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07.モフモフ大騒動! 後編

「カーダルさーん」

 雛㮈はヘルプミーの合図を出した。子供の行列が途切れたようだ。両手でモフモフ動物をモフりながら、自分の身体をよじ登ってくる子の相手をしている。

 膝の上に乗っている何十匹ものモフモフ動物を一気に引っ掴んで地面に降ろすと、カーダルは雛㮈の脇を掴み、立たせる。足元でぐりぐりと自分の身体を押し付けてくる子たちを踏み潰さないように細心の注意を払いながら、ふれあいスペースを出る。

「毛だらけ」

 カーダルに指摘され、雛㮈は自分の服を見下ろす。確かに毛だらけだ。あれだけ登られていたら、当然か。ぱたぱたと払うと、毛が風に乗って飛んでいく。

「満足できたか?」

「もう十分すぎるほどに…!」

 一生分のモフモフだった気がする。幸せそうに破顔する雛㮈の顔に、カーダルも微かに笑う。

 夕方になったことを知らせる音楽が、どこからか流れてくる。そろそろ帰ろう、という雰囲気になって、どちらからともなく歩き出す。

 園内のショップの前で、カーダルはふと立ち止まった。

「………ちょっと待ってろ。いいか、絶対動くなよ。動くなよ?」

「動きません!」

 そんなに言わなくても!

 何度も念押しをした後、カーダルはショップに入っていく。何か欲しいものでもあったのだろうか。とにかく言われた通り、動かずに待つ。攫われないぞ、と心に決めて、立っていると。しばらくしてカーダルが出てきた。彼は雛㮈の姿を見るなり、あからさまに安堵した顔をする。そんなに信用無いだろうか。

「ん」

 彼は持っていた大きな袋を、雛㮈に押し付けた。

「え? えっと…?」

「俺は要らん。だから、返却不可だ」

 言われて、中を覗く。

 タグに、フウモのぬいぐるみ、と書いてある。さっきのモフモフ動物が巨大化したぬいぐるみだ。大型犬サイズのラルクと同じか、それより少し小さいくらい。

「これ…」

「それなら触っていても“あんなこと”にはならないだろ」

 カーダルは誤魔化すように髪を掻き上げながら、息を吐いた。

 彼がこれを持ってレジに並ぶ姿を想像し、うわー、と思う。おかしいやら、嬉しいやら。いや、そもそも、こんなに大きなぬいぐるみを、大人になってから貰うなんて。

 チケットの時の二の舞にならないように、先手を打つ。

「ありがとうございます! すごく嬉しいです!」

「………それなら良かった」

 仏頂面のままなのは、きっと照れているからだろう。流石にそのくらいは、想像がついた。

「さて、帰るぞ」

「はい!」

 大きなぬいぐるみを抱えておたおたと歩いていると、ひょいと荷物を奪われた。あまりに歩きにくそうだったので、見兼ねたのだろう。

「も、持ちます…」

「戻ってから渡すから良い」

 俵のように肩に担がれたぬいぐるみと、真っ直ぐで鋭い目つきをしているカーダルは不釣り合いだったが、当の本人は気にしている様子は無い。動物園に入る時にも思ったが、周りの目は気にしないタイプなのだろう。

「また行きたいですね」

 本心からの想いを伝えれば、「俺がいる時なら、連れていく」とぶっきらぼうな言葉が返って来た。

「カーダルさんがいなくても、来れますよー」

「あの飼育員がいるんだぞ…」

「へ」

「…なんでもない」

 ふう、と疲れたような息を吐くカーダルを、雛㮈は不思議そうに見やった。


⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎


「うわー、それ、持って帰ってきたの? いやまあ、お姉さんらしいけどさー」

 でかいぬいぐるみを見て、ニキが驚いたように目を開いた。まさかカーダルがプレゼントしたものだとは思っておらず、雛㮈が購入したと思っているようだ。雛㮈は、ちらりとカーダルを見た。特に自分で言う気は無いらしい。

「あー、あー、…えっと、はい、まあ」

 雛㮈は曖昧に頷いた。部屋にぬいぐるみを運んでいると、途中でセパスに会った。

「あらあら、まあまあ」

 カーダルと雛㮈を交互に見て、セパスは笑った。

「坊ちゃん、喜んでもらえてよかったですねえ」

 長く勤めている彼女には、全てお見通しのようだ。

 カーダルはぶすっと不貞腐れたような顔をした。構うな、と言わんばかりの表情だ。

「…笑うな」

 セパスが去ってからくすくす笑っていると、頭をコツンと叩かれた。

 叩かれた場所を押さえながら、雛㮈は照れているカーダルの横顔を見つめた。とくり、と心が動く。その横顔も、他の表情も、もっともっと、見てみたい。衝動的に思った。

 この関係は、果たして兄弟のような親愛なのか。少なくとも、自分の気持ちがそこから異なるものになっていることを、雛㮈自身は自覚した。

 カーダルは、肩にぬいぐるみを乗せながら、隣でパタパタと歩く雛㮈を見やった。

 その頰は、少し上気しているように見える。無意識に伸びかけた自身の指に戸惑い、慌てて手を腰にあてた。

「楽しかったですね」

 無邪気な笑顔を向けてくる彼女の、その唇に視線が向く。―――いやいやいや。あれは違う。ただ………ただ、なんだろう。

「カーダルさん?」

「…なんでもない」


 こちらもこちらで、心穏やかではない様子です。

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