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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ4.迷宮の魔法使い
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05.遺跡は鬼畜仕様です 後編

「カーダルさん、私たち、遺跡の中にいたはずですよね」

「そうだな」

 肯定を受け取り、安堵した雛㮈は、改めて階段を進んだ先にあった光景(現実)を、見た。

「…なんで遺跡の中に、密林(ジャングル)?」


⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎


「1フロアが全部、密林なんでしょうか…」

 外から見た遺跡は、それなりに広かった記憶がある。1フロア全て密林なのだとしたら、なんとも壮大な話だ。

 そして、ここから次に進まなければならない雛㮈たちにとっては、はた迷惑な話だ。どこが出口だ。

 とりあえず進むしかない、と踏み出してみたものの、歩いても歩いても、変わらない景色に、嫌気が差してくる。カーダルが目印にと枝を追っているが、そうでもしないと、本当に迷子になりそうだ。永遠に。

(迷子になるくらいなら、燃やしてしまおう…)

 脳内で山火事計画を立てる。ぼんやりしながら草むらを掻き分け、

 ―――もにゅっ

 何かを掴んだ。

 恐る恐る、手の先を見る。赤くて丸い何かが蠢いている。目が合った。いや、正確に言うと、目は無い。大きく左右に開いた口と、その口の中の無数の歯を見たのだ。丸い顔(?)の後ろには茎がついている。植物、のはずだ。しかし、口を開閉して、歯をカチカチ鳴らしている。植物だが、ただの植物ではない。

「えーと」

 叫べばいいのだろうか。こういう時。

 少し前にいるはずのカーダルに、助けを求めることを決めた直後、植物が火を吐いた。

「うきゃあああああ!?」

 間一髪で防御魔法で防ぐ。危うく火傷するところだった。

 きしゃあああ、と威嚇してくる植物は、しかし直後に上から剣で貫かれ、静かになった。一撃必殺。頼もしいような、怖いような。カーダルは植物から剣を引き抜くと、じろ、と雛㮈を睨んだ。

「なんでそう、目を離す度に危険な目に遭うんだ、お前は」

 恨み言のように吐き出してから、「かといって先頭は無理だから…」と頭を抱えている。

「お前は、必ず俺の後ろを歩くようにしろ。踏むところも、持つところも、注意して見て真似しろ」

「は、はい…」

 心許ない返事に不安感を覚えたのだろう、ちょくちょく後ろを振り返られ、安否確認されるようになった。実際、数回に一回は、なにかしらの未知の生命と遭遇していたわけであるが…。

 それにしても、ちっとも出口が見えない。だんだん、足を動かす体力がなくなり、移動スピードが遅くなってくる。カーダルも、雛㮈の状態に気付いたのだろう。

「休憩にする」

 大樹のところまで辿り着くと、そう宣言した。深層世界にいるためなのか、結構な時間が経っているというのに、空腹感は無い。それでも、疲労感は溜まるようだった。

「ここで座っていろ」

 カーダルは雛㮈を大樹の根元部分へと座らせた。足をさする雛㮈を、じ、と見る。

「…これまでの経験上、お前から目を離さない方がいい気がする、んだが」

「…何か気になるものでも?」

 そういう言い方をする、ということは、この機会に一人で確認したいことがあるのだろう。

「少し、辺りの地形を確認したいと思っている。お前を連れて行くと、へたり込みそうだし」

「そうですか。…いってらっしゃい!」

「俺が悩んでいるのは、誰の所為だと思っているんだ…?」

 絶対零度の視線にさらされ、うぐ、と詰まる。その答えは分かりたくなくても分かるが、しかし。

「だ、だってどの道それ、(体力無い人間)がいると、できないことじゃないですか。その上、ここを抜けるために、カーダルさんが必要だと思っているんですよね」

 今でなくても、いずれかのタイミングで雛㮈を放置しなければ、無理だ。ならばそれは、今であろうと、先であろうと、変わらない。むしろ先になればなるほど、密林地帯に取られる時間が長引く。

「大丈夫です! 防御魔法を何重にも掛けておきますから!」

「………………」

 怪しまれている。すごく。

「………なるべく早く、戻ってくる。どうしようもなくなったら、何かしら合図しろ。山火事起こすとか」

「合図が山火事って、物騒ですね」

 先程、自分も同じことを考えていたわけだが。

 カーダルは不安げな顔で雛㮈をしばらく見た後、覚悟を決めたのか、踵を返して歩き始めた。その間に、雛㮈は宣言通り、防御魔法を重ね掛けする。

 静かな空間。どこからか、叫び声のような声がするのは、多分雛㮈が遭遇したアレとかソレとかが叫んでいるのだろう。

 カーダルはいつ頃戻ってくるだろう。それまでは、どうにか耐え切らなければ。正直、ここでのモンスター遭遇率は、雛㮈が断トツでトップだ。カーダルが不安になるのも頷ける。雛㮈自身も不安なのだから。

 大体、精霊を見つけさえできれば、こんな冒険だってしなくていいはずなのだが。きょろきょろと辺りを見渡してみるが、精霊の姿は無い。

「そりゃそうだよね…」

 そんなに簡単に見つかるなら、最初から困っていない。

 はあぁ、と息を吐く。そんな雛㮈の耳元で。

「こんにちは、ヒナ、さん?」

 聞き覚えの無い、声。

「………へ?」

 雛㮈が状況を把握する前に、大樹の枝が彼女を襲った。




「………………」

 ―――あ、これはまた説教パターンだ。

 と、密かに悟る雛㮈さん。

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