表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第三話 末王子、焼ける。

「すまん。グスタフォ、店番を頼む」


「おう」


 店の常連だろうか。カウンターに座っていたおっさんは返事したかと思えばそのまま座って酒を飲んでいる。


 そして俺はサンタクロース似の爺ちゃんがカウンター右奥の階段を上っていくのを見て後をついていく。


 階段を上りきった後、爺ちゃんは廊下左手に一つだけある扉を開けて中へと入っていった。

 右手には扉が二つあり、爺ちゃんが入っていった部屋はカウンターと階段の上にあたる部屋になると思う。

 俺もその部屋に入る。

 その部屋は窓が無く、本棚と机が置かれた書斎のような部屋だった。

 爺ちゃんは本棚に手をかけ大きめの本を取り出し机の上に置いた。

 ――かと思えばその大きな本は入れ物で中から一回り小さな本が出てきた。


 秘密の本だ……。


「この本は手書きのもんじゃが誰にも言いふらさんでくれよ」


 爺ちゃんがそう言って椅子に座り、その本をぺらぺらめくり始めたので後ろから中をのぞき込む。

 書いてあるのは元にいた世界では見たことのない文字だが、なぜか俺には読めた。

 これは王子と王女の簡単なプロフィールをまとめた物だ。


 その時一回から大きな声がした。


「おい! 聞いてるのか! ぐぁあ!」


 なんだ、なんだ。酔った客が喧嘩でも始めたのかと思っていると。


「グスタフォがやられた。誰か上ってくる。」


 爺ちゃんが顔をしかめてそう言った。


 おいおい。俺はまだ変異ってのを使えないんだ。

 どうしたらいい。この爺ちゃん強いだろうか。

 俺がその場で慌てていると俺にも足音が聞こえてきた。

 ……来る!

 

「ふん!」


 ギィィと音を立てて扉が開いた瞬間をめがけて爺ちゃんが適当な本をもの凄い速さでぶん投げた。

 

 しかし、扉を開けた人間には当たらない。一瞬青い炎が見えたかと思えば辺りには塵が舞う。


「火属性か。一階に火をかけたのは貴様じゃの」


 扉を開けた人間は顔を布で隠しており言葉も発さない。

 まるで暗殺者だ。

 そして何だか焦げ臭くなってきた。

 火の手が近づいているかと思えばすぐに俺の周りが180度青い炎で燃えていることに気付いた。

 そして出口を塞ぐそいつの足下も青い炎で燃えている。

 だがそいつは出口の前で微動だにしない。


 絶体絶命だ。

 今度死んだら終わりだろう。

 死にたくない。

 助けてくれ、爺ちゃん。

 さっきの本を投げたもの凄い力で緊急脱出してくれ。

 その熱意が通じたのか、爺ちゃんは言葉を発するがそれは頼りない言葉だった。


「鋼の肉体も火には弱くての」


 どんな猛獣も火には弱いもんなあ……。

 でもとんでもないスピードがあれば――。


「一瞬で火の中を通り抜けられないんですか?」


「わしは老いぼれじゃ。やつに消し炭にされるじゃろう。あやつから行動に出てこればカウンター攻撃も出来たんじゃが、距離をとられ身構えられてはの」


「後ろの壁は?」


「石でできた家が建っておる。今のわしには破壊できん」

 

 万事休すか、くそっ!!

 そう言ってる間にも火の手は迫ってくる。

 すでに熱くて死にそうだ。

 ちくしょう。

 こうなれば俺の力だ。

 隠された俺の力がこの窮地にて発動しなきゃいつ発動するってんだ。


「ちょっとその本見せて下さい」


 もう青い炎は目の前だ。

 急いで爺ちゃんの本をぶんどり、末王子だから最後のページを開こうとする。

 が、次の瞬間――。

 

 ――俺は謎の敵めがけて飛んでいき避けられ


 バアアアン!! 


 と何かにぶつかった。


 ううう。意識が朦朧とする。

 何が起こった……。

 視界がはっきりとしない中なにか人影が近づいてくる気がする。

 襲撃者か……。


「○!※□◇#か!」


 近づいてきた人が、うずくまっている俺の顔をのぞき込んで何か言っているがよくわからない。

 今度は肩を持たれて体を揺さぶられる。

 気持ち悪い。

 やめてくれ。


「大丈夫ですか!」


 やっと意識がはっきりとしてきた。

 俺に声をかけていたのは金髪の女の子だ。

 そして俺は自分に何が起きたのか理解する。

 俺のいる部屋の扉には穴が空いていてそこから青い炎が見えた。謎の襲撃者は見えない。

 俺は向こうから爺ちゃんに投げられたんだ。

 この女の子が救助に来たなら爺ちゃんを助けてもらわないと。

 俺はうずくまったまま爺ちゃんのいる部屋を指さす。


「まだ、人が……。後、敵もいるかも……」


「良かった! 大丈夫ですね!」


 そう言って女の子は扉の前までいって立ち止まる。


「駄目だ! やっぱり人工の火だ! 火が強すぎる……」


 女の子がそう言って扉の前を右往左往する。


 この子も火に対抗できないのか。

 こうしちゃいられない。

 命の恩人を助けないと。

 俺はのっそりと立ち上がる。

 苦しいがもう意識は大分はっきりとした。

 そんな俺を見て女の子が近づいて声をかけてくる。

 よく見れば金髪でポニーテールでメイド服を着た美少女だ。


「あの! もしかして奥にいる人って白髭の……」


「うん……」


 俺がそういうと


「お爺ちゃん……」


 と呟いたかと思えば女の子の瞳から涙がこぼれ落ちてきた。

 

 爺ちゃんだと。早く、早く助けないと。

 本には……あった。

 457王子、引きこもり、風変異

 とだけ書いてある。

 前者は置いといて風変異とはこの青い炎も消せそうじゃないか。


「俺に任せて」


 通りすがりに女の子にそう言い、扉の前へと行く。


「……どうか、どうかお願いします」


 後ろから切実な声が聞こえる。

 よし、今だ。

 今、全力を出すぞ。

 すごい風を飛ばすぞ。

 この青い炎を消すぞ。

 イメージしろ。

 ふんんんんんんん。


 拳を強く握り、腰を低くし力を込める。


 うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 

 ……。


 

 まだか! まだ出ないのか!

 力を込め続けているのに!!



「頑張ってください!」



 女の声を聞いて、さらに力が出たような気がした瞬間――――。



 

 

 

 ビュウウウウウウウウウウウウウウン!!



 風が凄い勢いで出たので思わずつむっていた目を開けると――。



 俺は宙に浮いていて、下には瓦礫の山と化した酒場があり、女の子は向かいの建物の壁に叩き付けられたのか、一緒に飛んでったであろう木材と共に道路の端に横たわっていた……。





  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