キリさん友人と戦った
「んで、いきなり呼びつけて何の用だ?」
キリからの呼び出しに対して空から颯爽と登場したのは、キリの親友にして悪友ソーサルディアと、その妻ミシュエラだ。
ソーサルディアが魔法、ミシュエラは魔道具の補助ありでソーサルディアに抱きしめられている。
「んや、ちょっと待ってくれや。
……ほら少女よ、見ろ。金髪碧眼と赤髪赤眼だぞ。さっきのは嘘じゃなかっただろ?」
「…………」
今度は口をぽかんと開けて固まっている少女。なんとも可愛らしい図である。
「あれ? もしもーし、生きてますかー?」
「…………っ!?」
いきなりビクッと動く少女。合わせてビクッとするキリ。
そして、いきなり少女が逃げようとする。
「ってちょっと待てい!!」
「……や、やあ!!」
「ちょっ、暴れんな」
必死に抵抗する少女、腕を掴んでいるキリ。少女の目には涙まで浮かんでいる。
「…………カマキリ……お前そこまで外道だったのか……」
「おいこらサル、てめえ何言っ……て……、あれ?」
キリは今の自分の状況を整理してみた。
逃げようとする少女。捕まえるキリ。必死に抵抗する少女。それでも離さないキリ。
結論。どこからどう見ても変質者でした。
「キリキリ……それは、ちょっとダメだよ……」
「待ってくれミシュー!! 何か色々と違うから!!
ってか少女!! お前は何で逃げようとしてるんだ!!」
「よ、妖怪!!」
そして指差す少女。
差した先は
ソーサルディア。
「…………え、俺?」
「サル……、スマン。お前が妖怪ってのは否定できねえわ」
「しろよ!! どっからどう見ても人間だろうが!! いや、妖怪っての見たことねえけど」
「ソーちゃん妖怪だったの!? でも、あれ? 妖怪さんってノーインにしかいないんだよね? なんでソーちゃん大陸にいたの? あ、でも大丈夫だよソーちゃん!! ソーちゃんが妖怪でも魔物でもソーちゃんは私の旦那さんだからね!!」
「ミシュー、頼む。そう言ってくれるのはひっっっっっじょーーーーーーーに嬉しいんだが、落ち着いてくれ。そして俺は人間だ。妖怪じゃない」
夫婦仲は円満なようで。
そして、二人のやり取りを見て再びポカンと口を開けて固まっている少女。
「…………なあ少女、なんでこいつの事を妖怪だと思ったんだ?」
ようやく混沌と始めた事態の収束に動き始めるキリ。
「え、と……空、飛んで、ました。……金髪」
随分と片言になっているが、空を飛んでいたことと金髪なのが問題だったようだ。
つまり……
「サルが全部悪いな」
「なんでだよ!!!!」
「ふん、そんなことも分からんのか。所詮はサルだな」
やれやれと肩をすくめるキリ。
「んだコラ」
「ふふん、どうした。やろうとでも言うのか? 一度も俺に勝っていない分際で」
「負けてもいねえよクソカマキリ」
「じゃあここらで決着つけとくか?」
「いいのか? そんなこと言って。後悔するぞ」
「どっちが」
そう言って歩き出す二人。
キリの性格が変わっているような気がしないでもないが、そんなのは些細なことである。
「え、あの、止めなくていいんですか?」
取り残された少女が同じく取り残されたミシュエラに問う。
「いいのいいの。あの二人はああやってぶつかってる時が一番楽しそうだから。……それより、さっき私もソーちゃんと一緒に空から来たんだけど、なんで私は妖怪だと思わなかったの?」
「その、攫われてるだけだと思って……」
「ああ、そか。うん、大丈夫、ソーちゃんは人間だよ。それは私が一番よく分かってる」
どうやら先ほどのは冗談だったらしい。
歩いていくソーサルディアの後姿を見つめるミシュエラの瞳は、どこまでも澄んでいた。
「さあてと、ここなら半径50キロに人間はいねえ。思う存分暴れられるぜ」
