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知悉の瞳と守る者  作者: 乃木伊穂理
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知悉の瞳と喚び召す者Ⅰ

 決戦前日、私たちはいつも通り放課後にプラネタリウム室に集合する予定となっていた。今は昼休みで、私は昼食のパンを買いに購買部を訪ねている。


「こちら、メロンパンとカフェラテでございます。いつもありがとね!」


 彼女は購買部の“笹沢崎弥子さささわさきやこ”。私たちと同じ二年生で、購買部に所属している。ここで言う購買部とは、購買を目的とした部署のことでは無く、そういった名前の部活動に所属している生徒のことを指す。この購買部は、昼休みのほとんどを失う代わりに、給料が出るという特殊な構造をしている。当然彼女らも学生なので、開いているのは昼休みだけだ。なので、ルーズリーフが無くなったから買いに行く……といったことは出来ない。商品は学校がメーカーと契約して得たものなので、安全性の面はバッチリだ。

 さて、この笑顔の眩しい“笹沢崎弥子”という少女だが、この娘からは微量のマナが感じられる。つまり、彼女も能力者であることだ。今のところは何も仕掛けて来ていないし、そもそも向こうは気付かれていることにすら気付いてないはずだ。ならば、触らぬ神に祟りなし。ここはいつも通り、普通の学生として彼女と接するのが得策だろう。


「どういたしまして。いつも大変だねぇ……」

「大変なのは間違いないけど、それ以上に楽しいから私は満足だよ! また今度何か奢ってあげるね~!」

「いいのかぁ? 私は高いぞぉ?」

「そこは気を遣って……ね?」


 少しの雑談を挟み、私は弥子に手を振りながら音葉の待つ教室へと向かった。



 ◆



 放課後──樹たちとの約束の時間となった。ホームルームの済んだ私たちは、教室を後にし、プラネタリウム室へと向かう。“大黒蠍”に破壊されてから、どれくらいになるのだろう。そういえば、アンジェリカはどうして校舎を破壊していたのだろうか? 明日聞ければいいのだが、果たしてそこまで緩い空気になるだろうか……


「乙倉さん、暮木さん」


 と、その時、後方からゆっくりとした口調で私たちの名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「蓮見さん!」


 “蓮見切菜”──“太陽海月”と戦った時に出会った不気味な雰囲気の少女だ。いかにも能力を持っていそうな雰囲気をしているが、彼女からはマナは感じられない。


「今日もプラネタリウム室ですか?」

「え、ええ。そうよ」

「……部活熱心なのですね」


 端から見ればそう見えるのだろう……実際は部名と全く関係のないことをしているのだが。

 説明したところでどうにもならないので、ここはその勘違いを活用させてもらおう。


「まぁね」

「占星術部……でしたよね。私も占ってもらってよろしいでしょうか?」


 なるほど、そう来たか。いきなり手詰まりとなった私は、会話の主導権を音葉へと返す為に、苦笑しながら彼女の方を見た。


「え? あー今日はちょっとお星様がねー……」


 もしかして、音葉は占星術を知らないのだろうか……? もしそうなら、これはかなりの失態となってしまう。いかにも博識そうな切菜のことだ、逆に私たちを占ってくるなんてことも考えられなくはない。


「ホロスコープ……いえ、そうですか。残念です」

「そうなのー。また今度占ってあげるから、楽しみにしててねーあははー……」


 やはり切菜は知っていたようだが、どうやら空気を読んでくれたらしい。

 私は音葉に手を引かれ、早歩きでプラネタリウム室へと連れていかれた。



 ◆



「さて、今日は“召喚士”の対策について話し合おうと思う」

「具体的にどの辺まで分かってるの?」

「彼女が召喚するのは一回につき一体まで。他には……うーん、それだけかな……」


 樹は頬を掻きながら気まずそうに言った。私と音葉は、以前にアンジェリカから聞いたいくつかの情報を樹に話すことにした。

 樹と詩枝は興味深そうに私たちの話を聞き、質問を交えながら真剣な顔で頷いていた。


「新情報ではあるけれど、直接僕たちの役に立ちそうな情報は無さそうだね。まぁ、当然ではあるけれど」

「後、“召喚獣”は倒しても死なないらしいよ」

「本当に聞いてきたのか……」


 これも、私たちにはどうでもいいような情報だが、万に一つ使う時が来るかもしれない。樹も知りたがっていたし、聞いて損はなかったはずだ……多分。


「まぁ、本当に一回につき一体までしか召喚できないのなら、“月鎌”があるこちらが有利であることに変わりない。“キャトルベルセルク”を出されても、詩枝なら大丈夫……だよね?」

