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キリさん勇者パーティーに加わった

 振り仮名多用。PC推奨。

「ず、随分早いな」


 この冷や汗を垂らしながら少年たちに話しかけている男。言わずと知れた人外剣士、桐切 斬(キリギ キリ)、その人である。


「はい!! 夜通し走ってきました!!」


 尻尾がついていればぶんぶん振っているような勢いで答える少年。彼はシオン・ノールズガルド、勇者である。


「夜通し、ね。なんでわざわざそんな危険なことを?」

「いえ、お待たせするのも悪いですから」


 待ってねーよ!! と心の中で叫ぶキリだが、目の前の三人に伝わるわけもなく。


 どうやらキリは、勇者パーティーのスペックを考慮するのを忘れていたようである。


 勇者。

 それは人々の希望を背負って魔の王を討たんと旅をする者のこと。当然それには実力も伴わねばならないし、その仲間もかなりの力を持っている。

 歩いて四日の道も、彼らからすれば一晩走れば到着できる距離だったということだ。


「(ヤバい、これはヤバいぞ。どうする、どうする俺、ってかなんでここまでコイツらに狙われてんだよ俺。他の奴んとこ行けよ。いや、もうあれだな、いっそのこと無理やり逃げるか?)」


 色々焦っているキリである。そんな状態で良い考えが浮かぶはずもなく。


「では、もう一度お願いします。

 ――――僕たちと一緒に魔王を倒して下さい!!!!」


 大きな声で頭を下げる勇者の少年。彼に続いて隣に立っていた二人の少女まで頭を下げる。



 …………さて、ここで周りの状況を確認してみよう。


 ここは、南口よりも人が少ないとは言えそれなりに人通りの多い東口。今は午前中、仕事のために門をくぐって外に向かう人が多い時間だ。


 当然キリの周りには多くの人々がいるわけで……


「(…………詰んだ)」


 人の口に戸は立てられない。今から街の外に出ていく人間が多いこの状況で、噂が広がらないようにするなど不可能である。


 恐らく、少年の言葉から彼が勇者だと多くの人が気づいただろう。人々の意識は少年に集中する。

 そしてその次に、勇者の少年に「一緒に魔王を倒してほしい」と頼まれる人物に注目が集まる。


 この状態で断れるわけがない。


「…………」


 頭を下げたまま器用にジッと見つめてくる少年。


「……分かった。ついて行ってやるよ」

「ホントですか!?ありがとうございます!!」


 何とも上から目線のセリフになったあたり、彼の不機嫌さがにじみ出ている。

 そして全く気付かない少年。仕方がないので、キリは開き直ることにした。


「よし、じゃあさっさと魔王とやらを倒すぞ」


 主に俺が早く冒険にできるようになるために、という言葉は流石に口にしない。


「「「「「ワァァァァアアアアア!!!!!!」」」」」」


 その途端、周囲から割れるような歓声が上がった。

 「勇者様!!」だの「頑張って下さい!!」だの言っているのがキリの耳にも聞こえてくる。



 人の波に呑まれてもみくちゃにされながら、やっぱり逃げればよかった、とキリは少しだけ後悔した。












「それで、結局こうなっちまうのか」


 シンセリヤの東口での騒ぎを聞きつけたのか、わざわざ市長が出張ってくる始末。キリは、シオン達と一緒にシンセリヤで一番人気という高級ホテルに半強制的に連行されてしまった。

 なかなか街を出られないキリである。

 まあ、本来の一番の目的であったシオン達に会わない、という目標は果たせず、結局一緒に魔王を倒すことになってしまったのだが。


「あ、キリさん、そろそろ夕食らしいですよ。一緒に行きませんか?」


 問題の元凶が現れた。キリの右腕がブルブルと震えだす。


「(落ち着け俺。こいつは悪い奴じゃない、むしろ良い奴だ。東門のことだって全く悪気はなかったはずだ。そう、魔王を倒すために一生懸命なだけなんだ。俺の遺跡探検の楽しみを奪ったのはわざとじゃないんだ。だから………………だから笑顔で話しかけてくんな殴りたくなる)」

「どうしたんですか?」

「……いや、なんでもない。じゃあ行くか」

「はい!!」


 何とか堪えきったキリ。彼は我慢を知っている男である。




 途中でリースとレーナの双子も拾い、四人で食堂に向かう。


「そういえばキリさんは冒険者なんですよね?」

「ああ」


 簡単な自己紹介は先ほど済ませている。


「やっぱり色んな遺跡とかを回ってるんですか?」

「もちろん。聞きたいか?」


 にやりと笑いながら聞き返すキリ。遺跡探索に関しての話ではテンションが異常なまでに上昇する男である。不機嫌も吹き飛んだ。


「はい!!」

「あ、私も聞きたい!!」

「わたくしもです」


 仲間なんだからわざわざ敬語を使わなくていい、とキリが三人に伝えたものの、敬語が綺麗になくなったのは黒服魔法使いのレーナだけである。シオンは少し緩くなったもののまだ敬語のまま、リースに至っては欠片も改善されていない。


「オーケー、じゃあまずはマイノア遺跡群の大墳墓についてだな。

あそこは入り口に特殊な結界が張ってあってだな、とりあえず普通のやり方じゃ入れないわけよ。んで、俺はちょっとしたやり方で中に侵入、中を探索しまくったわけなんだがな……」


