01.最悪のチームワークです (1)
「………」
「………」
「………っ」
「くぁ〜」
「………………ねえ」
口を開いたのは、ニキだ。
「なんですの」
「いや、黙ってばっかじゃん。なんか喋らなきゃ、話進まなくね?」
「そ、その通りだと思いまーす」
アイレイスとカーダルの間という、ある種の拷問に近い位置に座っている雛㮈が、恐る恐る口を開き、賛同した。
アイレイスの部屋には、現在五名がいる。雛㮈、カーダル、アイレイス。それから、雛㮈の護衛であるニキとラルクだ。その五名の間には、現在、妙な雰囲気が漂っている。主な原因は二名だけなのだが。
「魔法団長殿、ファンクス殿の目的に、何か御心当たりは?」
「…何故、あたくしが?」
「貴方はファンクス殿と親しい間柄だと伺いましたので」
「そうでもありませんでしたわ」
会話が寒々しい。しかもお互い、一切顔を向けずに話しているのだ。この確執はどうにかならないものなのか。
冷や汗をだらだらと流して縮こまる雛㮈を、向かい側に座っているニキが、机に頬杖を突きながら見て、両側に告げる。
「冷戦止めないと、お姉さんが倒れそうだよ」
「………」
「………」
二人してちらりと雛㮈を窺い、そのままふいっと視線を反対側に向け、黙る。
進みっこない、話し合い。まず、リーダー格になり得るはずの二人が、平行線だ。最悪のチームワークだ。まさにお先真っ暗だ。
…従姉弟、なのだよな。と、少し疑いたくなる。残念ながら自分には従兄弟はいなかったので、一般的な従兄弟の関係性は知らないが、しかしこれほど険悪なのは、珍しい気がする。
過去に何があったのだろうか。
ファンクスの目的を探るためには、この二人を、仲良くとまでいかなくとも、とりあえず普通の関係に戻す必要があるようだ。
あまりの居心地の悪さにモゾモゾしていると、扉がノックも無しにバーンッと開いた。
「やあやあ諸君! 元気にしているかね!」
「フェルディナンさん!?」
彼が救世主に見えるなんて、後にも先にもこれっきりだろう。何しろ、こんな状況だというのに、他の四名は嫌そうな顔をしている。
微妙な雰囲気など物ともせず、むしろ自分の雰囲気で周りを染め始めている。強い。
「えっと、どうなさったんですか?」
誰も訊きそうにないので、雛㮈が訊く。すると、よくぞ訊いてくれた、とばかりにドヤ顔された。
「実はだね、ここで得られる情報は片端から集めたものだから、もうそろそろ自分の屋敷に戻ろうと思ってね! 挨拶に伺ったというわけだよ!」
「はあ」
ならば、このいろいろな要因によって冷めた空気も、一緒に持って行ってくれないだろうか。
生返事をした雛㮈を気にすることもなく、「ああ、お茶などはお構いなく。どの道すぐに出立するからね」と笑っている。このメンバーで、彼にお茶を用意する人間がいるかは、気にしていないようだ。
「君たちは、ファンクスの目的を探るのだっけ?」
「あ………はい」
つーん、としている面々を見て、苦笑する。
「オジサンも、そういう目的で動いてるんじゃないの?」
「はっはっは! 遠慮せずにおにーさんと呼びたまえ」
「オジ………わぷ」
ニキが喧嘩を売ろうとしたのを、慌てて口を手で塞いで止める。もぞもぞと動いたニキを、雛㮈の手をなんとか退けると、今度は余計な単語は使わずに、「で、違うの?」とだけ訊いた。
「そうだがね。だがあの男、変に頑固だから、面倒になってきたのだよ」
ふう、とため息を吐いたフェルディナンを、カーダルとアイレイスが非常に冷たい目で見ている。その言葉そっくりそのまま返してやる、と言いそうな目だ。
「まあ、ぼちぼち頑張るさ。君たちも…仲良くやるのだよ?」
「………」
「………」
黙り込む面々に、フェルディナンはにやりと笑い掛けた。年上からのありがたーいアドバイスだ、と前置きをして、ビシリと指を突きつけた。
「君たちはまだまだ子供だ。協力しないと真実までは辿り着けないよ」
「っ、余計なお世話よ!」
「あ、アイレイスさん、落ち着いて…」
急に立ち上がって怒鳴ったアイレイスを宥めている間に、最後まで我が道を貫いたフェルディナンは、颯爽と去っていく。嵐が過ぎ去ったような心持ちになる。
アイレイスは力を失ったようにストンと椅子に落ちた。
「………えっと」
声が尻すぼみに小さくなっていく。
シンと静まり返る中、ラルクが欠伸をして、前足の間に顔を突っ込んでいた。
その後、ポツポツと意見は出たものの、活性化することもなく、なんともいえない居心地の悪さを残して、その日は解散となった。
フェルディナンがノジカ街へ向かう道中で襲われたと連絡があったのは、次の日の午後のことだった。
どうやったら仲良くなるのか、私が分からない…。が、頑張って書きまーす!




