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第二話 末王子、奥へ行く。

 「あった。あった。ここだ。」


 城から歩いて10分ほどの所にある中ぐらいの酒場についた。

 扉は閉まっているが、かわいらしい扉のついた小窓から中が見えるので酒場なのは確かだ。

 

 早速扉を開けて中に入る。

 中に入っても『いらっしゃいませ』と声はかけられない。

 正面のカウンターに白髪と白ひげに顔を追いつくされたサンタクロースの様な店主が一人と客であろうくたびれたおっさんが二人。

 周りの6つあるテーブル席には4グループ座っていた。みんな食事をしておらず酒を飲んでしゃべっているだけだ。大いに盛り上がっている。

 

 軽装で冒険者にも見えないし昼間だというのに酒場で酒を飲んでいるこの人たちの職業はなんなんだ。そういえばこの世界には賞金を稼げるモンスターなど生息しているんだろうか。

 ここに来たのは店主に末王子の情報を聞くためだが、その辺の事も聞いておこう。

 しかし俺はこの国の金など持ってきてないし、酒は飲めないので話を聞かせてくれるか不安である。

 とりあえず正直に無一文をアピールしながら良心に訴えようと覚悟を決めカウンターに座る。


「なんじゃ。おぬし変わった格好をしておるな。」


 サンタクロース似の爺ちゃん店主の方から声をかけてくれた。

 おれは青いTシャツに黒の短パン、靴は体育館シューズという格好でこの世界に来たので確かに浮いていた。


「そうですか? 俺の故郷の民族衣装なんです。」


「ほう。わしは、今までいろんな国の者を見てきたがその様な格好をした者を見たのは初めてじゃな。

 おぬしの故郷はどのあたりにあるんじゃ?」


 まずい。下手に答えても怪しまれるし答えなくても怪しまれる。

 そのへんの人に聞き込みして設定を練ってから来れば良かった。


「それが、今朝道ばたで目覚めたところ、後頭部に強い痛みを感じたのですが、なぜ自分がここにいるのか分からないのです」


「なに! おぬし、金は?」


「一銭も持っていません」


「強盗か……。

 そりゃ災難じゃったの。

 見ての通りわしゃ独り身の老いぼれじゃが、わしで良ければおぬしの言うことを信じ力になってやろう。

 腹が減ってるんじゃないかの? 何か出そうかの」


 思いつくまましゃべってみればすっかり騙してしまった。

 しかし背に腹はかえられない。食事はいただこう。まだ末王子と認められるには時間がかかりそうだ。


「すみません。お願いします。」


「普段、飯はだしておらんので、まずくてもしらんぞ」


 そう言った店主は、ほっほっほと笑いながら鍋を火にかけてくれる。

 数分して芋と野菜と何かの肉が入ったポトフのような煮込み物を出してくれた。

 それがすごくうまかった。煮汁の旨味が体に染みてくる。


「すっごくうまいです。ありがとうございます」


「ほっほっほ。そりゃよかったの」


「質問良いですか?」


「なんじゃ? 聞きたいことがいくらでもあるじゃろう。知ってることは何でも答えるぞ」


 ありがたい。

 末王子について聞く前にまずはこの世界について聞いておこう。


「あの、魔獣っていますか?」


「まじゅう? なんじゃそれは?」


 いないのか?

 いや、呼び方の問題かもしれない。


「恐ろしい普通ではない獣の事です」


「おーもちろんおるぞ。人と一緒じゃ。」


 人と一緒? どういうことだ?

 

 意味が分からなくて言葉を詰まらせていると爺ちゃんが続けて話してくる。


「つまり変異動物の事じゃろ?」


 変異動物……?

 まれに産まれるという突然変異の動物の事を言っているんだろうか。

 また言葉を詰まらせてしまう。


「変異動物と言っても分からんようじゃな。

 その様子だともしや自分の変異属性すら忘れてしまったか?」


 今度は俺の変異……属性だと。

 わけがわからん。全部話してもらおう。


「すみません。何も覚えていないんです。その変異……について全部教えてくれませんか?」


「仕方ないのう。誰でも知ってることじゃぞ。

 まず人間には生まれつき変異属性ってのが決まっておっての。種類は、火、土、水、光、闇、自然、エーテルなどじゃの。その変異属性が決まっておる動物が変異動物じゃ」


 おお、つまり変異とは魔法みたいなものか?

