キリさん魔王に出会った
色々と無理やり感は否めないけど、ここら辺が作者の限界。
一行が魔族領を進み続け、既に十日が経った。
時々襲ってきては返り討ちにされ、その後親切に「魔王様はまだまだ先にある魔王城にいらっしゃる。貴様らなど魔王様の敵ではないわ。私程度を倒していい気にならないことだな。フハハハハ」などと高笑いをして去っていく魔族がいるため、彼らの言葉を信じるならあと少しで魔王城に着くらしい。
「もうすぐ、ですね」
途中までは緩みに緩んでいた一行だが、魔族領を進むにつれてだんだんと雰囲気が引き締まってきた。なんだかんだ言って勇者パーティーだということであろう。
魔族たちが何とも頭の緩い種族だと感じるのは全力でスルーしているキリである。
「…………ん?」
ふと、何かに気づくキリ。
「(これは…………結構強いな)」
キリが気づいたのは強者の気配。恐らくシオン達三人だけでは上手く連携してもやや及ばないレベルだろう。
シオン達をそいつに会わせるわけにはいかないと判断し、キリは適当な言い訳を使ってシオン達から離れた。
「さて、そこにいるのはどちら様かな?」
「…………あの距離から我に気づくか……。大したものだな、人間」
そこから出てきたのは、漆黒のローブを頭まですっぽり被った人型の何かだった。
が、
「小さっ!!」
背丈が、東洋人の平均より少し上程度であるキリの胸辺りまでしかない。しかも声が微妙に幼いのだ。
「なっ!! 小さいとは何だ、小さいとは!! 我は魔王だぞ!!」
「…………Oh……」
ついつい額に右手をついて首を振ってしまったキリは何も悪くないと思う。
「何だその目は」
ついつい疑うような目で目の前の自称魔王を見てしまったキリは何も悪くないと思う。
「それで何か? その(自称)魔王様がわざわざ魔王城の外まで来て俺たちを排除しに来たってのか?」
「…………何か魔王様の前に聞こえた気がするが……まあいい。
で、お前、実は一人でこの国滅ぼせるだろう。我一人で戦ったところで勝ち目などないわ」
「あれ、わかっちゃう?」
「まあ、な。それよりも我の方こそ聞きたい。ぬしらは何をしにこの地へ来た?」
「え、そりゃ魔王を倒すため、らしいけど」
「…………っ!?
……なんだそれは!!不可侵条約はどうした!!」
「…………はい?」
「不可侵条約だ!! 忘れたとは言わせんぞ人間よ!!」
「いや、忘れたも何も、まず初耳なんですが」
「なんだと……!? ……一体どういうことだ!! 不可侵条約は人間側から言い出したことではないか!!」
わーお、初耳の嵐だよおやっさん、と心の中で意味不明なことをのたまっているキリ。
「あのー、不可侵条約について簡単に教えてくれません?」
「…………そうだな。分かった」
何とか気持ちを落ち着けたらしい魔王。
その後魔王からキリが聞いた不可侵条約の内容は、およそ四百年前に人間側から切り出された話で、人間が魔族領に不干渉を貫くことを条件に魔属領からも人間には不干渉を貫く、という簡単なものだった。
ちなみに、この条約を飲んだ前魔王は(自称)魔王の父らしい。
そして、この話を聞いてキリには少々心当たりがあった。
そこにロマンがあるならばどんな場所にも突き進む冒険者であるが、彼らには決して魔族領に入ってはならないという暗黙の了解があった。何故か昔からそう決まっているのだ。
当然キリもそれを守っている。冒険者とはルールを重んじる生き物でもあるのだ。
さらに、もしも本当にその条約が結ばれていたとして、その条約に関しての話が人々に伝わっていないことに関しても説明がつくことがある。
このゲイルリア大陸、実は二百年ほど前に動乱の時代を迎えていたのだ。
多くの国が他の国を倒し、倒され、この大陸は勢力分布が大きく変わった。そしてその際に、魔族領との条約が人々に語り継がれずに消え去っていても不思議ではない。
