表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ3.一難去らずにまた一難
33/100

13.勘違いはしません

 レンガ造りの頑丈そうな宿屋に入り、まずはニキと共にシャワーを浴び、身体を清めた。数日入っていなかったのだ。気持ちよかった。

 しかし…先程まで、臭くなかっただろうか。いや、臭かっただろう。今更ながら、恥ずかしい気持ちに苛まれる。あああ、と身悶えつつも、今更のように主張してきた空腹に応え、粥を食べた。美味しかった。

 ようやく人心地ついたところで、同じ宿に部屋を取ったという、ハイキー達のところへ向かう。彼らは、雛㮈が連れ去られた後、全速力でノジカ街へ向かい、自身のネットワークを駆使して、カーダルへ情報提供を行ってくれたらしい。

 いや、そうでなくとも、挨拶はしたかった。

 ドアの前で名乗りを上げると、中からドタバタという音がした後に、勢いよくドアが開き、満面の笑みのハイキーが出迎えてくれた。

「おぉ! 嬢ちゃん、無事だったか!………無事だったんか!」

「なんで二回言ったんです?」

 じとー、とした目で見つめる先にいたハイキーは、うろうろと視線を彷徨わせ、いやー、とか、あのなー、とか、意味の無い単語を口にしている。

 大方、本当に無事に帰ってくるとは思っていなかったのだろう。いや、決して雛㮈がトロイと思っている訳ではなく、きっとそういう事実が多いからだ。きっとそうだ。

 うん、まあな、うん。と誤魔化されながら、中へ通される。ニキたちも一緒に入室する。

「よがっだあーっ!」

 双子の片割れが、ボロボロと泣いていた。

「闇市で売られて二束三文で値段がついて、変態貴族の屋敷で酷い仕打ちをされて自意識を破壊されて、おまけに原形を留めていなかったら、どうしようと思った…!」

「相当酷いストーリーですね!?」

 流石に、酷すぎやしないだろうか。特に、二束三文の件が。

「ごめんな。タク、自分ん中でいろいろ完結しちゃうことあるもんで。悪気は無いんだわ。悪気は」

 御者であるチクは、雛㮈の無事の帰還に、最初ホッとしたような顔をしたものの、それからは、弟の醜態を前に逆に冷静になったようである。

「にしても、これでノジカ街自体も、大ダメージだわな。曲がりなりにも、あの闇市、ここの経済を支えていた一面もあるもんでな」

 ハイキーは、「ま、ここを拠点にしてる訳じゃない俺らにゃ、然程…って感じだけどな」と続けて、煙草をくゆらせる。はて、道中は吸っていなかったが、と首を傾げると、「街で落ち着いた時の、至福!」と答えをくれた。

 そうか、至福なのか。ストレス溜まっているんだな。副流煙こわい。

 微妙に距離を取りながら、「でも」と口を挟む。

「いくら経済が潤うといっても、それで無関係の人間の人生を犠牲にするのは、アウトだと思います」

 そんなの、人生には、人身売買でなくとも、形を変えてあるのだろう。この世界だからではない。どこだって。

 だから、これはただの綺麗事だ。

 それでも、その綺麗事を、忘れちゃいけないと思う。

「そうだなー。好事家のオモチャになんて、なりたくねーし」

「我は相手を咬み殺すから、問題無い」

 銀狼(ラルク)は、いろいろ物騒だ。思慮深いと見せ掛けて、結構短絡的かつ血生臭い方法を採りたがる。

「それにしても、嬢ちゃんは面白いな」

「面白い?」

「人攫いに捕まった結果、旅の仲間を増やして帰ってくるとは」

 …褒められて、いるのだろうか。

 しげしげとニキとラルクを見るハイキーの顔には、「本当に不思議だ」と書かれている。

「まあなんにせよ、無事で良かった」

「はい! ハイキーさん達は、目的の商売は…?」

「バッチリ成功、大繁盛だわ」

 けけけけけ、と悪い笑みを浮かべる三名の姿に、訊かなければ良かった、と思った。

 若干引いている雛㮈に気付いてなのか、こほん、と空咳をしたハイキーは話題を変えた。

「ま、そんな訳で俺らは目的を果たしたかんな、明日にでも王都へ戻ろうと思っとる」

「王都…」

 お城とカーダルの屋敷がある場所だ。と辛うじて判断する。首都という言葉に慣れ親しんでいた関係上、『オウト』という言葉がすぐに『王都』に変換されない。

「嬢ちゃんらも王都出身なんだろ? また王都で会おまいな。その時には是非、薬を買ってくれな」

 ―――惚れ薬系もあるから。

 コソッと続けられた言葉に、一瞬頭の中が真っ白になった。意味を理解して、赤くなってから青くなる。それからまた赤くなる。

「なっ、そっ、そん…っ」

「薬屋のおにーさん、あんまりお姉さんイジメないでくれよな。いちいち過敏に反応してくれて、面白いのは分かるけどさぁ」

 ニキは耳が良いのだろう。ハイキーの言葉に、呆れた顔をしてみせる。これでは、どちらが年上か分からないな、と赤い顔を手でパタパタ扇ぎながら、考えた。いやだってでもね? と心の中で言い訳する。

