冷凍睡眠
ワシは99歳の
爺さんじゃ。
もうすぐ
100歳になる記念に
冷凍睡眠を体験
することを考えておる。
なに? 99歳の老人が
呆けてバカな妄想を
していると思っておるか?
そう思うなら
思うてもよいが
まあワシの話を
聞きなさい。
今はーーー 確かーーー
西暦2020年じゃな?
ああ その前に お主らは
冷凍睡眠を御存じかな?
生きたままの生物を
冷凍して保存する。
何十年、いや何百年も
経った後で解凍する。
そうすれば冷凍する前の
状態で目を覚ますと
いうわけじゃ。
理解できたかのう?
ん? 何? そんなこと
もはや常識じゃと言うか?
ウィルスや血液は冷凍して
保存するもんじゃと・・?
うん そうじゃな
今でも単細胞動物レベル
までは冷凍保存できとる。
しかしな ウィルスも
血液も生物の定義には
当てはまらないのだぞ。
ワシが言いたいのは
人間が冷凍されて
解凍した場合に
ちゃーーーんと
元の状態に戻れるか?
っちゅう話だ。
ワシはな 見たことが
あるんじゃ
昔テレビでな。
液体窒素を御存じかな?
マイナス200度くらいの
超低温の液体じゃな。
これにな 金魚を入れて
瞬時に凍らせて
見せたんじゃ。
あの 料理に使うような
網のオタマに
金魚すくいの
小さい金魚を乗せてな
液体窒素に入れてな
直ぐにすくい出したら
カチカチに凍っておった。
白い霜が付いた状態でな。
驚くのは、これからじゃ。
その金魚を水槽に入れたら
すーーーーっと底に沈んで
暫くすると ピクピクって
痙攣して 元の金魚に
戻って泳ぎだしたんじゃ。
ワシは もう それは
ビックリしてしもうた。
それからワシは考えた。
もうすぐ100歳になる。
もう十分長く生きた。
今直ぐ死んでもいいと
思うておる。
思えばワシの人生
色々なことがあった・・・
んっ いやいや いかん
ワシの想い出話をしようと
していた訳ではない。
ワシは全財産を叩いて
冷凍睡眠の装置を買った。
装置は全て今回の実験の
ために特注したんじゃ。
なにせ 世の中には まだ
冷凍睡眠の装置なんて
ないからのう。
部品の設計から装置の
組立まで 一通りに掛った
金額は、ざっと1億じゃ。
ふぉっ ふぉっ ふぉっ
子供には内緒じゃからな。
なに!? そんな実験
失敗するに決まっておると
言うのか?
ハッ ハッ ハッ ハッ!
既に実験は
終わっておるのじゃよ。
ほれ この通り ワシは
ピンピンしておる。
みんな ワシに 何か
質問は無いか?
人間が冷凍睡眠から
目覚めたのだから 何か
質問くらいあるじゃろ!?
それよりも 何よりも
もっと驚かんか!!
あっ いやいや ワシと
したことが ついつい
興奮して感情的になって
しもうたようじゃ。
すまん すまん。
んっ 質問か うん うん
「冷凍睡眠中の
記憶があるか?」
じゃと?
なかなか いい質問じゃ。
冷凍睡眠中の記憶は無い。
だから何も覚えておらん。
はい 次の方どうぞじゃ。
うん 「どれくらいの時間
眠っておったか?」
とな?
8時間じゃ ワシは毎日
8時間眠るようにしておる
小学生の時からじゃ。
はい 次っ!!
おお
「痛みは、あったか?」
いや 痛みは無かった。
というか 覚えておらん。
次っ!!
「どうやって
解凍したか?」
流水解凍じゃ
レンジでチンは
いかんぞ!!
端っこだけ熱が通り過ぎて
煮えてしまうからな。
次っ!!
「学会には報告したか?」
って
ワシのような
呆け老人の話を
学会が聞いてくれるかのう
って 誰が呆け老人じゃ
コラっ!!
次っ!!
「人間を冷凍すると
細胞が壊れるから
冷凍睡眠は不可能だ」
と言うか?
うん 良いところを
突いたのう
そこがポイントなんじゃな
若い二十歳のピチピチな
肉体を冷凍するならば
水分が凍る際の膨張で
細胞膜が破壊されるがな
99歳の老人の細胞は
水分が少ないから
細胞膜にも皺が寄って
膨張に対応できるのじゃよ
ふぉっ ふぉっ ふぉっ
歳とってみるもんじゃ。
次っ!!
「今が西暦何年か?」
って?
だから最初に言ったように
西暦2020年じゃろが!
何? 違う? 違のか?
西暦2013年じゃと!!
しかも ワシは
このワシが存在せんと
言うのか!!
ワシは西暦2010年に
書かれた短編小説の
主人公だというのか!!
おわり