17章
「ってか、なんでこんな雨の日に?」
波留は、志岐先生にぶつくさと文句を言った。
「今日はあの男の残念会だぞ? こっそり準備をしたいと思うのが人情だろう」
蝙蝠傘を揺らしながら、志岐は趣味の悪い笑みを浮かべた。
そう。こんな凄まじい雨だというのに、志岐先生から突然の電話。何事かと言えば、賀上の花屋に来い! と一方的に切る。慌てて準備をすると、家の前に待ち構えているという用意周到ぶり。渋渋、波留は志岐先生と一緒に賀上花店へと向かっている、というわけだ。
「ま、良いスけどねえ。硝子も驚かそうと突然訪問ってのは、ちょっと」
「かまわんだろ。あっちは客商売。こっちは客」
波留はへへへ、と気のない笑みを浮かべた。
「お、そろそろだな」
すぐそばのアーケードを潜り、角を曲がれば賀上花店がある。しかし、そんな二人の目に飛び込んできたのは、傘をさしながら駆けているゆらの姿だった。いつもどちらかと言えばおっとりしているゆらだが、取り乱した様子で必死に走っている。
様子を見ておかしい、と思ったので、波留は話しかける。
「ありゃ、どったのゆら」
「硝子ちゃんが、いなくなっちゃったの!」
切迫した様子は、微塵も冗談を言うような雰囲気ではない。
「……詳しく、話を聞こうか?」
志岐の目が妖しく輝いた。




