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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ5.眠り王子の反撃
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07.勝負しましょう 前編

「ヒナを嫁にする作戦は、諸々の事情(・・・・・)により諦めるとして」

 なかなか復活しないカーダルを横目で見たミディアスは、苦笑しながら「俺としても、敵を増やしたい訳じゃないし」と言った。

「ただ、俺は戻りたくない。ダルとヒナ、それからそこの獣は、俺を連れ戻したいんだよな」

 となれば仕方ない、と彼は呟く。

 魔法の気配を感じた。組まれていく魔法陣を視る。土、水、力、構築。ひとつひとつの要素を解析する。大きな魔力。

「実力行使、ってな」

 程々のところで諦めてくれよ、と笑う声と共に、魔法が発動する。一気に光が爆発した。

「―――カーダルさん!」

 反射的に名を呼んだが、カーダルが反応する方が早かった。

 後ろに跳躍した直後、土色の太い腕が、豪速で振るわれた。土埃の向こうから、瞳が不気味に光っている。恐ろしいのは、その高さだ。明らかに二メートルは超えた場所にある二つの光は、土埃で隠されたその身体が非常に大きいことを示していた。

「ゴーレムか。古風な技を使いおるの」

 ラルクが、感心と呆れを含ませた声で呟いた。

 着地したカーダルは、その反動でゴーレムに向かって踏み出す。剣を引き抜きながら回転して、勢いを殺さずに一閃する。ガキ、と硬いもの同士がぶつかる音がした。

「くっ」

 思った程の手応えが無かったのか、カーダルはゴーレムの腕に振り払われる力と、自身が太い腕を蹴った反動を利用して、一気に距離を取る。

「ゴーレムとの力勝負に勝ち目は無いぞ」

 ラルクの言葉に、そうみたいだな、とカーダルが返す。

「スピードで翻弄して崩すか」

「もしくは、魔法で対抗するかじゃの」

 二人の視線が集まり、雛㮈はようやく我に返った。消え入りそうな声で「頑張ります…」と言う。ゴーレムの身体は大きくて怖い。あの腕から繰り出される物理攻撃に、自分の防御魔法が果たして通用するだろうか。

 すっかり足が竦んでいる雛㮈に、カーダルが身体強化の魔法を請うた。

「切り崩してくる」

 だから待っていろ。

 自信の込もった声で言い切ると、カーダルは駆けた。ゴーレムの攻撃を俊敏なステップで避けながら、回転を活かした軽めの斬撃を繰り返す。多少無理な体勢からでも、一撃を繰り出せるのは、カーダルの実力故だろう。しかし、それで倒すつもりは無い。ラルクからも指摘を受けた通り、力では勝てっこない。せいぜいが瞬間的に動きを止める程度だ。

「なかなかやるの」

 何撃かに一度、重い斬撃が入る。どうやら、足や腕の接合部を狙っているようだ。微かに入る切れ目を、何度も何度も重ねていく。

「狙いはいいな。流石だ。だが」

 それまで見守っていたミディアスが、魔法を唱える。修復、という単語が混ざった。腕の付け根を魔法陣が囲むと、亀裂がみるみるうちに埋まっていく。

「あの王子も、なかなかの使い手のようじゃのう。………どうする、我が出るか?」

 ラルクの言葉に、一テンポ遅れ、首を振る。

「私が、まだ何もしてないですから」

 ラルクは、“どうしても困った時”に手を貸してやろう、と言った。しかし、今はその時ではないはずだ。雛㮈はまだ、何もしていない。

 ―――待っているだけは、嫌だ。

 ぐっ、と手に力を込める。不意に気付く。自分の手には、もう杖は無い。

 支えてもらうだけでは、駄目なのだ。支えるだけでも。そのために、一人で立つ覚悟を。決意を。ぎゅ、と目を閉じる。強く、強く、強く。そうしてから、薄く目を開いた。

 足の付け根を、魔法陣が囲む。同時に雛㮈は、水の魔法を唱える。あのゴーレムを構成しているのは、土と水。泥人形と同じはずだ。絶妙な割合で保たれている身体。ならば、それを崩してしまえばいい。

 再構築魔法に介入し、一気に押し流す。重量感のある足が弾け飛んだ。片足をなくしたゴーレムは、轟音を立てて崩れ落ちた。腕による攻撃はまだ可能だが、その場から動くことは困難だ。

「おお、お前の彼女は見た目によらず、力任せにくるね」

「勝てればいい」

「…違いない」

 技量を駆使した攻撃でも、力任せの攻撃でも、その場を制した者こそ、能力が高いといえるのだろう。その理屈でいくと、たとえ卑怯なことをして勝っても、能力が高いということになるのだが。…否、それはある意味、“能力が高い(勝つ力がある)”ということなのかもしれない。

「なら、根競べといこうか」




 普通の人なら、構築された他人の魔法陣なんて、解析できないのです。

 まず他人の意識下でしか存在しないものであること、それから構築スピードが速いため常人ではついていけないことが挙げられます。

 発動直前・直後に漂う魔力から予測を立てる人が多い(というか、それしかない。それも難しいけれども)中、雛㮈さんは無意識にルールを破ってます。

 やっていることはチートなのですが、誰も褒めてくれないので、後書きスペースで披露。


「でも私、結局ここでも褒められてはいないのでは…」


 ………ね?←全力で誤魔化す。

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