 しかし気になったのは……。


「そうだったんですね。じゃあ例えば火属性だと火を出せるんですよね?」


「うむ」


「じゃあ自然、エーテルの属性ってのは、何ができるんですか?」


「そうじゃのう。その事を説明する前に変異についてもうちょっと説明するぞ。」


「はい」


「先ほど火属性なら火を出せると言ったが、変異は出すだけじゃないんじゃ。入れる事もするんじゃ。というよりも入れてから出すんじゃ」


「入れる? 火が体の中に入るんですか?」


「そうじゃ。火属性なら火、水属性なら水を吸収して、吸収した分を出すんじゃ。」


 すげえ。俺のいた世界じゃ考えられない。普通の人間の見た目してるのに体のどこに入るってんだ。

 さすが異世界だ。


「それっていくらでも吸収できるんですか?」


「もちろん無限大にとはいかん。個人差があるが訓練しだいで吸収できる量は増える。

 訓練を積んでない普通の人間の場合わかりやすく水属性で言えば浴槽一杯ぐらいじゃの」


「結構吸収できるんですね」


「そうかの。吸収の事を説明しといてなんじゃが、吸収量は冒険者でもなければそれほど重要じゃないんじゃぞ。

 国民にとって重要なのは操作量じゃ」


「操作量……さすがに分かります。操作できる量ですね。それが重要なのは分かりますけど国民にとってとはどういう意味ですか?」


「変異属性ってのは遺伝で決まっての。だいたい国家ごとに何属性の国民がおるか決まっておるんじゃ

 そして国ってのは国民の変異属性が有効活用できる場所に建国される。水属性なら海や川の近くじゃな。

 だから吸収しておかなくてよいんじゃ。操作できる物が既にあるからの」


 なるほど。この世界じゃ国が国に侵攻するって事はあまりないのかな。

 属性ごとの有利不利があったとしても侵攻する側と防衛する側じゃ物量が違いすぎそうだ。


「ありがとうございます。……で、自然属性とエーテル属性って何を吸収するんですか?」


「おお! そうじゃった、そうじゃった。自然属性はこの国の者の属性じゃ。もっとも王族は違うがの。」


 この国の属性……そういえば時計塔にいた兵士がこの国の人間は目が良いと言ってたぞ。

 後、王族は違うって……だから俺は時計が見えないのか。

 俺にも変異属性あるよな? 女神さん。


「そういえば、目が良い人ばっかりだと聞きました」


「そうじゃ。目だけではないぞ。自然エネルギーの力で耳も鼻も良い。それに身体能力も抜群に高い。どんな変異属性にも鋼の肉体で立ち向かう。それが我らがイルタリアの民なのじゃ。」


 イルタリア? この国の名前か。

 自然属性の特徴は分かったけどこの国のどこが自然なんだ?

 それに自然属性って他の属性より多勢に対する自衛能力が弱そうな……。


「ここまで来るのに木や草をあんまり見なかった気がするのですが……」


「案ずるな。自然エネルギーはどこにでもある。そしてこの国は樹海の中にあるので街の中心まで自然エネルギーは十分及んでおるんじゃ」


 ええ。街が広すぎて全然気付かなかった。この国の防衛は樹海で奇襲をかけるのかな。

 樹海で飛び交う超人……。

 恐ろしい。


「後、エーテル属性の国は一国だけしかないはずじゃが説明すると、エーテルというよくわからんものを吸収し不思議な力を使ってくるいわば魔法使いじゃ。まあ会うことはないじゃろ。気にせんでよい」


 なんだ。変異意外に魔法もあったのか。

 俺がそのエーテル属性だったりしないかな。


「ありがとうございます! 変異属性についてよくわかりました。後一つだけ。この国の末王子について教えてください!」


「末王子……と言われてものう。457人も王子がいるしのう」


「何か思い浮かぶことありませんか? 末王子という単語だけ強烈に覚えてるんです! 末王子をたどれば全部思い出す気がするんです!」


 俺は必死に問いかける。

 いろいろ教えてくれて大変感謝しているが、末王子について情報を得ないとお先真っ暗だ。


「そうじゃのう。仕方あるまい。ついて来るんじゃ」


 そういうと爺ちゃんはカウンターの奥へと俺を手招いた。

 

 やった。何だか分からないが、これで状況が進展する。





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