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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ3.一難去らずにまた一難
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09.立ち向かいます 後編

「鍵、盗ってきた! 外は敵だらけだけどな!」

 希望と絶望が入り混じった状況報告をしながら、鍵束を見やる。

「どれが、どれだ?」

「番号が振ってあるのう」

「なら、檻の方にも番号があるんじゃないですか?」

 檻の周囲をぐるりと回り、「ほら、やっぱり」と示す。

「11番、ですね」

 狐の子が鍵束からひとつの鍵を取り外し、鍵穴に回す。ガチャン、という音がした。わっ、と喜びの声がそこらから上がる。

「よし、手分けをして外そう!」

 助けた者にも手伝ってもらい、次々に鍵を外して行く。半分が終わったところで、外から、ドンドン、という音が聞こえてきた。

「絶望的状況がやってきたぜー。…どうやって乗り切る?」

「窓から飛び降りて逃げてみるとか」

「ここ、窓無いぜ」

「じゃあ」

 昔見たテレビを思い返す。

「通気口から脱出するとか」

 上を見る。幸か不幸か、通気口の入り口は頑張ればなんとかなる距離だ。

「え、あそこ、通れんの?」

「さあ…?」

「なんだよ、テキトーかよ」

 加速度的に解放される人間が増えていく。それを見ながら、雛㮈は、うぅん、と唸った。

「この人数じゃ難しいですね。道も分からないし」

「と、なると正面突破か」

「それも怖いです。たくさん人がいそうです」

「じゃあ、」

「でも!」

 雛㮈は、狐の子の言葉を遮って、鋭く息を吐いた。

「魔法使いは、絶対的に、その場に君臨しないといけないそうですから」

 微笑む。

「私が負けたら、アイレイスさん(師匠)に怒られちゃいますし。誰かを死なせても、私が死んでも、どちらも駄目ですし。―――だから、私は、自分含め、誰も死なせません」

 ドォン、と背後で大きな音がする。もう少しで、防御魔法は打ち破られるだろう。

「でも私一人じゃ心許ないので、狐さん、手伝ってもらえますか?」

「………仕方ないなぁ」

 やれやれ、と言わんばかりの面持ちのまま、狐の子は、髪の毛をごしゃごしゃと掻き回した。

「やるか」

「ありがとう!」

「最後の檻が開いたのう」

 銀狼が告げた。檻から外に出た面々は、顔を見合わせ、近くの机やら、椅子やらを手に持つ。

「まともな武器が無いけど…!」

「じ、自衛くらいは…!」

 雛㮈は、ぺこりと一礼して、扉に向き直る。緊張感と恐怖感で、高鳴る鼓動。これは、お遊びではない。斬られたら痛いし、下手をしたら死ぬ。ごくり、と唾を飲み込む。大丈夫、大丈夫。唱える。

 ドォン、ドォォン、ドォォォン。

 音が、大きくなる。覚悟を、決める。

 扉、どころか、壁が吹き飛んだ。魔法を唱える。範囲は広く、威力は高く。

 半分近くの敵を巻き込む、風の魔法。

「おお…やるじゃん、お姉さん」

 狐の子が笑って、飛び出していった。

「…我は、除け者かの?」

「手伝ってくれるんですか?」

 体力不足、だそうだが。

 ぱたん、と尻尾を動かし、「仕方ないからのう」と前に出る。その背を見送ってから、魔法を片っ端から唱えていく。通常ではあり得ない大技の連発に、敵方…どころか、味方すら引いている。

 魔法で脅しつつ、接近戦タイプの獣二名が確実にオトし、こぼれた輩を後方のメンバーが複数人でかかり、相手の戦力をガリガリと削って行く。

 窮鼠猫を噛む、を体現した様だった。

 そろそろ終盤か、と息をついた時だった。

「しかし、なるほど。新人魔法使いと侮っていましたが、貴女が攻撃の要となるとは…私の目も衰えました」

 その声は、非常に近くから聞こえた。

 本能的に防御魔法を展開する。バリィン、と展開した直後に破られた。それでも、一撃目を弾き返す力はあったようだ。雛㮈がようやくそちらに目を向けた時、優男はちょうど着地するところだった。

「逆に言うと、厄介な貴女さえ殺せば制圧は容易。戦闘慣れしていない貴女単体であれば、殺すこともまた、容易」

 つまり、確実に()るために、雛㮈を直接狙ってきたのだろう。

 しかし、いつの間に近付かれたのか。一撃目は奇跡的に防げたが、二撃目を捉えられる自信も、止められる自信も無かった。息を吐きながら、防御魔法を重ね掛けする。

 必死に考える。自分では、彼の動きを捉えて攻撃するのは無理だ。ならば、数打ちゃ当たる戦法しか無いが、奥まで侵入された状態で、他の人を巻き込まずに広範囲攻撃、というのはまた、難しい。

(ど、どうしよう…)

 困って動きが止まった隙を、相手は見逃さなかった。ぐん、と詰まる距離。恐怖に押し負け、反射的に魔法を放つ―――その前に。

 上から煙が降ってきた。

「なに!?」

 優男が焦った声を出す。煙の中、一閃。

「ぐ…っ」

 くぐもった悲鳴を上げ、男は弾き飛ばされ、地面に落ちた。着地の体勢も取ることもできなかったらしく、そのまま動かない。

 目を丸くする雛㮈の前で、煙が風に吹かれ、視界が開けていく。

「………あ、カーダルさん?」

 見慣れたはずの仏頂面が、ひどく懐かしく思えた。いろいろと聞きたいことも、多分お互いにあったのだろうが。

 まず、第一に。

「どこから…来たんです?」

「通気口から」

「あそこ、通れたんですか!?」

「普通は通らない。おかげさまで、埃まみれだ」

 お前が捕まらなければ、通る必要も無かったんだ。と言外に言われた気がした。すみません、と小声で返す。

 彼は、素早く周囲を確認し、今やらなければならないことは理解したらしい。

「ひとまず、蹴散らしてから、だな」

 そう言って、腰から剣を引き抜いた。




「………でもなんでわざわざ通気口から? この部屋に繋がっているのが分かったから? それとも、実はこっちにもそういう話が………」

(…なんかぶつぶつ言ってんな)


 思っていることが口から出ちゃっている雛㮈さん。

 気付いているけど放置するカーダルさん。


 さあ、ようやくカーダルさん(男主人公)の活躍の機会です! 何話分か引っ込んでいた分、是非活躍をば…!


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