5章
学校帰りに、わたしには毎週最低一日は、特に日にちは決めていないけれど、余程の用事がない限り決まって出かける所がある。
自転車を漕ぎ、駐輪所に駐め、そこから二十分電車に揺られ、さらにバスで一時間十五分行ったところに、その場所はある。
岩肌がごつごつと剥き出しになっている山道が続く最中、ある一角から突如として色が切り替わる場所がある。
そこは、灰色の大量のコンクリートが見渡す限りの岩肌を覆い隠しており、トンネルの少し外れた場所には、御影石で作られた慰霊碑がある。その慰霊碑には、淡いピンク色のアルストロメリアが今日も供えられている。いつ来ても、アルストロメリアはここに置かれている。
一二年前、わたしにとって忘れられない、悪夢のような出来事があった場所だ。母のアリスと、叔母のテレスは二人でここにかつてあったトンネルを抜け、二人で買い物に出かけようとしている最中、トンネルの崩落事故に巻き込まれた。他にも数人巻き込まれ、かなりの大惨事となった現場では必死の救助活動が行われ、二人は三日間生き埋めになった後、救出された。
でも、母のアリスは瓦礫の下敷きになり、三日間圧迫され続け、それが原因で挫滅症候群で亡くなった。三日間声を掛け合って、やっと救出されたというのに救出後に亡くなったのを見て、テレス叔母さんは無念だったと思う。それから二年後、ここで叔母さんも亡くなった。叔母さんは、暇さえあればここにやって来ていたという。あの事故以来、テレス叔母さんは前にも増して必死で働いていたと聞く。仕事に打ち込むことでこの悲劇を忘れたかったんだと思う。でも、それが原因なのか、ここでクモ膜下出血を起こし、誰にも看取られることなく亡くなった。わたしは、二人の母たちが幸せだったかはわからない。でも、何かある度にここに来て、二人の事をおぼろげながらに思い出す。母が亡くなった時、わたしは五歳だったし、テレス叔母さんが亡くなった時も七歳だった。記憶はどんどん磨り減っていく。
わたしは、慰霊碑にカランコエの鉢を置いた。二人とも好きだった花だ。小さな、真っ赤な花が沢山咲き乱れ、目に鮮やかな花はわたしも好きだ。
幸い、わたしの家は花屋なのでこれくらいの贅沢は許してくれる。いつも玻璃お姉ちゃんが何も言わずに鉢を渡してくれる。
今日もわたしは御影石の慰霊碑に手を合わせ、二人の母に報告する。さて、5時からはコンビニのバイトだ、急がないと。
わたしは、御影石の前から駆け出した。