「いけるとは思うけれど、所詮は直線移動だ。“月鎌”を防ぎきることが出来る盾か何かを間に出されたら、止められる可能性も出てくるね」

「見えないんだし、あのマナの盾は発動しないはずでしょ? “キャトルベルセルク”が相手なら、まず勝てるんじゃない?」

「“キャトルベルセルク”が相手なら……ね」


 彼女の相棒は“キャトルベルセルク”だ。当然愛情もひとしおだろうし、性能もピカイチと見るべきだろう。それでも、それ以上の隠し球があったとしたら、アンジェリカはまた違う“召喚獣”を出してくる可能性がある。詩枝の発言は、そう思ってのものなのだろう。


「いくら考えても相手のことは分からないんだし、こっち側の能力の整理でもしてみたらいいんじゃないかしら?」

「それもそうだね……まず俺から。俺の新しい能力は、どうやらマナを無力化する剣の生成らしいんだ」


 マナの無力化──特定の相手になら、恐ろしい程頼りになる能力と言えるだろう。特に、マナの武器生成を得意とするエイヤには、すこぶる相性がいい。それでも、あの小銃がある限りは苦戦を強いられるのだろうが。


「そんなことはしないけど、もしかしたら“月鎌”も斬れてしまうかもしれない」

「冗談でもやめてくれよ、まったく……」


 樹の憶測に、詩枝は訝しげな顔をした。


「僕の能力は“月鎌”と“月刀”だ。“月鎌”は知っての通りだから割愛するけれど、“月刀”については話しておく必要がある。この槍は、今は二本だけ召喚出来る。後一息で三つ目も出せそうなんだけれどね」


 詩枝は二本の槍を召喚した。


「この槍は僕の意図に反して、一定のダメージを受けると壊れる仕組みになっている。そして、壊れるたびにより多くのマナを要求してくるようになるんだ。それによって強くはなるんだけれど、やっぱり燃費はよくない。“月鎌”の分のマナは残しておかないといけないし、そう何度も出せる代物じゃないね」


 それで、薫を殺してマナを得ようとしていたのか……複雑な心境だ。


「燃費の樹に火力の詩枝って感じか……」


 二人の能力の相性は悪くなさそうだ。息も合っているし、大きな戦力と言える。


「私は触れた人を回復させる能力を持ってるんだけど、激戦すぎていまいち出ていけてないのよね……」

「触れないといけないのは厳しいよなぁ……まぁ、音葉を危険に晒すくらいなら全て回避するけど」

「全て回避できるならそれでもいいんだけどね」


 私は、言葉に身体が追い付いていない樹をからかうように言った。


「最後は私か。私が見えるのは種族、相手の能力、攻撃パターン、マナの量、弱点部位の五つだよ。後、相手は私を殺すことが出来ないから、盾になりにいくっていうことも出来なくはないみたい」

「あの海月みたいに、死なない攻撃はしてくるのよ!? それだけはやめてよね!」

「必要な時にしかしないって!」


 “知悉の瞳”と呼ばれていたこの能力が活かされるのは戦闘開始直後だけだ。それ以降はただの人と同じと言ってもいい。そんな私が唯一出来ることと言えば、今言った味方の盾になること。絶対安全の保証はないが、十分な戦力となれるだろう……相手がのこのこと出向いてきた私を連れ去らないという保証も無いのだが、この時の対応はこの時考えることにしよう。

 ──明日は今まで以上に激しい戦いとなるだろう。死人が出るかもしれない。それでも私たちは、アンジェリカに応える為に、戦場へと足を運ぶ。

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