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第一話 末王子、出現する。

「おい! じゃまだ! どけ!」


 誰かが俺にむかって話している。

 目をつぶっているというのに何だか眩しい。

 何だっていうんだ。

 俺は寝ぼけ眼で声のする方を見る。


 馬……?


 俺が寝ている横に馬がいたのでドキッとして起き上がり馬の方をよく見ると人が乗っていた。

 そんなことよりどこだここは?

 俺は道路の真ん中に寝ていたようだが下は石、道路に面する建物は長方形の窓がいっぱいついた欧風の建物ばかり。

 なんでこんな所にいるんだ。たしか昨日は凄い雷雨で……あっ。

 俺死んだんだった。

 あの女神、いきなり転移させて道路に放り出すなんて無責任なやつだ。詫びる気があるのか。

 しかしもうどうでもいい。

 俺は王子のはずだ。

 問答無用に権力を使い異世界ライフを満喫してやる。


 しかしあれだな。

 何か忘れてる気がする。


「おい! やっと起きたかと思えば黙り込みやがって。どけと言ってるんだ!」


「すみません! すみません!」


 そう言いながら即座に道路の端に移動する俺。

 王子だというのにいきなりおっさんに叱られるとは。

 まあ、おいしい思いはまだいいさ。

 庶民の内にこの世界を感じよう。


 そして俺はもう一度辺りを見回してみる。

 ふむ。

 俺が目覚めたこの通りはなんだか代わり映えしない景色で同じような建物がずらーっと並んでる。住宅街だろうか。

 しかしこの通りよりも気になるのは近くにそびえ立つ雲にも届きそうな塔だ。

 なんだあれは。この通りの建物よりも向こうに見えるのはあの塔だけなので余計に際立って見える。

 近くまで見に行ってみよう。



 ――やっと塔の下までたどり着いた。3時間ぐらいかかった気がする。

 大きすぎて実際より近くに見えていたのもあるし、道順が分からなかったってのもある。

 しかし迷った分商店や酒場、宿屋などいろんなお店を発見できた。それぞれの店の中を見て回ろうかと思ったがそれよりもこの塔が気になった。後、誰にも声をかけられなかったのが不安だ。

 しかし改めて真下から見ても大きいな。太さは25メートルほどだが高さは東京タワーぐらいある気がする。

 上れないだろうか。

 人が一人ほどしか通れなそうな塔の入り口の前に、剣を携え鎧を着た兵士が二人立っている。

 話しかけてみよう。


「すみません。ここ、上れますか?」


「申し訳ありません。誰も通すなと言われております」


 片方の若い兵士が答えてくれたが、もう一人の四十過ぎであろう兵士はこっちを向きもしない。

 しかし上れないのか。

 だったら何のためにあるんだこの塔は。

 まさか電波が飛んでるとも思えないし異世界なら魔法のためだろうか。


「この塔って何のためにあるんですか?」


「時計塔ですよ。異国の方ですね。この国の者ならあそこに時計が見えます。」


 塔のさきを指で指されたので凝視しても時計があるなんて分かりやしない。

 だがここの人間は皆それが見えるだと……。

 異国の方ですね、と言うからにはこの国に住む人がとても視力が良いってのは分かったが、俺もこの国の人間のはずだぞ。

 女神よ、俺に最低限の能力も与えといてくれよ……。

 もしかして権力しかよこしてないのか。

 その権力すらまだ実感できていないし……。

 もう街の探検は、やめだ!

 塔に気を取られ忘れていた。城に行く。


「城はどっちですか?」


「この通りを直進した先です。見えませんか?」


 兵士の向く先を見るとたしかに通りの正面に塔がいっぱい生えた大きな城が見えた。

 俺の家は随分と立派じゃないか。


「ありがとうございました。」


 兵士に明るく挨拶した俺は、駆け足で城へと向かう。

 

 城に行けばやっと王子気分を味わえる!

 女神よ。殺したと言われた時は凄く憎かったが今では感謝しているぞ。

 そういえば女神は末王子と言っていたな。

 だから誰にも気付かれないのか俺は。

 でも城の人間なら分かるはずだ。

 

 そんな事を考えていたらもう城門の目の前だ。

 城門にはでっかい扉がついていて今は空いている。

 その前には甲冑をきた兵士が真ん中に二人、両端に一人ずつの計四人いる。

 俺は駆け足のまま真ん中の兵士に声をかけにいく。


「こんにちは」


「誰だ、お前は!」

「気安く声をかけるな!」


 二人の若い兵士に立て続けに怒鳴られる。

 塔にいた若い兵士と違い何て高圧的なんだ。

 普段の俺なら怖じ気づいてるところだ。

 しかし俺は王子だ。俺にそんな口をきいて良いのか。


「誰だとはなんだ! 俺は末王子だぞ!」


「……」

「……」


 ふっ。言ってやったぜ。

 こいつら、顔を見合わせて固まってやがる。

 

 だが次の瞬間――


「「ははははははっ!!」」


 二人の兵士が、顔を見合わせて急に笑い出した。

 こいつら、自分の心配をして息を飲んでたんじゃないのか。


「こいつ末王子だってよ!」

「そんなわけあるかよ!」


「「ははははははっ!!」」

 

 くそっ。

 急に馬鹿にされて、顔が熱くなる。

 両端にいた兵士まで俺を笑ってやがるし、末王子と言ったことの何が面白いっていうんだ。

 こいつらじゃ話にならないようだ。

 偉い人を呼ばせよう。


「えらい人を呼んでくれ!」


 ……。

 無視だ。

 楽しげに顔を見合わせやがって、こっちを見やしねえ。

 こうなったら門の奥に呼びかけるしかない。


「おい! 誰か! 誰かいませんか! 末王子が帰ってきました!」


 俺は門の奥に向けて全力で声を飛ばす。

 だが人が来る気配はない。聞こえるのは兵士がケラケラと笑う声だけ。

 くそっ。ここで引き下がれない。俺には城しか頼りが無いんだ。

 誰か。誰か助けに来てくれ。

 さらに大きな声を出すため、ゆっくりと息を吸う。

 

 すぅーっ。

 

「末王子が帰って来たぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 さっきよりもひときわ大きな声を出す。

 すると兵士が怒り顔で近づいてきた。


「うるせえよ!!」

「お前みたいなやつが末王子なわけがあるか!!」



●●●


 

 そうだった。

 今までの事を思い出してやるべき事が見えてきたぞ。

 あの女神は歴史を構築できない。そして俺は457( なん) の王子、末王子だ。

 だから俺の顔がいたる人にインプットされてないのも無理はない。

 じゃあ女神はどうして俺を末王子にすると言えたのか。

 多分、女神は生の感じる歴史は作れなくてもぼんやりとしたイメージはインプットできるんだ。

 それがどんなイメージか考えると、きっと 末王子( おれ)は長年どこかにいるとインプットされたんだ。

 そして長年顔を見せずにそこにいても不思議がられない設定もインプットされたに違いない。

 後、兄弟が多すぎて気が回らないって事でこの国の末王子なら選べたんだろう。

 

 この事をふまえて俺のやるべき事は情報収集。

 情報収集といえば酒場だ。

 偶然にも塔目指して道に迷ってる間に酒場は見つけてある。そこへ向かおう。

 

 よし、異世界冒険らしくなってきたぜ。

 とは言っても末王子になり楽をして生きるためにする、ちょっとした冒険だ。


 

 ……そういえば末王子と認められたとしても457番目の王子って楽ができるのか?

 




 

 

  



 

 

 

  

 

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