1章3話
「授業も終わった、書類の記入もした。後は戦場のみ!」
翌日、少しどきどきしながら授業を受け、放課後を迎えた。
音音は愛莉と共に生徒会室に向かう準備をしていた。
「がんばってね愛莉ちゃん」
「愛莉、お前は黙ってろよ。全部音音に任せろ」
「愛莉、テンパルからね」
励ましとけなしを受け、二人は生徒会室の前に立つ。
軽く二回、リズムよく叩くと、そのまま扉を開いた。
「しつれーしまーす……」
恐る恐る入れば、中にいた全員の視線を集めた。
どきりと心臓が跳ね上がるが、ゆっくりと歩みを進めていく。
「何かようかな」
「あ、えっと……生徒会長さんいらっしゃいますか?」
音音がそういった瞬間、全員の肩が沈んだ。何か言ってはいけないことを言ったのだろうかと、音音はあわあわした。
「いや、悪いけど生徒会長は今いない。けど、代わりに俺が聞くよ。俺は副会長の磨羯 隼人」
「新入生の早乙女音音です。こっちは白羊愛莉です」
「で、どういった御用でここに?」
「あの、これです」
そう言って、音音は新しい部活の設立所を隼人に渡した。
隼人はしっかりとその書類に目を通した。
「あの……」
「わかった、会長に渡しておくよ。顧問もメンバーもそろってるみたいだし、否定はしないだろ。結果が決まり次第、君に連絡するけどいいかな、早乙女さん」
「はい。よろしくお願いします」
深々と頭を下げると、音音と愛莉はそのまま教室を後にした。
「緊張したー」
ホッと胸をなでおろしながら愛莉は隣でそうつぶやいた。
「部活、できるかなー」
「副会長さんいい人だったね。会長さんも、たぶん言い人だと思うよ」
「会長が許可だしても、後は教頭と校長の許可ないと駄目だからなー」
「まぁ、気長に待とう」
ポンポンと愛莉の背を叩いてあげながら教室に待つ百合たちの元へと向かった。
ガラガラと教室を開けば、奈津と百合が勢いよく襲って来た。というよりも抱きついて来た。
「大丈夫だった愛莉?」
「部活、出来るって?」
ガクガクブルブルとした表情を浮かべながら百合と奈津は見てきた。後ろにいる稔は頭を抱えて大きなため息をつく。
「大丈夫、大丈夫。会長さんに渡してもらってるから」
「会長いなかったのか?」
「うん。綺麗に一席だけ空いてた」
「忙しそうだった」
書類の山に苦しんでいた生徒会役員を思い出しながら、ゆっくりと二人は立ち上がる。制服についた埃をはたきながら鞄を机からとる。
「じゃあ、後は待つだけだし今日は帰ろっか」
「あっ、私図書館で本借りて帰るから先に帰ってていいよ」
「そうなの?」
「待ってるよ音音ちゃん」
「俺が一緒に帰るからお前らは先に帰ってていいぞ」
「ほほー、じゃあ私たちは先に帰りましょうか」
「そうだね」
ニヤニヤとしながら稔を見る三人はゆっくりと教室を出て行く。
「ごゆっくりー♪」
満面の笑みを浮かべながらゆっくりと教室のドアを閉めた。くすくすと聞こえる笑い声はどんどん遠くなり、やがて消えて行った。
「なんだったんだろうね………あれ、稔どうしたの?」
稔の顔がほんのり赤かった。彼は「なんでもねーよ」といいながら、先を歩いて行った。
首を傾げながら、音音もその後をついて行く。
放課後という事もあり、校舎内は静かで人の声は外から聞こえる運動部の声のみ。
図書館の扉を開く時も、静寂に包まれているそこにとってはどんなに静かに開けても響きわたり、中にいる全員の視線を奪う。
「ここで待ってて」
入り口に稔を置き、音音はお目当ての棚へと足を向けると上から順番に本の背表紙の名前を流れるようにして見て行き、途中途中で本棚から抜き取って行く。
楽譜だったり、基礎練習の本だったり、作曲の仕方の本など音楽に関する本を胸の中におさめて行く。
「んー……」
だけど一冊だけ、高い位置に置かれている本に手を伸ばすが届かない。
背伸びを何度も何度も繰り返して手を伸ばす。
「はぁ……稔呼んでこよっかな」
少し諦めて、そのまま歩みを進めようとした。
「これかな?」
前に出された本は、さきほど音音が頑張ってとろうとした本だった。差し出した相手に視線を向ければ、優しく微笑む彼の姿があった。
「ほい」
「……あ、ありがとうございます」
「他にとるのとかある?」
「いえ、大丈夫です」
「そっか。じゃあ、俺はこの辺で」
軽く手を振って彼は去って行った。
「び、びっくりした……」
音音はそのままその場にへたり込んでしまった。
「まさか、会長がこんなところにいるなんて……」
なぜか胸がドキドキした。少しの会話だったのに、先輩の声が音となって音音の耳に入って来た。
「早く本借りて帰ろ……」
ゆっくりと立ち上がり、へろへろしながらカウンターへと本を借りに向かった。