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音鳴り響く  作者: 暁紅桜
2章《惹かれる音(こえ)》
7/13

2章1話

「失礼します」


職員室に入れば、すぐに射手田いてだの姿をとらえた。そのまま彼の元へと行き、机に突っ伏している体を軽く叩いた。


「先生、楽器運び込みました。後、楽器の調節とかしてほしいんですけど、お願いできますか?」


体を起こし、大きな欠伸をしながら頭をかく射手田。聞いているのかよくわからないが、もう一度同じ事を彼に話した。


「お前の家に保管されてたのなんだよな……」

「へ?あぁ、はい」

「そっか……」

「先生?」

「なんでもない。じゃあ、放課後行くから他の奴らには大人しくしてろと伝えておけよ」

「わかりました。後、一様弦とかは買ったんですけど、張り方がわからなくて……」

「わかった、それもやっておく」

「お手数をおかけします」


深々と一礼をすると、音音おとねはそのまま職員室をでていった。


「ふふっ」

「……なんですか?」


隣の席、天秤あまはかりが小さく笑う声が聞こえて不機嫌そうな表情を浮かべながら顔を向けた。


「楽しそうですね」

「……」

「昔を思い出しますか?」

「何が言いたいんですか」

「いえ」


また笑顔を浮かべる天秤にさっきと変わらない表情を浮かべる。




音音は職員室を出てそのまま教室へと戻ったのだが、開けた瞬間にあっけにとられた。


「おい音音、あれどういうことだよ」


部活を終えて教室へと戻って来ていた拓哉たくやが耳打ちでそう訪ねて来た。

一部がほんわかした気分を出していた。その一部というのが軽音楽部のメンバーだった。


「楽器に触って満足してるんだと思う」

「触ったのか、あいつら」

「我慢できずにね」


自分の席に着き、鞄から中身を取り出す。

教室に入って来た天秤は四人の様子を見て一瞬ギョッとする。どうしたんだろうと思いながら教壇に立って辺りを見渡す。

進められるHR。いつの間にか終わり、いつの間にか始める1限目。

そしてあっという間に昼休みになった。


「部室行こうよ」

「だーめ。射手田先生が放課後楽器見てくれるんだからそれまで」

「ぶー」


紙パックのジュースを不機嫌そうに飲む愛莉あいりを横目に見ながら紙に書き込んで行く。

楽譜もどきとも言うべきそれは、書いた本人にしかわからないほどの物だった。


「出来そう?」


目の前にいる奈津なつが紙を覗き込みながらそう訪ねて来た。

少し考えたが苦笑まじりに「なんとか」と答えた。

完成したのはまだ半分。たとえ楽譜が出来ても、それからギターやドラムの楽譜なんかも作らないといけない。


「ごめんね、音音」

「なんで奈津が謝るの?私が好きでやってるからいいんだよ」


軽く頭を撫でてあげれば、奈津は少しうれしそうな表情をした。


「あっ、次体育だ」

「早く更衣室行って着替えよ。んで、遊ぼーよ」

「賛せーい♪」


ばたばたと走って行く百合ゆりと愛莉。特に慌てたそぶりを見せずに、音音は紙に向かっていた。


「ほら、音音も行くよ」

「私はいい」

「そう言わずにね」

「ちょっ!」


愛莉に腕を引かれ、そのままずるずると引きずられる。後から来る百合は自分のと音音の体操着を持っていた。

そんな様子を、男子三人は同情するように見ていた。

着替えをすませた三人はすぐさま体育館へと行き、ボールを手に取る。

体育の内容はバスケで、五限目が授業の時はいつもこうやって早くに来て、体育が苦手な百合に教える。その横で、いつも音音はボールをゴールの中に入れていた。


「そうそう。うまくなったよ百合」

「えへへ、そうかな」


ちらりと百合を見ればうまくドリブルが出来ていた。前は、ボールがあっちにいったりこっちにいったりして見るも無惨だった。


「音音」


背後から聞こえた声に振り返れば、そこには見知った顔が合った。


あきら

「先輩をつけろ」


軽くチョップをすれば、ボールを取り上げた。

暁と呼ばれる男子生徒は音音たちの中学時代の先輩。友達のような先輩で、音音だけが彼の事を呼び捨てで呼んでいる。

現在吹奏楽部に所属していて、次期部長と胸を張ってこの前自慢していた。


「1or1しようぜ」

「私バスケ部じゃない」

「俺もだよ。ただの遊びだ。時間的に1ゲームしか出来ないし」

「……わかった。だけど、シュート勝負しかしない」

「いいぞ。三本勝負な」


軽く何度かドリブルすると、そのままゴールに向かってシュートを決める。

ドヤ顔を浮かべながる彼に少し癇に障り、そのままお返しと言わんばかりで音音はシュートを返す。


「くっ……」


悔しそうな表情を浮かべてシュートを決めようとするがリングに嫌われた。

先ほどと変わらない表情を浮かべたまま、音音はシュートを決める。

