10.動けなくなりました
5,000PVありがとうございます…!
おおおおう5,0000かあ、と作者がビクビクしております。
いやもう感無量です感謝です。
拙い小説ですが、どうぞよろしくお願いします。
そこからは、圧倒的だった。雛㮈の力任せの魔法とは違い、カーダルの剣は、まるで流れるような動作で無駄なく振るわれ、敵を撃ち破っていく。前衛が手こずっていた敵も、カーダルが数回剣を合わせただけで落ちた。
(カーダルさんって…強かったんだ)
考えてみれば、旅立ってから…否、出会ってからこの方、剣を向けるべき相手は、いなかった。正確には、雛㮈は初対面で剣を向けられたが、斬られる前に王が止めたので、その腕前を身を以って知ることも無かった。
カーダルは、熱を入れるわけでもなく、淡々と敵を倒していく。峰打ちなのだろう、昏倒はさせるものの、大量に血が噴き出る、などという光景は無かった。大量の血が噴き出る光景なんて、できれば一生見たくない。現代っ子には辛い仕打ちだ。
そのままぼんやりと、入り口(扉どころか壁が破壊されており、既に入り口と呼んでいいのか分からない有様だが)に目を向ける。
無造作に倒れた敵の姿。狐の子と銀狼はまだ暴れ回っている。背後では、それぞれ武器もどきを持った人たちが、空腹感でフラフラしながら、必死の攻防を繰り広げていた。なかには、怪我を負って壁際で蹲っている人もいる。
(あぁ…)
何を、ぼうっとしているのだろう。
動かなきゃ。
助けなきゃ。
自分には、力があるのだから。
―――なのに。
さっきまで動いていた足が、腕が、指先が、どうしても動かない。
『戦闘慣れしていない貴女単体であれば、殺すこともまた、容易』
言葉が、リフレインされる。同時に身体を支配するのは、初めて雛㮈個人に向けられた、“本気の”殺気。
死んでしまえ、ではなく。
殺してやる、という明確な意志。
ひゅ、と息を飲む。脅威は去ったはずなのに。もはや戦況は、こんなにも、圧倒的なのに。
それなのに、こんなにも―――。
「ヒナ」
「………ぁ?」
いつの間にか。
カーダルの視線が、自分に向いている。魔法攻撃が完全に止んでいたためだろうか、と、これもまたぼんやりとした頭が仮説を出した。
ああ、いけない。こんなのじゃ、怒られてしまう。笑われてしまう。カーダルにも、アイレイスにも。
認められたいのに。
そのためには、もっと頑張らないといけないのに。せっかく、自分ができる、最大限のことなのに。
だから。
「だい、」
じょうぶ。
そう続けようとしたのに、声は出なかった。
じんわりと身体全体を包む、熱。
それがカーダルの腕の中だからだと認識するのに数秒。それが『抱き締められた』わけではなく、『抱き留められた』のだと認識するのに、更に数秒を要した。震える足は、自身の身体すら支えきれなかったらしい。
「………わたし、」
両手をカーダルの胸におき、身体を離す。緩い拘束は、それで簡単に解けた。
無理に作ったみせた笑顔が、綺麗である自信は無かった。
「やだな、わたし、大丈夫なんです。まだ、わたし」
ぐん、と。身体が引っ張られる。気付けば、再び腕の中にいた。
「大丈夫」
声が、いつもより柔らかい声が、頭上から降ってくる。
「もう終わった」
「ぇ」
言われてようやく、周りの音を意識して拾う。確かに、先程まで聞こえていたはずの、剣と剣がぶつかり合う音や、人を殴る音、怒号は何ひとつ聞こえない。
「もうすぐ、ここにも騎士団が到着するだろう。全員無事に保護される。他のところにいる人間たちも保護されるし、闇市に関わった人間は捕らえられる。首謀者も含め、な。元々この日のために計画を練り上げて準備を進めて来たんだ。騎士団だって成果を出すために、死ぬ気で取り掛かるだろう。だから―――」
つらつらと話される言葉が、右から左へと抜けて行く。今、雛㮈の目を白黒させ、彼女を動揺させているのは、この場が終焉に向かいつつあることではなく、カーダルの行動であり、ぎゅっと抱き締められている状況であり、頭に置かれた大きな手だ。
「だから、お前がこれ以上、何かをする必要は無い」
切り捨てられた。一瞬そう思って。
しかし。
「お前は、よく頑張ったよ」
目に溜まったものは、誰かの視界に入れない内に、カーダルの胸に埋めて隠した。今言葉を発すると、きっと泣き声になってしまう。
本当は、言いたいことがあった。
普段疎んでいるクセに、どうしてこんな時に、優しくするのか。
絶対に、怒られると思ったのに。軽率な行動をして、勝手に危険な目に遭って、彼だってたとえ強かろうとも、ここに侵入する所為で発生する危険はゼロではなかっただろう。
それなのに。
このタイミングで、まるで無事で良かったと言わんばかりの抱擁と、欲しい言葉をくれるのは、ズルイと思った。
雛㮈さん(いろんな意味で)ドキドキ事件。少しは進んだ…かしらん。
しかし、しまった。カーダルさんの剣技をもっと細やかに書くべきでした。せっかくのアピールポイントが…!
よ、よし、次の機会こそは…!(いつだろうか)
ううう、戦闘シーン、もっと丁寧に書けるようになりたいです、ね…。




