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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシビ6.黒い精霊の再来
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11.種明かしします (2)

「なんで起きてすぐに人を呼ばないんだ」

 低い声で唸るように、責める言葉を投げつけられ、雛㮈は身体を縮こまらせた。ディーの話に乗せられて、人を呼ぶということをスッカリ忘れていた。いや、他人の所為にするのはよくない。要は自分の所為だ……。

「まあいい。それより、調子はどうだ?」

 問われて手を見ながら、腹を摩る。違和感こそあれ、別段調子は悪くない。流石に動こうとすると痛いけど。「大丈夫ですよ」と伝えれば、伸びてきた手が、雛㮈の右手に触れた。

「跡、消してやれなくて悪かった」

 まさかそのような言葉が飛び出してくるとは思っておらず、雛㮈はきょとんとした。

「俺は別に気にならないが、女は気にするんだろう?」

「や、や。大丈夫ですよ、このくらい」

 窺うように自分を見るカーダルに、にこりと笑い掛ける。

「カーダルさんが助けに来てくれたので……十分嬉しかったですから」

 へら、と笑ってからふと気付く。「そういえば、どうやって場所を――」言い切る前に、胸の辺りに衝撃。次いで、「きゅるるるるーっ」という鳴き声。

 小柄ながら重たい身体に押されて、雛㮈はベッドに倒れ込んだ。甘えるようにスリスリと身体を擦り合わせてくる“その子”を見る。

「あれ? え、なんでこの子がここに……!?」

「……ドラゴンは、嗅覚が鋭いんだ。特に、好きな匂いには格別」

 そういえば、前に動物園に二人で出掛けた時にも、聞いた。警察犬以上だ、と思ったことを、ぼんやりと思い出す。――ということは、つまり。

「ば、場所が分かった理由っ、てっ!」

「きゅうっ、きゅうう〜っ!」

「そいつだ」

 甘えてよじ登ってくるドラゴンを撫でながら、なるほどと納得した。それにしても、何故ここまで懐かれているのだろうか。

 攻防戦を繰り広げていると、傍で控えていたディーが、ベリッと子ドラゴンを剥がすと、部屋の隅に投げ捨てた。

「な、何してるんですか!」

「人の主人に軽々しく触っていたものですから、つい」

「ぐ……グルルルルルッ」

 子ドラゴンも子ドラゴンで、翼を広げ、敵意を剥き出しにしている。前のように、別れる時の泣き虫な様子は見えない。心なしか、口元からプスプスと煙が出ているようにも見える。

「ドラゴンは本来プライドが高い動物だからな。玩具のように投げられれば、面白くないだろうな」

 雛㮈の身体を引き起こしたカーダルは、「俺としては、なんで悪魔がお前に執着しているのかの方が、気になるが」と眉を寄せた。多分それは、好意から来るものではなく、“獲物”的な意味の執着だろう、と雛㮈は思う。コレは自分が狩るのだ、という(たぐい)の。

 視線の先では、両者が互いの出方を窺っている。あんなに可愛い子ドラゴンも、戦闘となれば狩られる側ではなく、狩る側の目をしている。

「……参戦してきた方がいいか?」

「何のためにですか! 駄目ですよ!」

 服の袖を握って引き止めれば、ぽんぽんと頭を撫でられた。

「冗談だ」

「……それは」

 良かったです、と続けた。しかし冗談ならもっと分かりやすく、真顔以外の顔で言って欲しい。

「で、“アレ”は今後どうする気だ?」

 アレ、と指し示しているのは、どうやらディーのことのようだ。

 雛㮈は先程の話を思い出しながら答えた。

「えーと、契約破棄は魂を渡すハメになりそうなので、しばらくは継続しつつ、何も頼まない体制でいこうかと……」

 当然、もっと上の人間の許可はいるだろう。悪魔は紛れもなく危険分子だ。何も言わずに連れ回していいものでもない。

「…………ふうん?」

 カーダルは少しばかり面白くなさそうな様子だ。目を細め、ディーを見やる。

 さすがに禁術指定されている対象である。カーダル達が束になっても敵わなかったのだ。存在自体、面白くはないだろう。

「ヒナ? 入りますわよ」

 アイレイスがノックと共に入ってきた。断りなんて聞く気は無いようだ。ニキとラルクもその後ろから入室する。三人は揃って悪魔VS子ドラゴンの光景を見て、固まる。

「……何あれ」

 ニキが訝しげな顔で、雛㮈に訊ねる。客観的に見たら雛㮈争奪戦といったところだが、自分の口からはなかなか言い出しにくいことだ。二人揃って、何故そこまでその気持ち(雛㮈への執着心)が駆り立てられているのか、謎なので余計に。

 よって、雛㮈は無言の苦笑を持って答えとした。

「目が覚めたのね。良かったわ」

「アイレイスさん! 治療して頂いて、ありがとうございます」

 彼女があの場にいなければ、雛㮈は助かっていなかっただろう。それは確実に分かることだった。しかしアイレイスは、不意に表情を曇らせ、視線を落とした。不思議に思ってから、すぐにその理由に気付く。そういえば、彼女とは喧嘩別れに近い状態だったか、と。

 アイレイスさん、と呼び掛けようとして、口を噤む。今、自分から口を開いてはいけないような気がした。辛抱強く、彼女が話し始めるのを待った。

「あたくし、いろいろあるわ。貴女に話していないこと」

「……はい」

「全部話すことも、きっとできないの」

「はい」

 しっかり頷く。でも、とアイレイスは続けた。いつもよりも弱々しい光を灯した瞳が、雛㮈を見ている。

「それでも話したいことも、あるのよ」

 雛㮈はその瞳を綺麗だと思った。

 笑顔を向ける。

「その相手に私を選んでくれたことが、何よりも嬉しいです」

 ポロリと、涙が伝った。静かに、一筋だけ。

「……無事で良かったわ」

 か細い声で言った後、アイレイスは、キッと雛㮈を睨んだ。

「大体、あたくしが折角話をしてあげようっていうのに、勝手に死に掛けるなんて、失礼極まりないのよ!」

「ふふ、ごめんなさい」

 すん、と鼻をすする音は、聞こえないフリをした。




こそこそと伏線を回収しつつ、ああ他にも拾わねば、と大慌てな作者です。自業自得ですね。


子ドラゴン……持ちたいですよね。

こう、なんというか、たかいたかーい、ってしたいです。←願望

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