13.もう少しここにいたいです
「して、生活拠点はどうするかね。城勤めとなるじゃろうし、城に居を構えるか?」
「え…」
正直に言うと、嫌だった。
味方がいない世界で、ようやくどうにか見つけた知り合いの傍を離れることは不安だった。しかし。
ちらり、とカーダルを見る。
彼にとっては、雛㮈が居座ることは、迷惑だろうか。家主は彼だ。彼に不快感を覚えさせてまで、居座ることはできない。けれども、この場でその思いを口にすることもできなかった。
―――いい機会、かもしれない。
どちらにせよ、いつかは、新しい生活基盤を、築く必要があるのだ。
「私は…」
「彼女はもうしばらく、私が請け負いましょう。まだ全幅の信頼を置いた訳ではない人間を、城に住まわせる訳にはいきません」
カーダルが、雛㮈の言葉を遮って意見した。その内容に、雛㮈は喜べばいいのか悲しめばいいのか分からない、複雑な顔を作った。
「ふむ」
王は唸り、カーダルを一瞥した。真剣な顔をした彼の姿に、ふ、と微かに笑いを見せ、「お主の判断を尊重しよう」と口にした。
「それでは、ヒナ殿。そういうことじゃから、しばし、カーダルの屋敷で羽を休まれよ」
「陛下、私はそういう意味で言ったのでは…」
「よい、よい。分かっておるわ」
「陛下!」
王は、まるで幼子を相手にするかのように、カーダルをあしらう。信頼関係(もとい、親愛関係)というのは、こういったものを指すのだろう、と雛㮈は思った。
「正式に城勤めとなる日取りは、後日こちらから通達しよう。今日のところは、アイレイスと顔合わせをするといい。カーダル、お主が案内をしてやれ」
「………は」
少々むくれた様子で、カーダルは返事をした。
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緊張した。
退室した雛㮈は、大きく息を吐いた。追って、カーダルも出て来る。
雛㮈を一瞥して歩き始めた彼は、あくまでいつも通りだ。ととと、と小走りで近付き、勇気を出して隣に並んでみた。
「あ、ありがとうございます!」
「は?」
「もう少し、お屋敷に置いて頂けること…私、嬉しかったです」
ふにゃり、と雛㮈は微笑んだ。ここまで無防備な笑顔を見せたのは、初めてのことだった。仏頂面だったカーダルは、刹那、目を開き、ぽかんと惚けた顔をした。しかし、不思議そうに小首を傾げた雛㮈の姿に我に返ると、勢いよく前を見て、歩調を速めた。
「っ、他意は無い! 勘違いするな!」
「わ、わかってます。ちゃんと理解してます。こんな得体の知れない人間、信用してもらえるなんて思ってません、から!」
ピタリ、とカーダルの足が止まった。無表情でジッと雛㮈を見る。どことなく、苛立っているようにも見えた。
「な、何か…?」
「………別に」
ふい、と顔を背けられた。雛㮈はクエスチョンマークを浮かべたが、その答えを教えてくれる気は、どうやら無いようだった。
だから、当然、
「…調子狂う」
カーダルが小声でごちたことなど、知る由もなかった。
これにて、第一章は閉幕です!
読んで頂いて、ありがとうございます。
さてさて、ようやく少しだけ、
話ができるようになった主人公’sですが、
仲良くなれるのはまだまだ先です…。(残念ながら)
次回、カーダルさんのお屋敷の一室から、
お城の一室へと、活動場所が変わります!
…どの道、室内ですが。
ファンタジー溢れる(はずの)外に出るのは、まだ少し先のことです。
次回以降も、どうぞごゆるりと、
お付き合い頂ければ幸いです♪