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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ5.眠り王子の反撃
60/100

08.勝負しましょう 後編

 先程と同じ魔法陣。

『ごーれむだー。かっこいー』

『水のゴーレムだねー』

『ミディアムがんばれー』

『でもひなも大好きー』

 精霊の野次が飛んだ。少々邪魔だ。

『ひなは何を作るのかなー?』

 その言葉に、不意に閃く。歯には歯を、目には目を。そう、例えば、ゴーレムには、ゴーレムを。

 魔法陣は二度見た。構築、土、水、力。いや、水は止めよう。得意分野である火に置き換える。構成を見直し、魔法陣を紡ぐ。これでできるはずだ。多少の無理は押し通してしまえ。

 根競べ。確かに、これは“そう”なのかもしれない。

 ゴーレムが二体、向き合った状態で出現する。

「うわ、そうくるかー」

 ミディアスが嫌そうに呟く。ガキ、ガキ、とゴーレム同士がぶつかり合う。純粋なる力比べ。その脇を、カーダルが抜けた。身体強化魔法を掛け直す。

「俺、剣の勝負をカーダルに挑む程、馬鹿じゃねーぞ」

 格好がつくのかつかないのか微妙なことを言って、ミディアスはその場でフワリと浮き上がった。

「てなわけで、撤退!」

「ラルクさん! 追います!」

「最近、我の扱いが馬並みになってきた気がするのう…」

 やれやれ、と言いながら、肩から飛び降りたその身体が、大きなものに変わる。うんしょ、と跨った。

「小童、お主もさっさと乗れ」

 カーダルはその言葉に、少し意外そうに片眉を上げたが、それを口にしている場合ではないと判断したらしく、軽く一礼してから雛㮈の後ろに乗る。

 獣の身体が、宙を蹴って浮き上がる。まるでそこに道があるかのように駆けていく。

「うっわ、しつけぇなあ」

 くるりと一回転したミディアスは、城の方へ飛んでいく。まさか墜落させる訳にもいかず、その後に続く。いずれ魔力切れを起こすはずだが、精霊を自力で収めるほどだ、生半可な魔力量ではない。

 視界の端を、城下町が掠めた。あまりに精巧な光景。人のいない、静かな町並み。先日ニキたちと訪れた場所もある。

(あれ…)

 一瞬、引っ掛かるものがあったが、ジェットコースターばりの浮遊感に、すぐに頭から放り出された。

「まーったく、なかなか粘るのう」

「いっそ咥えて捕らえればいいんじゃないか?」

「我は加減が分からぬぞ」

 それは困る。というか、何故この状況で平然と会話ができるのか。

 ラルクの首筋に必死に抱き付いている雛㮈とは違い、カーダルは、片腕を雛㮈の腰に回している程度である。それだって、掴んでいるというよりかは、逆に雛㮈を支えている節さえある。

 このままだと、一番に自分が音を上げる気がする。右へ左へと振られて、酔いそうだ。雛㮈は思った。その前にどうにかしなくては。

「こ、拘束、したい、ん、ですよね…」

 噛みそうになりながら(一部噛みながら)、なんとか喋る。無理はするな、と言われながら、身体を起こそうとするが、やはり怖い。どうにかして、前の状況―――正確には、ミディアスの位置が知りたいのだが。

 腰に回された腕の力が強くなる。風の抵抗を受けないように前屈みになったカーダルの腕が後ろから伸び、ラルクの首の辺りに添えられる。

 大丈夫、と言われた気がした。雛㮈は腕に力を入れながら、前を見る。

 想像(イメージ)する。彼を捕まえる。そのために必要なもの。

 無。静かに広がる世界。

 構築。魔法陣を描く。糸。伸びる糸。

 ―――放つ。

 ラルクの両側に出現した魔法陣から、白く粘着質のある糸が勢い良く飛び出していく。

「…嫌な記憶が刺激されるのう」

 ラルクが毛を逆立てながら、零す。

 飛んで逃げていたミディアスが焦ったように火の魔法を唱え、糸を燃やした。火を免れた数本の糸を、剣で切り落とす。しかし、糸を払うことに注力したため、距離が詰まった。それに焦ったのだろう、一本、糸を切り落とし損ねた。

 左腕に、糸が絡まる。

「ちっ」

 急いで切り落とすが、次々と襲い掛かる糸が、切った端からミディアスの身体にへばりつく。こうなると、引っ張り合いだ。身体強化を掛けた人間と、獣。軍杯は後者に上がった。少しずつズルズルへと地上に引きづられていく。

 それでも、ミディアスの強い瞳の光は消えない。まだ諦めた様子は無い。

 地面に足が着いた瞬間、やっぱり人間は歩く生き物だ、と思う。無闇矢鱈と飛んではいけない。ふう、と息を吐き、ようやく落ち着いてから、空中で感じた違和感を、ようやく思い出した。

 睨むようにこちらを見ているミディアスの前に立つ。

「私たちの勝ちです。言うこと、聞いてくれますか?」

「…俺は戻りたくない」

「はい。ですから、別のことでひとつ」

 おい、と止める声を振り切り、にっこりと笑い掛ける。

「ついてきて頂きたい場所があるんです」




 私はジェットコースターは嫌いです(不要な情報)。

 雛㮈さん、よくあそこで身体を起こせるなあ、と拍手を送りました。無理ですよ。うん、無理。喋る余裕とか無いですよ。うん。


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