11.夢じゃありません
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「君は、求められてここに来た。ならば、“求められるまま”、進みなさい」
いつか聞いた言葉が、脳裏を過る。
「いってらっしゃい、ヒトの子よ。あるべき場所に行き、あるべきように生きなさい」
私は何を求められているのだろう。あるべき場所はどこ? あるべき姿は何?
教えてください、と手を伸ばす。
けれど、その手は宙を掻いた。何も掴めない。
もはや、答えを教えてくれる存在は無いのだ。自分で探すしか、無いのだ。
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「………ぅ」
呻いて、目をほっそりと開けた。
既に見慣れた天井が、視界の真正面に映る。ここはどこだ、という問いに、カーダルの屋敷で与えられた自室だ、と解を出す。
何故ここにいるのだろう。カーダルと、リリーシュは………。
「っ、!!!」
あの後、どうなったのか、と考えた瞬間に、頭が冴えた。転がるようにしてベッドを出た。立ちくらみがする。足がもつれそうになりながら、部屋を出る。
どこへ向かえばいいのか。そういえば、カーダルの自室すら知らない。リリーシュの部屋だって、道を憶えていない。泣きそうになりながら、それでも進む。
「お嬢様?」
「セパルさん!」
まあまあ、こんなところでどうしたんです。もう休んでいなくていいんですか。
心配そうな顔をする彼女に、もう大丈夫なのだと、こくこくと頷く。それよりも。
「あ、あの…カーダルさんとリリーシュさんは…?」
「カーダル様は、お嬢様をお部屋にお運びになった後、自室で休まれていますよ。リリーシュお嬢様はいつも通り、穏やかな顔で寝ていらっしゃいます。…それにしても、お嬢様、そのお髪は…?」
言われて、そっと頭に手をやる。肩口で切り揃えられた髪。―――あれが決して夢ではないという証。あるべき場所に、あるべき人を。リリーシュも、“そのうち”目を覚ますだろう。
その場にへたり込んだ。安心感からかと思ったが、どうもそれではないらしい。頭がグラグラする。無理に動いたことが祟ったのか。
(でも、二人とも無事だ…)
その喜びをしっかり噛み締めて、意識を落とした。
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「それにしても、ビックリいたしましたよ。急にお倒れになられて、丸三日、全くお目覚めになられなかったんですよ」
「ええっと、ご、ご心配をお掛けしました…」
ぷりぷりしているセパルに、引き攣った笑みを向ける。
「本当ですよ! 心臓が止まるかと思いました」
セパルは、剥いた林檎(本当は別の名前があるらしいが、見た目も味も林檎なので、雛㮈は林檎と呼んでいる)を雛㮈に差し出した。ありがとう、と礼を述べ、頬張る。急にたくさん食べると胃がビックリするから、と彼女が気を遣ってくれたのだ。
目を覚めてから一日。ようやく、元気が出てきた。幽霊の少女は現れない。それでいいのだ、と思う。代わりに精霊たちは、雛㮈が起きてすぐに『大丈夫ー?』と群がってきたけれど。
カーダルとは、あの後から一度も会っていない。二度目に倒れた時も、雛㮈を部屋まで運んでくれたのは、彼であるらしい。お礼を言いたいと思っているが、どうだろう。彼は、それを受け取ってくれるか。
(そういえば、庭、綺麗だったなあ)
いつか、外に出ることを許される日が来るのだろうか。雛㮈は、窓の外に目をやる。深緑は、ここからでは見れない。
「セパス」
びくり、と雛㮈の身体が震えた。
「入るぞ、いいか」
「はい。…よろしいですよ」
セパスは、雛㮈を一度見やってから、答えた。扉の向こうから聴こえたのは、セパスの主の声だ。本来、拒否権などない。それでも声を掛けたのは、彼の気遣いだ。それをこの娘にもキチンと向ければいいのに、とセパスは思った。
雛㮈が心の準備を済ませる前に、乱暴に扉が開いた。無駄な動作など一切なく、彼は真っ直ぐに、ベッドにいる雛㮈の前までやってきた。
「陛下への謁見が決まった。明日の朝、城へ行く」
「え、あ、はい。そうですか。行ってらっしゃい、です」
途端に、ひどく苛立った目を向けられた。ひっ、と息を飲む。
「…お前が、謁見するんだ」
「へ…っ!?」
雛㮈は目を丸くさせ、驚いた。