魔法で周囲の様子を把握するソーサルディア。対してキリは、ポーチをミシュエラに預けてきていた。
「そうだな。じゃあさっさと始めようや」
「ああ、言われなくても」
「行くぞ」
「行くぜ」
「「ブチのめす!!!!」」
今ここに人外決戦が勃発した。
ソーサルディアの体の周りに球形の対物理障壁が展開され、それと同時にキリに大量の炎の雨が降り注ぐ。
それはさながら赤い絨毯が降ってくるかのよう。
「いきなりだなぁ!! おい!!」
抜刀による風でもって炎を吹き散らし、ソーサルディアに突貫。
「行け!!」
ソーサルディアの背後から二本の極太光線が射出。
右に回避、キリは一本だけを断ち切った。
「だああああ!! 相変わらず魔法斬るとか意味分かんねえよてめえ!!!!」
「うっせえ!!」
口は動かしても体の動きはぶれない。
地面が盛り上がり棘となってキリに突き進み、同時にいくつもの氷の矢が殺到。
「ッラアアアアア!!」
地面をぶった斬って棘の進行を阻止、すかさず引き戻した刀を氷矢に向かわせ斬る。
前を向いたキリの目の前に氷の壁が出現。一瞬キリの足が止まり、落雷。
晴れた空からの突然の雷も氷塊ごと切り裂き、更にソーサルディアに接近する。
「でも残念でしたあああああ!!!!」
ムカつく顔をしながら風の刃と炎の矢を大量に放ち、最後に特大の炎の波を起こすソーサルディア。
「うっぜえええええ!!!!」
これには流石のキリも後退、体制を立て直す。
が、ただでは下がらないのがキリである。
「ってヤベ!!」
慌てて障壁を強化するソーサルディア。瞬間、障壁に強烈な衝撃。キリの放った斬撃だ。
「ザマァ見ろ」
「いや、刀で遠距離攻撃できるとかマジ意味分かんねえから。しかもそれでどうやったら俺特製障壁にヒビ入れられるんだよ。カマキリマジ変態」
「黙れイカレポンチ。おら、次行くぞ」
「わかってんよ」
彼らの人外決戦のボルテージは上がっていく。
地面が割れキリを取り囲むように火柱が五本立つ。更にキリの四方から四本の光線、頭上からは氷の塊が落下。
「全開だなぁオイ!!!!」
「ったりめえだろが!!」
回転、円の軌道で周囲の魔法を切り裂き、最後に頭上の氷塊を斬撃で破壊。
「きめええええええ!!!! あんだけの魔法刀一本でとかマジきめええええええ!!!!」
「知るかボケナス!!」
魔法、斬る、魔法、回避、魔法、斬撃、斬撃、防御。
「まだまだあああああ!!!!」
「うっせえよサル!!」
地面が凍っていく。しかし、地面を覆う魔力を断ち切り中断。
二人の熱い戦いは続く。
# # # # #
「…………何、あれ」
「あれがあの二人の喧嘩だよ。すごいよね」
ここは二人からやや離れた場所の上空50メートル。ミシュエラが白髪の少女を抱きしめながら自作の魔道具を使って空に浮いている。
実はキリとソーサルディアの戦い、終わった後は二人とも疲労しきっているものの怪我をしたことはない。どちらも無傷で戦いが終わるのだ。
「人間……?」
「うん、ちゃんと人間だよ」
二人の事はまず私が認めてあげないと、という言葉は胸の内にとどめておく。今でこそあんな風な二人だが、彼らの苦悩を理解できる彼女だからこそ、という思いで。
「凄すぎ、です」
「そうだね、あの二人より強い人なんていないと思ってるよ」
「…………!? なら……!!」
「ん? どうしたの?」
「……あ、いえ、何でもないです」
一瞬何かを思いついたような少女だったが、何故か突然しょんぼりしてしまう。
それに何かを察したらしいミシュエラ。
「んー、キリキリなら頼めば大抵の事は協力してくれると思うよ? 大丈夫、彼はいい人だから」
「そう、ですか」
全てを見透かされたような、それでいて不快ではない不思議な感覚を覚えながら、少女は再び二人の戦いに目を向けるのだった。