「そもそも、何故人間たちは我を倒そうなどと考えたのだ?」
「あー、俺が聞いた話によると、魔物が増えたり狂暴化することが増えていて、そんな折に魔王が発見されたからきっと魔王が人間を滅ぼそうと画策しているんだー、みたいな感じだったはず」
「人間たちの住んでおるところにいる魔物など知らん。もとより魔物は我の支配下にないわ。我の支配下におるのは魔族だけじゃ」
魔族は人型の闇の住人であり、魔物と違って人並み以上の高い知能も持っている(はずである)。
「(まあ、ここまで聞いた感じだと、明らかに人間側の勘違いなんですよねー)」
「それに、人間領などと言う離れた土地に住むものとどうやって連絡を取るというのじゃ」
「ですよねー」
「全く、酷い奴らじゃの、人間というのは」
「いや、それに関してはまことに申し訳ない」
人間に対しての魔王の文句に何故か謝罪するキリである。
それからしばらく二人で話した。
「全く……全く……」
未だに人間に対してぷりぷりという擬音があう怒り方をしている魔王。
「…………はあ、めちゃくちゃ厄介なことになった」
うあぁ……、と唸りながら頭を抱えているキリ。
魔王が発見されたというのも、道に迷って魔族領に迷い込んだ商人が魔族領を散策していた魔王に遭遇し、そこに魔王の部下が現れて「魔王様!!」と叫んだことが原因のようだ。
最近の魔物被害の元凶は魔族領だ、という人間側の世論を考えても、キリが頭を抱えたくなるのは仕方のないことであろう。
「時に人間よ。ぬしはとんでもなく強いようだが、人間とはそういうものなのか?」
「あー、皆がそうじゃねえよ。俺と互角に戦える奴もいるにゃいるけど」
「…………人間とは、恐ろしいものなのだな……」
「(あれ? なんか勘違いさせた? って違う、今はこの状況をどうやって何とかするか考えなくては……)」
「そういえば、先ほど聞いたぬしの事情も考慮した案があるが、聞くか?」
「マジで!?」
ついつい魔王に掴みかかってしまうキリ。その瞬間、パサッと魔王が頭に被っていたフードが取れる。
「ああ!?」
「あ、スマン」
中から出てきたのは黒い髪に赤い眼をした少年だった。人間で言えば十歳ほどだろうか。
「な、なにをする!! …………な、舐められぬようにと被っていたのに……」
「いや、身長と声で大体予想出来てたから」
「な、なんだと!? そんな馬鹿な……!!」
あれで隠せてるわけないでしょーに、という言葉は優しさから我慢してあげるキリ。
暫くわたわたと慌てていたが、ようやく落ち着きを取り戻した魔王はようやく口を開く。
「そ、それでだな、先ほどの案についてだが、教えるには条件がある」
「条件?」
「さよう。なに、大したことではない。ぬしは話していてなかなか面白い。じゃから、我の友人となってくれ」
「友人? まあいいけど、魔王が人間と友達なのはいいのか?」
「不可侵条約はあくまで国としてじゃ。個人での交友関係などに言及してはおらぬわ」
「ふうん、なら大丈夫だな。んじゃ、俺は桐切 斬、しがない冒険者だ」
「……これで『しがない』なのか……本当に人間は恐ろしい生き物なのだな……。う、うむ、我はライオネス・ディートケイネス・シン=ゼーブルノルド、六七代魔王だ」
「オーケー。これからよろしく、ライオネス」
「うむ、よろしく頼む、キリよ」
二人でがっしりと握手を交わす。手の大きさも背丈も違い、握手がやりずらかったのはキリだけの秘密だ。
「よし、それじゃさっそくさっきの案とやらの話を聞かせてくれ」
「よかろう。
まあつまり、今の人間の魔族領に対する認識から言えば、とりあえず魔王が倒されれば――――」
「でもそれだと――――」
「だからこそ――――」
「ああ、なるほど――――」
キリと魔王の話し合いは、あと少しだけ続いた。
勇者たちのいないところで、彼らの策略(?)は進んでいく。