楽しみ半分、怖さ半分というところだな。
「では、こちらの扉からお願いします。」
先ほどエミリアがお茶を取りに行っていた場所の隣に、白い扉が現れる。
うっすらと光が漏れ出し、エミリアが扉を開けたその瞬間。
全身が、真っ白い光で包まれていった。




