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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ4.迷宮の魔法使い
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04.遺跡は鬼畜仕様です 前編

「カーダルさん! も! 走ってくだ! さい!」

 揺れる反動に言葉を途切れさせつつ、前方を歩いていたカーダルにも声を掛ける。彼は後ろを振り向くと、投擲されている岩と必死な形相の三人を見て、正しく状況を把握したようだった。

「…何を押した?」

「何もしてませんよっ!」

 涙目でキッと睨む。今回は、ただ上を見ただけだ。本当に、それだけだ。

 本当かよ、と疑う目を無視しながら、雛㮈は、一人自由な身で、そろそろと上を向いた。

「増えてるよ!?」

「何が!?」

「投げてくる子が!」

 ぞろぞろ、と。いた。

「え、ちょっ、どこまで? これどこまで走り切ればいいんだよ!?」

「えええっと…」

 視線を滑らせ、終わりを探す。ぞろぞろ現れる赤い光。先にもいる。待ち構えている。少なくとも、今見えている範囲では、隙間なく。

 これは、言うべきか。言わざるべきか。黙り込んだ雛㮈の反応で、三人は察したようだった。

「っ、いた…」

 頭に、カツン、と石がぶつかる。小さいから大事には至らなかったが、これは危険だ。思わず頭に手をやった拍子に、バランスを崩した。

「わ…」

 落馬で死んだ人もいるらしい。

 そんな情報が不意に浮かぶ。

 他人の深層世界で命を落としたら、どうなるのだろう。

「―――っ!」

 頭を打ち付ける前に、地面と雛㮈の間に、スライディング気味に、他人の身体が割り込んだ。

「ぐっ」

 くぐもった悲鳴が聞こえた。それでようやく、我に返る。死ぬわけにはいかない。いや、もっと単純に、死にたくない。自分はまだ、自分の持てる力すら、使っていないのに、諦めるなんておかしい。

「お姉さん!?」

「大丈夫! 先に…!」

 ニキたちに向かってそう叫びながら、防御魔法を展開。雷の魔法を上に向かって放つ。キーッ、と甲高い、怒った時の猿のような声。

 敵意。それらを真正面から受け止めた雛㮈は刹那たじろいだ。

「落ち着け」

 下から、声がした。

「きゃあ! ご、ごめんなさいカーダルさん!」

 そういえば潰したままだった、と顔を青くしながら、すぐさま退く。そのまま土下座をしそうな勢いの雛㮈に、カーダルは再度「落ち着け」と言った。この間にも、防御魔法による壁には、ゴンゴンと石や岩がぶつかっている。

 敵意にさらされ、怯える雛㮈の頭に、ぽん、と手を置く。

「お前は防御だけ考えていればいい」

 立ち上がり、剣を抜き、雛㮈に背中を見せた彼に対して、反射的に声が出た。

「嫌です!」

 敵意を、忘れたわけではない。恐怖がなくなったわけでもない。

『貴女を殺すことは…』

 振り切る。声は消えない。

 それでも。

 雛㮈はカーダルの隣に並んで立つ。

 守られて終わったのでは、駄目なのだ。何が駄目かは分からない。でも、それはいけない。

 驚きに瞳を染めたカーダルに、無理やり作った笑顔を向ける。

「私、戦えますから」

「…震えてるクセに?」

「はい」

 す、と息を吸い込む。ゆっくりと、吐いた。大丈夫、と唱える。よし、と気合いを入れて。

 狙いを定めて、魔法を放った。ただ、数が数だ。何度倒しても、きりがない。

 うー、と唸る雛㮈の横で、カーダルが動いた。

「援護、頼んだ」

 彼は踏み込むと、勢いをつけて一気に跳躍した。岩が投擲される隙間から、剣先が潜り込み、そのまま滑る。キンッ、と高い音が響かせて振り切り、着地する。彼らと雛㮈たちを阻んでいた壁が崩れた。その拍子に、幾人かの悪魔(仮称)が雛㮈の前に落ちてきた。

 キーッ、と警戒したように歯を剥く彼らを、カーダルが振り向きざまに一閃する。斬られた悪魔は、地面に倒れたかと思いきや、すぐに砂のように身体が崩れ、消えた。

 しばし呆然としていた雛㮈だったが、次々と斬撃を繰り出すカーダルに合わせ、空いた穴へ向かって魔法を放つ。雷、水、火。いろいろ試しては見たものの、何が特別有効ということもないようだ。

 感情はあるが、知能はあまり高く無いらしい。あちらの攻撃は、場所的優位はあるものの、単調だ。ほとんど作業的に魔法を放っていく。

 数十回と攻防が続き、あらかた退治したことを確認すると、雛㮈はへなへなとその場に座り込んだ。

「大丈夫か?」

「は、はい。…でも、ニキさんとラルクさんと、はぐれてしまいました」

 同じ場所にいなくてもちゃんと戻れるのか、未だ不明な状態だ。どうにかして合流しなくては。

「…目的は同じだ。先に進めば、いずれまた合流するだろ。今追い掛けて、同じ場所に辿り着くかは分からないからな」

 こうなった以上、目的・手段を共有しておいたのは、良かったのだろう。何も知らない状態ではぐれたらアウトだったのだから。

「じゃあ、私たちは…」

 カーダルは、雛㮈の言葉に、壁を示した。何の変哲もなさそうなソコから、微かに魔力を感じる。手で触れると、ピポン、と気の抜けるような音がして、壁がスライドした。階段がある。

「………」

「こういう性格なんだ」

 無言の雛㮈の心を読んだかのように、カーダルが言った。




「こ、こんなところに抜け道があったって、気付けませんよ! そんな余裕がある場所じゃないですもん!」

 雛㮈が涙目で文句を言うのを聞き、カーダルは小さく呟いた。

「お前の反応は、つくづくフェルディナンを喜ばせると思う…」


 ふうん、で終わってしまう人よりも、大袈裟に騒いでくれる方が、悪戯のしがいがあるってもんですよね? ね?


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