むっとした表情を浮かべる暁は再びゴールを決めるが音音も決めた。


「私の勝ち」

「くっそー、また負けた」

「ピース」


ぐいぐいとそのピースを暁の額に押し付ける。

いい加減むかついたのかそのまま彼女の頭にチョップをかました。


「いった……」

「そう言えば、部活作ったんだって?」

「誰から聞いたの?」

星夜せいやさん。この前会ったから」


むっと頬を膨らませたらそのままつっつかれた。


「チャイムなるよ」

「おっといけね。じゃあな音音」


軽く手を振って去ろうとするが、途中で止まって振り返った。


「今度、彼女紹介するよ」

「「「えっ……」」」

「じゃあな」


再び手を振り、そのまま去って行った。


「暁先輩、今すごい事言ってなかった?」

「元カノとしてはどうよ」

「どうも思わないよ。というか元カノじゃないし」


勢いよくボールを投げつけるが簡単にとられてしまう。


「えぇー、でも中学時代よく手繋いでたけど?」

「暁はお兄ちゃんみたいなもの」

「へぇー……」


ニヤニヤする二人にまたしてもボールを投げつけたかったが、ボールは今手の中にはなかった。


「何騒いでるんだ?」


背後から当然聞こえた声に勢いよく肩が上がり、音音はそのまま右ストレートいれてしまった。誰かも知らずに。


「み、みのる!?」


殴った後に相手に気づいてそのまま駆け寄って体を揺さぶった。


「なんであいつはあんなにも取り乱してるんだ?」

「稔が音音の背後にたった事と、さっきまで暁さんがいたから」

「そういうこと」

「後、先輩彼女が出来たらしいよ」

「マジ!!音音と別れてもう出来たのか……」

「だから元カノじゃないって!って、稔の意識が遠のいて行くー!!」


再び体を揺らすが、なんだか稔の口から魂が出ているようにも見えて、音音はかなり焦った。

稔が意識を取り戻したとき、目の前でボロボロと泣く音音の姿があってギョッとしてしまった。


「な、なんで泣いてんだよ!?」

「稔が、死んだかと思った……」


ぐすりと鼻を鳴らしながら弱々しく言うと、ポンッと頭に何かが乗った。手だと気づいたのは撫でられている時だった。


「お前の右ストレートで死ぬわけないだろ」

「ぅー……」

「何だろこの光景……」

「なんか恥ずかしいね」


なんだかピンク色の光景が見える。見ているこっちは恥ずかしくてしかたない。

担当教科の先生が入って来た事で授業が開始して、やがて午後の授業が終了する。

そして、時間は放課後へとさかのぼった。

放課後部室に行けば、もう射手田先生が来ていて楽器のメンテナンスをしてくれていた。


「こんにちは先生」

「おう。メンテ、もうすんでるから」

「何か、必要な物とかありました?」

「楽器はどこも傷んでなかったから弦の張替えだけしている。どうせ、自分の楽器買うだろ?」

「まぁ、ベースやギター担当は」


楽器に触りたくてうずうずしてるのか、端の方で触っていいと許可を出るのを4人は待っていた。

新曲はまだ出来ていない。となると、何かもう存在している曲を練習曲、または文化祭ようの曲にしなければならない。


「私の新曲が出来るまで、何の曲の練習する?」


音音の問いにしばし考えて、一番始めに稔が手を挙げて提案をした。


「ルハラードの「ジェットハート」は?」

「っ!」

「それって、音音のお父さんとお母さんがバンドやってた時に歌ってた曲だよね」

「まぁ、最初にはいい曲じゃないのか?音音のスタートには」


小さい頃、稔と一緒に何回も見た両親のステージ姿。

その中で一番きらきらと輝いていたのはこの曲だった。

母親のボーカルに父親のギター。そして、父と一緒に楽しそうにベースを弾く男性の姿の事も覚えていた。

声、音。観客の歓声が響き、輝きは増す。いつか自分もこんな風にと思ったのはその頃だったのだろうか。


「先生の事も覚えてますよ。お互いに背を預け合って引く姿」

「思い出さなくていい」


少し照れた表情を浮かべる射手田。そんな顔にクスリと笑みがこぼれた。


「あれ、英語の歌詞多いけど大丈夫」

「うん。英語は得意だから」


胸を張ってそう言えば、射手田が楽器を触る許可を出し、四人が一斉に足を進める。

各々が楽器を愛おしそうに見つめる。稔はあからさまにそういう風な表情を浮かべないが、何となくそう見えた。


白羊はくよう、今ほしい奴とかあるのか?」


射手田が愛莉にそんな事を聞けば、目を輝かせながら「よくぞ聞いてくれました!」と視線で訴えかけて来た。


「私、今Fender Bass VI(シックス)がほしいんです!まぁ、色とか少し変わってきますけど」

「ふーん。まぁ、自分が惚れた奴をほしくなるのはいいけど、しっかり使いこなしてやるんだぞ」

「そのために、今頑張ってバイトしてお金ためてます!!」


くねくねと体を動かし、早くほしいなと呟いていた。


「楽譜、明日俺が用意してやるから」

