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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ5.眠り王子の反撃
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04.先行きが不安です

「それで、………えっと、例のお方、は今からすぐに?」

「まずは魔法団長様のところへ行く。その前に、ニキとラルクを迎えに行く」

「………あ」

 忘れていた。言い訳をさせてもらうと、城はいつも一人、もしくはカーダルと共に移動していたので、他の人がいることにまだ慣れていないのだ。

「アイレイスさんは知っているんですか?」

「あの研究の目的のひとつに、今回の件があるからな」

 当然、知らないはずが無い。考えてみれば、彼女は“容体が変わったら”と言っていた。あれは、このことだったのだろう。

「お姉さん、兄さん、おかえりー」

 新調した服を着たニキが、雛㮈とカーダルを見て、にししと笑った。ラルクはといえば、大型犬サイズになって、ニキの足元で寝転んでいる。

「お待たせしました」

 ぺこっと頭を下げる。

「うん、別にいいんだけどさ。でもここ、あれだね、目立つね」

 尻尾をふわりと動かし、横目で辺りを窺う。獣人は珍しいのか、城を出入りする人が、確かにチラチラと見ていく。

 不思議そうな顔をする雛㮈に、ニキが答えた。

「この国では差別は無くなってきているけど、それでも珍しいもんね」

「差別?」

「そ。昔は入国さえ禁じられてたって聞くよ。それで戦争も幾度となく起こった。今でも住み分けをしているところも多い」

 なんでもないことのように言うニキだが、無関心では無い証拠に、殊更表情が消えている。押し殺しているように。

「…ニキさんの両親って…」

「うちの両親は、人間とは関わらないって、もう決めたんだってさ」

 迫害された過去があるのだろう。簡単に信じられるものではない。…それでは、ニキも止められたのではないのだろうか。

「獣人は、自分の道は自分で決める。オレは外に出たいと思ったから、ここにいる。…確かに悪いヤツもいるけど、いいヤツもいるよ」

 オレたちと同じだ、とニキは笑う。

「…さて、お姉さん、呼び出されたってことは、何か重要な仕事があるんだろ? 早く行った方がいいんじゃない?―――オレはついていってもいいかな?」

 カーダルに視線を向ける。彼は小声で、「お前が決めればいい」と言った。その言葉を受け、雛㮈は微笑む。

「ついてきてください。私は、ニキさん達を信じます」


⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎


 アイレイスの部屋の前には、ルークがいた。あれ、と首を傾げると、彼と目が合った。ニコ、と笑い掛けられる。いつ見てもにこやかだ。

「何故、ルークがここに?」

「要人の護衛で、ね」

 中に入れば分かるよ、と言われ、ノックした。いつものように、カーダルが名乗る。

 すると、中からどったんばったんと、騒がしい音がする。

 バアンッ!

 扉が勢い良く開いた。開けたのは、もちろんアイレイス―――ではなく、フェルディナンだ。

「やあやあ諸君! 待っていたよ、元気そうではないか!」

「ヒナ。命令よ。さっさとその男を連れて退室なさい」

 奥から凍えた雰囲気を纏ったアイレイスが出てきて、いつもよりも低い声で、唸るように言った。相性は、すこぶる悪いようだ。

「えええっと…?」

 事情が分からない。

「はっはっは、ヒナ君も元気であるようで、何よりだ」

 彼は雛㮈の手を取ると、その甲に、恭しく口付けを落とした。

「!?」

「離せ」

 フェルディナンの腕を捻り上げんばかりに掴んだカーダルは、結構な力を込めているようで、心無し、ギリギリという音さえ聞こえてきそうだ。

「ちょ、カーダル君、痛いのですけれども…?」

「………だから?」

 フェルディナンが、痛いような困ったような楽しいような、とにかくいろいろ入り混じった顔で、カーダルと対峙している。

「ていうか、なんでお姉さん、そんなに気に入られてんの」

「さあ…」

「精霊効果じゃろう」

 ラルクが事もなげに呟いた。

「そこの嬢ちゃんも()うとったが、精神世界というのは、他者からの影響も強く受けるからの。精霊の影響を受けたんじゃろ」

 精霊は、何故かやけに雛㮈を好いている。その影響ということか。

 嬉しいような、悲しいような。

 今向けられている好意は、彼自身のものではないのかもしれない。

「ま、それも多少の話さ。気にすることはない」

 ラルクは切り出しておきながら、そんな風に締めくくった。

 そんなに簡単に締めるなら、言わなくても良かったのに、と思う。お陰でこっちの気分は複雑だ。はふう、と息を吐く。

「ヒナ、ちょっと」

 ずい、とアイレイスが一気に顔を近付けた。カーダルとフェルディナンは、奥でまだやり合っている。

「あたくし、騒がしいのは嫌いですわ! ですから、ぱっぱと説明をするから、さっさとあの男を連れて行ってくださいまし!」

「え、えっと。…フェルディナンさんを連れて行く…んですか? どこに?」

「そんなの決まってますわ! あの馬鹿王子のところに、よ!」

 決まっているのか。アイレイスが決まっているというなら、それは既に決定事項なのだろう。

「それはまた、なんで」

「………確認したいことがあるそうよ」

 あたくしが行けるのなら良かったのに。とぶつくさ文句を言っている。

「ニキさんとラルクさんは…?」

「どちらでもいいわ。どうしても成功させなくちゃいけないですし。ただ、今回は王子(実体)の周りも護衛しなきゃ駄目よ。一応、外にいる騎士は、その場に控えているそうですけど、どれだけ信用に足りるかは不明だわ」

 外にいる騎士、つまりルークのことか。アイレイスの場合は、騎士を全般的に疑っているようにも見えるが。

「ともかく、貴女のお陰で最重要課題はどうにかなりそうなの。期待してるわ。はいこれ測定器」

「…持っていくんですね」

「当たり前じゃない」

 どんな場面でも、研究をまず第一に、それがあたくしの信念(モットー)よ。

 と、胸を張って言い切るアイレイスに、彼女らしいなー、と笑う。

「…ちゃんと無事に返しに来なさい」

 測定器を渡された手が、ぎゅ、と握られる。応えるように手を重ね、「はい」と応えた。

「さて! それでは早速行こうではないか! はっはっは!」

「あんたは少し黙れ」

「同感よ、この件に関しては全面的に」

 カーダルとアイレイスが冷ややかな目で睨むが、当の本人は気にした様子は無い。ニキとラルクも我関せずだ(彼らの場合、蜘蛛にやられた恨みもある)。

(心無し…不安になってきた…)

 雛㮈は無言でお腹を押さえた。多分これはストレスだ。




「はっはっは、どうしたんだねヒナ君! 体調でも悪いのかい?」

「いえ、別に………」


 貴方の所為です、とは言えない雛㮈さん。


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