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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ3.一難去らずにまた一難
25/100

05.職を見つけるのも大変です

みなさまのおかげで、25話まで書き進められました!

これからもがんばります!

「今回は嬢ちゃんのお陰で命拾いしたわ。休んどる間に精霊風に晒されたら、ひとたまりも無かったしな」

 かかかっ、とハイキーが大口を開けて笑う。

「こんなもんじゃ足らんけど、お礼だ。遠慮せんで食べり(食べな)

 そう言い、彼らは雛㮈とカーダルに、昼食を振る舞ってくれた。携帯食料のアレンジ料理なので、すこぶる美味しい訳では無かったが、疲れた身体に染み渡る少し濃い目の味付けに、舌鼓を打つ。

「それにしても嬢ちゃん、杖持ってる割に、なかなかすごいのな」

「でも精霊風を確認しとる時、使っとらんかったに(使ってなかったけど)

「あ…元々、杖無しで魔法は使えるんですけど、持っていると安心して…」

 けれど、杖持ちは初心者と侮られて、襲われる危険性が高まるらしい。どうしたものか。うーん、と唸ると、「いっそ杖持ちだからと油断しとるところを叩く! ってスタンスで行けば?」とハイキーがニヤリとした。騙し討ちをする、ということだろうか。

「なあ、兄ちゃんはどう思う?」

「…それで良いんじゃないか」

 どの道、あまり信用していない。

 と、顔に書かれている気がする。先程は褒めてくれたのに、この変わりよう! もう少し信頼を置いてくれても、と思わないでもない。

「ま、嬢ちゃんが危険な目に遭った時にゃ、兄ちゃんが助けてくれるで、大丈夫だわ」

「は、いえでも、あの…」

 できれば馬鹿にされる前に自分で窮地を脱したい。いや、そもそも、窮地に追いやられる事態を減らしたい。

 それに。

 視線を泳がせている雛㮈に、視線が集まる。言おうか言わまいかで迷っていた雛㮈は、退路を絶たれた気持ちになり、仕方なしに口を開く。

「あの、イザという時に仕事にできるものを探していて…。ご、護衛だったらどうにかならないかな、って。…その時には、杖無しで、こう、堂々としてなきゃ、なんですよね」

「………護衛? 嬢ちゃんが?」

「はいっ」

 にこ、と雛㮈は笑った。

「えっと、次の街までは、あと半日くらいなんですよね」

「…そうだが。大体その街で中間地点だかんな」

「はい。なので、一日馬車に対して防御魔法を掛け続けていれば、私でも護衛が勤まるかな、て」

 一拍後、ぶはっ、と思わず吹き出したような笑い声が響いた。その中で、カーダルだけがいつもの、否、いつもよりも不機嫌そうな仏頂面で、佇んでいる。

「嬢ちゃん! そりゃあ無理がある。防御魔法はそんなに長続きしないわな。それこそ、王宮の上級魔法使いでも無い限り!」

 王宮の上級魔法使いというと、アイレイスのことだろうか。雛㮈はこてん、と首を傾げた。確かに、アイレイスなら集中力も程々にやってのけそうだ。自分なら、集中していないと、少し不安。

 でも、そうか。

 雛㮈はひとつ学んだ。護衛をやるにしても、「こいつは強そうだ」と思われることが大事なのだ。ひよひよの雛㮈を見て、命を預けたいと思うだろうか。いや、思うまい。

 人生、ままならない。

 がっくりと肩を落とすと、カーダルがその肩に手を置いた。

「お前、常識もままならない癖に、無理を言うな。せめて自分の世話をできるようになってから言え」

「うぅ…」

 仰る通りだった。

 まだまだ、憶えることも、慣れなくてはいけないことも、たくさんある。…それにしては、雛㮈が新しいことに触れる機会は、あまりに少ない気がしているが。

 ハイキー達の笑いが治まった頃を見計らい、出発となった。


⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎


 その後はさしたる問題も無く、夕刻、無事に街に着いた。街というよりも、素朴な町、あるいは村に近い。

 長閑そうなところだな、というのが第一印象だ。

 馬車を停め、馬を馬小屋に連れて行く。手持ち無沙汰になった雛㮈は、独りぽつねんと立っていた。

 ノジカ街に行くのは、この道が一番近いらしく、周りには旅装束の人も多い。ゆるゆると視線を動かしていると、遠くから小さく悲鳴が聞こえた気がした。

「………?」

 なんだろうか。先程の声を頼りに、その方向に歩いていく。

 特に、どこかでトラブルが生じているようではない。

(でも、今、確かに…)

「どうかされましたか?」

「ひゃっ」

 背後からの声に、慌てて振り向く。優しそうな顔をした、薄目な男性がいた。どうかされましたか、だなんて。相当不審な行動をしていただろうか。思わずソワソワしてしまう。

「いえ、特に―――」

 ぞくり、と肌が粟立つ。

 男の背後には、馬車がある。ハイキーのものではない。目の前の男のものだろう。その周りを、精霊が飛んでいる。いつもの穏やかな様子ではない。

『大丈夫? 大丈夫?』

『ぼくたちの大切な子』

『起きて? ねえ起きてー?』

 心配する精霊。その傍らで。

『ぼくタチの大切な子』

『手を出しタ』

『許サナい』

 手足の先が黒くなった精霊が飛び交っている。ならば、先程の悲鳴は。

 必死に平静を装いながら、雛㮈は男に訊ねた。あの精霊を放置していたら、いけない気がする。

「あの…お兄さんも、ノジカ街に行かれるんですか?」

「ええ、そうですよ」

「馬車…商人さんですか?」

「ええ」

 これも肯定される。穏やかな物腰に絆されそうになるが、しかし、ここで引き下がる訳にはいかなかった。

「…何の商人さんなんですか?」

 それまで、スラスラと答えていた男からの返事が無い。不安げに精霊を見ていた雛㮈は、男に一歩距離を詰められたことに気付けなかった。

 彼はそのまま、“非常に手慣れた”自然な動作で、自身の拳を雛㮈の腹に放った。強い衝撃が、雛㮈を襲う。

 カラン、と手から杖が滑り落ちる。

「―――ぁ」

 息が詰まる。

 急速に薄れて行く意識の最後、雛㮈は語り掛けた。

「……だめ」

 だめだよ、と。

(……私が、なんとかするから。貴方たちの大切な子も、私のことも。だから、“手を出してはだめだよ”……)

 その想いは届いただろうか。理解する前に、ブラックアウトした。




『いっちゃった…』

『いっちゃったよ…』

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