「えっ、先生いいんですか!?」

「いろいろ注意事項とかあるからしっかり書き込んで渡す。特にベースのところは」


ビシッと鋭い一言が愛莉に突き刺さる。

射手田が生半可な気持ちで楽器に触る事は好きではない。それは、何となくわかった。だから、みんな部活を作ったからにはそれなりの結果や、何かを感じたいと思っている。


「練習は明日からな。楽器組は俺が指導するから」

「私はどうすればいいですか?」

「早乙女は歌詞を覚えるのと作曲に集中しろ。特に放課後の部活の時は、基本的に楽器が響くからどっかで練習したりした方がいい」

「わかりました」

「じゃあ、今日は解散だ。全員一通り曲は聴いておくように」

「「はーい」」




「ただいまー」

「あっ、ちょうど帰って来た」


リビングの扉を開け、中にいるであろう星夜とりゅうに声をかけた。


「おかえりー」

「音音、おやじから」

「父様?」


電話を渡され、音音はすぐに電話に出た。


「もしもしお電話変わりました。音音です」

『久しぶりだな音音。元気にしてたか?』

「はい。父様は、ちょうど演奏が終わったんですか?後ろ、結構にぎわってるようですが……」

『まぁ、そんなところだ。で、どうだ?』


その言葉の意味はすぐに理解した。なので、音音は今までの事を話した。

部活が設立出来た事。作曲をしていること、両親の歌った思い出の曲を演奏することになったこともいろいろたくさん。

父はただ黙って話を聞いてくれた。


『そうか。なら、曲はあかねに見てもらえばいいな。もうじき茜だけ日本に戻る予定だ。とは言っても一週間ぐらいの滞在だけどな』

「母様がですか!?」

『文化祭、見に行けるように調節はしておく。久しぶりに高貴こうきにも会いたいしな』

「楽しみにしてます。それと、お仕事頑張ってください」

『あぁ。じゃあ、星夜に代わってくれ』

「わかりました。兄様、父様が代わってくれと」

「おう」


携帯を星夜に渡してソファーに腰掛けた。星夜はまだ何か父と話している様子だった。

龍に小さな声でご飯の準備をしようと席を立った。


「音ねぇさ、今って忙しい時期?」


夕食の準備をしながら、龍がそんな事を聞いて来た。

彼の方を向く事なく、音音は疑問を訪ねた。


「ちょっと分からないところがあってさ、聞きたいんだけど」

「うん、いいよ。何の教科?」

「国語。文章問題なんだけど」

「わかった。ご飯食べてからでもいい?」

「いつでも」


お皿に今日のメインであるハンバーグを一つ一つ乗せていき、テーブルに並べていく。

星夜は今だに父と話しをしているようで、アイコンタクトで食事ができたことを伝えるが、手で軽くはらうような身振りを取り、先に食べていいと伝えて来た。


「「いただきます」」


結局長電話の星夜を横目に二人で食事を始めた。


                 ※


「文章問題を解くには、まず問題文の内容を本文から見つける事。答えは大体その前後だったり、それに似た内容の部分。もしくは、その問いに答える部分だったりするの」


食事を終えた後、音音はそのまま龍の部屋へと向かい、勉強を教えた。

小さくうなりながらも、龍は音音に教えてもらった通りに考えて解いてみた。


「一番手っ取り早いのは作者の、著者の気持ちになるのがいいんだけど龍はそういうの無理でしょ?」

「失礼な。俺だって本ぐらい読む」

「漫画でしょ?小説読みなさいな。ラノベでもいいからさ」


龍の部屋に置いてある漫画を手に取り、そのまま読みふけってしまう。


「作曲、しなくていいの?」

「頭が働かない。明日学校で続きを書くつもり」

「ふーん。あっ、これあげる」


そう言って、龍は引き出しから紙の束を渡した。


「何?」


受け取り、内容を読むと音音は驚いた。

それは歌詞だった。元々何かの曲の歌詞ではない、龍の考えたオリジナルの歌詞。


「音ねぇがさ、頑張ってるから俺も力になりたいと思った。こういうことしかできないけど」


ノートに向かったまま、少し照れくさそうに龍はいう。そんな彼を、音音は後ろから抱きしめた。


「さすが私の龍!ありがとう」

「っ!!……どういたしまして」

「にしても、よくこんなに思いついたね。前から書いてたの?」

「いつか母さんの曲に詩を付けたいって思ってたから。国語の成績悪いけど、こういうのは好きだから」

「あー分かる。好きとできるは違うもんね」


音音自身も何か身に覚えがあるのか、同意の意見を述べた。

歌詞は、全てテーマが違っていた、「青春」「友情」「旅立ち」「恋」「夢」。どれも、音音の知らない龍の姿が歌詞の中にあった。


「全部、もらってもいい?」

「いいよ。暇があったらまた書くし」

「出来たら見せてね」


ニコッと軽く微笑めば、龍の顔がほんのり赤くなる。


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