06.モフモフ大騒動! 前編
13,000PV、ありがとうございます!
めでたく50話に辿り着きました。
ありがとうございますー!
「そうですよね、動物園って、“そういう”スポットですよね…!」
震えながら、動物園の入り口を見る。
家族連れ、赤ん坊をつれた夫婦、イチャイチャラブラブしているカップル。三番目が一番、多い。腕を組んだり、手を繋いだり、顔を寄せ合ったり、非常に楽しげである。
「ここは…男女の“知り合い”が来る場所じゃ無い…」
ふふふ、と怪しく笑う雛㮈の横で、カーダルが不思議そうに眉を寄せている。
「何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「い、え! なんでも! ないです!」
というか、この人は何故こうも平静そのものなのだろうか。
(まさか気にしてない…? いやいや、まさか…)
しかし、雛㮈の予想を肯定するように、カーダルがサラッと告げた。
「じゃ、行くか」
「え!? も、もうですか!?」
「“もう”? 何か用事でも?」
「や、心の準備が…」
「心の準備?」
不思議そうに首を傾げられる。気にしているのは、自分だけらしい。何故だか、悔しい気持ちになる。
カーダルの中で、自分はやはり妹扱い、つまり家族扱いなのだろうか。家族連れと同じ枠。
うー、と唸りながら、入り口を抜ける。みな自分たちのことに必死で、雛㮈たちのことなど当然気にしている様子は無い。それでようやく、雛㮈は落ち着いた。堂々として、楽しめばいいのだ。
動物園は、雛㮈の記憶にはない生き物ばかりいた。何かと何かの掛け合わせに見える生き物がほとんどだったが、中には、ドラゴンの子供もいて、しかも触れ合い可能らしい。これは元の世界でいうところの、虎やライオンなどの猛獣の子供に触れます、というアレと同じなのだろうか、と雛㮈は思った。
あまりに熱心に見ていたからだろう、カーダルに「触りたいのか?」と訊かれた。触りたいか触りたくないか訊かれれば、そりゃあ触りたいけれども。答えに窮している間に、カーダルはスタスタ歩いていき、飼育員に金を払った。早い。
檻の中に入ると、子ドラゴンのくりくりした瞳が、雛㮈を見た。長い首を傾けながら、きゅう、と小さく鳴く。
「か…!」
可愛い!
身悶えてその可愛さに浸っていると、カーダルが手慣れた様子でヒョイと子ドラゴンを持ち上げた。
「お上手ですね…」
飼育員が感心したように呟く。
「仕事上、慣れているので」
どこで慣れるのだろうか。疑問に包まれる雛㮈に向かって、子ドラゴンを差し出す。あわあわしながら、胸に抱いた。
「きゅっ、きゅう。きゅう!」
子ドラゴンが首をぐりぐりと雛㮈の首や顔に擦り付けている。えらく気に入られている。
「すごいですね。ドラゴンって好奇心は高い割に、あまりすぐに懐かないんですが…」
「………馬の時と同じか」
きゃあきゃあと楽しげな雛㮈と子ドラゴンを見ながら、カーダルは冷静な口調で言った。
「ままー、ぼくもどらごん、さわりたーい」
外から子供の声がする。宣伝になっているようだが、しかし子ドラゴンに気に入られるかは、シビアだ。飼育員と親は非常に苦労するだろう。
まるで親に甘えるかのように雛㮈の指を甘噛みし始めた子ドラゴンを、雛㮈から引き剥がしてみると、泣くこと泣くこと。
「ビィィーーーッ!!!」
「あー、泣くな、泣くな」
カーダルが宥めるようにぽんぽんと背中を撫でるが、一向に泣き止まない。
雛㮈は見兼ねて手を出そうとしたが、止められた。ここで甘やかしたら、教育にならない。ずっと一緒にいてやれる訳では無いのだから。その理屈は分かる。分かるのだが。
「なんかすごく罪悪感が…」
「耐えろ」
「うぅ…」
にべもない返答に、肩を落とす。しかし、放置するのはどうにも気が引ける。
未だにビィビィと泣いている子ドラゴンの顔をツン、と突ついた。止めようとしたカーダルに、任せてください、と目で訴えてから、子ドラゴンに笑い掛ける。
「はい、泣くのは終了! 男の子なんだから。ね? 笑顔でお別れしたいな〜」
「ビィ…」
「ね」
涙をボロボロと零しながらも、泣き止んだ子ドラゴンの姿に、飼育員が、ほう、と感心した声を上げる。
ばいばい、と手を振ると、小さな手で必死に手を横に振っている。可愛い。
「いやあ、お見事ですね! ドラゴン使いになれそうです! どうですか、なってみませんかっ?」
興奮気味に雛㮈に詰め寄る飼育員を、カーダルがひと睨みした。
「…というのは冗談で。まあ、はい、えーっと、興味がありましたら、是非…」
「あ、はい!」
雛㮈はカーダルの視線には気付かず、にこりと笑った。
「行くぞ」
短く言って歩き出すカーダルの横に並ぶ。少し振り返って、自分を見ている子ドラゴンに、手を振った。
「ついてきそうだな」
「檻の中ですよ」
「仮に檻から出たら…ドラゴンは一度ニオイを憶えたら、追ってこれるからな」
「え…」
警察犬よりも、更に嗅覚が効くみたいだ。でも今ちゃんとお別れしたから、きっと一匹で頑張れる…はずだ。
ともあれ、至福のひと時であった。だから。
「他に何か、気になるのは?」
口元が緩んでいた雛㮈は、ついつい自分の欲求そのままに、喋ってしまった。「モフモフな動物を、モフモフしたい」と。
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で。
「むあ、ぷ…!」
「稀少動物だけに好かれるって訳じゃないのか」
「そん…っ、確認するように、言わなくても…っ」
モフモフはすごく好きだけれども、モフモフに囲まれて身動きが取れない。すきーすきーと擦り寄られて、幸せだけれど、大変だ。毛だらけだ。
おかげで、撫でたい放題ではあるけれど。あと、付随して子供にも人気だ。
「お姉ちゃん動物使いなのー?」
「違いますよー」
「すっげえ囲まれてる!」
「そうですねー」
モフモフ動物を退かして、子供を二人(定員)を膝に乗せると、その上からモフモフ動物がよじ登ってくる。何分間かで交代。もはやアトラクション化している。
「こうやって撫でてあげてね」
「はーい」
時折子供に指導しながら、ルールを守らせる手腕は、なかなかにすごい。“動物にすごく好かれているお姉さん”の言うことを聞くと、“すごい体験”をさせてもらえるから、なのだろうが。
たまたま通りがかった先程の飼育員が、本気で勧誘したいと思っているであろう熱い視線を送っているのを、カーダルは自身の身体でさりげなく遮った。
「おにーちゃん、おねーちゃんの周り、どうしてたくさん集まってるのー?」
「………さあな」
「えー、おにーさん知らないのー?」
子供相手にも素っ気ないカーダルさん。
どちらかと言わなくとも、飼育員さんの方が気になるようです。




