01.死にました
衝撃は一瞬。痛みもまた、一瞬だった。だがしかし、“死ぬ程の”強烈な痛みは熱となった。それは、宮古雛㮈の意識を焼くには十二分だった。
ドシャリ、と音を立てて落ちたのが、自分の身体だと認識する間もなく、雛㮈の意識は、奥底へと沈んでいった。
(あ、私、死ぬんだ)
意識の隅で、理解する。
あまりにも呆気なく、雛㮈の命は消えた。
闇、闇、闇。果てしない闇の中を泳いで行く。自分が誰なのかすら忘れそうになる程の距離を進み、ようやく光を見つけた。
久し振りの光は、眩し過ぎて。
雛㮈は目を細める。
それはそれは、幻想的な場所だった。
お花畑などは見えない。自分は確かに“死んだ”のだが。
そこにあったのは、様々な色で輝くキューブたちだ。ふよふよと浮いているそれら。雛㮈も同じように、ふわふわ浮いている。泳ぐように進めば、「おお?」とヒトの声がした。
「おかしなこともあるものだ。生き物の形を残したまま、ここまで彷徨うだなんて…君は何者?」
自分に語り掛けるヒトは、白いローブを身に纏い、緩くウェーブのかかった長い金髪を、ふわりと揺らしている。優しそうでもあり、厳しそうでもあり、かつ酷薄な色すらある一対の碧眼が、真っ直ぐに雛㮈を見つめていた。
「何者、と…言われても」
困ったように首を傾げる。
「驚いた。声まで出せるの」
心底驚いたような顔をした彼(あるいは彼女? 性別不詳だ)は、しげしげと雛㮈を見つめた。美貌のヒトにそうされるのは、居心地が悪い。雛㮈が、ふ…と顔を背けると、雛㮈と彼の間に、キューブが躍り出た。
まるで惹かれ合うように、雛㮈はそのキューブを見つめる。
「ふうむ、どうやら偶然ではないらしいね」
そのヒトは、可笑しそうに呟いた。それから、「いいよ」と言う。
「君は、求められてここに来た。ならば、“求められるまま”、進みなさい」
なにせこんなことは滅多に無いのだから、それくらいは“許されるだろう”。
そのヒトはくすくす笑うと、状況を飲み込めていない雛㮈の背中に一瞬にして回ると、トン、と背中を押した。
「いってらっしゃい、ヒトの子よ。あるべき場所に行き、あるべきように生きなさい」
「え…な、なに…どういう…」
ことなの、と訊ねる前に、雛㮈の身体はキューブに吸い込まれた。強烈な光に身を包まれる。雛㮈の意識は、再び沈んだ。
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「う…」
寒い。その上、身体の節々が痛い。
雛㮈は身動ぎし、ようやく目覚めた。
よろよろと、身体を起こす。なんだっていうの、と呟きながら、まず周囲を見、“今、自分がいる場所”に絶句した。
石でできた、冷たい床と壁。窓ひとつない場所。高く高く伸びた天井。その付近に、チラリと穴が見えた。空気穴だろうか。一応、部屋、なのだろう。頑丈そうな扉が備わっている。その扉と雛㮈の間には、鉄格子があった。まるで、牢屋だ。いや、事実、ここは牢屋だ。
しかし、何故自分がこんなところへ?
第一、牢屋がある場所って、どんなところなのか。テレビで見た、日本の牢屋とは違う。海外のものとも。
混乱する雛㮈は、頭の中で、日本、と復唱した。そして、自然と理解する。
ここは、“死ぬ前の宮古雛㮈が生まれ育った世界ではない”、と。
そして、“新しく誕生した宮古雛㮈が生きて行く世界なのだ”、と。
でもそれにしたって、このマイナススタートは、なんとも。
雛㮈は、途方に暮れたように、眉を寄せた。
新連載、スタートです!
読んでくださり、ありがとうございます!
この後しばらく、ヒロインと、この後に出てくるヒーローの間で、甘い空気になりません。
お互い一方的にギスギスビクビクしておりますので、ご容赦ください。
タイトル詐欺にならぬよう、ハッピーエンド目指して、頑張ります。
お付き合い頂ければ、幸いです。