使命を果たす
真香ちゃんはいつの間にか荷物を持っていた。
あれだけ走ったのに汗ひとつかかないとは…。
「靴です」
そう言って靴を差し出す。
裸足のままで靴を履くのは少し抵抗があったけど仕方が無かった。
というかいつの間に持ってきたのだろう。
聞くと度合さんと話してる最中にこうなることを見越して既に荷物をまとめていたらしい。なんとも気が利くことで。
「はぁはぁ、ここ……見晴らしがいいね。街が見えるよ」
「このあたりは小高い丘になってますからね…。というか個人的にはなんてこしくれたんですか度合さん。家なくなちゃったじゃないですか」
あの爆発後、木造建築たる僕の家はそのまま引火して全焼した。
まわりに家がないこともあり他の建物に引火したり、野次馬が来たりはしなかったが、かわりに僕は住む家をなくした。
この時代に16歳でホームレス。
冗談じゃない。
これからどうしろってんだ。
「いやぁ…、そのことはちゃんと責任を…とるよ。……大丈夫…だ、よ」
「大丈夫ですか?顔色悪いですよ」
汗を滝のようにかいてた。
みたら服の上からまた血がにじんでいた。
「はぁ…クソッ、傷が開いた…な。応急処置だったから期待はしてなかったが。もう長くは……ない」
「おい!人、巻き込んでおいて勝手にくたばるな!」
「真香、悪いが痛み止め…をくれ……」
「しかし博士、これ以上摂取したら体が…」
持ちませんという言葉を最後までいせず、度合さんはただ、くれと再び言った。
「どうせ…もう、もたん。だったらここで最後の使命を……はた…す」
真香ちゃんはしぶしぶ自分んバックから注射器をとりだす。
注射器は痛みを与えることなく中の痛み止めを度合さんに体内に注入する。
「ふう、楽になった。さて継意くん、君には話さなければならないことがある。僕はもう時間があまり残されていない。だから一回しか言わない。心して聞いてくれ」
「ああ」
どうやらようやく聞くべき話が聞けるようだ。
「さっきの連中は政府の秘密部隊だ。私が怪我を負ってたのも察してるとおり彼らに負わされたものだ。彼らは私を追ってる。理由は天才博士D、つまり私たちの最後発明、そして切り札<武器>について知ってるからだ」
「……<武器>」
「ああ<武器>だ。私たちの発明の一つ、<ブラックボックス>を破壊するために作った…、いや、それは正しくないな。あくまで結果的にそうなったにすぎない。そしてその<武器>こそが君だよ」
「僕ぅ!?」
「ああ、そうだ。正確に言えば君の体内にあるナノマシンなんだがな。一度中に入ってしまうともう二度と取り出すことは不可能だから結果的に君になるわけだ。
君は電子機器をよく壊すだろう?それは君の体内にあるナノマシン『電子掌握』が原因なんだ。君のお父さん、天才博士Dの一人、燈籠灯が入れたものだ。彼は<ブラックボックス>の破壊を君に託したんだ。灯は志半ばで死んでった。そしてメッセンジャーとして私が頼まれた。だが隠れながら君を探すのになかなか手間取って、見つけたと思ったらあいつに見つかった」
「あいつ?」
「ううっ、痛覚が戻ってきた。連続して使ったせいで痛み止めの効果がすっかり薄れてるな。本当ならもっと効くはずなんだがな。時間がない。もうこれ以上は話せない。仕方がないがここで過去の話は終わりだ。君は<ブラックボックス>を破壊しないいけない。それはこの世界のどこかにあるはずだ。私にもわからんがな。そのために気切進歩という人物を探せ」
「気切進歩」
「ああ…、社会に反したやつだ。見ればわかる。たぶんこの世界のどっかにいるはずだから」
「それってつまり、どこにいるか分からないってこと?」
「すまんな、なにせ放浪癖があるやつでな。大丈夫だ奴も君を探してる。最後に拠点として私の研究所…とはあまり言えんが、私の家を使え。場所は真香が知ってる。君が活動するための資金もそこにある」
そう言うと安らかな表情になった。
「はぁ…これ……で、やるべきことを……はた…した」
街をみて彼は最後こういった。
「機械に制御された暮らしていきる街なんざ、クソくらぇだ」
そしてゆっくり目を閉じた。
ここで、度合尺度の人生の幕を閉じた。