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お題小説

気がついてしまうと起こること(家族A)

作者: 水泡歌

結婚記念日。


夫が珍しく私に花を買ってきた。


ポットに入った紫色の花。


名前はペチュニアと言うらしい。


ぶっきらぼうに「ん」と言いながら花が入ったビニール袋を渡される。


どういう風の吹き回しか。


そろそろ定年も近いし、熟年離婚でも恐れているのか。


そんな可愛くないことを考えながら、「ありがとう」と受け取り、ベランダに飾ることにした。



「そう、それでね。旦那ったら何をくれたと思う? なんと999本の赤いバラよ赤いバラ!」


「へー、それはすごいね」


「そうでしょ、しかもその花言葉を知ってもっと感動しちゃって! バラの花言葉って本数ごとに変わるって知ってた? で、で、999本のバラは何だと思う?」


「なんだろうねー」


「「何度生まれ変わってもあなたを愛します」よ! もう私、感動しちゃって!」


涙をハンカチで拭う友人に冷静に紅茶をすする私。


あ、この紅茶おいしいな。


金持ちの旦那をもつ友人の豪邸。


私はぼんやりと友人の先月の結婚記念日の話を聞いていた。


よっぽど感動したのか何度も聞かせてくるのでもう完璧に話は覚えている。


ホテルのスイートルーム。


扉を開けるとそこには999本のバラの花束があったそうだ。


一体いくらかかったんだろうと庶民の旦那をもつ私は考えてしまう。


うちの旦那だったら――。


あ~、ないな、ない。


たぶんそんな光景を目にしたら救急車に電話するんじゃないだろうか。


「すみません、ここに頭を強打した人がいるんですが」なんて。


「それでね。この前、こんな本も買っちゃって」


友人が机の上に何かを置く。


見るとそれは分厚い花言葉事典で。


「見て、花言葉にも色々あるのよ」


新しいアイテムの登場に「なるほど、この話題は当分続きそうだ」と覚悟する。


だって、バラのページに折り目ついてるし。


友人に勧められパラパラとページをめくってみる。


あいうえお順に並んだ花言葉は友人の言う通り色々あるようだ。


へー、色によっても違うのか。


パラパラパラパラめくって一つのページで手が止まる。


「あら、どうしたの?」


不思議そうに覗き込んでくる友人に私はにやりと笑い、本を閉じた。


「何でもない」




その夜。


「ただいま」


いつも通りだるそうに夫は帰ってきた。


いつも通りぶっきらぼうにカバンと上着を渡し、ぶっきらぼうに「風呂入ってくる」と1階に向かう。


その背中に私は言った。


「ねえ、あなた、ペチュニアの花言葉って知ってる?」


夫の動きはピタリと止まった。


…………。


少しの間。


「……知らん」


ぼそっとそう言ってまた歩き始める。


でも、私は見逃さない。


髪の毛からのぞく両耳が真っ赤だったことを。


私はクスクス笑ってベランダに飾られたペチュニアを見た。


『あなたと一緒なら心が和らぎます』



999本のバラの花束よりもそんな花言葉を持った花1つが私にはちょうどいいと思った。


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