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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシビ6.黒い精霊の再来
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13.種明かしします (4)

 カーダルとアイレイスの和解の場は、王宮のアイレイスの研究室に設けられた。ニキとラルクには申し訳ないが、一時的に外で控えてもらっている。ディーは言うまでもなく、だ。

 しかし。

(……なんで、私はここに?)

 部外者というなら、雛㮈もニキたちと同じく部外者だ。

 気を遣って一緒に退室しようとしたら両側から腕を掴まれ、引き込まれた。

 主がいるなら私も、と主張する悪魔をニキたちに任せ(それもまた恐ろしい組み合わせだったが)、カーダルとアイレイスの間に座っている。

「でも私が言い出したことだから、間を取り持つのは私の役目だよね……」

 それに、いくら相手がアイレイスでも、好きな男性が異性と二人きりという状況に関して、全く気にならない、と言うと嘘になるのだ。

 ここまで来たら、腹を括るしかない。

「何故あたくしよりも貴女の方が緊張してるのよ」

 アイレイスは、雛㮈に呆れたと言わんばかりの視線を向けた。

「だ、だ、だいじょうぶです! どうぞお気になさらず、続けてくださいっ」

「続けにくいわ……」

 和解相手の本心からの呟きに、はあ、とため息を吐いたカーダルが、カチンコチンに固まる雛㮈の隣に座り、頭に手を乗せた。

「それで、どう進めますか。謝罪しようにも、俺は、貴女に恨みを買った覚えはないのですが」

「はあ!?」

「お、落ち着いてください、アイレイスさん」

 急に怒気が流れてきた。瞬間的に、雛㮈は理解した。確かにここには、“部外者”が一人、必要だ。

「あの、アイレイスさんは、きっと何か理由があってカーダルさんのことを……その、嫌っている、のだと思います。それを、教えて頂けないです、か?」

 改めて訊きにくい話題だ。たどたどしく話を促した雛㮈は、一人項垂れた。終わった頃には、心労で倒れそうだなあ、と思う。

「理由って……」

 アイレイスが怒りに染まる顔を俯かせ、小声でボソッと呟く。

「…………………………のよ」

 残りの二人が、首を傾げる。あまりに小さくて、誰も聞き取れなかったのだ。呑気な反応に、アイレイスは、ギッとカーダルを睨んだ。

「だから! そこの堅物騎士、あたくしが一生、自分(カーダル)に勝てないって言いましたのよっ!」

「…………は?」

「…………へ?」

 どういうことか。

 始まって早々、既に穏便に話し合いを、という雰囲気ではなくなっている。涙目になっているアイレイスは、悔しそうに机に手をつき、身を乗り出してカーダルを睨んでいる。涙目効果で、あまり迫力は無いが。

「そんなこと、言ったか?」

 カーダルは懸命に自分の記憶をさばくっているのか、口調が素に戻っている。

「言いましたのよっ、あたくしが11歳の頃に!」

「俺が8歳の頃?……どちらにせよ、時効でいいじゃないか」

 そして本音が溢れた。

 とてもではないが、20を超えた歳の男女が争う内容ではない。大方、許す機会もなく、(こじ)れに拗れた感情をそのままにしていた所為で、今の今まで意地を張ってしまい、自力では引き返せなくなっているだけの気がする。

 少なくとも、大事件では無さそうだ。雛㮈は思った。安堵したような、脱力したような。

「えっと、もう少し詳しく聞いてもいい……ですか?」

「言葉自体は、あたくしが直接聞いたんじゃないんですのよ」

 怒鳴ったことで少し落ち着いたのか、それとも少し冷静になって「この歳で騒ぐことじゃない……」と気付いたのか、シュンと縮こまる。

「誰に訊いたんですか?」

「ミディアス殿下よ」

 部屋の温度が、下がった気がした。雛㮈の隣から、冷気が漏れてきている。

 恐怖で震える雛㮈と、怒りで震えるカーダルを前に、アイレイスは昔語りをした。



 当時、アイレイス(11歳)は既に魔法使いの才覚を表しており、本人としてもそれなりに驕っている部分もあった。

「あたくし、強いんじゃないかしら!」

 と思っていたのである。

 実際、それなりに強かった訳だが。

 王弟の息子であるカーダル(8歳)と並び、ミディアス殿下(14歳)の遊び相手としても選ばれ、ますます浮かれていたのである。

 しかし、ミディアスは、アイレイスではなく、カーダルを遊び相手として選ぶことが多かった。子供心に不満に思ったアイレイスは、何故なのか、と素直に本人に訊ねた。ミディアスは、うーん、と悩んだ顔をしてから、ニカッと笑った。

「今の俺には、ダルと“遊んでる”方が、勉強にちょうどいいんだ。あいつ、歳の割に強いし」

「あたくしは……?」

「アースは、ほら、違うだろ?」

 何が違うというのか。ムッと唇を尖らせる。

「あたくしだって、強いですわ!」

「え、いや……。あー、ダルも言ってたけど、アースはダルには勝てないって。だからそんな無理は……」

 冷静に聞けたのはそこまでだった。「うるさい、ばか!」と子供のような(実際、子供なのだが)ことを叫んで、アイレイスは部屋を飛び出した。この二人の喧嘩は意外とよくあることなので、誰も引き止めはしない。アイレイスの付き添いが、慌てて彼女を追い掛けた。

 そうして、彼女は自分を一生見下すと宣言した年下男子(カーダル)を、敵視するようになったのだ。



 というのが、彼女が語った過去だった。




“喧嘩”は誤解から生まれます。まあ、誤解ではないパターンもあるとはいえ。

大抵は、話せばいいのに、と思うこともしばしば。


腹割って話して、意地を捨てれば、状況って、実は簡単に一変してしまうものだと思います。

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