1章1話
「んっ……」
カーテンの隙間からもれる暖かな日差しを感じゆっくりと体を起こす。
少し薄暗い部屋の中は、日差しの光で少しは明るい。
ボーっとした頭で部屋の中を見渡せば、視線の先にはハンガーにかけた一着の制服。それを見たとたん、今日が何の日か思い出して自然と笑みがこぼれた。
ベットから降り、パジャマを脱いで制服に手を伸ばした。
制服のデザインはブレザー。学年によってブレザーのデザインは変わる。
今着ているブレザーのデザインはピンクと黒のギンガムチェック。
スカートは中に白いフリルのある黒いスカート。
ハイソックスを足に通し、櫛で髪を整えて、鏡でもう一度身だしなみを整える。
「よしっ!」
気合の一声を上げると、鞄を持って一階へと降りる。
「おはよう」
リビングへと入ると、眠そうに食事をする青年と、その向かい側に新聞を読みながら食事をする男。そして、ソファーに腰掛けてテレビを見ている青年が目に入った。
「おはようございます母様」
「おはよう音音。あら、制服よく似合ってるじゃない」
「ありがとうございます。今日から高校ですから、少し気合を入れようかと」
「おー、似合ってるじゃんか」
ソファーに腰掛けていた青年が立ち上がって、少女、音音の元へとやって来た。
「兄様、今日は朝からですか」
「論文の提出でな。途中まで一緒行くか?」
「いえ、今日は先約があるのでまた今度」
「音音、早くご飯食べなさい」
「あっ、はい」
母に言われ、音音は食卓についた。
「おはようございます、父様」
「あぁ、おはよう」
「龍もおはよう」
「おは……」
眠そうな声を出しながら隣で食事をする弟、龍は、今にも食べている食パンを落としそうだった。
四月は始め、音音は高校一年となる。
近くの鈴音学園に、幼馴染と受けて合格して、晴れて入学することができる。
今日は入学式。遅刻するわけにも行かなく、目覚ましを少し早く設定したがそれよりも早く起きてしまった音音。
ピーンポーン
家の中に響くインターホン。それを鳴らした人物が誰か分かったのか音音は少し急いで朝食をとった。
「稔か?」
「そういえば、今日は咲ちゃんも行けないって言ってたわね」
「ごちそうさまです」
先に食べていた龍よりも先に食事を終えて、音音は玄関へと向かう。
「行ってきまーす」
靴を履き、玄関の扉を開く前に家の中に向かって声をかけて玄関を出た。
「おはよーって、あれ?」
扉を開き、そこに居るであろう人物に声をかけるが音音は首をかしげた。
自分が思っていてよりも、そこに居た人数が多かった。
「おっはよー音音」
「愛莉たち、なんでいるの?」
「居ちゃ悪いんですかー?稔と二人っきりがよかった?」
「いや、別にそうじゃないけど連絡してくれればいいのに」
「ドッキリサプライズだよ」
ほわわんとしたメガネの女の子がそういえば、音音と愛莉は癒されるような表情をする。
「ほらほら、いいから行くぞー」
少し長めの茶髪をした男子生徒が二人の背中を押しながらそういった。
今この場に居るのは音音を合わせて六人。全員が小学校からの付き合いだ。
愛莉は昔から音音と仲がよく、性格も少し似ている。元気で明るく、天真爛漫という言葉が似合いそうな子だ。
その隣、少し低めの身長のメガネをかけた女の子は百合。文学少女的な彼女は、見た目どおり昔から本が好きだ。特にファンタジーものを好んで読んでおり、たまに愛莉や音音にもお勧めの本を紹介している。
そして、先ほど背中を押したのは拓哉。幼馴染の中では一番運動神経がよく、近所のバスケットボールのチームにも所属していた。
中学のときもバスケ部に所属してエースとして活躍をしていた。本人は、高校でもバスケを続けるといっていた。
そんな拓哉を挟むようにいるのは稔と奈津。
奈津は男の子にしては小柄で、少し雰囲気が愛莉に似ていた。しかし、こんな見た目だが運動神経はよく足は速い。中学時代は陸上部から声をかけられたが、いつも断っていた。
そして、稔は音音にとっては一番の幼馴染だ。
母親同士が親友ということもあり、小さな頃からいつも一緒に居た。
ちなみにさきほど音音の母が言っていた咲ちゃんというのが稔の母親だ。
稔は人がよくて、音音の我侭にも嫌々いいながらも付き合ってくれる。一番付き合いが長いということもあり、何かを相談するときや意見を求めるときは殆ど稔を頼る音音。
幼馴染六人でいるのは知り合った当時からずっとだ。何をするにも六人で遊んだりしていつも過ごしていた。
高校も、特に相談したわけでもないが、同じところを受けて全員が受かった。
そして、今こうやって入学式へと向かっていた。
「部活どうする?」
「拓哉はもちろんバスケだろ?」
「まぁな」
「音音は?吹奏楽部とか?」
「吹奏楽か……確か暁先輩が入ってたよね」
「同じ高校だから先輩にも会えるね」
「あっ、軽音楽部は?」
音音が思い出したかのように言うが、水を差すように稔が言った。
「この学校、軽音楽部ないぞ」
「うへぇ!?」
「廃部したって聞いた」
「うっそ~」
少し肩を落としながらどこの部活に入るか考える音音。後ろからはどこに入っても大丈夫だろうという声が飛び交うが、音音は元々運動部に入る気もないし、文化部もほとんど入る気はない。
「ならいっそ作らない?」
「何を?」
「軽音楽部」
愛莉の提案に、音音の表情がパァーッと明るくなる。だが、それに比例して稔の表情が曇っていく。嫌な予感がするからだ。
「いいねいいね作ろう作ろう!」
「でも、まだ学生証もらってないから、もらって校則確認してからね」
興奮する音音をなだめるように愛莉が言うと、それを素直に受け入れてルンルン気分で先頭を歩いていく。
後ろでは稔が愛莉を叱っていた。余計なことをと聞こえたような気もしたが、今の音音にはそんな言葉は聞こえなかった。
「みんな同じクラスかな?」
昇降口に張られているクラス名簿を確認しながら百合が言った。
それぞれが名簿を確認しながら自分のクラスを言っていった。
「1組」
「同じく」
「同じくー」
「私も1組だよ」
「俺も」
「まさかの六人一緒」
なんだか漫画みたいだと誰かがつぶやきながらも、六人一緒にクラスへと向かった。