 ふんふんと三人は頷いている。

 ちなみにキリの言う『ちょっとしたやり方』とは、単純に結界をぶった切っただけである。結界は自動修復型だったため、現在もまだ結界が外部からの侵入を阻止しているが。


「それで、少し奥まで進むと…………」

「「「進むと……?」」」

「…………ずらっとゴーレムが並んだ大広間に出たんだ。そこからがもう大変よ。二十以上のゴーレム全部が俺に向かって突撃してくんのな。いやあ、流石にあれはびびったね」

「「「おお!!」」」


 それにしてもこの勇者パーティー(キリ含む)、ノリノリである。


「しかし、そんなのは未知の冒険を前にした俺には関係なかった。次々と襲いかかってくるゴーレムの攻撃を避け、時には反撃して…………気づけば大広間で動くのは俺一人になっていた」

「「「おおー!!」」」


 自動修復型の高度な結界が張ってあるような高度な文明の遺跡にいるゴーレムは、普通に強い。二十体も狭い室内で出てくれば、シオン、リース、レーナの三人でもひとたまりもなかったりする。

 それには気づいていない三人だが、そこは雰囲気というものである。


「それから俺は言ったのさ。『俺の道を妨げるもn「勇者様方!!食堂はそちらではございません!!」」

「「「………………」」」

「…………どうやら、話に夢中になりすぎたみたいだな」


 ホテルの従業員に呼び止められていつの間にか道を逸れていたことに気づく四人。

 こんなパーティーではたして魔王は倒せるのだろうか。










 ホテルで一晩過ごし、その翌朝四人はシンセリヤの住人に見送られて街を出発した。今はそれから八日。


 見送りにユーウェ一家の姿が見当たらなかったのは幸いだったとキリは思う。

 「今日街を出る」なんて言っときながらその翌日街で会ってしまったりしたら気まず過ぎる。



 まあ、そんなこんなで一行は旅をする。

 ちなみに出発したのは街の南口。そこからそのまま南下して、魔族領と呼ばれる人類未踏の人外魔境に突撃し、そこにいるとされる魔王を倒すのが最終目的。

 聞けば聞くほど無茶な話である。

 キリが加わっていなければ三人で敵の本拠地に飛び込んで相手のトップを討つつもりだったというのだから恐れ入る。



 とにもかくにも


「あ、キリさん!! ウサギが出ましたよ!!」

「それは魔物だ馬鹿野郎」

「え? ……うわぁ!! 攻撃してきた!!」


 …………とにもかくにも、一行は進む。魔王を倒し、世界に平和をもたらすために。


「何やってんのよシオン。……ほら、倒したわよ」

「あら、シオンさん手にお怪我を。今治しますね」


 魔法使いらしく炎の魔法で魔物を倒すレーナ。手に小さな怪我をしたシオンの傷をリースが癒す。どちらも魔法である。


「あ、二人ともありがとう」

「と、当然のことをしたまでよ!」

「いえいえ、どういたしまして」


 …………魔王を倒し……?


 ……何とも不安なパーティーである。



「――――にしても魔法、ねえ」


 二人が使った魔法を見て、キリは思案する。

 彼が知っている魔法使いはそれなりの数いるが、まず一番に思い出すとしたら、彼の悪友にして親友(本人たちは頑として認めないが)、ソーサルディア・マジカ・スペルドキャストのことだろう。


 キリ曰く『イカレポンチ』。

 また、ソーサルディア曰くキリは『変態剣士』。


 ソーサルディアは、この世界で唯一キリと一対一で戦える人物である。二人ともが頭の上がらない女性もいるのだが、それはまた後々。


 普通の魔法使いはキリと、と言うより剣士とは一対一で戦えない。それは魔法を発動するためには詠唱と呼ばれるものが必要だからであり、詠唱をしている間に攻撃されて詠唱を中断させられてしまうと魔法そのものも発動できないからだ。


 しかし、その欠点を補う技術がある。


 今、レーナは簡略詠唱(ショート・キャスト)という技術を用いて第二階位魔法(セカンド・スペル)を発動し魔物を倒した。

 簡略詠唱(ショート・キャスト)とは、詠唱を人間の言語ではなく魔法用の言語で行うことで飛躍的に詠唱時間を短くする技術である。これが思いのほか難しいらしく、簡略詠唱(ショート・キャスト)で五つ魔法が使えれば一流と言われるくらいだ。



 では、ソーサルディアはどうか。


 彼は瞬即詠唱(ラピッド・キャスト)という簡略詠唱(ショート・キャスト)の上位版の技術をポンポン使ってくる。この時点で既に化け物であるが、彼はさらに連結詠唱(チェイン・キャスト)並立詠唱(マルチ・キャスト)遅延詠唱(レイト・キャスト)遠隔展開(ファー・ダウン)などという、どれも使えれば一流という技術を‘同時’に使ってくる。


 全く持って人外である。


 まあ、ありとあらゆる方向から間断なく襲ってくる大量の高位魔法を全て刀一つで切り裂くキリもキリなのだが。



 そんなわけでキリは、魔族領に入ってから高い頻度で襲ってくる魔物を刀一つで斬りながらシオン達と歩く。


 ちなみに、適度に速さと力は抑えて、結構すごい(キリ基準)程度に留めている。


「流石ですね、キリさん!!」

「あれは……すごいわね。世界にこんな人がいたなんて」

「本当に強いですねぇ」



 …………きちんと抑えられているかはな謎である。



 一行が目指すは魔王の城。



 襲ってきた魔族を返り討ちにしたところ、親切にも魔王が魔王城というところにいることを教えて消えてくれた。



 一行は、魔王を討つべく今日も旅をする。

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