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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ3.一難去らずにまた一難
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03.同行者を得ました

 雛㮈は困っていた。非常に、困っていた。困っていた(・・)、というか、今も継続中だから、困っている(・・)、が正しいだろうか。

 とにかく、どう対応するべきなのか、混乱していた。混乱した頭をフル回転させて、状況を整理する。

「ええっと、貴方たちの話をまとめると、つまり―――」

 そこまで言ったところで、荒々しくドアが開いた。いつも通りの仏頂面。…の、後ろに、間違えようの無い、怒気。

 今回に関しては、怒られることも、その内容も分かっていた。

 カーダルは、じろりと三人組を見る。彼らは顔を見合わせると、両手を上に上げ、敵意も害意も無いことを示した。だから、彼は真っ直ぐに雛㮈を怒鳴る。

「勝手に部屋に見ず知らずのやつを入れるな。さっきといい、お前には危機感ってものが無いのか!」

「ご、ごめんなさいーっ!」

 当然のように落ちた雷に、心の底から謝罪の言葉を叫んだ。それでも、あまりの怒号に、ちょっと泣けてくる。怖い。

「大体っ、なんで知らない連中を招き入れているんだ!」

「えっと、その、か、確認を怠ってドアを開けたら、お三方がいらっしゃって…その、なし崩し的、に?」

「………………」

 自分で言っていても、危機管理がなってない、と分かる理由だった。反省しています。無言で睨むカーダルに、平謝りする。悪気は無かったんです、は通用しないだろう、流石に。

「あー、あー。どっちかといやぁ、そこに漬け込んで居座った俺らが悪いかんな…」

 見かねたリーダー格の男性が、口を挟む。カーダルは、しばし雛㮈と男を見比べ、この話をこの場で進めてもあまり良い結果は生まないと思ったのか、頭を切り替えたようだった。

「あんたは?」

「俺はハイキー。残りの二人は、チクとタクだ。吊り目なのが双子の兄のチク。もっと吊り目なのが弟のタク」

 チクとタクの見分けは、全くつかない。どちらも茶髪茶眼だし、どちらも同じ吊り目に見える。ハイキーは、薄い緑の長髪をしている無精髭の青年なので、分かりやすいのだが。

「…俺はダル。こっちはヒナだ」

 礼儀として名乗る。カーダルは偽名だが。

「こんな成りをしてんだが、商人でね。嬢ちゃんに“交渉”させてもらっとった」

「ハイキーさんたち、仕事のために急いでノジカ街に行く必要があるらしくて、馬車を牽く馬を探しているそうです」

 リーダー格の男―――ハイキーの言葉を受け取り、雛㮈が聞いた内容をまとめて話す。

「そうそう。したら、兄ちゃん達が馬を連れとった(連れていた)んでね。もし行き先が一緒なら、乗せてく代わりに馬車を一緒に牽いてくれんかなって」

「…と、いうことだそうです」

 雛㮈たちにとってもありがたい話だが、こちらの世界での話を、どこまで信用して間に受けていいのか、分からなかった。雛㮈には、彼らは嘘など言っていないように思えるのだが。

「…商人というが、何を売っているんだ?」

「薬だ」

「兄貴の作る薬は!」

「王国一だがぁ!」

 取り巻き(チクとタク)が自慢げに胸を張る。相当、“兄貴”が好きらしい。カーダルと同じく、視線で人を殺せそうな顔をしているのに、薬売りとは。人を見た目で判断してはいけない、ということだろう。

「予定通り進んどったんに(進んでいたのに)、急に病が広まって、ノジカ街で必要になっとんだわ」

「早くお薬を届けたいんですね」

「いや、金儲けの為」

 需要が高まっとるでな、とハイキーはキッパリと言った。まかり間違っても、慈善事業ではない。そんなものか、と雛㮈は納得した。「理解できない! 苦しんでいる人がいるのに、お金の為だなんて…この人でなし!」と喚く程、雛㮈は子供ではない。

 うんうん、と頷いて、雛㮈はカーダルに向き直り、両手とも握り拳を作る。

「利害は一致しています!」

「………………」

 ―――こっちの“利”は、お前が出した“損”を補うものだろう。

 そう言いたげな視線を真正面から受け、雛㮈は早速、目を泳がせた。

「とはいえ…こちらも、早くノジカ街に着かなきゃならないからな。ところであんた達、護衛は?」

「おらん! 俺らが護衛!」

「でも兄貴が一番強ぇ!」

 それは護衛と呼べるのだろうか。チクタクコンビが胸を張るのを、どこか釈然としない面持ちで見る。

「俺らも、昔はいろいろ悪いことやっとったんでね。腕っ節は強いんだわ。モンスターや盗賊が出ても、勝てはせんけど、自衛はできる」

 かっかっか、と笑うハイキーは、確かに自信ありげだ。

 カーダルは、三人組をじっと見つめ、やがて、ふ、と息を吐いた。

「…分かった、手を組もう。目的地はノジカ街。こちらは馬を、あんた達は馬車をそれぞれ提供する。護衛は各自でいいな?」

「十分だがぁ。明日は何時に?」

「陽の八刻で。問題は?」

「無ぇな」

 ニヤリとハイキーは笑い、商人にしてはがっしりしている右手を差し出した。カーダルは数秒固まってから、その手を掴んだ。一時的な協定は、ひとまず上手く結べたようだ。雛㮈はホッと息を吐いた。


⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎


 その後、当然のように。

「…今回は“運良く”なんともなかったものの、次は絶対に、気を抜くな」

「は、はい…」

「むしろ、相手が話し始めるまで、声を出すな。物音を立てるな。ドアを開けるな」

「はい、以後、気をつけ、ます…」

「子供とはいえ、女だからな。女一人だと思われたら、襲われるか、売られるか。最悪、殺されるぞ」

「え…!? あ、えっと、はい」

「…本当に分かってるんだろうな?」

「わ、わかってます!」

 雛㮈はカーダルの小言を食らう羽目になった。自業自得、なのだが。

(襲われるのも売られるのも殺されるのも嫌だなあ…それに、怒られるのも)

 雛㮈は、次は気を付けよう、と心に決めた。




「なあ兄貴」

「なん?」

「あの子、俺らの所為で怒られとるかな」

「したら、申し訳ないなぁ」

「あー…、な?」


 顔に似合わずいい人なハイキーさんたち。


 伝わるか伝わらないか微妙な方言にはルビを振ってます。自分が分かる所為で、なにが伝わらないか、分からないのですけどね!

 関西弁を使う自信は無いので、地元の方言チックな感じに。

 もし「これ、なんのこと?」って言葉があったら、お伝えくださいませ。

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