「はっはっは!」

 ハイキーは大声で笑っている。むう、と唇を尖らせた。

「…そろそろ戻るか」

「おう、もうこんな時間か。そうだな、そろそろ閉めるか。俺らも明日の準備があるかんな」

 カーダルの一言で、お開きの雰囲気となる。雛㮈も立ち上がり、テーブルの上を簡単に掃除していると、ぽん、と肩に手を置かれた。

「ま、さっきのは冗談だが、そんなもんが無くても、“仲良く”はなれるさ」

「…うーん」

 誤魔化すように曖昧に唸る雛㮈に、ハイキーは「なんでそこだけ、そんな頑ななんかね」と苦笑した。頑なじゃないです、と言いながら、チクとタクにも挨拶をして、雛㮈は部屋を出る。次はいつ会えるだろう。そう考えると話足りない気がしたが、いつまでも残っては迷惑だろう、と頭を切り替えた。その背中を追って、ニキも部屋を後にする。

「あ、そうだわ。忘れるとこだった」

 ハイキーが表情を変え、最後に部屋を出ようとしていたカーダルを呼び止める。彼は、肩越しに振り返る。

「今回の首謀者、捕まったんだってな」

「…ああ」

「気ぃつけりんよ。マスターの裏で、誰かが動いとったって話もある。…そいつは、今回捕まっとらんのやろ」

「………」

 カーダルは、無言を持って、答えとした。

「嬢ちゃんは、ちと危なっかしいし、兄さんが守ってやりんよ」

「言われなくても」

 ひとつも表情を変えることなく、当然のように答えると、「情報、感謝する」と言い、彼は前に踏み出した。

「なぁんか、噛み合っとらんのよな」

「あれは、あれだがぁ」

「行き違いってやつだがぁ」

 残された悪人面の商人三人は顔を見合わせ、しばし考えたが、まあどうにかなるやろ俺らは知らん、とすぐに放り投げた。


⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎


「おい」

 ベッドに腰掛けていると、部屋でカーダルに声を掛けられた。雛㮈は気付いたら目の前に立っていたカーダルを見上げた。遅れて「はい」と返事をする。

 ニキとラルクがいないので、周囲は静かだ。二人で話すのは、実は久し振りかもしれない。

「もう落とすな」

 そう言って、連れ去られた時に落としてしまった杖を手渡される。アイレイスから貰った大事な杖だ。拾っていてくれたのか、と嬉しくなって礼を言う。

 用事はこれだけか、と思っていたのに、カーダルはなかなかその場から動かない。

「いくら許せないことがあったからって、危ないことするのは止めておけよ」

 唐突な話に、なんのことか、と少し考え、先程ハイキーの部屋で出た闇市の話だと気付いた。

「だ、大丈夫ですよ!」

「…足が震えていたのに?」

「うっ、あ、あれは…」

 あれは、初めて、殺気をまともに受けたからで。かといって、二回目受けた時は平気だろうとも思えない。そもそも、もう二度と受けたくない。

 それでも、自分の意志で“ここ”に立つのなら、この先もそういうことはあるのだろう、と漠然と理解している。思い出すと、今だって足が震えるのに。あれが、この先、何度も。

 はあ、と聞こえるか、聞こえないかくらいの、小さなため息。

「…無理はするな。できることなんて限られてる」

「それでも」

「どうしてもっていうなら」

 その声は力強かった。

「俺が支えてやるから、一人で行くな」

 それは。

 どういう。

 一瞬、息を飲む。

「あ…」

「お姉さーん! なんか目の前で大道芸やってる! 見に行こうぜ!」

「あ、え、だ、大道芸…?」

 ばあん! と大きな音を立てて部屋に戻ってきたニキは、「大道芸! 初めて見た!」と興奮気味だ。

 気付いたら、カーダルは部屋にいない。馬の様子を見に行ったらしい。

 損をしたような、安堵したような。いや、どうせよたよた歩きの子供を見る親の気持ちなんだろうけれども。

「でも流石に…誤解しちゃいますよー」

「ん? どうしたんだよ、お姉さん。顔赤いけど、熱でもあんの?」

「いえ別になんでもないですよ!」

 ふう、と息を吐いた。

 このモヤモヤ感は、大道芸を見て発散しようと思った。




「お? おにーさん、今日こそ集中してブラッシングしてくれるのか?」

「………………」

集中してなーい!(ヒヒーーーーン!)


 お馬さんの怒りを買いました。


 さてさて、これにて第三章は閉幕。

 獣二匹を仲間に引き込み、お次は(当初から旅の目的だった)とあるお方のナカへダイブ!

 果たして、ハッピーエンドは相成るか?


 拙い小説ですが、お付き合い頂けると嬉しいです♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